VRコンテンツの制作で苦労したポイントは?
2016年8月17日~21日(現地時間)ドイツ・ケルンにて、ヨーロッパ最大のゲームイベントgamescom 2016が開催。会期中にWargaming.netのアレックス・ボブコー氏にお話をうかがった。ボブコー氏は、9月15日にイギリスで行われる“戦車100周年記念イベント”の担当者。同イベントとのコラボ企画として、『World of Tanks』のVRコンテンツの制作や、史上初の実用戦車“マーク1”をゲーム中に採用するうえで中心的な役割を果たした方だ。
――まずは、アレックスさんの人となりから教えていただけますか?
ボブコー 私は、Wargaming.netでグローバルのプロジェクトの担当をしています。『World of Tanks』だけではなく、『World of Warships』や『World of Warplanes』すべてのタイトルにおいて、歴史的な資料を皆さんにご提供する立場にあります。私たちのタイトルでは、歴史に可能な限り車両などを忠実に再現していますので、博物館といろいろな提携をさせていただいています。それ以外にも、私たちの作品そのものが、バーチャルの博物館のような形で、歴史上に存在した兵器などを、皆様にご覧いただけるようになっていけたら……という思いのもと、今回VRを使った映像やドキュメンタリー風のトレーラーを制作させていただきました。映像では、100年前に戦争に投入された、世界初の実用戦車マーク1をフィーチャーさせていただいています。これは、9月15日にイギリスのバーリントンで開催される“戦車生誕100周年記念イベント”を記念してのコラボ企画なのですが、イベントに協力するとともに、マークIをゲーム内に登場させて、少しでも戦車の誕生に感謝を表したいと思っています。
――VRの映像は、その一環として?
ボブコー そうですね。VRが新しい技術ということもあり、VRでいままでにない体験をご提供したいと思ったんです。本当に博物館に足を運んでいるかのような感覚を実現したくて、VRという形を取りました。
――Wargaming.netのゲームサイドのVR開発とは、また違ったチームとなるのですね?
ボブコー VRは成長領域ですが、専用のゲームコンテンツを作るのは、まだ早すぎると私たちでは判断しています。ただ、非常におもしろい技術ではありますので、それをいかに私たちのコンテンツに組み込むかということで別のプロジェクトが動き、今回映像コンテンツのご提供となりました。実際のところVRのためにゲームを作るという段階ではないのですが、私たちのゲームの中で、どのように使えるのかといった研究は進めています。たとえば、4月に行われた『World of Tanks』の世界大会“The Grand Final”では、一般の方に“オブザーバーモード”として、ゲームが観戦できるサービスを参考出展させていただきました。今回は、360度の映像を制作させていただきましたが、いま現在ではゲームの制作よりもコンテンツとしていかに作っていけるかに注力しています。いまは、ゲームというよりも、この技術を活かしてどういうことができるのか、ということを皆様にご提供して、VRというものをともに研究しながら成長していきたいと考えています。
――今回VRコンテンツを作るにあたって苦労した点は?
ボブコー もちろんさまざまな困難や挑戦がありました。VRというものは、まだ専門家がいません。皆さん研究されて独自のコンテンツを作り上げているのですが、まだ調べながら少しずつ進んでいる段階です。これに関してはエキスパートやルールがないので、ゼロから作り上げることがいちばんの挑戦でした。また、とくにVRというのは、視点が一方向ではないので、つけている人が横を向いたり後ろを向いたりと、人によって見ている方向がぜんぜん違うんです。目の前で大迫力のシーンが展開されたとして、本人が横を向いていたら、まったく見えないわけです。ですので、いかにして視線を誘導するかがチャレンジではありました。いま現在、私たちは、解析ツールなどを駆使しつつ、使っている方がどこを見ているかという勉強もしながら開発しています。いま現在いい具合に見てほしいところにちゃんと視線がいっているという結果がでていますので、そこそこいい結果が出たのではないかなと思っています。
――これまでいくつかのVRコンテンツを提供されてきたとのことですが、ユーザーさんの反響は?
ボブコー 1年前に、最初のコンテンツを提供したときは、正直なところ困惑されているユーザーさんが多かったです。なぜかというと、VRという技術自体がよくわからなくて、ヘッドセットを付けたはいいけれど、動きまわることに慣れてないので、何をしたらいいかわからなかったようなんですね。いまでこそ、VRは話題にもなりましたし、使いかたもわかるので、自分の望む方向を見たり、何ができるかというのがわかるのですが、最初のころはそれがまったくわからなかったので、つけて試されてみても、困惑されてしまって反応はまちまちな感じでした。いま現在は、そういうことにも慣れてきているようです。VRのどういったところがすごいのかといったところも理解していただけたので、以前よりも視聴していただける時間は増えていますね。
――VRに関しては、現状のサービスはスマートフォン向けですが、今後はPC向けの予定などもあるのですか?
ボブコー そうですね。いま現在Google Glass対応にしているのは、まずはどなたでも体験していただけるようにと、敷居を下げているところもあります。もちろん、Oculus Riftなどにも、技術的には対応させるようにしているのですが、本格的には今後の取り組みになるかと思います。
――VR空間でマーク1を再現するのはたいへんでしたか?
ボブコー 当社には、ミリタリーアドバイザーや歴史家などが社内におります。そういったスタッフにヒヤリングをして、どういったところを再現しないといけないのかとか、どういったところが必要かという点を聞きながら開発しています。資料に関しても世界中から集めております。実際のところ、現存するものであれば、再現は比較的困難な話ではありません。何が難しいかというと、それをいかに魅力的に見せるかということです。ゲーム内に登場させたりするときに、いかにして皆さんが使いたくなるかということや、映像コンテンツでどのようにして魅力的な映像を作るかということがテーマですね。今回は、『World of Tanks』のゲーム内エンジンを使って、マークIを第一次世界大戦の戦場を模したもので走らせていますが、そういった意味では、いかにしてより多くの方に楽しめるコンテンツをご提供していくかが、いちばんの挑戦です。
――リアルに作るのは当然で、そのうえでいかに魅力的に見せるかということなのですね?
ボブコー そうですね。たとえば、今回の場合だと、第一次世界大戦のマップを作って再現したり、シチュエーションにこだわっています。あとは戦闘時の演出とか。そういった部分で、ただ走らせるだけではなくて、ちゃんとバックグラウンドのストーリーを作って、ユーザーさんに興味を持っていただくことが大事だと思っています。
――今後はVRでどんなことがやっていきたいですか?
ボブコー とくにこのコンテンツで何かしたいというわけではないのですが、VRというのは非常に高いポテンシャルを持っているので、多くの関係者が大きな市場になると見込んでいます。あくまで考察段階ではありますが、ポテンシャルは高いので、それを活かした何かを作っていきたいです。とくにそのなかでもeスポーツに関しては、いいコンテンツになるのではないかと期待しています。VRを使ってゲームをするのではなくて、プロの方々がプレイするのを見るという点で大きな可能性を感じています。
――最後に日本のファンに向けてひと言お願いします。
ボブコー 日本の皆さんにもこのVRコンテンツを楽しんでいただければと思っています。とくにこのVRコンテンツに関しては、You Tubeだけではなくて、ほかのプラットフォームでも提供しておりますので、多くの方に楽しんでいただきたいです。映像をご覧いただいて、よりミリタリー車両に興味をもっていただき、さらに言えば歴史などにも関心を向けていただいて、知識を増やしていただければ、私としてはうれしいです。
“戦車100周年記念イベント”を記念して『World of Tanks』にマーク1が実装予定だ。