2016年9月15日(木)から9月18日(日)まで、千葉・幕張メッセにて開催された東京ゲームショウ 2016(15日・16日はビジネスデイ)。会場で収録した、ソニー・インタラクティブエンタテインメント ワールドワイド・スタジオの吉田修平プレジデントへのインタビューをお届けする。(聞き手:週刊ファミ通編集長 林克彦)
インタビューは4KとHDRに関する雑談からスタート
ソニー・インタラクティブエンタテインメント
ワールドワイド・スタジオ
プレジデント
吉田修平氏(文中は吉田)
吉田 林さん、プレイステーション4 Pro(以下、PS4 Pro)の4KとHDRの映像ってご覧になりました?
林 はい。先日の2016 PlayStation Press Conference in Japanで実際に見ました。
吉田 会場で見ていただいた方には伝わったと思うのですが、映像配信でご覧になった方は「4K? HDR?」となってしまって(苦笑)。
林 確かに、配信では解像度も画質も下がってしまいますしね(笑)。
吉田 VRの場合だと映像自体が目新しいので、配信でも十分伝えられるのですが、4KとHDRはアピールの方法が悩ましいです。
林 PS4 Proのプロモーションは、4Kテレビの普及といっしょに展開したほうがいいと思いますね。
吉田 私もそう思います。家電量販店で展示されている4Kテレビの映像ソースのひとつとしてPS4 Proを使ってほしいです。
林 やはりPS4 Proは4Kあってこそじゃないですか。
吉田 でも、必ずしもそうではないんです。従来のフルHDテレビでも、PS4 Proによってフレームレートが安定したりします。もちろんタイトルによるのですが、フレームレート以外にも追加のエフェクトを入れたり、リアルタイムのシャドーを加えたりなど、映像面の恩恵が大きいです。
林 なるほど。フルHDだと余剰分のパワーを有効活用していくと。
吉田 なにせGPUの性能が2倍以上になっていますから、いろいろと可能性を探ってテストを重ねているところです。たとえば、レンダリング(映像を作る段階)の解像度を上げておいて、実際にテレビに映すときにもとの解像度に戻してやることで映像の明瞭度が変わったりします。プレイステーション VR(以下、PS VR)のタイトルも、一部映像が綺麗になるタイトルがありますね。私も最初はPS4 Proは4K、HDR向けのもの、と考えていたのですが、活用の幅が出てきて、これは予想していなかったことです。
林 表示能力が変わることで、ゲームが遊びやすくなったりするのでしょうか?
吉田 そのゲームで得られる体験そのものは変えないように、とは話しています。
林 それにしても、PS4 Proはいまの時代に合った進化をしていますよね。
吉田 そうですね。PS4ではPCベースのアーキテクチャを採用すると決めた時点で、PCの進化を取り入れられるとは思っていました。それこそスマートフォンのようにハードの更新を毎年するということではないのですが、これまでのゲーム機の世代交代よりも早い周期で性能を上げることができます。互換性を保ちつつ、ハイエンドを求める人への選択肢として提供できるわけです。
林 あくまでPS4 Proはハイエンドであると。
吉田 私は、PS4 Proのユーザー層はふたつあると思っています。まずひとつのグループは、PS4をローンチのときに買っていただいているような、グラフィクスにこだわりを持つユーザー。買い替え、買い増しの需要ですね。そしてもうひとつのグループは、これからPS4を買うんだけど、自宅に4Kテレビがあるというお客さんですね。4Kテレビはあるものの、その性能を活かせるコンテンツはないか、そう考えたときにPS4 Proは打ってつけです。私の自宅もブラビアが8年選手なのですが、さすがに4Kテレビが欲しくなりました(笑)。
WWSのタイトル戦略について聞く
林 では、そろそろ本題へ(笑)。これからのPS4、そしてPS VRのタイトル戦略について、ワールドワイド・スタジオ(以下、WWS)ではどのようにお考えなのか、お聞かせください。
吉田 まずは、現在開発中のタイトルをちゃんと発売することですね。思ったよりも時間がかかってしまい、発売日変更などでご迷惑をお掛けしています。
林 なぜ時間がかかっているのでしょうか?
吉田 今年の年末や来年に向けて出てくる作品は、PS4世代タイトル、つまり最初からPS4でなければできないことをやろうと制作しているものばかりです。もちろん、過去にもPS4専用のタイトルは存在しました。『KILLZONE SHADOW FALL(キルゾーン シャドーフォール)』や『inFAMOUS Second Son(インファマス セカンドサン)』といった作品は、PS4のローンチや早い時期に投入すべく、ある種手堅く作られています。
林 PS4の本領を発揮、というフェーズに入ったということなのですね。
吉田 ローンチに合わせて発売するタイトルももちろん重要ですが、そこからある程度時間が経過したいまは、この世代でできること、PS4 Proのパフォーマンスを念頭に置いたチャレンジが必要です。『人喰いの大鷲トリコ』は、ゲームの規模が巨大すぎて、デバッグにだいぶ時間がかかっています。ゲーム自体はできているのですが、細かいところの調整にもう少しだけお時間をいただきます。『New みんなのGOLF』も、基本のコンセプトはあるものの、「まだ足りない!」と、作り直しを続けています。でも、いま作っているものについては大きな期待と自信があります。
林 なるほど。では、PS VRについてはいかがでしょうか?
