ハードディスクの中には見られたくない個人的事情がいっぱい
Bad Cop Stuidiosのアドベンチャーゲーム『Project Perfect Citizen』を紹介する。本作はitch.toにてPC/Mac版が無料で配信中。対応言語は英語のみ。
本作でプレイヤーは、一般市民の通信を盗聴・監視するサイバー警察官となり、犯罪の芽を大事になる前に摘み取るのが目的。まずは数人の市民間で交わされたプライベートな通信内容を分析し、もっとも怪しい人物をピックアップ。対象の人物のコンピューターにログインして調査を実施し、犯罪の証拠を発見して報告すれば一件落着。あとは実働部隊がやってくれる。
ゲームはWindows 95からWindows 2000の頃を思わせるクラシックなOS上で進行。対象をひとりに絞り込む作業が各エピソードの前半、容疑者のパソコンにリモートログインして犯罪の証拠となるファイルを見つけ出すのが後半部分となる。
前半では“Graph”というソフトウェアを使う。数人の顔写真とその中での会話記録が示されるので、やり取りのあった人物間を線で結び、さらに疑わしい会話をマークしながら、関係図を作り上げていく。複数の人間に対して犯罪と関連しうる話をしている人間がいれば、彼または彼女が犯罪の中心人物である可能性が高い。
後半部では、メールを閲覧したり、パソコン上の個人的なファイルを漁って証拠を探していく。大抵はパスワードでロックされたフォルダーを掘っていけばたどり着けるし、「娘の名前は?」、「赤い文字で示される言葉」といったヒントも示されるのだが、正解となるパスワードを導き出すためには、直接は犯罪と関係のなさそうなデータも結局チェックしなければいけないという寸法。
そうして調べていくうちに、犯罪を計画するに至るまでの過酷な人生が判明したり、家族を愛する男としての側面が見えてきたりして、思わず同情しそうになったりもする。なんせ、政府のお墨付きとはいえ通信の秘密をぶっちぎっているプレイヤーだって、場所と時代が違えばお縄になるのは逆かもしれないのだ。
まぁ、勝手に改心してくれるわけもないのでとりあえず通報するんだけども、そうして収監されたり、証拠不十分で逮捕は免れるも厳重な監視下に置かれることになったりした彼ら彼女らの不幸せなその後が示されると、次のエピソードへと進む。
さて本作、海外インディーを追っている人なら、どこかで見聞きしたような設定だと感じているかもしれない。ディストピア社会のお役人として働くうちに組織のルールと良心の板挟みになっていくのはLucas Pope氏の『Papers, Please』風、クラシックなコンピューターのデータを漁りつつプレイヤーが脳内で情報の仮組みをして全貌を探っていくのはSam Barlow氏の『Her Story』風で、それぞれ年間を代表するようなインディーヒットの物語体験の核となる部分を併せ持っているのだ。
なおオリジナルは、カリフォルニア大学サンタ・クルーズ校のゲームデザインコースの卒業制作として開発され、同コースの2016年の最優秀作(The Sammy Awards Grand Prize)に選ばれた作品。
というわけで商業作品として成功している両作品と比較すると、遊びのボリュームもバリエーションも足りないのは否めない。チュートリアルとラストを合わせて全部で5つのエピソードしかないし(しかも1プレイで遊べるのはその一部)、明らかに作ったはいいもののそこまで開発できずに封じてある機能もちらほら見えるし、トレイラーに出てくるような複雑な調査を行うエピソードもない。おまけにプログラムも若干不安定だ。
それでも、「このゲーム、フル製品化してくんないかなぁ」と思わせるだけの物が確かにあるし、先に挙げたゲームが気に入った人なら楽しくプレイできるハズだ。少々の英語力(または適当に読み飛ばす慣れ)が必要だが、この手のテイストが好きな人は、Project Perfect Citizenの新人メンバーとして加わってみてはいかがだろうか。