『ウォークラフト』の象徴的な塔、カラザンが舞台に

 2016年7月28日~7月31日、中国・上海新国際博覧中心にて、アジア屈指の規模を誇るゲームイベントChinaJoy 2016が開催。ChinaJoyに合わせる形で、ブリザード・エンターテイメント主催による『ハースストーン』のイベントが、上海・シャングリラホテルにて開催された。

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 WindowsおよびMac、iOS、Android向けとして2014年3月にリリースされるや、全世界5000万人のユーザーを擁するカードゲーム『ハースストーン』。同作はことに中国でも人気が高いようで、プレゼンターとして登壇したブリザード・エンターテイメント リード・デザイナーのベン・ブロード氏いわく、「『ハースストーン』でこうした発表をアメリカ以外で行うのは初めて」とのこと。

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▲上海の5つ星ホテル、シャングリラにて行われたプレスカンファレンス。内装は酒場をモチーフにしており、このために制作された、まさに“一夜の夢”。

 ベン・ブロード氏により明らかにされたのは、新アドベンチャーの“ワン・ナイト・イン・カラザン”。昨年11月13日に配信された“リーグ・オブ・エクスプローラー”以来、およそ9ヵ月ぶりとなる本コンテンツ。今回のモチーフとなるのは、『ワールド オブ ウォークラフト』でおなじみの荘厳なる塔・カラザン。カラザンで開かれるパーティーに招待されたプレイヤーだが、魔術師メディヴが姿を消していることに気づく。そしてメディヴの不在により、魔法が暴走を始めることに……というストーリーだ。プレイヤーの目的は、メディヴを探してパーティーを成功に導くことだ。プレイヤーは、「モローズやキュレーターなど、おなじみのキャラクターと遭遇したり、手強いボスと戦ったり、新たなカードをコレクションに加えることができます」という。

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 “ワン・ナイト・イン・カラザン”は、8月12日(日本時間)にリリースされ、4回に渡り毎週新しい区画がリリース予定。4つの区画を攻略し、さらにすべてのクラスチャレンジを突破することで、合計45種類の新カードを入手することが可能だ。ちなみに、ひとつの区画に登場するボスをすべて倒すと、その区画の高難度バージョンであるヒロイックモードに挑戦できるようになる。ヒロイックモードを完全にクリアーしたプレイヤーは、“偉業を保持するのに最適なカード裏面デザイン”を手に入れられるとのことだ。

 4つの区画のセット価格は19.99ドルで、1区画ずつの場合は1ヵ所あたり、各700ゴールドまたは、各6.99ドルとなる(スマートフォン版は円での購入が可能で、4つの区画のセット価格は2400円[税込]、1区画が各840円[税込])。ただし、メディヴその人となって強力な呪文を使いこなせるプロローグミッションは無料で楽しめる。

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ベン・ブロード氏を直撃 「45枚のカードが『ハースストーン』を新しくする」

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 というわけで、イベントを終えたばかりのベン・ブロード氏を直撃した。ベン・ブロード氏は『ハースストーン』のリード・デザイナーで、同作のすべてのデザインの責任者。8年前に『ハースストーン』を立ち上げたオリジナルメンバーふたりのうちのひとりで、その前は『ウォークラフトII』と『ウォークラフトIII』のQAを担当していたとのことだ。

――今回9ヵ月ぶりにアドベンチャーが搭載されますが、注力ポイントを教えてください。

ベン 前の“リーグ・オブ・エクスプローラー”は、そこまで『ウォークラフト』に縛られたアドベンチャーではありませんでした。“カラザン”は、『ウォークラフト』でも、もっとも象徴的な存在です。今回は、『ウォークラフト』のカラザンとは、少し違ったトーンで作っていて、『ハースストーン』にフィットして、より楽しい形にしています。

