日本の、世界のeスポーツをグローバル統括はどう見る?

 2016年9月15日(木)から9月18日(日)まで、千葉・幕張メッセにて開催中の東京ゲームショウ 2016(15日・16日はビジネスデー)。

 オンライン対戦アクション『World of Tanks』(以下、WoT)などで知られるWargaming.netにてHead of Global Competitive Gaming(eスポーツなどに関するグローバルな施策を統括する担当者)を務めるモハメド・ファダル氏に、出展と並行してお時間をいただき、話を伺った。

「日本チームよ、早く世界の舞台に出てきてくれ!」Wargamingのeスポーツ統括に『WoT』の現状と展望を訊く【TGS 2016】_01
▲モハメド“モー”ファダル氏(文中ではモハメド)。モーという愛称で親しまれる氏は、『WoT』では大好きなISU-152にBL-10砲を積んで後方から狙撃するスタイルを好む。マジンガーZやグレンタイザーを観て育ったアニメファンで、『ガールズ&パンツァー』も大好きだが子供に見せるのはまだ早いかと悩んだりする、お茶目な面も持つ。

――今回の東京ゲームショウでは、Wargaming Japanブース全体がeスポーツを意識した作りになっていると感じました。日本でもeスポーツを強化していきたいという意図があるのでしょうか?

モハメド もちろんそうです。なぜかと言いますと、日本でも実力のあるプレイヤーが出場するトーナメントのように、高いスキルが必要な試合を観ることを楽しんでいただけていることが数値的にも分かっているからです。そういった方もそうでない方も、分かりやすく観ていただける第一歩にもなるように、より多くの方が観戦、参加しやすいようにしました。
 これからもさまざまな大会などが予定されていますので、より多くのプレイヤーの皆さんに興味を持っていただき、実力を発揮してほしいと思っております。

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▲ステージの左右にPCをずらりと並べ、対戦系の企画を豊富に実施。

――日本の『WoT』界隈にはCaren TigerやB-Gamingといった強豪やSCARZのようなプロチームがありますが、日本での全体の競技人口は増えているのでしょうか?

モハメド 間違いなく増えています! 5年前にはあまり考えられなかったことですが、たとえばCaren Tigerはいまや多くのeスポーツ関連イベントで上位3位に入っていますし、全体的に実力が底上げされていると感じます。ほかにも実力のあるチームが増えるとともに、後押しを受けるかのように競技人口も増え続けています。

――競技人口やゲーミングチームが増えるのは喜ばしいことです。つぎは彼らへのサポートについて教えてください。たとえば、2015年には上位チームに給与を支払うなどの取り組みを発表しましたよね。今後もさらなるサポートをお考えですか?

モハメド もちろん、そういったサポートは継続していきます。上位チームへの給与や大会での賞金などは当然として、そこで終わるのは得策ではありません。より多くの露出の機会を用意し、パートナーやスポンサーを獲得しやすくするなど、プロチームになれるチャンスもご提供したいと考えています。
 たとえば、先ほども話題に挙がったCaren Tigerはプロチームではありません。今後、彼らのようなチームがトーナメント出場や配信などで露出が増え、日本だけでなく世界中の企業の目に止まり、スポンサーシップのお話があれば、より安定した生活やプレイの地盤を得ることができるようになると思います。

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――なるほど。仮にプレイヤーたちにプロ化の意思があるのなら、彼らの将来にもつながりますね。

モハメド もうひとつのサポートとして、契約や規約に関するものがあります。スポンサーシップなどの提案を受けたチームを、弊社の弁護士が法的な面からサポートすることもあります。怪しかったり無理な契約がないかどうかの確認ですね。そういった経験が少ないチームがほとんどかと思いますので。

――それはすばらしい! プレイヤーが不利益を被ることがあってはいけませんから。では続いて、観客に関する点です。日本は大きな会場で観戦する場合でも大人しい人が多く、盛り上がりにくいと言われています。『WoT』に限らず、あらゆるタイトル、あらゆるスポーツであり得る話だと思います。ゲームがスポーツとして盛り上がるには、観る側の協力もほしいところだと思いますが、こういった点についてはどう思いますか?

