世界の『シルバー事件』ファンも大集合!

 グラスホッパー・マニファクチュアより、PCプラットフォームにて配信される『シルバー事件』HDリマスターPC版のスペシャルイベント“『シルバー事件』パーティー”が、2016年9月16日、東京・渋谷WOMBにて開催された。

 『シルバー事件』は、1999年10月にプレイステーションにて発売されたアドベンチャーゲームで、架空の国“カントウ”の統制された管理社会“24区”を舞台に、20年前に発生した“シルバー事件”をめぐる物語が展開。独特の演出システム“FILM WINDOW”や、“[Transmitter]編”と、“[Placebo]編”の2シナリオによって独特の世界観を作り出し、いまなお根強いファンを持つ伝説的作品。本イベントにも熱心なファンのほか、海外からのファンも多く詰めかけ、チケットは即完売したとのことだ。

“『シルバー事件』パーティー”リポートをお届け 開発に関わった豪華ゲストが当時の制作秘話をたっぷりと語る_01
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▲会場の入り口には、特大『シルバー事件』バナーが展示されていた。

 本イベント会場は、もともとはクラブで、90年代の楽曲と『シルバー事件』のBGMをDJフクタケ氏がミックスして、会場を盛り上げた。また、作中のキャラクターが好んだカクテル“トリニティ”も、今回のイベントに合わせて特別に提供され、ファンの舌を楽しませていた。

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▲クラブのビジュアルムービーは、『シルバー事件』本編のムービーなどが使用されていた。
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▲“[Placebo]編”の主役であるモリシマ トキオが愛飲していたカクテル“トリニティ”。筆者も試飲させて頂いたが、甘さと口当たりの滑らかさが心地よく、大人なお味。思わずプラシーボ(作中に登場するタバコ)に、火を付けたくなる……!

 そして同イベントではトークパートもあり、『シルバー事件』のオリジナル版ディレクター、HDリマスターPC版のプロデューサーである、須田剛一氏のほか、シナリオ担当の大岡まさひ氏、キャラクターデザインとイラストを手掛けた宮本 崇氏、オリジナル版のプロデューサーを務めた田村裕志氏など、当時の関係者たちが集結。さらには、『D4: Dark Dreams Don’t Die』などで知られるゲームクリエイターのSWERY(末弘秀孝)氏が急きょ登壇。ちなみに、司会を務めるのは、『シルバー事件』の大ファンだというお笑いコンビ・しずるの池田一真さんで、まさに“『シルバー事件』パーティー”にふさわしいゲスト陣となった。ここでは、トークの模様を中心にお伝えするとともに、最後には須田氏によるコメントもお届けしよう。

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▲須田剛一氏。

 トークはまず、須田氏からHDリマスターPC版がリリースされる経緯について語られた。『シルバー事件』は海外では発売されておらず、英語版もリリースしたいと須田氏は約10年ほど前から考えていたそうだ。しかし本作はテキストベースのゲームで、膨大な文字数をしっかりと英語に翻訳するのが難しく、しかも須田氏は「俺はナイストゥーミーチューくらいの英語しか分からない(笑)」と言うように、英語ができなかった。そんなあるとき『シルバー事件』をクリアーしたという海外のファンが3人現れた。その中のひとりがアクティブゲーミングメディア代表取締役であるイバイ・アメストイ氏だったという。そして、イバイ氏から「僕たち任せていただけたらたら、完璧なローカライズをする」と持ち掛けられたそうで、そこでようやく英語版が決まり、さらにHDリマスターPC版が作られることになったのだという。なお、残りのふたりも今回の翻訳スタッフとなり、何度も『シルバー事件』をクリアーしているコアなファンなのだとか。

 須田氏が、司会を務める池田さんに「池田さんもクリアーしましたよね?」と尋ねると、池田さんは「クリアーしてます。でも昔のことなので、頭に残ってるのは“デカチン”と呼ばれることですね」と、ファンならではの発言。『シルバー事件』では主人公ネームは自由に付けられるが、作中ではクサビ テツゴロウから“デカチン”というあだ名で呼ばれてしまう。池田さんは本名でプレイしていたそうで、当時その名称に驚いたという。

