(記事には書けない)ぶっちゃけ話も続出!
2016年9月10日(土)、兵庫・神戸電子専門学校にて、レベルファイブ 代表取締役社長/CEOの日野晃博氏と、ゲームリパブリック 代表取締役社長の岡本吉起氏によるセミナーが開催された。
“「妖怪ウォッチ」「モンスターストライク」超人気タイトルはこうして生まれた!”と題された本セミナーでは、社会現象にもなった『妖怪ウォッチ』と『モンスターストライク』の開発秘話を、会社代表であり、ゲームクリエイターでもある日野氏、岡本氏が披露。おもに学生が占める聴講者に向け、これからゲーム業界を目指すにあたってのアドバイスも語られた。
最初のテーマは、互いの会社や経営について。クリエイターでありながら経営者でもある両氏が、『妖怪ウォッチ』や『モンスト』のヒットを生み出すまでの苦労を“ぶっちゃけ話”を交えつつ語った。いまや一大ヒットメーカーに成長したレベルファイブだが、日野氏は「僕らは最初からすごく恵まれた環境にいたと思います。『ドラゴンクエストVIII』や『IX』を作り、リッチな開発体制に慣れてしまっていた」と語る。『イナズマイレブン』を発端にさまざまなクロスメディアタイトルを手掛ける同社だが、クロスメディアタイトルの予算はゲームの開発費だけではなく、アニメや玩具の製作費などが含まれ、かなりの額の投資が必要。もちろんヒットすれば利益は出るが、「どうしても人気の勢いが落ち着いてしまうときは来る」(日野氏)。1タイトルあたりの生み出す利益が高いクロスメディアタイトルだけに、経営が苦しい時期もあったようだ。そこからレベルファイブは『妖怪ウォッチ』の大ヒットを契機に勢いを取り戻すが、1タイトルで“逆転”がありうるのが「エンターテインメント業界のすごいところ」(日野氏)。「いまは順風満帆でやれています」とのことだ。
一方の岡本氏は、「『モンスト』を作っているときは苦しかったですよ。(運営元の)ミクシィさんも苦しくて、予算が出ないんですね」とリアルな実情を吐露。ゲーム業界を「夢の山が高い分、地獄の谷も深い」と表現し、「谷あり谷ありの人もいますから。決してみんな(聴講していた学生)が思うほど僕らも楽をしているわけではないですし。でも、夢があるのは間違いない。その分、経営者はリスクも背負っています」と話していた。
続いてのテーマは、ヒットを生むための戦略について。クロスメディア戦略を踏まえ企画を出すレベルファイブは、複数の企業が投資をしあい、利益を分配する製作委員会方式を採用。「僕らもそれなりの投資をしますが、オモチャ会社や映画会社などと組んで、互いのクリエイティブを活かすやりかたをする。いまはゲームだけを作るために企画を立てるのではなく、企画の段階からオモチャなどの構想を取り入れている」(日野氏)そうだ。こうした戦略の成功が重なると、同社の企画に賛同する企業も増える。つまり、“仲間”を増やしやすい流れができあがるのだ。とはいえ、やはりすべての戦略が“当たる”とは限らず、「やっぱり当たり外れはある」(岡本氏)。岡本氏は続けて、「いくらヒットメーカーでも打たない年もある。だからと言ってその人が“打てない人”というわけではないのですが、一度打たないとファンは離れていきますよね」と、ヒットを生み出し続けることの大変さを語っていた。
そんな岡本氏は、ヒットを生む秘訣、ひいてはゲーム開発の極意を「日野さんのやっていることと近い。みんなゲームのアイデアを思いつき、そのアイデアに色をつけて1本のゲームを作る積み上げ型で、完成形までのルートが見えていないのに工数を計算する。僕はリリース後の社会現象を最初にイメージします」と語る。まずはそのタイトルがどんな社会現象になるのか……というイメージをして、「そこからどう流行らせるか、どういうものを作るかを考える。逆算式ですが、まず成功をイメージするとまっすぐ先に進めるんです」と続けた。たとえば「YouTuberが並んでプレイして盛り上がっている様子をイメージする。そうすると協力プレイでは縦持ちがいいのか横持ちがいいのか、というところを考えられる」と、まずは成功のビジョンありきで、そこに向かって一直線にディテールを詰めるという“逆算式”の開発手法が語られた。これには日野氏も深くうなずいており、「あらゆる仕事に当てはまると思います。僕はシナリオを書くことも多いのですが、いちばん見せたいものをイメージして、そこに至るルートを考えます。これはプログラムやゲームデザイン、イラストやシナリオでも大事なこと」と賛同した。さらに岡本氏は、新しいものを生み出す秘訣を「いまある不満を改善することで(新しいものを)発明する感じ」と解説。大好きなゲームを遊んで「こんなにおもしろいのに、ここは不満」という点を見つけ出し、そこを改善することで作品のヒットにつなげているのだそうだ。
