ローカライズの秘話がいま明かされる!
アメリカ・ラスベガスにて、2016年10月14日から10月15日(現地時間)にかけて開催された、『ファイナルファンタジーXIV』(以下、『FFXIV』)の大規模ファンフェスティバル“FINAL FANTASY XIV FAN FESTIVAL 2016 Las Vegas”。2日目に行われた世界設定パネルの模様をリポートする。
『FFXIV』初の公式世界設定本となる『Encyclopaedia Eorzea 〜The World of FINAL FANTASY XIV〜』。日本では2016年12月27日の発売を予定しているが、今回のラスベガスでのファンフェス会場で先行販売、10月17日(現地時間)には北米・欧州地域にて販売開始となる。世界設定パネルでは、本書の執筆及びローカライズを担当したマイケル・クリストファー・コージ・フォックス氏が登壇し、世界設定やローカライズに関する講演を行った。
本書は、世界設定担当の織田万里氏、シナリオ担当の石川夏子氏、そしてマイケル・クリストファー・コージ・フォックス氏がほとんどの執筆を担当。じつに、5ヵ月間に及ぶ作業の末に完成した。マイケル氏は、本書は自身のキャリアにおいてもっともやり甲斐を感じた仕事と語る。そんな本書の制作秘話を、スライドとともに紹介していこう。
カバーデザイン
外部の会社に発注したところ、あまり気に入るものではなかった。そのため、マイケル氏がペイントソフトでアイデアをまとめ、デザイナーが作成したものを土台にいまの形となった。
カンパニーロゴがないのが最高にクール
16〜17世紀の書籍には出版社の名前は入っていない。世界設定本として“本物らしさ”を演出すために、会社のロゴは入れたくなかったという。会社を説得するのはたいへんだったが、マイケル氏にとっては重要なことだったとのこと。その甲斐あって、英語版には会社のロゴはおろか、バーコードも入っていない(これは、英語版は書店には並ばず、通販のみということが大きいのだとか。書店に置く場合は、会社云々だけでなく流通上のルールもある)。
文字量
日本語版の文字数はおよそ40万で、これは1〜2パッチ分のインゲーム情報に相当。英語版は124万文字(20万ワード)。1ワード平均6文字で、どの大統領候補の発言より長いそうだ。(わざと文字の多い言葉を使ったことは認めるとマイケル氏)。
書体(フォント)
16世紀、印刷が始まったころに実際に使われていた、スタイリッシュかつ読みやすいものを採用。いくつかのフォントの中から“Q”の形の良し悪しで決めたとのこと。
収録内容
15〜20%は公式サイト、インゲームの資料を使用、80%は新規で執筆。必ずしもこのすべてが新しい情報ではないが、新たに文章化されたものとなっている。Lodestoneやゲーム中に出てこないまったく新しい情報はおよそ25〜30%。すでに情報が豊富なハードコアゲーマーだけでなく、これからゲームやストーリーについて知りたい人にも読んでほしいとのこと。もちろん、いろいろと知っている人にも新鮮な情報が含まれている。
本書は、日本語版や英語版など各種バージョンがあるが、ファンからインゲームのテキストの差異(とくに日本語版との)についてのフィードバックが多かったため、できるだけ違いが出ないように努力したとマイケル氏。世界設定本は定義を示す本なので、すべてのバージョンで内容が一致している必要があるためだ。もちろん、言葉や文化が違うため、情報の順序などは異なることもあるが、コアとなる情報は一致しているとのこと。
世界設定本の秘話の後は、話題になっている女神ソフィア討滅戦の楽曲につけられた歌詞について。マイケル氏が気に入っている曲のひとつで、歌唱は蛮神シヴァ討滅戦も担当したローカライズ部の村田あゆみさん。ある木曜日、仕事を終えて帰ろうとしたらサウンドディレクターの祖堅正慶氏から連絡があり、歌詞を書いてほしいと言われた。翌週の火曜か水曜までかと思ったら、明日録音したいと言うので、それから4時間かけてストーリーやスタイルを考え、酔っ払ったサラリーマンたちで溢れる電車で口ずさみながら考えたという。歌詞データを送って村田さんに練習してもらい、翌朝録音したそうだ。ふだん、歌詞は曖昧な部分を残して聞き手の想像力に任せるが、この曲は語りたいストーリーがあったのでしっかり作ったとマイケル氏は語る。