 と、ここで須田氏が「上がってきてくださいよ!」と観客の中に声を掛けると、当時『シルバー事件』のプロデューサーを務めた田村氏がステージ上に登場。田村氏は「じつはここに招待されてなかったんだけど、たまたま東京ゲームショウの会場で、“明日来ますよね?”ってキミに言われて(笑)」と、本会場に急きょ呼ばれたことを明かしていた。さらに、『シルバー事件』のイラストをすべて手掛けた宮本氏もここで登壇。宮本氏は「これだけカルトなゲームになってしまって(笑)。でも、ネットとかでも(『シルバー事件』は)必ず見る名前なんですよ。これだけ幸せなことってないですよ。当時は思ってもいませんでした」と、いまだに熱狂的な支持を受けていることに、感慨深げだった。

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▲田村裕志氏(右)。
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▲宮本 崇氏(右)。

 つぎは“[Placebo]編”のシナリオを担当した、大岡氏が登場。今回のHDリマスターPC版がリリースされることについて、「僕はコンシューマーゲームよりPCを触ることが多いので、僕も(プレイ)できるなと思いましたね」という率直な気持ちを語る。大岡氏は『シルバー事件』をクリアーしていないそうで、当時は自分の文章を読むのが耐えられなかったそうだ。しかし今回は、約10年ぶりということで「これなら自分の文章を客観的に読めそうだから、今回はクリアーまでやりたいですね」と、改めてのプレイを楽しみにしているようだ。

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▲大岡まさひ氏。

 続く話題は、なぜ大岡氏が“[Placebo]編”を書くことになったのか? という経緯について。須田氏は、1997年のヒューマン時代にプレイステーションにて『ムーンライトシンドローム』という作品を発売。同時に関連書籍も多数発売され、その中に、作中に起きた事件をルポ形式で追うという内容の一冊『ムーンライトシンドローム トゥルースファイル』を、大岡氏が執筆していた。それを読んだ須田氏は、自身の書いた“[Transmitter]編”のシナリオにプラスして、そういったイメージのシナリオをゲーム中に登場させたいと考え、大岡氏に突然オファーをしたそうだ。また、須田氏からの要望は“読み応えのある日記を散りばめる”といったものだったが、そこからふたりで肉付けしていったのだとか。そして大岡氏は「ストーリーが完結したら終わりだと思ってたのに、さらに須田さんが謎が謎を呼ぶような“須田節”を加わえていったんだよね」と、制作当時のエピソードを語った。

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 また、先ほど語った池田さんの思い出であるあだ名“デカチン”は、最初は“ポコチン”というあだ名だったという驚きのエピソードが、大岡氏から飛び出す(笑)。やはりその名称はマズいということだったのだが、クサビが主人公を紹介するときに間違って“ポコチン”呼んでしまうワンシーンは、その名残……というよりは、スタッフの悪あがきだそうだ(笑)。

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▲カクテル“トリニティ”を手にし、乾杯も行われた。
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▲DJタイム中は、須田さんにファンが殺到! プレイステーション版『シルバー事件』にサインを貰うファンが多かった。
▲ほかにも『Killer 7』や『花と太陽と雨と』といった、須田さんの手掛けた作品にサインを貰う人もちらほら。
▲須田さんも驚いていたのが、小説“シルバー事件—case#4.5フェイス”を持ってくるファンが多数だったこと!

 一旦DJタイムを挟み、おつぎは、たまたま会場に来ていたSWERY氏がサプライズゲストとして檀上に登場。おふたりは独特のスタイルで人気を誇るゲームクリエイターどうしということで、E3や東京ゲームショウなどのイベントで、よく会っている仲だとか。SWERY氏が「メッセージウィンドウは下に出るのが当たり前の時代に、右上とか真ん中とかに演出付きで出て、メチャクチャカッコイイんですよ」と、“FILM WINDOW”システムを振り返って大絶賛すると、須田氏も「アレ作った人天才ですよね!」と冗談気味に自画自賛(笑)。これによって“メッセージはただ読ませるもの”という概念を覆したと、SWERY氏は続けて褒め称える。ちなみに“FILM WINDOW”システムは、須田氏が当時放映していたバラエティー番組“ASAYAN”のテロップの出しかたを見て、やりたいと思い実現したという制作秘話も明かしていた。