――今回のテーマであるカラザンについて、もう少し詳しく教えてください。

ベン さきごろ公開された、映画の『ウォークラフト』はご覧になりましたか? 同作でも象徴的に描かれていましたが、カラザンはメディヴが住んでいる、石でできた塔です。メディヴはもっとも強力な魔法使いなのですが、『ウォークラフト』では、彼は若干引きこもり気味で、塔に閉じこもっているキャラクターです。『ウォークラフト』におけるカラザンは、ゴーストが住んでいて若干薄気味悪い印象なのですが、今回の『ハースストーン』では、もっと過去に遡って、かつてメディヴがパーティーを開いていたときの状況が、楽しく描かれていますよ。

――ちなみに、なぜ前回から9ヵ月空いたのですか?

ベン 昨年11月に配信した“リーグ・オブ・エクスプローラー”のあとで、スタッフは、拡張パックの“旧神のささやき”に取り掛かっていたんですね。けっして、9ヵ月間遊んでいたわけではありません(笑)。

――今回でてくるステージやボスキャラクターについて教えてください。

ベン 最初に出てくるのは、魔法の力を持った銀の食器や鏡が闊歩するステージですね。メディヴがいなくなったので、どんでもない状況になってしまうんです。つぎのステージオペラハウスで、カラザンにとって象徴的なステージになっています。オペラハウスのオーナーがきびしい人で、3つのアクトに全員を強制的に参加させるストーリーになっています。3つめのステージは動物や野獣をテーマにしていて、キュレーターが野獣を管理するハズだったのですが、反対に逃がしてしまって大暴れする……というシチュエーションですね。4つめは塔のてっぺんで、メディヴのプライベートな空間が戦いの舞台となっています。ネザースパイトというドラゴンや、アーロンというとても強いゴーストが出てきます。
『ウォークラフト』ではおなじみのモチーフである、異次元の入り口“ダーク・ポータル”も登場しますよ。

――ボスのヒーローパワーは?

ベン 正式なアナウンスはしていないのですが、今日プレゼンした中だと、“クローン”というのが100ダメージを与えるヒーローパワーです。あとは“シルバーゴーレム”という、ナイフやフォークなどの銀の食器たちが魔法の力を与えるヒーローパワーもあります。さらには、“突撃”などいろいろな能力を付与するヒーローパワーもありますよ。

――それらのヒーローパワーは、ヒロイックモードでどれだけ強くなるのですか?

ベン まだお話できないです(笑)。コンテンツをリリースしてから、ユーザーさんはどのように攻略するか、パズルを解くように考えるので、方針として、リリースまではできるだけ公開しないようにしているんです。

――45枚の新しいカードが追加されますが、そのモチーフは?

ベン カラザンをテーマに45枚のカードを作っています。たとえば、最初はチェスのピースである“ナイト”。ふたつめのオペラハウスだと、ステージマネージャーのバーンズとかがあります。3つのめのステージだと野獣。4つめのステージだとタワーで出てくるモンスターがカードになっています。

――とくにおすすめのカードは?

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ベン バーンズですね。彼には“アクター”という能力があります。これは自分のデッキからランダムに一枚ドローできます。その際、攻撃/ライフは1/1になるのですが、能力は保持されるのです。たとえば、自分のデッキのカード数が残りすくなくなり、なおかつ高コストなカードばかりのときは、バーンズを出せば必ずカードを一枚盤面に出せます。バーンズを入れることで、いろいろなタイプのデッキ作りが楽しめるでしょう

――プレゼンでは、ドロシーというカードが紹介されていて、びっくりしました。攻撃力0でライフ10のキャラで、倒されるとプレイヤーが100ダメージを受けてしまうという。

ベン ドロシーは特殊能力を持っていまして、ドロシーの右側にミニオンを出したら“挑発”という能力がついて、左側に出したら“突撃”という能力を持つんですね。その能力を活かしながら、相手を倒す。自分のドロシーが倒されると、100ダメージを食らって倒されてしまいますので。