その気になる歌詞は、メラシディアのある少女の物語。少女の父はアラグに殺され、それを知った母は、悲しみを怒りに変え、娘に手を上げてしまう。少女が神に祈るとソフィアが現れ、「父を失ったため家族のバランスが崩れている。そのバランスを取り戻すためには、母親を殺さなくてはいけない」と告げる。少女が母親を殺めると、今度は母親がいない少女のバランスを取り戻すため、自分も死ぬようにと告げられる。最後には少女が崖から飛び降り、家族に均衡がもたらされるという筋書きだ。ソフィアは均衡(バランス)の神であり、つねに中立。善と悪のバランスを取るために、劣勢なほうに加担するだけの存在という、なんとも後味が悪い内容だ。
続いては、干支をモチーフにした兜の話題。2017年は酉(とり)年だが、“COCK”では問題があるため、Roosterに変更せざるを得なかった。Googleの画像検索で「Year of the Cock」を実行しようとして、会場からは悲鳴が(笑)。※検索はくれぐれもご注意を。
つぎなる話題はパッチタイトル。『FFXIV』は日本語と英語でタイトルが微妙に異なる。最新の拡張パッケージである『紅蓮のリベレーター』は英語では『STORMBLOOD』。このほか、『氷結の幻想(英訳するとFrozen Fantasy)』は『DREAMS OF ICE』となっており、関連性はあるが、少し違う。パッチタイトルを決める際、吉田直樹プロデューサー兼ディレクターがマイケル氏のところに来て、アイデアを求める。使いたいキーワードがある場合は、合わせて伝えられる。たとえば『DEFENDERS OF EORZEA』は、“Defender”という言葉を使いたいと言われていたそうだ。『REVENGE OF THE HORDE』の“Revenge”も同様。とくにキーワードがない場合もあるが、英語に慣れていない人でもそのパッチタイトルの意味がわかるよう、シンプルなものにしてほしいとリクエストされるとのこと。
『SOUL SURRENDER』のときは、邦題の“魂を継ぐ者”に近い“heir”(承継者、後継者)という言葉を使ったが、髪のヘア(hair)と間違われるので、難しいと言われたという。ソウルという言葉はゲームでもよく使われるので、こちらになったそうだ。
『HEAVENSWARD』では、Heavenを複数にしてsを入れたが、Heaven+swardと読めてしまい、swardが刀のswordのミススペルと思われて混乱を招いてしまった。
『STORMBLOOD』では、わかりやすいものにしたかったので、単一の単語にすると決めて候補を出していった。
紆余曲折を経て、誰も使っていない1単語を探すことにしたマイケル氏。誰も知らない16世紀の言葉なども考えたが、それではGoogleで検索しないといけないのでは意味がない。混合語でも誤解されないわかりやすいものを考えて、『STORMBLOOD』なったという。これに落ち着くまで半年かかったそうだが、とてもいいタイトルだと氏は語る。
世界設定パネルのラストは、Q&Aコーナー。“ロア・マスター”こと織田氏は、現在『紅蓮のリベレーター』のスクリプトを書いているため会場には来られなかったが、回答は織田氏に直接聞いてきたものだ。
Q.闇の戦士のひとり、黒魔道士の声が女性ではなかったが……?
A.光の戦士と似ているので混同しているかもしれないが、彼は黒魔道士ではなくMagus。
Q.闇の戦士たちはジョブ名がエオルゼアのものとは違う(吟遊詩人がRanger、黒魔道士がMagus、ナイト(英語ではPaladin)がKnight、白魔道士がDevote)が、どうやって修得したのか?
A.彼らは並行世界で、独自の進化を遂げたため。言語もそれぞれで異なる。いくつかは『FFIII』から引用している。名前もエオルゼアで不自然にならないものが選択されている。
Q.蛮神ガルーダが人間の顔と体を持っている理由は?
A.世界設定本に答えが書いてあるので、ぜひご購入を!