吉田 PS VRについては、WWSは開発当初から関わっていますから、ローンチのタイミングで多くのバリエーションを出すことができました。ですので、つぎはそこからさらに発展させた第2弾という段階ですよね。『サマーレッスン:宮本ひかり セブンデイズルーム(基本ゲームパック)』(以下、『サマーレッスン』)を手掛けたバンダイナムコエンターテインメントさんなどもつぎは何を出してくるのか、非常に楽しみです。
林 今後のラインアップとして、PS4向けとPS VR向け、どれくらいの割合になりますか?
吉田 タイトルの計画自体はありますが、具体的に何タイトルずつというような、数で考えるようなことはしていません。PS4については、タイトル数を絞って、規模を大きくする方向ですね。時間をかけて作ります。かたやPS VRは、どこを掘っても金脈に当たるようなゴールドラッシュの時期です。ワンアイデアベースで作って、なるべく早くお届けしていきます。
林 VRは、ワンアイデアでどんどん出てきますよね。
吉田 新しい作品が来るたび、びっくりします。最近では、『Star Wars Battlefront Rogue One: X-Wing VR Mission』はすごくいいと思いました。もともと『スター・ウォーズ バトルフロント』はハイエンドの作品ですし、まさに『スター・ウォーズ』の世界という感じでテンションが上がりました。あと、『アイドルマスター シンデレラガールズ ビューイングレボリューション』も、本当にコンサート会場にいる感じで、とてもリアルでしたね。好きな人にはたまらないようですよ(笑)。
林 編集部のスタッフも鼻息を荒くしてそう言っていました(笑)。『サマーレッスン』の販売形態(ダウンロード専売で2980円[税込]、継続的な開発・配信を予定)もそうですが、バンダイナムコエンターテインメントさんのチャレンジはさすがですね。
吉田 デモを作るまでは楽しかったけど、そこからビジネスへどう転化させるか悩んでおられたようです。ユーザーの反響も見ながら、どのように変わっていくのか期待できますね。
林 水口哲也さんが手掛けた『Rez Infinite』の“Area X”もすさまじかったです。僕はあの20分の体験のためにPS VRを買ってもいいくらい、感激しました。
吉田 あれはすごいですね、タガが外れた感じですよね。大規模なスタジオでなくても、インパクトのあるものが作れるのがVRです。来年にどんなものが出てくるのか、まったく想像がつかないですね。
林 ただ、このVRへの熱狂は一過性のもので、来年にはブームは終わっているのではないかという声もあるようですが、そのあたりはどのようにお考えですか?
吉田 それこそ初期のころから、VRはニッチですぐなくなるもの、ペリフェラル(周辺機器)は売れない、なんて言われ続けてきました。でも、VRは“体験”することで急に変わります。
林 それこそ、毎日遊びたくなるようなコンテンツを生み出せるでしょうか?
吉田 それはゲームというより、ビデオのようなコンテンツでしょうね。アメリカでは“360度ビデオ”のようなサービスがすでに始まっています。そうしたサービスプロバイダーにPS VR対応のクライアントを作ってもらって、「PS VRなら120Hz(120fps)で快適に見られますよ」とアピールするとか、そういう方向性でしょうね。サービス提供側と私たちでメリットが一致するので、今後増えていきそうです。VRにはビデオサービスも大事だと思っています。
林 VRで調べ物とかも可能性があると思っています。たとえば、旅行で行くところを事前にVRで見て、候補を絞り込むとか。
吉田 観光地のプロモーションツールとしてもVRは使えますね。天候にも悩まされることなく、その場所の最高の映像を手軽に見ることができます。あとは、ライブイベントにもVRは浸透していくと思います。海外では、スポーツイベントや音楽コンサートの配信も始まっていて、疑似体験するという意味ではVRの臨場感は最高です。
林 だいぶVR方面で盛り上がってしまいましたが、将来的にPS4 Pro専用タイトルなどは出るのでしょうか?
吉田 それはないです。PS4の基本は通常のPS4です。PS4 Proはあくまでハイエンド版なのです。どちらを持っていてもPS4タイトルを楽しめる、そしてゲームの体験が変わるような変更や差別化は行わない。それは、デベロッパー各社にも伝えています。PS4 Proが担うのは、グラフィクスのアップグレードのみです。
林 さて、今年の年末から年明けにかけて、ラインアップがとんでもないのですが、ユーザーに向けてメッセージをお願いします。
吉田 値段が下がった新型PS4が登場し、いまがPS4を伸ばすチャンスだと思っています。すでに発表している『Days Gone』、『Detroit Become Human』、『Dreams』のほか、来年度以降に発売予定のタイトルも着々と進行しています。PS4、ますますご期待いただければと思います。