また“超人気タイトルの秘密について”というテーマでは、『妖怪ウォッチ』を代表するキャラクター、ジバニャンの意外な誕生秘話も。ある日、小さな子猫を見つけたが、生き物を飼うのは大変だと一度拾わずに家に帰った日野氏。けれど帰宅して「やっぱり飼おう」と思い直した日野氏がもう一度その場所を訪れると、ものの20分ほどの間に子猫が車に轢かれて亡くなっており、大変なショックを受けたそう。「あのとき、自分がすぐに決断していたら子猫は死なずに済んだ。それが深い心の傷として残っており、ジバニャン誕生につながった」とのことだ。
日野氏、岡本氏ともに気になるのは次回作だが、岡本氏は「絶対にしゃべらないですよ! ヤバいです。株価が変動する(笑)」と、残念ながら次回作に関する“ポロリ”はなし。日野氏は先の“LEVEL5 VISION 2016”で発表した『レディレイトン』、『イナズマイレブン アレスの天秤』などのタイトルを紹介した。「情報を出して知ってもらうことは大切」と語る日野氏、たびたびWeb生放送やTwitterなどで“ポロリ”情報を発表しているが、これに関しては「言うべきときにしか言わないようにしています」。“ポロリ”と言っても、タイトルのプロモーションにつながるような情報をユーザーに届けているのだ。
おもに神戸電子専門学校の学生や、同校への入学を目指す高校生に対して行われた講演だけに、“新卒採用のポイント”といった話題も。日野氏はこれに「メンタルが強いかどうかがこの業界では大事。表面的にやる気があるかではなく、“本当に強い”かどうかを重視するようになりました。“仕事のタイプが変わったらできません”ではなく、サバイバルできるかどうか。ゲーム業界は大変で、やりたいことをやれるとは限らない。そのときにどれくらい耐えて、壁を乗り越えられるかが重要です。もちろん一定の才能やクリエイティブはチェックしますが、以降はそこかな。これが、けっこういないんです」と熱弁。岡本氏はまた、多くのスタッフで同じものを作り上げるゲーム業界だけに「コミュニケーション能力が一定以上あって、自分の武器が明確にあるヤツ。コミュニケーション能力のない天才は、まあまあ使いづらいですよね」と断言し、「自分でここが限界だという線を引かないでほしい。“ゲーム業界に入りたい”ではなく、最初から“俺がゲーム業界を引っ張ったる!”と言わないと。“業界には入れればいいや”というチンケな夢を持ってこられても、そんなに甘くない」と激励。日野氏も「最近は優秀な人が本当に多い。入ったばかりの人は、どういう経歴だろうとほぼいっしょ。何をしてきたかより、ここからどのくらいがんばれるかだと思います、最初からなりたい自分の成功例をイメージして」と、アドバイスを送った。
セミナーの最後には、学生たちによる質問コーナーも設けられた。“自由な時間は何をしているか”という質問では、岡本氏が「僕は本を読んでいます。本の読みかたが変わっていて、6~7冊をシチュエーションによって並行して読む。こうすると自分の勉強になるし、感情を切り替えられる。記憶力も全部そこで培うようにしています」と、独自の読書法を披露。日野氏は「僕はゲームが大好き。夜の10時、11時までゲームを作る仕事をして、帰ってからまたゲームをします(笑)。夜中の2時3時は当たり前。ゲームをしながら寝落ちするのは最高に幸せですよね(笑)。パーティープレイをしながら寝落ちして、起きたら誰もいないこともありました」と、“ゲーム愛”を熱弁。どんなに多忙なときも毎日3時間ほどはゲームをして過ごしているそうだ。
おもに岡本氏を発端にしたぶっちゃけ話や下ネタも随所に挟みつつ、セミナーは爆笑も巻き起こり大盛り上がり。もちろんゲーム業界の第一人者としての含蓄ある言葉も満載で、会場を訪れた学生たちが熱心に聞き入る様子が印象的だった。日野氏、岡本氏の言葉に感銘を受けた学生たちが、ゲーム業界を引っ張る未来に期待したい。