ディレクター自身が解説する『Detroit Become Human』

 ソニー・インタラクティブエンターテインメントからプレイステーション4タイトルとして発売予定の『Detroit Become Human』(以下、『Detroit』)。E3 2016で発表されたラインアップの中でも、そのトレーラーの内容で大きな衝撃を世界中に与えた本作のプレゼンテーションが行われた。ディレクターみずからによるプレゼンテーションでは、本作の開発経緯やゲームシステムの詳細など、さまざまな情報が明かされたので、余すところなくお伝えしよう。本記事はE3 2016のトレーラーを見てから読んでいただけると幸いだ。

『Detroit Become Human』 E3 2016 Trailer(コナー篇/ 日本語吹替版)

アンドロイドと人間の善悪が崩れたとき、何が起こる?

 プレゼンテーションはQuantic Dreamのディレクター・ライターを務めるデイビッド・ケイジ(David Cage)氏。Quantic Dreamの創設メンバーにして、『HEAVY RAIN -心の軋むとき-』や『BEYOND: Two Souls』も手掛けたクリエイターだ。

『Detroit Become Human』が描き出す”未来”をディレクターが語る!【E3 2016】_01
▲Quantic Dreamのディレクター・ライターであるデイビッド・ケイジ氏。

 『Detroit』は昨年のParis Game Weekで発表されて話題となった新作だが、そもそもは2012年に発表した『Kara』というショートムービーが開発のきっかけとなったそうだ。『Kara』はプレイステーション3上で動く新しいゲームエンジンのプレゼンテーション用に作成されたもので、思考するアンドロイドを巡る葛藤を描いた作品。ケイジ氏がディレクターとライターを担当し、7分のショートストーリーで感情というものを表現することに挑戦したもので、この映像はさまざまな賞を獲得するほどの反響を呼び、そのうち「彼女が工場を出たあとはどうなったのだろうか」と考えたことが、『Detroit』につながっていった。
 本作で描きたかったのは、細かいAIやテクノロジーの話ではなく、我々の世界や存在、過去、未来についてのストーリー、そして何よりも人間の感情についてだ、とケイジ氏は語る。もうひとつはアンドロイドの視点を描くこと。人間が善でAIは悪という描写はよく見るが、アンドロイドが善で人間が悪だったらどうなるだろうか? 人間は自分勝手でテクノロジーに依存している。アンドロイドは戦争も起こさない。世界をコントロールするのはアンドロイドになるのではないか? この発想が本作をスタートさせた。

状況を“復元”する未体験の調査スタイル

 本作は、アメリカの近未来を舞台にした“ネオ・ノワール・スリラー”である。クルマが空を飛んでいるような未来ではないが、人間と同じように動くアンドロイドがいる世界。一般的な仕事(ウェイトレスや庭師、メイド、教師など)はアンドロイドが従事しており、見た目は人間とまったく変わらないが、すべてのアンドロイドがブルー・トライアングルを胸につけている。ゲームは、少数のアンドロイドが奇妙な行動を取るようになった状況から始まる。理由なく消息不明になったり、自殺したり、自分の感情を抑えきれなくなったように人間に対して暴力的な行動を見せるようになる。
 E3 2016で公開されたトレーラーでは、コナー(Connor)というアンドロイドのミッションが見られる。彼はアンドロイドの中でもアドバンス・プロトタイプ(新しいアンドロイドの試作型)であり、おかしくなったアンドロイドを調査するミッションを遂行すべく行動している。そのため、証拠を感知、分析する特殊な能力を持っている。『Detroit』は、『HEAVY RAIN』と同様に複数のキャラクターでプレイできるが、現時点で明らかになっているのはコナーと、昨年発表されたカーラ(Kara)のふたりのみ。また、各アンドロイドは与えられた仕事に沿った能力を持っており、コナーのスキルは調査員として特化したものとなる。当然、カーラはまったく異なるスキルを持っているが、詳細は明かせないとのことだ。

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▲左が2015年のトレーラーに登場したカーラ。右が今回のトレーラーの主役となったコナーだ。

 今回のセッションで披露されたデモは、同トレーラーで公開されているミッションのプレイデモだ。ダニエル(Daniel)というハウスキーパーを務めていたアンドロイドが家族を殺害し、娘を人質に取るという事件が起こる。コナーは彼を説得すべく、現場に向かうところからミッションは始まる。特殊部隊が待機しており、家族の父親と警官の死体が転がっている現場は、視点を変えると青いグリッドで表示され、アプローチできるもの(特殊部隊の人間や家族写真など)が視認できる。水槽から飛び出した魚を救うのか放っておくのか、細かい部分まで選択肢が提示されるのは、おなじみのシステムだ。
 とくにユニークなのは、コナーの調査スキルである。その名も“RECONSTARCT MODE”は、残された痕跡や情報を解析して、対象を“復元”させられるモード。銃を保管していたであろうケースが落ちていて、銃そのものは見当たらないが、銃弾は散らばっている。この状況を解析して、どのようにして銃がなくなったのか、その行程を視覚的に復元できるのだ。シンプルな線で表現されたモデルが行程を復元し、プレイヤーはその動作をビデオのように巻き戻し・早送りさせて確認しながら、調査を進めていくことになる。
 状況を把握したコナーは、娘に銃を突き付けてビルから飛び降りんばかりに興奮しているダニエルを説得しに、ベランダへと向かう。ミッション中は画面上に“PROBABILITY OF SUCCCESS”という数値が表示されているが、これはいわばミッションの成功度を示しており、コナーの選択で数値が上下する。このミッションにおける“成功”とは、娘を無事に取り戻すこと。ヘリを遠ざける要求を拒否すれば数値が下がり、失敗へと近づく。結果、公開されているトレーラーと同じく、ダニエルも娘も救えない結末を迎える……。
 しかし、今回のデモはそれで終わらない。トレーラーにもあったもうひとつの“可能性”を実機で見せてくれたのだ。

