2年前から進行していた新プロジェクト
敵の服を脱がして倒すという斬新なゲームシステムや、秋葉原をの街並をリアルに再現した世界観で話題となった『AKIBA’S TRIP(アキバズトリップ)』が、シリーズ初のアクションRPGに! 最新作『AKIBA’S BEAT(アキバズビート)』は“妄想に侵食された秋葉原”や、“くり返される日曜日”など、これまでにないアイデアが詰め込まれた作品となっている。これらのアイデアはどのように生まれたのか? ディレクターの高野康太氏にインタビューを敢行し、本作の制作秘話などをうかがった。
高野康太氏(文中は、高野)
――最初に高野さんが『AKIBA’S BEAT(アキバズビート)』のディレクターを務めることになった経緯を教えてください。
高野 2年前の5月の終わりに、弊社の遠藤(遠藤琢磨氏。アクワイアの代表取締役社長)と新しいプロジェクトの話をしまして。もともとコンソールゲームを作るのが好きだったので、その場で「ぜひ、お願いします」と返事をして。
――ということは、本作はすでに2年間、制作をしている企画というわけですね。
高野 そうですね。ただ、最初のころはチームの少ないメンバーと空いた時間を使って企画を進めたり、試作を進めたりする程度でした。
――遠藤さんから声がかかった時点で、すでにコンシューマーのタイトルだということは決まっていたんですか?
高野 そうですね。そこはもう決まっていました。
――『AKIBA'S』の新作ということも決まっていと?
高野 はい。最初の打ち合わせで、やはり日本が海外に誇れる秋葉原に会社を構える弊社としては、「秋葉原を舞台にした新シリーズを作りましょう」ということになりまして。秋葉原という街に対しては、『AKIBA’S TRIP(アキバズトリップ)』シリーズのノウハウもありましたし、海外からの反響も大きかったので。そのとき、遠藤のほうから「ジャンルはRPGにしよう」と言われたので、僕からアクションRPGにしたいという提案もしました。だから、最初の打ち合わせの段階で秋葉原を舞台にしたアクションRPGを作るということ自体は、すでに決まっていましたね。
――高野さんがアクションRPGにこだわった理由とは?
高野 単純にアクションが好きなので(笑)。というのもありますし、弊社はずっとアクションゲームとRPGを作り続けてきた会社ですから、今回はその両方を活かそう、という話になりました。それに僕が知っている中では、現代劇のアクションRPGはあまりなかったので、自分でも遊んでみたかったですし、作ってみたいなと思いました。
――なるほど。本作は秋葉原を舞台にしつつも、“妄想が侵食する”といったアイデアが盛り込まれています。このアイデアはどういった経緯で生まれたのですか?
高野 順序立ててお話すると、もともとの企画書には、“終わらない夏休み”というキーワードがありました。ただ、夏休みにすると夏にしか売れないですし、必然的に学園モノになってしまいます。これを避けたかったんですよ。それで“夏休み”を“日曜日”にしました。どちらもその日が続くとうれしいけど、ずっと続いたら退屈だし、明日を迎えないと友だちに会えないといったジレンマがあるので、根底にあるものは同じだろうと。それで“終わらない日曜日”という妄想に紐付けて、“妄想が侵食する”というテーマが生まれました。それにリアルの秋葉原も、街行く人たちの妄想が渦巻いている場所だと僕は思っていて。そういう意味でも、秋葉原と妄想は相性がいいと思いました。
――学園モノになるのを避けたかった理由は?
高野 学園モノのRPGは多いと思うんですよね。せっかく新しいシリーズタイトルを作るなら、別のジャンルにしたいなと。それで、いわゆる高校生が世界を救うという話にはしたくなかったので、主人公を学生でもなく、サラリーマンでもない、19歳のニートにしています。
リアルさを増した秋葉原と妄想に侵食された秋葉原
――今回、新たに秋葉原の街を再現するにあたって、苦労した点などをお聞きしたいのですが。
高野 やはりテクスチャの容量的な問題はたいへんでした。というのも、本作はプレイステーション4とプレイステーション Vitaで展開しているので、プレイステーション Vita版のことを考えると、どこをどう圧縮していくかを考えなければいけないんです。単純に画質を下げる、ということはしたくなかったですから。秋葉原を象徴する建物や場所などはしっかりと作りつつ、ある程度似ている建物などは簡略化するなどして開発を進めています。毎日秋葉原の会社に通っているスタッフが手掛けているので、そういった工夫はやりやすかったですね。
――妄想が具現化した秋葉原というのも見どころのひとつだと思いますが、制作するうえでの苦労は?