Q.『FFXIV』の世界を作り上げるうえでインスパイアされたという3つの文学作品について教えて
A.歴史、人類学、生物、ファッション、武器、言語学などから刺激を受けるが、どれか1冊を選ぶとすれば、『Giants, Monsters, and Dragons: An Encyclopedia of Folklore, Legend, and Myth』で、これは『FFXIV』のオリジナルチームに参加して以来ずっと使っている。モンスターが、“巨人”、“月に関するもの”など、カテゴリーで分類されている。命名などでとても役に立っている。
SF小説もファンタジー世界の設定で参考になるので、読む時間を惜しまない。個人的に好きなのは『Ender Wiggin Saga』。ファンタジーが好きでなければ『FF』の仕事はしていないと思う。『A Song of Ice and fire』シリーズも気に入っている。
もっとも好きなのは、『Scribe of Sorcery(夜の写本師)』から始まる乾石智子による日本のファンタジーシリーズだ。残念ながら公式に英訳されたものはない。さまざまな魔術について書かれており、印字、石、屍体などから起こされる魔術がある。魔術はとてもユニークで複雑であり、自分がアイデアを練る際に役立つ。
Q.ニーズヘッグとの最後のバトルで、『蒼天のイシュガルド』のオープニングに登場していた竜騎士たちが登場しないのはなぜか?
A.ヒント:竜騎士はジャンプする。カメラアングルが低すぎて、隠れてしまっているためだ(苦笑)。
Q.惑星ハイデリンの中で、まだ未開の地はどれくらいあるのか? そうした大陸の発見や探索の余地は残されているのか?
A.第6星暦の後期、航海技術の向上によりハイデリンの探索が進んだ。だが、宙に浮かんでいるため最近まで見つかっていなかったアジス・ラーや、敵対的なメアシディアなどはまだ地図には載っていない。今後、探索できる可能性はある。
Q.砂蠍衆におけるテレジ・アデレジのポジションの後任は誰もつかないの?
A.ナナモ様は後任を人事するか、砂蠍衆自体をなくそうか、悩んでいる模様。しばらく空席のままになりそう。
Q.アウラの角や尻尾はダメージを受けると切れたりするのか?
A.これについては世界設定本に情報がたくさん掲載されている。切れることはあまりなく、ある大きさまで成長を続けて止まる。角はダメージを受けた際は、ゆっくり特定の大きさまで再生する。角の中は空洞で、空気の振動が耳に伝わり、聴力の助けとなる。とはいえ、聴力がとりわけいいわけではない。
Q.『旧FFXIV』に登場したニエルフレーヌはどうなったのか?
A.それについては話せない。話したくないのではなく、『紅蓮のリベレーター』に登場するから。
Q.ザナラーンにはアラグ陽道とアラグ星道があるが、その名前の由来と、現代のマップにも残っている理由は?
A.アラグ陽道は太陽と同じく、東から西へ伸びる街道。アラグ星道は、星が南から見えるように、南から北へ伸びる街道。名前の由来はこの通り。アラグの文明は何千年も前に霊災によって滅びたが、のちの人たちはアラグが神々に逆らい、怒りを買ったからと考えた。そのため、アラグの技術や建築物を破壊してしまう。しかし、道路だけは移動や流通において重要な役割を果たすため、その名称とともに残すことにした。これらの街道は現在でも有用なものであり、アラグの文明がいかに優れていたかの証明にもなった。
Q.ゴブリンなら、ラウバーンの義手を作ることはできるか?
A.織田氏はこのアイデアに賛成。『FFVII』のバレットのような義手もアリかも?
Q.子猫と子犬、どちらが好き?
A.(織田氏はこの質問に答えるのにもっとも時間を要した。とても選べないが、どうしても選べと言われれば)子猫派だが、家には猫や犬、魚、ハムスター、イタチもいる。動物は好き。
以上で世界設定パネルは終了。マイケル氏のジョーク交じりの講演に、会場は終始笑いが絶えなかった。しかし、『FFXIV』の世界設定はどれも興味深く、知ることで世界の見えかたも変わってくるだろう。マイケル氏らの渾身の1冊となる世界設定本。日本のファンフェス会場で日本語版が先行販売されるので、来場予定の方はチェックしてみるといいかも?