注目作のさまざまな謎に迫る

 週刊ファミ通2016年10月6日号(2016年9月21日発売)では、スクウェア・エニックスとKADOKAWAによる共同原作プロジェクト第1弾となる、スマートフォン向けゲームアプリ『アカシックリコード』の記事を掲載した。その記事内で行った、4人のキーマンによるインタビューの完全版をお届けする。

 スクウェア・エニックスとKADOKAWAによる共同原作プロジェクトはどのような経緯で立ち上げられたのか? さらに、謎めいたタイトルの意図、物語のカギを握る登場人物などについても語られているので、これを読めばひと足先に本作の世界に浸れるハズだ。

『アカシックリコード』インタビュー完全版――文学とRPGの世界はいかにして生まれたのか?_01
▲左から、スクウェア・エニックス・プロデューサー 椎名崇徳氏(文中は椎名)、作家・ゲームデザイナー 水野 良氏(文中は水野)、ゲームデザイナー 矢野俊策氏(文中は矢野)、KADOKAWA・ゲーム原作開発編集部 横山憲二郎氏(文中は横山)

さまざまな意味を含めたタイトル、それが『アカシックリコード』

――スクウェア・エニックスとKADOKAWAの共同プロジェクトということですが、具体的にはどのような取り組みなのでしょうか?

椎名 その名の通り、原作に関してはスクウェア・エニックスとKADOKAWAが手を組んでいっしょに作るというプロジェクトです。スクウェア・エニックス側はゲームの制作と運営を中心に進めていき、KADOKAWA側は小説・出版での展開が最大の持ち味だと思っていますので、双方合わせたクロスメディア展開を行うというのが今回の概要です。

――そのプロジェクトは、いつごろスタートしたのか教えていただけますか?

椎名 僕と横山さんが会う機会が昨年の初夏にありまして、そこから話を進めていっしょにやろうかということになり、その夏ごろに今回のプロジェクトが立ち上がりました。

横山 そもそも、KADOKAWAのゲーム原作開発編集部は去年の4月にできた部署ですので、今回の共同原作プロジェクトで原作とシナリオ、イラストをやらせていただくのが原作開発編集部初のタイトルになります。

――水野さんと矢野さんは、どういったいきさつで参加することになったのでしょうか?

横山 椎名さんと何かいっしょにやろうといったときに、彼から「ゲーム原作やシナリオをKADOKAWA側に担当してもらったらおもしろいものができそう」という話があり、真っ先に候補に挙がったのが水野先生でした。連絡したところ快諾してもらえ、さらに水野先生の別の作品で関わっている矢野さんにも今回のプロジェクトに入ってもらい、シナリオ部分などを共同作業してもらっています。

椎名 横山さんから「水野先生に依頼してみます」と提案されたときは、正直なところ五分五分で断られるだろうという気持ちでいたので、参加していただけると聞いたときは、チーム全員が諸手を挙げて喜びました。以前の作品でKADOKAWAさんとお仕事させていただいたときに、作家の皆さんがお忙しいことは重々承知していましたし、そういう中でゲームのボリュームは本当にすごい量なので、受けてもらえる可能性は低いというのが現実だと思っていたので、タイミングが合ってよかったと思っています。プロジェクト自体も今回の横山さんからの提案も、水野さんと矢野さんに参加していただいたことも、それぞれのタイミングが見事にマッチしたのだろうなと感じでいます。

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――本作のタイトルは“Akashic Records(アカシックレコード)”ではなく、“Akashic Re:cords(アカシックリコード)”ですが、タイトルの由来を教えてください。

椎名 水野さんと矢野さんに制作してもらったシナリオや設定の中に“アカシックレコード”という言葉が含まれていまして、本作で言うと本の悪魔や悪魔の書架自体が、あらゆる事象や知識の集合体という“アカシックレコード”なんです。それが本作の世界観に通じるので、タイトルは“アカシックレコード”を考えていたのですが、そこからさらに本作“ならでは”を出すために“Re:”としました。本作では、クリエイターと呼ばれる主人公たちが、紙魚(しみ)というウイルスによって冒されてしまった物語の破綻を復元してもとの姿に戻していくのですが、その記録し直すという意味合いも込めています。また、彼らはものごとを創造している人たちでもあるので、もとの作品に対するリプライやさらなる創造の意味も込めて“アカシックリコード”にしました。

魅力的な世界観にすべく、古典作品を再解釈

――本作のコンセプトを教えていただけますか?

椎名 クリエイターという現実世界の人間が、非現実世界で召喚キャラクターたちとタッグを組んで得体の知れない紙魚と戦う。この非現実的な戦いをゲームで表す際にずっとキーワードとしていたのが、“緊迫する、手に汗握る体験”でした。

――では、シナリオを作る上でのコンセプト・テーマを教えていただけますか?

