ファンタジーの世界にSFを持ち込むのはご法度!?

外国人識者の分析による“欧米で日本のゲームをもっと成功させる方法”【CEDEC 2016】_01

 2016年8月24日~26日の3日間、パシフィコ横浜にて開催された、日本最大級のゲーム開発者向けカンファレンス“CEDEC 2016”。ここでは、オンラインゲームのスペシャリストでフリーコンサルタントのテュート・ワイデマン氏を迎えて行われた、“欧米で日本のゲームを成功させる方法”というセッションを紹介する。

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▲テュート・ワイデマン氏

 ワイデマン氏は1980年代からゲーム業界でキャリアを積み、グラフィックアーティストやプログラマー、開発ディレクターやCEOとして、100を超えるタイトルに携わってきた人物。1996年には開発会社Wings Simulationsを設立し、PCゲーム『パンツァーエリート』を世に送り出した。2007年からはオンラインゲーム参入企業にコンサルティングを提供し、UbisoftやSUPERCELLをはじめ、世界中の企業をクライアントに持つ。

 そんなワイデマン氏が着目しているのが、日本と欧米諸国には、ユーザーやゲームメカニクスなどに大きな違いがあるということ。そのため、日本のタイトルが世界レベルの成功をおさめるためには、この違いを理解し、欧米のニーズに寄せていくことが重要だという。

 はじめにワイデマン氏は、日本、中国、韓国、欧米のグラフィックスタイルや世界観の設定の違いを比較。日本の特徴として、絵がマンガ調であること、奇妙な動物がマスコットとして登場すること、ファンタジーの世界にSFを持ち込むことなどを挙げた。また、中国は自国の歴史や神話を反映したグラフィックスタイルで、ファンタジーに武術的なものを持ち込むこと、韓国はリアルでクリーンなグラフィックスタイルで性的特徴を強調したキャラクターが見られるほか、中国と共通する点も多いことなどを挙げ、同じアジアの国でも日本とは違った特徴を持つと指摘。そして、『指輪物語』の生まれた西洋においては、ファンタジーとはシリアスでリアリスティックなもので、ほかの世界観を持ちこむことが嫌われると説明した。

[2016年8月30日18時55分修正]“『指輪物語』の生まれたアメリカ”と記載しておりましたが、『指輪物語』の作者トールキンはイギリス出身であるため、該当の文章を修正いたしました。読者並びに関係者の皆様にご迷惑をおかけしたことをお詫びいたします。

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欧米では横画面のスマホゲームが主流

 つぎにワイデマン氏は、各地域でのゲームの歴史を比較。歴史の浅い中韓と異なり、アメリカと日本はともにアーケードゲームからスタートし、コンソールを経てスマートフォンに行きつくという、似たような変遷をたどってきた。ただ、1980年代にホームコンピュータが大ヒットしたアメリカに対し、日本でパソコンゲームはそこまで普及しなかったため、ファミコンにはじまるコンソールの影響力がさらに強大であるという違いが。また、米中韓でオンラインゲームが流行しているときに、日本では携帯電話(フィーチャーフォン)用のゲームが人気だったという違いもあった。

 こうした歴史は、日本のタイトルに現在も影響を及ぼしているとのこと。たとえば、ゲームメカニクスやUIは、いまもコンソールのスタイルを色濃く反映している。また、縦画面のスマホゲームが多いのは、携帯電話用ゲームの流れを汲んでいるからと見られる。欧米では、スマホを横に持って遊ぶゲームのほうがポピュラーなのだ。

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 続いて、ゲームメカニクスも比較。ユーザーのニーズに基づき、多くの欧米のタイトルがプレイヤーキャラクターの容姿を細部にわたって変更できるのに対し、日本のタイトルでは自由に変えられるのは名前程度という場合が多い。また、中韓と比べて日本のユーザーはPvP(対人戦)よりPvE(対AI戦)を好むが、これは欧米でも同じ傾向で、約60%を占める35歳以上のユーザーはPvEのほうが好きなのだそうだ。もちろん、PvPも人気だが、若いユーザーが中心とのこと。そのほか、欧米では多くのユーザーが、Co-op(協力モード)を楽しんでいるという調査結果も紹介された。

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 以上から、プレイヤーアバターを作ることができるようにすること、PvEに力を入れること、少なくともふたりでの協力プレイが楽しめること、欧米のUIやゲームメカニクスを研究することなどが、世界的に成功するための鍵となるとワイデマン氏は語った。

課金プレイは邪道? ガチャは不公平?

 ほかにも、欧米のユーザーの傾向として、課金プレイをズルいと考えていることと、ガチャシステムを不公平と捉えていることを説明したワイデマン氏。最後に、すでに海外でもリリースされている『パズル&ドラゴンズ』が、世界的にもっと成功するために必要な要素を列挙した。

・モンスターだけでなく、プレイヤーキャラクターを用意すること
・メニュー選択型の冒険ではなく、探索可能な世界を用意すること
・先に進むための目的や動機を用意すること
・強力なモンスターを得るために、ガチャ以外の手段も用意すること
・マルチプレイを可能にすること
・強力なアイテムを得るために、ガチャのほかにスキル、時間、お金などのフェアな手段も用意すること

 以上を言い換えると、『ポケットモンスター』のようなゲームデザインに近づければいい、ということになるのだそう。なんだか、身も蓋もない結論に思えるが、欧米諸国でもっとも成功した日本のタイトルが『ポケモン』であり、上記の『パズドラ』になくて『ポケモン』にあるものが、欧米で成功するための重要な要素なのだとワイデマン氏は述べ、セッションを締めくくった。

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