高野 先にダンジョンのほうを作成してイメージを広げたので、それほど苦労はなかったですね。ダンジョンのオブジェクトをもとに、妄想に浸食される街を作っていきました。ダンジョンは非常に楽しく制作していますね。スタッフの妄想が広がって、それが連鎖してさらに妄想が広がっていくので(笑)。僕が驚くようなアイデアもどんどん出てきたりして。
――ダンジョンごとに新鮮な気持ちで冒険できそうですね。
高野 そうですね。見た目や雰囲気がダンジョンによってまったく異なるので、楽しく遊べると思います。ワープしながら進んでいくようなダンジョンや、スイッチで開閉する扉がたくさんあるダンジョンなど、ギミックも多数用意しています。
――ダンジョンを徘徊するモンスターも個性的ですよね。全体的にポップな印象を受けましたが、外見はどのように決められたのでしょうか?
高野 RPGといえばドラゴンやオオカミなどの野生剥き出しなモンスターが登場しますが、本作は現代が舞台なので、いわゆるファンタジー系の外見にはしたくなくて。それに舞台を秋葉原にしたので、“デザイナーズトイ”のような、もっとポップな感じのほうが合うかなと思いました。
――見た目がポップなデザインなので、モンスターの凶暴さというとはどういう風に表現しているのですか?
高野 凶暴さに関しては、バリエーション違いの敵をデザインするとき、攻撃的な敵を加えています。また、さまざまな攻撃モーションだったり、それこそ攻撃的なAIだったりを用意しているので、そういったところで凶暴さを感じてもらえれば。
シンプルな操作で奥深い戦いが楽しめるバトルシステム
――本作の戦闘はどのように発生するのでしょう?
高野 戦闘はシンボルエンカウントですが、スムーズに戦闘に移行します。戦闘中は操作するキャラクターを自由に切り替えながら戦うことができます。むしろ、操作キャラクターの変更を推奨したいくらいのシステムになりますね。
――つまり、状況に応じて操作キャラクターを変更して立ち回るようなバトルシステムになっていると。
高野 そうですね。Aのキャラクターで攻撃した後、Bのキャラクターに切り替えて技を出すといった仕組みも考えているので、コンボをつなぐためにキャラクターを切り替えながらプレイしてほしいです。また、自分の好きなキャラクターでパーティーを組んだり、効率を重視してパーティーを組んだりと、プレイヤーによってパーティー編成がかなり変わると思いますね。残念ながらいまはまだ詳細をお話できないので、続報をお楽しみに(笑)。
――なるほど、わかりました(笑)。でも、もう少しだけ戦闘部分について聞かせてください。戦闘でのアクションは、ボタンを押してくり出すような形になるのでしょうか?
高野 そうですね、とはいえ、敵との間合いを見極めながら、一手一手戦うようなアクションではありません。敵をどんどん攻撃していくような爽快なアクションになりますので、基本的には簡単な操作で遊べるようになっています。もちろん大味にならないように、通常攻撃の2段目にスキルを発動して攻撃をつなげるなど、プレイヤーの工夫しだいで、よりカッコよく、より強く、より楽しく戦えるシステムを考えています。ただ、本作はRPGでもあるので、ストーリーを楽しみたいという人のために、しっかりとレベルさえ上げていけば勝てるようなバランスにするつもりです。難易度も複数用意する予定ですので、自分のプレイスタイルに合わせて選んでいただけたらと思います。
――スキルというのは、キャラクターが成長すると覚えていくのでしょうか?
高野 基本的にはそうですね。スキルはボタンひとつか、ボタンとボタンの組み合わせで発動します。いわゆる、格闘ゲームのようなコマンドは一切ありません。ショートカットにプリセットをして、簡単に発動できるようになっています。
――スキルと言えば、スキル名がかなり中二病感のある名前になっていますね(笑)。
高野 名前に関しては、キャラクターごとにテーマが違うんです。あと、アクションの長さが技名に影響していることもありますね。たとえば、モーションの速い技だと、セリフを言い切る前に技を出してしまうので、短い技名にしていたり……。重い斧を使うヤマトはモーションが比較的長いので、カタカナで長めの名前がついていたりします(笑)。
――そんな秘密が(笑)。戦闘では、ヘッドフォンが重要な役割を担うとのことですが、詳細がまだ不明ですよね。“イマジンモード”というモードになるということが発表されているぐらいで。こちらは、どんなシステムになっているのでしょう?
