8年間歩み続けたシリーズの完結作
2008年より続く歴史を持つ人気対戦格闘ゲーム『ブレイブルー』シリーズ。その最新作であるプレイステーション4、プレイステーション3用ソフト『ブレイブルー セントラルフィクション』が、アークシステムワークスより2016年10月6日に発売される。本稿では、第1作から『ブレイブルー』シリーズをこよなく愛するライターの甲田久が、本作のプレイインプレッションをお届けする。
『ブレイブルー』の1作目、『カラミティトリガー』が稼動した直後のことを、ぼくはあまり鮮明には覚えていない。ただ、まだ上京していなかったころなのは確かだ。
「新しい格闘ゲームが出る」、「『ギルティギア』を作ったアークシステムワークスの新作」、「画面の縦横比が16:9の2D格闘ゲーム」。そんな噂が、雑誌や、インターネットや、ロケテストまで足を運んだ知り合いのプレイヤーの口から聞こえてくる。みんなが、その最新作を待ち望んでいたように思う。稼動日には大勢の常連客がゲームセンターに集まった。地元のゲームセンターにはまだ16:9の筐体が入荷していなくて、4:3の筐体で動かしていたけど、そんな環境でも、このゲームを初めて見た時の感想は「綺麗だ」だった。3Dの背景に、これまで見たこともないような精緻なドット絵。なめらかに動くキャラクター。氷のエフェクト。これはすごく力を入れて作られたゲームだ、と触れる前から伝わってきた。そしてその予感は、実際にゲームのプレイを始めて確信に変わった。
ぼくが最初に選んだキャラクターはレイチェルだった。飛び道具が好きだから、遠距離船が得意なキャラクターを選ぼう、というのが理由だった。だけど、レイチェルの魅力はもっと別のところにあった。筐体に100円を入れてゲームを始めて、すぐに独特なシステムに魅入られた。
"ドライブ能力"。レイチェルのドライブ能力"シルフィード"は、レバー入力と組み合わせて任意の方向に風を吹かせるもので、直接の攻撃につながる行動ではない。だけど、キャラクターの動きと組み合わせた時に真価を発揮する。空中攻撃の落下が早くなって見切りづらい中段になったり、移動スピードが早くなったり、足払いのような技で相手を転ばせたあとに相手を浮かせて連続技に持ち込んだり、空中で傘を広げたまま何秒も浮遊を続けられたり、研究の進んだいまでは使い手が当たり前のようにやっているその動きが、従来の格闘ゲームに慣れたぼくにとっては衝撃だったのだ。
テイガーの磁力も同様に、慣性やベクトルといったものに影響を与えるというシステムがとにかく面白かった。グラフィックが綺麗で、システムが新しくて、キャラクターを動かすのがめちゃくちゃ楽しいゲーム。それがぼくにとっての最初の『ブレイブルー』で、毎日のようにゲームセンターに通っては筐体に100円を入れ続けた。
それから8年が経った2016年も、僕はこのゲームをプレイし続けていて、そしてストーリーの完結作が発売されようとしている。8年だ。当時はまったくの最新作だったゲームが、いまや人気シリーズとなり、ひとつの節目を迎えようとしている。
16:9の画面比率の筐体が当たり前のようにゲームセンターに並ぶようになった。8年の間にぼく自信にあった大きな変化は、対戦環境だった。大学に通うために上京――というのも半分は建前で、都会の熱気に憧れていたのは間違いない。事実、東京のゲームセンターは、池袋も、新宿も、秋葉原も、人が多くてレベルが高く、そして大勢のプレイヤーが集まったゲームセンターにも熱気が満ちていた。
顔も知らない対戦相手と、筐体越しに100円玉を賭けた勝負のやり取りをする。当時はまだICカード認証がなかったから、対戦相手の特定なんてできない。それでも、同じゲームセンターに通っていれば、キャラクターカラーや対戦の癖から、「あの人かな?」なんて人読みができるようになってくる。僕の中での対戦格闘ゲームというもののあり方が大きく変化した時に、いちばんやり込んでいたのが『ブレイブルー』シリーズだった。
それまでは、地元のコミュニティーの中で楽しく遊べていればよかった。けれど、顔も知らない対戦相手たちに「勝ちたい」と思い始めた。強いプレイヤーの対戦動画がインターネットにアップロードされるようになり、それを見て動きを研究したり、住んでいるところから一時間以上かかる東京の外れまで実際に行って、直接の対戦を見て勉強した。「強くなりたい」と思うプレイと、練習の積み重ねと、そして顔も知らない相手と次第にいい勝負ができるようになっていく感覚は、最高に楽しくて、そんな風に格闘ゲームプレイヤーとして充実した時間を送っている時に、つねにともにあったのが、この『ブレイブルー』だったのだ。
