『バイオ7』VR完全対応の道のりをプログラマーが語る

 2016年8月24日~26日の3日間、パシフィコ横浜で開催されている、日本最大級のコンピュータエンターテインメント開発者向けカンファレンス“CEDEC 2016”。会期2日目となる本日8月25日、“「バイオハザード7 レジデント イービル」におけるVR完全対応までのみちのり、歩みの中の気づき”が行われた。

 プレイステーション4、プレイステーション VR(PS VR)、Xbox One、PC用ソフトとして2017年1月26日発売予定のシリーズ最新作『バイオハザード7 レジデント イービル』(以下、『バイオ7』)は、プレイステーション VRにも完全対応。つまり、最初から最後までPS VRを装着してプレイすることができるタイトルだ。本セッションでは、今後高まるであろうハイクオリティー・大ボリュームのゲームコンテンツ需要に対して、カプコンがどのような取り組みを行い、またどういった知見を得たかが、実際のゲーム画面やデモ映像を交えて語られた。登壇したのは、カプコン 技術研究開発部 技術開発室 プログラマーの高原和啓氏。同氏は新エンジン“RE ENGINE”を開発するとともに、『バイオ7』VR完全対応のサポートを行っている。

『バイオハザード7』は最後までプレイステーション VRでプレイ可能、そのための具体的な調整点とは?【CEDEC 2016】_01
▲PS VRを装着して登壇した高原氏。CEDEC登壇は初とのこと。

 まずは“VR完全対応”について、高原氏が補足。これはただ単にゲームの映像をVRに映すのではなく、VR特有の体験を、『バイオ』シリーズに求められる品質をもって提供する……という意味での“完全対応”。新作をVR完全対応するのは世界初(かも)とのことで、高原氏も「誰もやっていないことへの挑戦はテンションが上がる。他社さんがVRコンテンツを発表するたびに内心ドキドキしています(笑)」と、開発者魂をにじませていた。そして当然のことながら、VR“専用”タイトルを作るよりもVR“対応”タイトルを作るほうが開発陣の苦労は大きい。さながらふたつのゲームを同時に開発しているようなもの、という環境のなかで、開発陣の得た手ごたえが惜しげもなく解説された。

『KITCHEN』の成果が『バイオ7』VR完全対応のきっかけに

 高原氏は、最初に『バイオ7』の開発スケジュールを説明。2014年1月に始動した『バイオ7』だが、この時点でVRを組み込む企画が上がっていたものの、具体的な内容は固まっていなかったという。そして開発が進んだ2015年10月、ようやく“『バイオ7』をすべてVRでプレイできるようにしよう”という提案が出る。この時点ですでに配信済みの体験版にも含まれる、システムやアート、サウンドなどはすでに実装済み。つまり、「既存のVR未対応ゲームをVR対応させる」というミッションがスタートしたのだ。この間、約1年9ヵ月ほどの間が空いているが、もちろん何もしていなかったわけではない。2015年6月、『バイオ7』VR完全対応の転機となったのが、PS4およびPS VR専用のテックデモ『KITCHEN』のE3 2015出展だ。ここで得られた成果が、『バイオ7』のVR完全対応に契機を与える形となった。

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 『KITCHEN』は“テックデモ”と称されるだけあり、恐怖体験の検証、VRタイトル開発の基礎検証、そして開発環境の整備といった目的をもって制作されたタイトル(昨年の東京ゲームショウでの体験リポートはこちら)。E3出展から『バイオ7』完全対応の決断までに若干開きがある「デンジャラスな道のり」(高原氏)だが、裏を返せばこのスピード感があったからこそ『バイオ7』のVR完全対応が実現したのだ。同作はショウ出展用に作られたため、時間は長すぎず短すぎずの約3分間、体験者が体験を共有できるように謎解き要素などはなし、といった工夫がこらされている。またあえて画像や映像を出さず、プレイしている人のリアクション、とくに出展会場で起こるリアルな叫び声などがプロモーションに活かされ、“知りたい欲求”をかきたてる手法が採られた。

