リスク上等、リスクをとるべし!

 2016年7月9日〜10日、京都市勧業館みやこめっせにてインディーゲームの祭典BitSummit 4thが開催。初日には、steamで人気の地下鉄網建設ゲーム『Mini Metro』の作者が、同作品のヒットの理由について分析する講演を行なった。

地下鉄網建設ゲーム『Mini Metro』、ヒットの理由を開発者が分析【BitSummit 4th】_01
▲『Mini Metro』
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▲Peter Curry氏

 登壇したPeter Curry氏は、ニュージーランドのインディーゲーム開発チーム、Dinosaur Polo Clubのひとり。『Mini Metro』はチーム初の作品で、現在までに25万ダウンロードを超えるセールスを記録しているという。どうしてここまで人気を得たのか、Curry氏は分析を試みた。

 Curry氏は、3つの要素で作品を分析。ひとつめの要素は“ゲームの企画”で、既存のジャンルにのっとったものか、革新的なものなのか。ふたつめは“ゲームの魅力の伝わりやすさ”で、わかりやすいのか、その逆なのか。みっつめは“プレイヤーにもたらす体験”で、ありがちなものなのか、ユニークなものなのか。Curry氏によると、メインストリームの大作は、ひとつめの“企画”においては革新が小さく、ふたつめの“伝わりやすさ”においてはその魅力がターゲット層に伝わりやすく、みっつめの“体験”においてはあまり独創的ではない。そして、小規模の開発スタジオがこのような大作と直接対決したら苦戦するだろうと語り、「インディー開発者の唯一の強みはリスクへの耐性」「リスク上等、リスクをとるべし」と持論を展開した。

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 しかし、リスクを冒して、3つの要素において大作と正反対の方向に振った企画を出し、ほかの作品とは似つかないユニークなゲームを作り出したとしても、まったく人気が出ないのでは仕方がない。そうならないための対策を、Curry氏は、ゲームのひとつのジャンルを島に見立てて解説した。たとえばRPGという島があるとすると、すべてのRPGはこの島のどこかに位置する。大作は大勢に遊んでもらわなければならないので、島の中で広い面積を占めるが、それゆえ、ほかの作品と重複する部分も多くなりがちだ。しかし、小規模なゲームは、大作が入り込めないようなジャンルの“辺縁”にもすんなり入り込め、ジャンルの一角ではあるものの、大作とは重複する部分を持たずにすむという。

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 これを踏まえて、Curry氏は、インディー開発者が“辺縁”で勝負するには「我々がジャンルとして認識しているものが、企画の“核”の周囲に構築された、通例や慣例の集まりにすぎないと認識すること」が必要と語った。そのような慣例——たとえばRPGにおける装備品——のひとつひとつを「プレイヤーの体験に何をもたらしているのか」「この慣例をおもしろいかたちで壊してみることは可能か」と検討し、最低でもひとつの慣例を破ってみようというのだ。
 そして、輸送シミュレーションという既存のジャンルの辺縁で勝負している作品が『Mini Metro』であるとのこと。たとえば、何時間もかかるキャンペーンモードの代わりに短時間で遊べるスコアアタックモードをメインとしたり、リアルなグラフィックではなく抽象的な路線図を採用したりしている点が、同じジャンルの大作と異なっている。

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 ここで、前出の3つの要素で『Mini Metro』を分析したCurry氏。“企画”は既存の輸送シミュレーションから大きく離れていないものの、いくつかの慣例を破ったことにより、ユニークな“体験”をもたらしているとした。また、“伝わりやすさ”においては、抽象的な路線図が、デジタルゲームに不慣れなユーザーにもわかりやすいのではないかと考察。これらが、同作品のヒットの一因と考えているという。

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 最後にCurry氏は、「ジャンルの“典型”を避ける企画は、商業目的の小規模開発のリスクを低減するひとつの手。もちろん、既存のジャンルを踏襲したほうが、マーケティングなどのリスクが減るということもある。しかし、ジャンルの辺縁で勝負する企画を出すことで、ありふれた作品に留まるリスクを減らせると信じている」とまとめ、講演を締めくくった。