『ペルソナ3』、『ペルソナ4』、そして『ペルソナ5』へ──

 アトラスより発売中のRPG『ペルソナ5』。当記事では、前編に続き、アトラスのディレクター・橋野桂氏による特別なコラムを全文掲載。今回のテーマは、橋野氏がディレクターを務めた『ペルソナ3』以降のシリーズ作品において重要な役割を担ってきた“タロット”に関する秘話だ。
(聞き手・構成:編集部 川島KG

『ペルソナ5』は、タロットで言うなれば“星”の物語。ディレクター・橋野桂氏が初めて明かした、『ペルソナ3』以降の作品と“タロット”の関係とは?【特別コラム後編】_01

“愚者”から始まるタロットの物語

 橋野氏がディレクターを務めた『ペルソナ3』以降の作品より、このシリーズは“タロット”をとりわけ重要なアイテム(あるいは概念)のひとつに据えてきた。また、主人公の専用初期ペルソナは、タロットの0番目にあたる“愚者”のアルカナに属し、主人公自身が“ワイルド”という特別な素養を持つことも、『ペルソナ3』以降のナンバリングタイトルで共通している。これらについて橋野氏の解釈を聞くと、タロットの意味するところから、各作品のテーマに大きな“流れ”が見えてくる。

 「タロットが示す、人間の内面性なり可能性なりをゲームデザインに組み込んでみたいという思いと、0番目の“愚者”から始まって13番目の“死神”──すなわち“死”にいたるタロットの流れそのものが、『ペルソナ3』のテーマになり得たことも、作品の根幹部分にタロットを取り入れた理由です。僕の解釈も含みますが、タロットは、人が生まれてから死にいたるまでの“一生”を示すというよりも、個人が他者の価値観を取り入れながら前に進み、しかし与えられた価値観だけでは困難に立ち向かうことが難しくなり、みずからをリセットして幸せをつかもうとする、人生の“循環”を描くもの。その観点において、0番目の愚者は、愚かな者という文字通りの意味ではなく、これから多くのものを吸収できる“始まりの人格”なんですね。

 愚者は、タロットを起源とするトランプで言うところのジョーカーで、何者にも変われる可能性を秘め、“ワイルド”のカードへ進化することにもなります(※)。タロットでは、他者から得られる知恵、価値観が順番に描かれていき、しかし自分以外の誰かから影響を受けるだけでは生き抜くことが難しいため、12番目の“刑死者”で吊るされて窮地に立ち、このままでは先に進めないことを突き付ける“死”として13番目が存在します。『ペルソナ3』は、13番目の出会いで物語が終わり、そこから先は、主人公に自己を投影していたプレイヤーの方自身が実生活で物語を続けていただけるように──まさにタロット占いがそうであるように、これをキッカケとして何らかの価値観や発見が自分の中で芽生え、この出会いをよき思い出にしてもらいながら前に進んでいただけるように。そうした思いも込めて作ったゲームでした。

(※編集部注:タロットとトランプの起源、関連性には諸説あるが、いずれにしても愚者とジョーカーには浅からぬつながりがある)

 そして、『ペルソナ4』では、これからの人生を歩むにしても、やはり“情報”は手に入れていく必要があり、さまざまな情報や出来事に接する中で、それらをどのように受け止めて自分の正義を貫くか、というシミュレーションを目指した側面があります。これは、タロットで言うなれば14番目の“節制”で、人間がリセットを経て、バランス感覚をもって歩んでいく物語ですね。目の前の情報や感情だけに左右されず、自分の頭で考えてこそ真のエンディングに到達できる仕組みにしたのも、節制のテーマが背景にあります。

 もともと、『ペルソナ3』のつぎの物語として、どんなテーマに発展させようかと考えたのが『ペルソナ4』でしたので、以降の作品ではそれを意識するようになりまして。つぎに作った『キャサリン』は、『ペルソナ』シリーズではありませんが、作品テーマのモチーフとして、タロットの15番目と16番目──“悪魔”と“塔”、すなわち“誘惑”と“破滅”の物語に。そのつぎの『ペルソナ5』では、17番目の“星”──破滅からの“希望”をテーマに描いています。これらは、あくまでも構想段階のアイデアソースとしての裏話なので、これまで語ることはありませんでしたが、それぞれの時代性がタロットに当てはまるように感じることもあり、その普遍的な解釈のおもしろさを感じています」。

 橋野氏が手掛けたこれらの作品は、それぞれが独立して楽しめる物語になっているので、『ペルソナ5』から遊び始めてもまったく問題はない。そのうえで、橋野氏は続ける。

 「ペルソナ能力を手に入れ、自分たちの目的に向かって奮闘し、成し遂げればきっとうまくいくと信じていた少年少女たちが、やがて乗り越えがたき現実に直面する。そして、信じていたものをリセットし、自分の力で立ち上がらなくては、最後の壁を越えることが叶わない。こうした展開は、『ペルソナ3』や『ペルソナ4』をプレイされた方ならご記憶にあるかと思いますが、これはまさに、作品によって形は違えど、愚者から始まるタロットの流れを汲んだものです。タロットにおける最後のカードは“世界”であり、これは何らかの終結あるいは成就をもって、新たに出発することを意味します。『ペルソナ3』、『ペルソナ4』のエンディングはそれぞれ毛色がだいぶ異なりますが、いずれも“世界”にいたるものとして描きました。

 主人公はプレイヤーの分身で、ワイルドの素養をもって何色にも染まれる可能性を秘めており、さらにはゲームを終えたプレイヤー自身へと、その可能性が続くような作品であってほしい。こうした思いは、『ペルソナ5』の根幹にも込めています。これまでにもお伝えしてきたことと重なりますが、“自分自身”の物語として、本作を楽しんでいただけたら幸いです」。

 『ペルソナ5』が発売されて約1ヵ月。前編とあわせてお読みいただき、橋野氏を始めとする開発者たちのコダワリに触れ、作品がより味わい深くなるようなことがあったら、当コラムも本懐を遂げたと言える。ぜひ心ゆくまで、あなたの物語を続けてほしい。

初出:
週刊ファミ通2016年10月6日号

(C)ATLUS (C)SEGA All rights reserved.