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▲SWERY氏。

 そういったクリエイターが持つ独特の作りかたについて、池田さんが「そういうのってスタッフさんとかに怒られたりしないんですか?」と、おふたりに質問。須田氏は「初期のころは、スタッフは言うこと聞かなかったんですよ」と、当時を振り返る。前例のない仕様を作ること、そして伝えるのが難しいので「それってムービーでいいんじゃないんですか?」と、プログラマーに言われてしまうことも多々あったそうだ。それに続けて、プレイステーション2にて発売された『花と太陽と雨と』は、舞台となる島をすべて歩き回れるオープンワールドというコンセプトだったのだが、当時はオープンワールドがまだジャンルとして確立していない時代。須田氏はプログラマーから「なぜ島を全部作る必要があるんですか?」と言われてしまい、魅力やイメージを共有できなかったそうだ。しかし、『グランド セフト オート III』が発売されると、一気にジャンルが確立。つまり前例があるかないかが、重要だと語った。

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 最後には、『シルバー事件』のHDリマスターPC版が2016年10月7日に決定したことが発表された。オリジナル版の発売日が1999年10月7日発売ということで、そのアニバーサリーに合わせての発売日となっている。また、DX版の特典の数々が発表されると、会場からは大きな歓声があがっていた。

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 また、数量限定パッケージ版については、発売日は未定で、予約販売を予定しているとのこと。国内での発売に関しては続報待ちということだが、須田氏は「これよりもっとスゲーのを用意してますんで、もうちょっと待ってください」という発言も飛び出していたので、続報を楽しみに待とう。

 最後には、2005年に携帯アプリにてリリースされた続編『シルバー事件25区』について、「じつはHDリマスターではなく、HDリメイクをしたいと思っています」と、サプライズの発表……!? と思いきや、「作りたいなっていう気持ちだけですよ?」と、決定事項ではない様子。当時の携帯アプリということで、遊んだことがない人も多いはず! ファンの人たちは、ぜひ応援の声を届けるべし!

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▲ファンたちと記念撮影をする須田さん!

須田剛一氏に直撃ミニインタビュー!

 それでは本記事の最後に、本イベントを終えてすぐの須田剛一氏(以下、文中は須田)に行った、ミニインタビューをお届けする。

――いよいよ『シルバー事件』HDリマスターPC版の発売日も発表となりました。いまのお気持ちを率直にお聞かせください。

須田 PAX EAST、PAX WEST、BitSummit、東京ゲームショウと、いろんなイベントで本作をアピールさせていただきました。やるたびに、ファンのみなさんの熱気をすごく感じましたね。15年以上前の昔のゲームなのに、とても長いあいだ待っている気持ちが伝わってきました。今回のイベントも100人以上のファンが集まってくれて、“HDリマスターPC版”を作って、本当によかったと思ってます。

――ファンの人たちも喜んでいると思います! では、今回のスペシャルイベントが開かれた経緯ついて、うかがいたいです。

須田 イベントをやるということは決まっていたのですが、アクティブゲーミングメディアさんのご厚意で、ファンの方々と触れ合うイベントにしていただきました。海外のイベントですと、ファンの方々と直接触れ合う機会も多かったのですが、やはり日本で熱心なファンの人たちともこうやってお話ができてうれしかったです。ただ惜しかったのは、もっと長いイベントにすればよかった(笑)。

――2〜3時間では足りない……と!

須田 やっぱりクラブなんで、もっと深夜2時〜3時とかまでやりたかったですね! みんなと語り足りないし、まだまだ夜はこれからじゃい! って感じで。でも明日は、東京ゲームショウの3日目ですし、ファミ通さんのブースの生放送にも出るんで、迷惑かけちゃうから(笑)。

――(笑)。それでは最後に、読者のみなさんと、『シルバー事件』HDリマスターPC版を待つファンのみなさまに、メッセージをお願いします。

須田 ようやく発売日を発表することができました。“Limited Run Games”という、限定版パッケージを作る海外の会社から「ぜひ作らせてほしい」と、お声を掛けていただき数量限定パッケージ版も作ることできましたし、本当に信じられないことが連続して発生し、『シルバー事件』の再リリースが実現します。当時を忠実に再現しながらも、よりディープになっていますので、若い世代の人たちにぜひプレイしてほしいですね。日本のインディーゲームの流れが、こういう昔にあったんだというところを知ってほしいですし、ぜひ遊んでみてください。そして絶対書いてほしいのですが、ファミ通.comだけでなく、ぜひ週刊ファミ通本誌でも『シルバー事件』特集をお願いしますよ、林編集長!!

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