選択がまったく異なる“結末”を導き出す

 コナーが現場に向かう導入は同じだが、今回は調査ルートを変更。タブレットに映る仲睦まじい娘とダニエルのツーショットを確認し、ふたりの関係性を把握する。さらに父親の死体をチェックして、どうやって殺されたのかを“復元”していく。行程をチェックして、視点を変えたところで新たな証拠が発見し、成功度がアップしていく。復元を通して情報を集め、断片をリンクさせていくことで、さらなる証拠やアイテムの存在が明らかになっていく。撃たれた警官の動きを復元して状況を復元したところ、警官の銃を発見した。コナーはダニエルへの新たな交渉手段を手に入れたのだ。
 ダニエルのもとに向かうと、撃たれてケガを負った警官が倒れている。彼を助けようとすると成功度は下がるが、ヘリを遠ざける要求を飲むことで成功度は上がり、交渉の余地が生まれる。そして、コナーは銃を持っている。ここでまた、選択が迫られる。銃を使う。頭部を撃たれたダニエルはビルから落ち、娘は助かる。
 このミッションの目的は娘を救うことであり、成功したといえるが、成功が正しい道であるとは限らず、失敗したからといってゲームオーバーになるわけではない。そもそもアンドロイドは武器を持つことを禁止されており、コナーはそのルールを破ったわけだ。コナーは成功度を上げるために適切なルートを選んだのだが、自分がルールを逸脱していることは認識している。アンドロイドはルールを破る能力を持っていて、それが事態を引き起こす要因となっているのかはわからない。
 『Detroit』にはゲームオーバーは存在せず、グッドエンディングもバッドエンディングも存在しない。あるのは「複数のエンディング」で、『HEAVY RAIN』では24くらいのエンディングが存在したが、本作は具体的な数字を示すのは難しいという。ただ、『HEAVY RAIN』よりは多いとだけ教えてくれた。
 プレイアブルキャラクターはコナーとカーラ以外にも存在し(すべてアンドロイドだそうだ)、ミッションが成功しようが失敗しようが、コナーが死んだとしてもゲームは進む。プレイヤーに求められるのは、自分が下した選択の結果を受け止めること。複数の道が幾重にも重なって絡み合い、物語が構築されていく。すべてのミッションを成功にしたければ、いつでもリプレイできるが、結果は受け止めなければならない。それが、本作のルールである。

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本作のために開発されたゲームエンジンが描く未来

 トレーラーを観ればわかるように、本作のグラフィックはとてつもなく精密にできている。繊細な表情の変化、ライティングは特筆すべきものがあるだろう。リアリスティックな表現に対応できるよう、本作に特化したエンジンを新たに開発したそうだ。スケールの大きなシーンを表現するために、数々の技術的なチャレンジを行なっており、物理的に正確なライティングを実現するためにまったく新しいライティングシステムまで作成、映画のような最高のライティングを実現しているとのことだが、それは一目瞭然だ。ゲームに登場するすべての人物は現実の人間をスキャンして作られており、リアルな人間がリアルな行動をしているように見せるだけでなく、変化する世界のためにスクリプト(脚本)だけでも2年をかけて作成し、2000ページくらいの分量にまで膨れ上がったそうだ(ストーリーはすべて完成しているそうだ!)。
 また、本作の舞台にデトロイトを選んだ理由を聞かれたケイジ氏は、以下のように説明してくれた。
「以前から、デトロイトの歴史に興味を持っていた。巨大企業があったが没落し、いま再構築しようとしている。新しい企業が生まれるのなら、デトロイトのような場所と思った。モータウンなどの音楽のバックグラウンドもあり、人間的な歴史もある。現地を訪問していろいろな人に会い、彼らのエネルギーに驚かされた。彼らはこの都市を再構築し、生まれ変わらせたいとがんばっている。そこから大きな刺激を受けた。ゲームの背景はここから生まれた」
 没落したデトロイトが復活を目指して発している人々のエネルギーが、ケイジ氏の琴線に触れたのかもしれない。余談だが、デトロイトで近未来と言えば映画『ロボコップ』だが、さすがにそれは本作とは関係なく、ただ『マイノリティ・リポート』からは多少の影響を受けたそうだ。既存のテクノロジーがどのように進化し、人間のゆっくりした進化とAIの早い進化が交差したとき、何が起こるのかを考えさせられたという。
 ロボットに魂が宿るのか、感情は存在するのかを描いた作品といえば、個人的には『鉄腕アトム』や『火の鳥』のロビタを思い出すのだが、さすがに確認はできなかったので、何かしらの機会があれば聞いてみたいところだ。

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 ひとつのミッションでもまったく異なる展開が発生するのはトレーラーでも明らかになっているが、ミッションに成功も失敗もなく、そもそもゲームオーバーという概念が存在しないという。プレイヤーが積み重ねた選択が大きなうねりとなって集結していく。多くのプレイアブルキャラクターのひとりであるコナーのスキルとはいえ、“RECONSTRACT MODE”の証拠を集めて事実を明らかにしていくという、シンプルなルールながらインタラクティブ性を持たせて新しい体験をもたらそうとする挑戦的姿勢。基本はシンプルに、ただしそこに驚くようなアイデアを加えることで、さらなる可能性を示してくれるのが、Quantic Dreamのゲームだろう。今度はどれほどの衝撃を与えてくれるのか、楽しみでしかたがない。