高野 こちらもまだ詳細は明かせないのですが、たとえばヘッドフォンを装着すると外部の音が遮断されて集中できますよね? そういったところから着想を得ているのですが、ヘッドフォンを付けたら自分のスイッチが入り、集中力が増して強くなるといったものです。もちろん、ヘッドフォンを付けて集中するだけではありません。ヘッドフォンにちなんだシステムももちろん用意しています。
――“自分の世界に入り込む”という演出だったんですね。ちなみに、ヘッドフォンのシステムはどのような経緯で生まれたのですか?
高野 秋葉原にはヘッドフォンを着けている人が多いというところからですね。秋葉原にはヘッドフォンの専門店があったり、いまだにオーディオの街だったころの面影があります。そこで、秋葉原ならではのRPGを考えたときに、「ヘッドフォンをうまく使いたいな」という思いが初期のころからありました。
――ヘッドフォンのデザインもキャラクターに合わせて考えられているのですか?
高野 もちろんです。「この子はこういうタイプのヘッドフォンを好みそうだなあ」とか、キャラクターの性格と合わせて、キャラクターデザイナーのUCMMさんといっしょに考えていった感じですね。それと本作のキャラクターは、ヘッドフォンと武器がコーディネートされたデザインになっています。ヘッドフォン、武器の順に作ったキャラクターもいれば、武器を作ってから、武器のデザインに合わせてヘッドフォンを作ったキャラクターもいるので、デザインの順番はそれぞれ異なりますが、ぜひ注目してもらいたいですね。
――ヘッドフォンにも、こだわりが詰まっているんですね。
高野 ヘッドフォン売り場に行っていろいろ調べましたね。僕の机にヘッドフォンのパンフレットの山ができたぐらいで。実際に試聴してみたりもしたのですが、そもそも音質は関係ないから試聴する必要ないなって(笑)。ただ、やっぱりヘッドフォンを装着して、好きな音楽とかを流したりするとテンションが上がるんです!
――(笑)。キャラクターに関する見どころは?
高野 キャラクターに関しては、現代の秋葉原が舞台になっているので、その枠からはみ出さないというか、どこにでもいそうなキャラクターにしています。もちろん、そうじゃないキャラクターもいますが、よくも悪くも身近に感じられるキャラクターなので、プレイしていて親近感が湧きやすいと思います。また、パーティーキャラクターや、キーとなるサブキャラクターにはサブシナリオを用意していて、キャラクターの魅力などを深掘りできる楽しみも用意しています。ほかにも、キャラクターの武器はカスタマイズできる要素も用意しているんですよ。
――武器のカスタマイズ?
高野 ええ。まあ、これもまだ詳細は明かせないのですが(笑)。秋葉原には昔から自作のパソコンを作る文化がありますよね。それで“パーソナルコンピューター”ならぬ、“パーソナルウェポン”というシステムを用意していて。ですので、本作でキャラクターが持っている武器は、略して“パソポン”と呼ばれています(笑)。パソコンといえば、グラフィックボードを付け替えたり、メモリ乗せ換えたり、CPUを変えたりできますが、“パソポン”のシステムもそういったところから着想を得ています。
――なるほど。パソコンのようなカスタマイズが、武器で行えるシステムになっているということですね。詳細が発表できる日を楽しみにしています。それでは、最後にシリーズのファンの皆さんにひと言メッセージをお願いします。
高野 今回初めてアクションRPGという形で開発を進めています。今後アクワイアとして、「アクションRPGを作っていきたい!」という、名刺代わりになるようなタイトルになればいいなという思いもあります。それに僕は去年で30歳になりましたが、新しいゲームクリエイター世代が作るアクションRPGとして、先輩たちが手掛けた作品とは別の切り口で楽しんでもらえたらと考えています。やさしく見守っていただきつつも、これから応援していただけたらうれしいです。
AKIBA’S BEAT(アキバズビート)
メーカー | アクワイア |
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対応機種 | PSVPlayStation Vita / PS4プレイステーション4 |
発売日 | 2016年秋発売予定 |
価格 | 価格未定 |
ジャンル | アクション・RPG |
備考 | ディレクター:高野康太、キャラクターデザイン:UCMM |