モハメド たしかに、東京ゲームショウなどを見ると、少し静かな印象を受けますね。E3のような海外のステージとは、お客様のタイプがまったく違うのでしょう。ただ、一部の地域では日本のこういった“静かさ”も必要であると思っております。
 日本のお客様に対しては、「海外のほかの地域ではこのように盛り上がっていますよ」ということをトレーラームービーなどでお伝えしていきたいですね。楽しみかたの誘導をすると言いますか。逆に盛り上がりすぎて大暴れしがちな地域の方々には、日本の静かな盛り上がりを観ていただいて「暴れないでくれよ!」と教育していきたいですね(笑)。

――欧米のほうとか、テンションが上がるとすごいですもんね……。ちなみに、『World of Warships』(以下『WoWs』)もいつかは大会環境を整備してeスポーツ化を考えていらっしゃると思いますが、何か進捗はありますか?

モハメド 2016年度の『WoT』Grand Finalsで『WoWs』のエキシビジョンマッチを実施し、多くのお客様に『WoWs』の対戦で盛り上がっていただきました。そこで学んだ反省点も踏まえて、大規模大会に向けての開発なども進めています。近いうちに『WoWs』でのeスポーツ的なコンテンツもお見せできるかと思います。

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――楽しみにしています! では、話を少し戻して『WoT』の世界動向を聞かせてください。最近の環境で強いチームが多いのはどの国ですか?

モハメド チーム数ということなら、プレイヤー数の分母が非常に大きいロシアということになります。ですが、質問が「強いプレイヤーの数」となると話は別です。プレイヤーの数では及ばないにしても、日本、韓国、ドイツなどが非常に強いと言えます。これらの国には高いスキルを持ったプレイヤーが非常に多いと思います。

――個人技ということなら日本も十分に通用するわけですね。しかし、どうしてもロシアやヨーロッパの強豪に一歩及ばない状況が続いています。そこで、日本のチームが上位に食い込むために必要なものは何だと思いますか?

モハメド ここが『WoT』のおもしろいところで、『WoT』ではチームワークがとても重要です。ロシアのチームには、とても強いリーダーシップを持ったメンバーがいることが多いんです。ほかのメンバーは彼が言ったことを真面目に受け止め、そして彼を信頼して指示どおりに動く。そのチームワークがロシアチームの強さだと思います。

――何よりチームワークが大事と。

モハメド 逆に、日本は個々のスキルはロシアのチーム以上にあると思うのですが、リーダーに付いていく、リーダーの指示を100%実行するというチームワーク的な面がまだ弱いと感じています。メンバーが一致団結し、それぞれの役割を明確にし、力強いチームになれたなら、勝てる要素は十分にあるかと思います。

――なるほど。もちろん日本勢もチームワークはいいと思いますが、ロシアのチームに比べて、試合中の明確な上下関係がないのかもしれません。指示を出す側と出される側の役割分担はあるんでしょうけど、それでも全員が対等というか。『WoT』は一般的なFPS以上に戦略面が大事なゲームですから、ストイックな関係性が大事なんでしょうね。

モハメド それに、ロシアではサービスインから6年、日本では4年という時間的なアドバンテージもあるかと思います。とはいえ、大規模な大会を2回も経験したわけですし、その差はほぼなくなってきていると思います。そろそろ日本チームも追いついてくるのではないでしょうか。

――そこまで日本のプレイヤーを評価してくれて、すごくうれしいです。最後に期待を込めたメッセージ、いや激励の言葉をください。せっかくなので、かしこまった言いかたではなく、ズバッとストレートにキメていただきたいですね。

モハメド 世界と本気で戦いたい日本のプレイヤーに、伝えたいことがひとつあります。それは「早く世界の舞台に出てきてくれ!」ということです。きみたちが実力を秘めていることはよく分かっているし、それを私自身もこの目で見ています。
 いつになったら出てきてくれるんだい? さぁ、勝ち上がってきてくれ! きみたちの雄姿を大舞台で見られる日を、私は楽しみに待っている!

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