矢野 本作は、基本的に既存の作品や古典の作品がテーマになっています。『不思議の国のアリス』、『吸血鬼ドラキュラ』など、いろいろな作品が登場し、その作品が紙魚によっておかしくなってしまったため、クリエイターたちが悪魔の書架に入って紙魚を倒すというのが基本パターンになります。

水野 本作では、書き換えられた世界を書いていますが、我々は原作に対して間違いなくリスペクトしています。軽んじているつもりはないのですが、ファンの人からはそう言われてしまうだろうなと……(苦笑)。

矢野 リスペクトがあってこそ細かい部分まで設定していますので、古典小説をしっかり読んでいる方であるほど、「ここはこう変わっているんだ」と気が付くおもしろさがあります。また、『アカシックリコード』では、書き換えられた世界を前提としていますので、プレイした上で「元の作品はどういう結末だったっけ?」と振り返ってもらうのも、本作のおもしろさのひとつだと思っています。

椎名 数多くの既存作品を散りばめていますので、読んだことがない、知らない作品に必ず出会うと思います。ですが、「本来はどういう作品なのだろう?」という風に思っていただけたほうがうれしいですし、水野さんも矢野さんもそれを目標にしています。僕もひとりの読み手として、原点へのリスペクトがあってこのシナリオなのだと感じました。

――本作では、同じ古典作品でもジャンル(クリエイター)によって、召喚するキャラクターが別物になりますが、それは誰のアイデアだったのでしょうか?

矢野 古典作品を持ってこようというのは、水野さんと相談の上で決まりましたが、ひとつのキャラクターをジャンルごとに変化させるというアイデアは水野さんです。

椎名 書き手には思想や表現したいものがあり、「オレはこう思うんだ」、「いやいやそれは違う。こういう解釈でしょ」と、それぞれ異なる解を持っています。たとえば『吸血鬼ドラキュラ』のドラキュラも、解釈の仕方で違う形になるかもしれません。そういった部分をジャンル付けして別のキャラクターとして見せるのがおもしろいアイデアだなと思いました。

――どのぐらいの作品が盛り込まれているのでしょうか?

横山 召喚できるキャラクターの原典で言うと20作品前後ありまして、各古典作品がジャンルごとに再解釈されています。たとえば、『不思議の国のアリス』のアリスも、ライトノベル版のアリス、乙女版のアリスでは性別が異なりますし、ホラーテイストのアリス、SF風のアリスも存在します。それぞれがどのように解釈されているのかは、フレーバーテキスト(背景設定や世界観を表現した文章)で読めるので、すべて読んでもらえばものすごく世界が広がると思います。

――本作のカギとなる人物、ライラと千尋、本の悪魔について教えてください。
※千尋についてはこちらでチェック!

水野 本の悪魔は、“ラプラスの悪魔”から付けた名前です。全知全能の超越的な存在ということで、概念的に悪魔と付けました。ライラですが、この世界には数々のクリエイターが登場します。しかし、主人公だけが創造的なことをしていないにも関わらず悪魔の書架に呼ばれてしまう。ほかのクリエイターたちは、自分が手掛けた作品のキャラクターを召喚していっしょに戦いますが、クリエイターではない主人公は誰を呼び出せるのか? 本の悪魔が実験した結果、登場したのがライラです。

矢野 主人公は、ライラに初めて会うはずなのですが、彼女は主人公には会ったことがあり、戦ったことがあると主張します。さらにもうひとり、いっしょに千尋という女の子がいたと言うのですが、主人公はそれを覚えていないのです。思い出せない記憶なのか、失った思い出なのか……。どうやら悪魔の書架の中に謎があるようです。そこで、主人公はクリエイターではないにも関わらず、悪魔の書架を巡る戦いにみずから足を突っ込んでいく。これ以上言うと、ネタバレが大量に出てきてしまいますが(笑)。ライラが主人公の相方として活躍し、千尋は何か失った記憶の中にいる子という感じです。

水野 戦うべき相手として、先ほど紙魚という話が出ましたが、敵の名前が“過剰なレトリック”、“破綻したロジック”といった名前になっています。ネーミングや世界観はすごく大事で、しっくりする言葉が出てこないと魅力的な世界にならないんですよね。ですから、ベタな中二っぽいネーミングにはこだわっています。

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思い入れがあるキャラクターは?

――世界観を作る際に苦労した部分はどこでしょうか?

