プロローグではゲームの歴史を再確認
“「VR ZONE Ploject i Can」の知見、全部吐き出します!”と題されたこのセッションの講演者は、バンダイナムコエンターテインメントAM事業部の小山順一朗氏と、田宮幸春氏の2名。両名とも長くVR研究に携わり、現在はプロジェクト“VR ZONE Ploject i Can”を展開している。セッションでは現在に至るVRとゲームの進化や、プロジェクト運営から得られた知見などが語られた。
まず前説として解説されたのは、テレビゲーム黎明期から現在に至る歴史。『スペース・インベーダー』登場から最新VRマシンまで、時代を彩ったさまざまなゲームが、早足でスクリーンに映された。なかでも後半に強調されたのは、VR技術の進化を背景とした体感ゲームブーム。そのひとつの事例として、当時のナムコが開発したドームスクリーン筐体なども紹介された。
ハードルを顧みずにVR施設がスタート
ゲームの歴史がひととおり紹介されたあとは、いよいよ本題となる“VR ZONE Ploject i Can”の話題に。“VR ZONE Ploject i Can”は、2016年4月15日にオープンした、VR体験施設。最初は『高所恐怖SHOW』ほか、6つのアクティビティでスタートした。7月にひとつ追加、そして8月26日には『ガンダムVR ダイバ強襲』が新登場し、体験できるアクティビティは計8つとなる。
最初に語られたのは、「なぜVR ZONEをやったのか?」。その理由は小山氏いわく、「建前はいろいろあるが、ホンネはVRエンタメで世の中を沸かせたいし、可能性を追求したい」ということだそうだ。また上の世代がVRに懐疑的なこともあり、消費者の反応で、人気と儲けの可能性を証明するしかないという思いもあったという。
ターゲットに設定したのは、VRに関心が薄いであろう、いわゆる“リア充”層。またそれなりの価格、完全予約制、立地はお台場と、なかなかにハードルは高かった。
つぎのステップは、「VRでナニをやる?」だ。導いた答えは、アトラクションでもゲームでもなく、「やりたくともできないことを実際のように体験できる」ということ。そのコンセプトは“Ploject i Can”という名前にも象徴されている。代表的なアクティビティは、高所を歩く感覚が味わえる『高所恐怖SHOW』だ。
ただ、体験して楽しむプログラムだけに、その魅力をアピールするのは難しい。そこで取った手法が、“プレイしている人の反応を見せる”というスタイルだ。
「人間の感情を見れば、信じてもらえるなと思ったので、一発目の宣伝はその方向に踏み切りました。映像はほどほどに抑えて、人の反応をメインにしました」(田宮氏)。
注目の運営結果もデータとともに明らかに!
続いて紹介されたのは、「実際に運営してどうだったか?」という点。まず公開されたのは来場者の年齢データで、もっとも多かった客層は20~29歳。1プレイ700円~1000円という価格帯も、84%が“満足”という結果だった。
また人気ランキングは、『高所恐怖SHOW』がトップに。このランキングについて小山氏は、「理屈より本能に訴えるものが強かったということ。キャッチコピーどおり、より“取り乱しそう”なものが人気を集めた結果でしょう」と分析を語った。
『ボトムズ』投入ではユニークな現象も
ここで話題は変わり、検証中の事象についてのリポートが報告された。最初の事象は『装甲騎兵ボトムズ バトリング野郎』というアクティビティだ。
なぜ大メジャー作品ではない『ボトムズ』を選んだかについて、小山氏は「体験のテーマが魅力なのか、IPの人気が強いのか? 不明なので、あえて有名IPを避けました」と説明。またもうひとつの理由として、巨大ロボットではない点も挙げた。あまりに現実の人間とかけ離れて巨大になると、そのぶん臨場感や恐怖も薄まってしまうというわけだ。
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操縦コックピットは、いわゆる“鉄の棺桶”タイプを目指したが、ここで、狭い筐体が動くとプレイヤーの体が外にはみ出てしまうという課題が発生。解決したのは、HTC Vive コントローラーを筐体にくっつけるという裏技だ。
「コントローラーに、ボトムズの胴体がくっついていると思ってください。その状態なら、筐体が大きく揺れても、ボトムズの外郭が同様に揺れる感じで、映像もそのように再現されます」(田村氏)。
また、VRにありがちな“酔い”については、画面を暗めにするなど、被写界深度を浅くすることで対応したという。
なおこの『装甲騎兵ボトムズ バトリング野郎』を運営スタート後、メインの客層が如実に変化。『ボトムズ』後は40~49歳が主軸となったデータが示されると、会場には笑いが起こっていた。
ちなみに、こうした状況も含め、小山氏は「VR(英字)世代と、バーチャル(カタカナ)世代には、深い溝があるのでは」と感じているという。
最新アクティビティ『ガンダム』をお披露目
つぎに紹介されたのは、最新アクティビティの『ガンダムVR ダイバ強襲』。ここでは小山氏により概要が解説されたのち、プロモーションビデオが流された。自分が操縦するのではなく、ダイバーシティでザクが襲ってきたところを、ガンダムに助けてもらうという設定だ。
VRの本質、そしてゲームとの違いとは?
最後は“VR ZONE Ploject i Can”の運営で得られた知見をもとに、プロジェクトチームがVRをどう解釈し、どんな考えかたをベースにコンテンツを作っているかという指針が語られた。
ポイントとしてまず田宮氏が挙げたのが、VRの感じかたに個人差がある点。ここではVRの大きな要因として“錯覚”があり、人それぞれの経験によってVRの感じかたが変わってくる仕組みが解説された。
続いて語られたポイントは、VR感を増すためには、物理法則の演出が大事になるということ。具体的には、たとえばモンスターがただ襲ってくるより、火を吐きながら襲ってくるほうが、よりリアルな体験となる。
「ガンダムのアクティビティでも、ザクが火花を降らすような演出を盛り込んでいます」(田宮氏)。
そして講演の締めとして話題に上がったのは、“ゲームとVRの違いの本質”という大きなテーマだ。わかりやすい例としてたとえられたのは、“ゲームは旅番組を見ることで、VRは実際に旅行に行くこと”。要は三人称と一人称の違いで、あくまでゲームは画面の中の主人公に感情移入して楽しんでいるという考えかただ。ゆえに、ゲームではお約束的なHPゲージ、BGM、モノローグなどの文法は、VRでは通用しにくい。加えてここでは、インプット特性の違いなども語られ、ゲームとVRはそれぞれに、強みも弱みも併せ持つことが改めて解説された。
「ゲームとVRは、重なっている部分はありますけれども、VRのコンテンツはVRとして、何がおもしろいかを考えるべきかなと思います。システムやルールの前に、本当にそれを体験したらどうなるだろう、という観点ですね。だって『高所恐怖SHOW』なんて、板の上を歩いて戻ってくるだけ。ゲームとしては成立していないわけですから」(小山氏)。
長きにわたった講演もこれにて終了。ラストはVR業界に向けたメッセージとして、“百聞は一見に如かず”ならぬ、“百見は一体験に如かず”という言葉がスクリーンで打ち出され、幕となった。