8年だ。その『ブレイブルー』が、ラグナの物語が、ついに完結する。ストーリーの面においては、『ブレイブルー』ははじめから革新的な格闘ゲームだった。ゲームセンターでストーリーが終わらない。明かされるのは各キャラクターの視点から得られる断片的な情報。ループする世界。黒き獣と六英雄。“蒼”。あの世界で何が起きているのか、格闘ゲームのストーリーであんなに考察や憶測で盛り上がれたのは、初めてだったのではないかと思う。物語の真実が明かされるコンシューマ版のストーリーモードは、読み終えるために10時間を超えるプレイが必要だった。シリーズを重ねるごとに謎が解き明かされ、物語が進み、そして新しい謎が現れ、その度に「あれはどういう意味だ」と、ゲームセンター帰りに友人と語り合う。そんな、壮大なひとつの物語が、幕を閉じようとしている。
格闘ゲームだけではない。小説、コミック、ウェブラジオのようなメディアミックスを経て、『ブレイブルー』を知っている人たちは着実に増えていった。最初は10人しかいなかったキャラクターセレクト画面も、自分のキャラクターを見つけるのが大変になるくらい賑やかになった。それだけプレイアブルキャラクターが増えてなお、一人一人が持っている強い個性の濃度は薄れていない。
なんとなく、格闘ゲームというのはシリーズやキャラクターがいつまでも続いていくものだと思ってしまう。対戦ツールとしては永久に親しまれていくのかもしれないが、物語として、2008年に始まったゲームが、2016年のいま完結を迎える。
あのころ、顔も知らなかった対戦相手とは、ゲームセンターで顔を合わせると挨拶を交わし、対戦の後に軽口を叩き合い、一緒に食事にも行くようになった。ネットワーク対戦の環境が充実し、家に居ながらボイスチャットでインターネット上の仮想のプレイルームに集まり、ゲームセンターに行かない日も対戦できるようになった。都会のゲームセンターの熱気にも慣れ、東京の電車でどの路線に乗ればいいのか迷わなくなり、少しだけ格闘ゲームとの触れ合い方も変化した。ゲームシステムにも習熟し、ドライブ能力もいつの間にか当たり前のように使いこなせるようになり、気が付けば新進気鋭の最新作が、長く多くのプレイヤーに愛される重鎮のタイトルになっていた。
シリーズ完結作には、それだけの重みが詰まっている。8年間を駆け抜けたラグナ=ザ=ブラッドエッジの物語には、8年間ゲームセンターに通い続けたプレイヤーの記憶がともにある。対戦のかけ引きも、ドライブ能力の使い方も、工夫を凝らした独特なシステムも、習熟はすれど色褪せてはいない。面白い格闘ゲームは今でもまだ、ここにある。これはシリーズ最新作の発売なのだ。ここから始めるのだって遅くはない。ネットの海で、ゲームセンターのように気の合う友人を探すのも悪くない。コンシューマ版の本作から追加される新キャラクターのEsやマイも個性的で動かすのがおもしろく、早く実戦に投入してみたいと、この原稿を書いている今から楽しみで仕方ない。
さあ、始めてみよう。『ブレイブルー セントラルフィクション』を。魅力的なキャラクターたちを生き生きと動かせるおもしろい格闘ゲームと、重厚で壮大なひとつの物語の終わりが、ここにある。そして“蒼”の物語の終わりを、その目で見届けよう。格闘ゲームでしか得られない体験が――『ブレイブルー』でしか得られないおもしろが、ここにある。
ライター:甲田久
格闘ゲームをこよなく愛するフリーライター。『ブレイブルー』は第1作『カラミティトリガー』からプレイし、レイチェル、ラムダ、ニューと遠距離キャラクターを選び続けている。現在は新キャラクターのEsが気になって仕方がない模様。
ブレイブルー セントラルフィクション
メーカー | アークシステムワークス |
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対応機種 | PS4プレイステーション4 / PS3プレイステーション3 |
発売日 | 2016年10月6日発売予定 |
価格 | 各6800円[税抜](各7344円[税込]) |
ジャンル | 対戦格闘 |