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――これだけカードがあると、バランス調整がたいへんだと思うのですが……。

ベン アドベンチャーを更新したりして、新カードを追加するひとつのポイントは、『ハースストーン』をどんどん新しくしていって、違うものにしていきたいとの思いからです。いつもフレッシュな『ハースストーン』をユーザーの方にお届けしたいというのがあるので、今回の新カードでいろいろと変わることがあると思うのですが、それをうまく自分のデッキと合わせていったりして楽しんでいただきたいです。

――45枚の新カードによって、ゲームバランスはどういう方向性に変化していくと想定していますか?

ベン いろいろ考えてはいるのですが、必ずしも想定どおりにいかないかもしれないので、どうなるかは正直わかりません。相手のデッキによっても自分のデッキの良し悪しは変わるので、非常に難しいところではあります。そのときの流行によってかわっていくので、いまはこれが強いと思っても、1ヵ月経ったら別のものが強くなったりしますし。

――そこまでバランスが変わると、強いカードを持っているユーザーから不満の声が上がったりしないのですか?

ベン たしかに、持っていた強いカードが弱くなってしまった……という方もいるかもしれませんが、逆に持っていたそんなに強くないカードが、今回のアドベンチャーで強くなったという方もいるかもしれないですし、つねに新しいカードやデッキを入れることで、より楽しさが増すのではないかと思います。それに、一時的に弱くなっても、今後復活する可能性もありますし。

――今回のアドベンチャーは、ゲームとしての難易度はどれくらいですか?

ベン みんなが楽しめるようなアドベンチャーになっていて、通常モードであれば、最終的には誰でもクリアーできるようになっています。ただし、ヒロイックモードはかなり難しいモードになっていまして、相当強い人じゃないとクリアーできないのではないでしょうか。ものすごく難しいです(笑)。

――基本的な疑問なのですが、なぜ新カードは45枚なのですか?

ベン 最初のアドベンチャーでは30枚でした。1クラス1枚ずつで9枚のクラスカードがあったんですね。残り21枚がニュートラルです。つぎのアドベンチャーのときに、もうちょっとクラスでバリエーションを付けたいということで、各クラス2枚ずつ入れて18枚にして、ニュートラルカードを12枚にしたのですが、逆にバリエーションが出ませんでした。クラスのバリエーションを増やしつつ、デッキのバリエーションも保持したいということで、つぎの“リーグ・オブ・エクスプローラー”で、45枚にしました。各クラス3枚ずつで合計27枚に、18枚のニュートラル。これがうまくフィットしたということで、今回も45枚にしました。

――今回アドベンチャーを4週に分けてリリースする理由は?

ベン 一気に45枚出すよりは、1週間毎に出して、「ああ、今週は何があるのかな?」といった驚きをご提供したかったんです。さらにつぎの日はぜんぜん新しいデッキやカードを楽しめるというのが、4週にわけた理由ですね。

――なぜ『ハースストーン』は、ヒーロー(クラス)を9人から増やさないのですか?

ベン 10や11よりも9がいいと思ったのは、それが9人のヒーローのユニークな強さやアイデンティティを出すのにいちばんいいと思ったのです。これが50人ということにあれば、パックを引いても、自分に関係のないクラスをたくさん引いてしまうと、お客様にとっては喜ばしくないというのもあります。

――ヒーローは今後も増やすつもりはない?

ベン いまのところありません。

――せっかくの機会なので伺いたいのですが、なぜブリザードはカードゲームを出すことにしたのですか?

ベン 何より前提としてあるのが、私たちはカードゲームが大好きということです。ただ、たくさんのオーディエンスを惹きつけるものではありませんでした。さらに言えば、カードイメージはルールが難しくて、あまり多くの人に遊ばれないというイメージもありました。それに対して、我々は、“多くの人に愛されるカードゲームを作れる”という思いがあったところから、作ることにしました。

――世界中でここまで評価されるに至った理由を、どのように自己分析されていますか?