椎名 僕が最初の読み手なので世界に没入し、キャラクターの言動にどういう意味があるのか? このときこのキャラクターはどういう気持ちでいるのか? など疑問に思ったことをすべて列挙し、質問としておふた方に出しておいてくださいと横山さんに託しました。

矢野 違和感があるならば、それがなぜ起きているのかは精査しますし、返答後に「こうしませんか?」と椎名さんから提案されることも多々ありました。そういう意味では苦労したというより、たくさん突っ込まれたぶん、いいものに仕上がったと思っています。

水野 これから変わっていくところもまだあるかもしれません。作品と言っても生き物なので、いちばん最初にガチッと固めてしまうよりも、ふわっとしたところを残しておいて、プレイヤーの皆さんに遊んでもらい、いっしょに育てていきたいという部分もあります。

――個人的にお気に入りのキャラクターやエピソードがあれば、おひとりずつ教えてください。

横山 僕は、SFのメインクリエイターである藤助です。かなり毒舌でぶっきらぼうなのですが、じつは芯にすごく熱いところがあります。彼がフィーチャーされる章では、オチまで読むとグッときます! ほかに、なかなか出せない裏設定も数多くあるので、それを知っているがゆえに藤助はかわいいなと。

矢野 自分の場合、書きやすいということで浩太郎ですね。主人公の友だちとして出てきていっしょに悪魔の書架に呼ばれてしまいますが、ふだんのノリがいい、そういう方向性のキャラクターです。主人公はプレイヤーの代理なのでセリフが少ないため、主役になり得るキャラクターとしての浩太郎が存在するのですが、ふつうの高校生が巻き込まれたらどうなるのだろうというように想像しやすかったですし、おもしろいエピソードも書けたのでお気に入りです。

水野 折鶴ですね。彼女は、僕の中では育った感じがします。貴重なロリ枠なので(笑)。設定もドンドン深くなっていきますし、この世界のキーになるべきキャラクターでもありますので、そういう意味でも彼女が好きです。無口系の女の子、少女キャラクターが好みなので、それもあります。すごくステキなイラストも描いてもらえてうれしいです。

椎名 僕は、藤助のメインパートナーの孫悟空が好きですね。藤助の相方である孫悟空は立ち位置が微妙に違っていて、それがメインストーリーにある『西遊記』の話で盛り上がります。著者と生み出したキャラクターの関係性は親子のようなものだと思っていますが、孫悟空が藤助に対して投げかける言葉にグッとくるものがあるんです。藤助を奮い立たせるワードは誰もが共感できるのではないかなと、そういう意味でも孫悟空推しです。

――メインキャラクターだけではなく、召喚キャラクターにもボイスがついていますが、収録はかなりたいへんだったのではないですか?

椎名 そうですね。でも楽しかったですよ。イラストだけでも十分魂が入っているのですが、声が入るとより魂が入ると言うか、こういうキャラクターだったのかとイラストだけでは気付けなかったことを再発見できました。収録時間は尋常ではありませんでしたが、現場に行っていてもまったく苦ではなく、めちゃくちゃおもしろい発見が多かったです。

――ゲーム化する際に、とくにこだわった部分があれば教えていただけますか?

椎名 多種類の作品を悪魔の書架に入れてもらっているので、さまざまなキャラクターを活かせるゲームシステムでなければならない。そこで、キャラクターを入れ換えても楽しめるバトル、という部分にこだわりました。ほかにも、クリエイターどうしの思想のぶつかり合いや、切磋琢磨し合うさまというのをどういう風に描くかという部分も、うまくゲーム性に取り入れられたと感じています。

――ゲーム配信後の展開を教えてください。

水野 ゲームの配信に合わせて、小説投稿サイト“カクヨム”での連載が始まります。最終的には本になりますが、カクヨムという新しくおもしろいメディアを使うので、単純に1章から書くだけではなく、ちょっと変わったことも試みようかと考えています。その辺は、始まってから楽しみにしていてください。

――最後に、本作を楽しみに待っている読者へメッセージをお願いします。

横山 KADOKAWAとスクウェア・エニックスの共同原作は初めての試みになります。スクウェア・エニックス、KADOKAWAそれぞれが単体で手掛けるものとは、また違ったいい化学反応が起きていると思うので、ぜひそれを楽しみにしてください。

矢野 何か物を作るという行為に対しての、楽しみや苦しみといった感情を多々込めたシナリオになっています。自分が何か作りたいなと思う人にも見てもらいたいし、そういうスタンスではない人にも、作り手というのはこういうことを考えているのかと、想像して楽しんでもらえると思いますので、ぜひそのあたりを見ていただければと思います。

水野 僕は、声を楽しみにしていますが、がんばって魂を込めて世界観を作っていますので、この世界をぜひ楽しんでください。

椎名 僕と横山さん自身も、最高のスタッフで望んだ作品だと自負して全力で挑んできたので、まずはこの世界観とゲームを楽しんでもらいたいです。また、今後は皆さんとともにこの世界を作っていきたいので、いっしょに作品を楽しむ機会をぜひ作りたいと考えています。よろしくお願いします。

『アカシックリコード』インタビュー完全版――文学とRPGの世界はいかにして生まれたのか?_02

アカシックリコード
メーカー スクウェア・エニックス
対応機種 iOSiPhone/iPod touch / AndroidAndroid
発売日 2016年配信予定
価格 基本プレイ無料(アイテム課金あり)
ジャンル RPG
備考 キャラクターデザイン:ぽんかん⑧、雪広うたこ、ヤスダスズヒト、おぐち、toi8、宮城、lack ほか