王道RPGをリモートワークで制作

 本セッションの講師は、Tokyo RPG Factoryの橋本厚志氏。スクウェア・エニックスから発売されたプレイステーション4、プレイステーションVita用ソフト『いけにえと雪のセツナ』のディレクターであり、今回は同タイトルをリモートワークで制作した経験から、その長所や短所などを幅広く紹介してくれた。

『いけにえと雪のセツナ』のディレクターが語る、リモートワークによるゲーム開発のポイントとは?【CEDEC 2016】_01
▲講師を務めたのは、『いけにえと雪のセツナ』のディレクターである橋本氏。

 オープニングではまず、『いけにえと雪のセツナ』のプロモーションビデオが流され、作品内容を紹介。続いては制作会社となるTokyo RPG Factoryの説明に移った。
 Tokyo RPG Factoryの特徴は、少数精鋭で、リモートワークによるゲーム開発を実現していること。他会社の仕事に従事しながら協力してくれるクリエイターも多数おり、オフィスにいるメインスタッフと、それぞれの会社にいる開発スタッフやフリーのクリエイターなどが、バラバラの場所で、ともに『いけにえと雪のセツナ』を作り上げた。

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▲『クロノ・トリガー』のシステムをベースにした、王道RPGだ。
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▲リモートワークという試みに、多数の開発メーカーが賛同した。

リモートワークのよい点&悪い点

 リモートワークとは、簡単に言うと、開発スタッフがバラバラの場所でゲームを開発するスタイル。『いけにえと雪のセツナ』の紹介に続き、最初に橋本氏が語ったのは、そのリモートワークでよかったことと、悪かったことだ。
 よかったことととして挙げられたのは、「それぞれのスタイルで作業ができる」、「スタッフのプライベートを尊重できる」、「省スペースで開発できる」、「能力が高い人や熱意がある人を集めやすい」といった点。なかでも橋本氏が最大のメリットと語ったのは、リモートワークという形態なら、忙しい優秀な人材にも協力してもらいやすいということだ。
「実際に自分も、プロジェクトのお話をいただいたときは、仕事が詰まっていてきびしかったのですが、リモートワークならなんとかなるかもと思い、参加させていただいた経緯があります」(橋本氏)。

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▲通常の会社形式で働くより、よりフレキシブルな開発体制が作れる。

 いっぽう悪かった点としては、「顔を合わせないので、意志の疎通が難しい」、「信頼関係が崩れやすい」、「打ち合わせを遠慮してしまう」、「生活のリズムが狂ってしまいがち」といった点が挙げられた。これらの背景となる最大のネックは、やはり離れた場所にいるので、コミュニケーションが取りずらいということだ。
 「直接に顔を合わせず、チャットワークやメールだけのやり取りでは、誤解や勘違いが起こりがちです。開発において人間関係は重要ですので、こうした部分でストレスがたまってしまうと、作品のクオリティーにも影響が出てしまいます」(橋本氏)。

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▲直接コミュニケーションが取れないことが、いろいろな弊害を生む。

成功させるために重要となる心得

 続いて橋本氏が語ったのは、「ではけっきょく、何が問題なの?」ということ。まずひとつは、細かい進捗確認が必要となるため、管理コストが大きくなること。もうひとつは、もめ事が起きたときに人間関係を修復しづらく、最終的にプロジェクト崩壊にまでつながるリスクがあることだ。
 「そうした課題点があるなか、あえてリモートワークをする必要がはたしてあるのか。何も考えず、対策を立てずにリモートワークを実行することは、個人的にはオススメできません」という橋本氏。そのうえで、それでもリモートワークをやりたいという人に向け、「こうすればうまくいくのでは?」というアドバイスを最後にいくつか語ってくれた。

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▲安易な気持ちで実行すると、大きな痛手を負う可能性もある。

 リモートワークに挑むための心得として橋本氏が説明したのは、「進捗管理を細かく行う」や「スタッフを信頼できる環境」など、6つのポイントだ。詳細は下の画面を参照してほしいが、リモートワークだけでなく、通常のゲーム開発にも通じる部分があるのではないだろうか。ただし橋本氏いわく、これらはコンシューマー向け・RPG・中規模クラス開発を想定しての事例なので、条件が変わればこの限りではないとのことだ。
 まとめてして橋本氏は「リモートワークを志す人たちにとって、有益な情報提供となれば幸いです。それぞれのプロデュースに最適な形で活用して、すばらしい作品を作っていただければと思います」とコメント。セッションを締めくくった。

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▲こうした点を心がけることで、リモートワークの成功率は高まるはずだ。