ベン 多くのゲームに言えることだと思うのですが、“Easy to learn, hard to master”(覚えるのはやさしく、習熟するのは難しい)、というのを『ハースストーン』も重点的に考えています。ユーザーさんはいろいろなデッキを作ったり、たくさんの状況で決断も迫られる。難しいのですが、ゲームはチャーミングでわかりやすいという点が、ひとつ受け入れられた理由なのではないでしょうか。

――今回『ハースストーン』では、初めてアメリカ以外で発表をしたとのことですが、中国を選んだ理由を教えてください。もちろん、中国で『ハースストーン』の人気が高いということが前提としてあるのでしょうが。

ベン つねに新しいことにチャレンジしていきたいというのが、ひとつの理由です。あとは、8月11日(海外)のリリースのタイミングで、何か世界で大きなイベントがないか……ということで探していたときに、ChinaJoyがあったんですね。それに合わせて発表会を開くのは、大きな影響力があると思ったんです。

――日本でも『ハースストーン』は人気ですが、世界中で何番目くらいに楽しまれていますか?

ベン 正確なデータは手元にないのですが、日本でも多くの方に『ハースストーン』を楽しんでいただいています。何よりも、『ハースストーン』は、『ウォークラフト III』(2003年・国内の発売元はカプコン)以降、日本のファンに向けて、ブリザード・エンターテイメントがリリースする久しぶりのゲームとなりますので、とてもエキサイティングなことですし、日本人の皆さんにも楽しんでいただけるゲームだと思っています。

――気の早い話ですが、今後の追加コンテンツの予定などはありますか?

ベン 『ハースストーン』では、いつも1年先を見据えて開発に取り組んでいます。いまも同時に3つくらい進行している案件はありますよ。デザインしたり、バランステストをしたり……と、いろいろなプロセスがあるので、かなり前もって開発は進めています。

――ひとつのチームですべてのプロジェクトを走らせているのですか?

ベン そうですね。とはいえ、ひとつのチームと言えども、こなすべき仕事は多岐にわたっています。最初の“イニシャルデザイン”から“ファイナルデザイン”、仕上げやバランステストなどもあります。アニメーションなエフェクト、オーディオ、声優さんのレコーディングなどもあるんですね。ひとつのプロジェクトが終わったらすぐつぎに取り掛かり……ということで、休まる暇はないかもしれません。

――アドベンチャーというビジネスモデルは非常にユニークだと思いますが、ユーザーの利用率はどれくらいなのですか? 地域によって利用率の差があったりしますか?

ベン ユーザーの利用率のデータはとくに持っていないのですが、コンビネーションとして人気なのが、拡張版とアドベンチャーを両方楽しむというパターンです。カードを購入するのと、アドベンチャーをプレイしてカードを手に入れていくという。そういう楽しみかたをする方が多いです。さらにいえば、アドベンチャーは全部を買う必要がなくて、「このカードがほしいから」ということで、特定の区画だけを楽しむ方もいらっしゃいます。

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▲とにかくサービス精神旺盛なベン・ブロード氏なのでした。

――ベンさんが考える“ワン・ナイト・イン・カラザン”最大の魅力は?

ベン 最大のポイントは45枚のカードが、デッキだったりいろいろなものを変化させるということです。それが最大の魅力ですね。

――最後に、“ワン・ナイト・イン・カラザン”を楽しみにしている日本の『ハースストーン』のファンに向けてひと言お願いします。

ベン 皆さん『ハースストーン』を遊んでくれてありがとうございます。『ハースストーン』を日本でもリリースしましたが、皆さん熱心にサポートしてくださって、感謝しています。映画『ウォークラフト』をご覧いただければわかるとおり、カラザンというのは、『ウォークラフト』の象徴的な存在なので、日本の皆さんにもこのアドベンチャーを楽しんでいただけると思います。