 つぎに高原氏は、“VR疲れ”をテーマに、開発で得られた知見を披露。これはVRに不適切のコンテンツをプレイしたときに感じる不快感の総称で、おもにVR酔いと眼精疲労によって引き起こされるという。VR疲れを感じたら、目を閉じる、HMDを脱ぐといった対策のほか、「我慢しない」のも重要なポイント。高原氏いわく、「“もうちょいイケる!”は赤信号。開発者もユーザーも、無理をせず適度なVRを」。VR疲れを経験したユーザーは、VR離れをしてしまう懸念があるだけでなく、ともすれば「ゲーム自体が合わないのかも」と、通常のゲームそのものから離れてしまう可能性も考えられる。VR疲れはダメージそのもので、ダメージがあることを承知でプレイを続けるユーザーはごく少数。開発者であれば“ゲームがおもしろければプレイしてくれる”という考えに至るかもしれないが、高原氏は「開発者としてそのくらいの気概を持つことは大切だが、VR疲れをしてしまえば、それがおもしろかったとしても瞬間最大風速的なものでしかない。いまはVR疲れのないものを」と警鐘を鳴らした。

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 このVR疲れは慣れるものではあるが、“自分は平気だから他人も平気”とは限らない。開発するにあたっては、まずVR疲れの原因や対策を知ることや、「これは酔いそうだ」というセンサーを養うこと、また品質管理体制が重要なカギとなる。VR疲れが起きているか、起きやすいかの検証には、やはり人間の目が必要。「なるべく客観的に判断する必要があるので、オススメは社内の人間よりも社外のチェック。PS VRに限りますが、ソニー・インタラクティブエンタテインメントのVRコンサルテーションには非常にお世話になりました」と高原氏は語っていた。

「重要なのは“考えるより試す”こと」

 では『バイオ7』開発チームは、VR対応の歩みのなかでどのような気づきを得、どのようなアイデアを同作に埋め込んだのか。ここでは実際に『バイオ7』VR LIVE DEMOを披露しながら、その知見が語られた。

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 VR版ではnonVR版(通常のゲーム)とは異なり右スティックの回転で30度ずつカクカクと視点が回転するほか、VR酔いをなるべく削減するために移動速度を落としたり、冷蔵庫を開けるときの手を伸べるモーションが削除され、勝手に開くようになっていたり、そのままVR化すると眼精疲労につながりかねないため、武器を持つ手の位置が調整されていたりと、細かな違いが多数。アイテムを取得した際のイベントリも画面貼り付けではなく、3D空間に浮きあがる形が採られている(高原氏「画面貼り付けをVRでやると、つねに目の端にUIが出て目が痛い」)。これらはVR疲れを極力排除するための仕様で、VRでは明らかに酔いやすいOPイベント(床に倒れた男が立ち上がる)もカットされている。

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 もっとも大きいであろう違いは、ゾンビが倒れかかってきた拍子にプレイヤーが崩れ落ち、さらにテレビのノイズ画面になる……といった複雑なリアルタイムイベント。これをVR化すると「とんでもない見た目になるし、すごく酔う」(高原氏)。ただし作品において必要なシーンであるため、VR版ではPS VRを装着していながら“大きなスクリーンが目の前にあって、そこに映るような形”……つまり、ふつうに画面を見るような手法が採られている。これは高原氏いわく「VR的には禁じ手、最後の手段」。ときには思い切って要素を諦めることも、VR開発においては重要になる。

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 “VR疲れ”の解説から具体的な調整のポイントまで、開発から得た知見を語った高原氏は、最後に「ほとんどの要素に手を入れることになるため、途中からのVR対応は大変」、「VR、nonVRの両対応は多くのコストがかかり、ふたつのゲームを同時開発しているようなもの」などと話したうえで、「重要なのは“考えるより試す”こと」と断言。開発経験が浅いと手探りで進めることになるが、いったい何が酔うのか、何が酔わないのか、といった正解は現時点なく、タイトルによって適切な手法も異なる。これらを鑑みたうえで、高原氏は「既存の手法に惑わされないことが大切」と提言し、セッションを締めくくった。

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