オリジナルの世界を生むアートの源泉に迫る!

 ベセスダ・ソフトワークスが贈る、プレイステーション4・Xbox One向けのステルスアクションシリーズ最新作、『ディスオナード2』。前編では、本作のクリエイティブディレクターを務めるハーヴェイ・スミス氏が、そのゲーム性についてくわしく語ってくれた。続く後編では、アートディレクターを務めるセバスチャン・ミットン氏の“声”をお届けする。スチームパンクとレトロフューチャーが混在する、『ディスオナード』でしか体現できない独特のビジュアルを作り上げた氏による、新たな世界の概要を紹介していこう。

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▲キャラクターの造形では、イラストを元に3Dモデルを作って統一性を持たせたそう。これはパリの美術館にも展示された。

新しいアプローチ“クロスカルチャー”

 セバスチャン氏は、「本作の開発のために、まずは世界中からベストな人材を集めた」という。ピーク時にはスタジオ内外合わせて17名もの才能溢れるスタッフが参加し、彼らによって膨大なマテリアルが構築され、物語のピースに当てはめていく。これを積み重ねて、徐々に新たな世界が築き上げられていくのだ。その中で、本作ならではの要素がある。それは、2Dのコンセプトアートと3Dのスカルプチャーを使ってゲームのマテリアルを築いていくというアプローチだ。ハーヴェイ氏が“クロスカルチャー”と呼ぶこのスタイルは、実際の開発前に解剖学なども取り入れた細かいディテールを詰めていくことで、見事なリアリティーをもたらしている。

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▲解剖学まで駆使して、どのように関節が動くのか、キャラクターの指の先まで監修されている。

 コスチューム、ジェスチャー、民族性、皮膚、ライティング、都市生活、人類学……数々の視点から分析された成果が、本作の世界に詰まっている。たとえば、カルナカの侯爵が儀式に向かうアートがある。この1枚には、世界観だけでなく、侯爵やそれを取り巻く人々のパーソナリティまで伝わるように意識されているのだ。

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▲アートチームによるキャラクターアート。1枚の中にさまざまなストーリーが感じられるよう描かれていることがわかる。

 完璧主義者であるというセバスチャン氏は、「アートはグラフィックスではない。ポリゴン、シェイダー、テクノロジーで評価する人たちが多すぎる。エンジンがどんなにパワフルでも、コンソールが何かは関係なく、デザインが弱ければグラフィックスは何も伝えられない。初期段階でビジュアルのコンセプトがしっかりできていれば、その結果がゲームに反映される」と強く語ってくれた。毎日のように“Raising the bar(達するべきレベルを引き上げる)”をキーワードにアートを作り上げた結果、8000を超えるコンセプトアートやイラストレーションが生まれたそうだ。

カルナカを取り巻く環境とデザイン

 今回の舞台になるカルナカについて、ハーヴェイ氏から「政治腐敗」、「犯罪」、「抑圧」、「疫病」、「マジック(魔術)」、「崩壊」といったキーワードを聞かされたセバスチャン氏は、ただ「クール」とだけ答えたそうだ。しかし、イマジネーションはどんどん膨らんでいったという。
 そして生まれたカルナカは、風光明美な美しい顔と、腐敗と抑圧にまみれた影を持つ、複雑な世界となった。いたる所に大きな木がたくさん生えており、風穴もある自然に恵まれたカルナカは、小さな村がどんどん発展して大きくなったイメージで構成されている。街中にパイプが張り巡らされていて、強い風を活かした風力発電が主となっている。しかし、その風に乗って銀鉱山から吹き込む塵芥が人々を苦しめている。この銀鉱山はランドマークとなっており、どこにいても自分の位置がつかめるように設計されているという。

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▲“南の宝石”の名にふさわしいカルナカ。中央にそびえ立つのが、ランドマークでもある銀山だ。

 デザインの妙は環境だけではない。細かいガジェットにも、すぐれたインダストリアルデザインが施されている。「現実に存在してもおかしくない」=「実際に動く」ことを前提にデザインされており、プレイヤーに不満を与えないためにも、すべて理屈が通るものになっている。「ゲームのためのアートを作るというのはこういうことだ」とセバスチャン氏が言うのもうなずける、徹底的なデザインだ。そこで、本作のために描かれたコンセプトアートやモデリングデータを紹介しつつ、そのディテールのすばらしさを証明していこう。

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▲アサシンが使うクロスボウのモデル。前作に比べて飾りの部分まで細かく意匠が凝らされている。
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▲“現実”を組み合わせて『ディスオナード』流のアレンジを加えることで、見たことのないものが生まれる。どんな小道具でも手は抜かれていない。
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▲アークパイロン(電気パイロン)の3Dモデルも、実際に動いてもおかしくない設計で構築されている。
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▲ゲーム内に出てくるちょっとしたポスターすら、ここまで細かくレイアウトされている。
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▲カルナカに存在するランドマークのデザイン例。どのようなギミックで構成されているのか、じっくりと観察したくなる細やかさだ。

有機的につながるキャラクターと世界

 ここからは、話をキャラクターデザインに移そう。今回のデザインで強調したのは、「ボディ・ランゲージにフォーカスすること」と、セバスチャン氏は語る。
 皮膚の状態、衣装のディテールから物語がプレイヤーに伝わることがある。乾いている肌やボロボロの服で、その人物の生活スタイルがわかるように、だ。そのため、衣装のシルエットがいくらクールでも、キャラクターの動きにプレイヤーの焦点が集まらなければ採用しなかったそうだ。キャラクターの動きをもっとも効果的に見せるデザインこそ、ゲームにとってもっとも適したデザインということだ。
 デザインとゲームのシステムを効果的に繋げた例として、胸に小さなメダルを付けた警備員がいる。このメダルはただのお飾りではない。金属製なので、アサシンが放ったクロスボウの矢が当たれば、矢が折れてしまうことがあるのだ。こういった、それぞれのチームがつながって機能していなければ成し得ない事象は、まだまだたくさんあるようだ。
 また、Void Engineのパワーで、ゲーム内の事象をすべて関連付けて表現できるようになっている点にも注目したい。キャラクターは衣装、肌、目それぞれが独自のシェイダーとして機能しているので、状況に合わせてダイナミックに変化するそうだ。背景にいるようなキャラクターでも、たとえば嵐が来たら防塵マスクを着用するように、環境で行動が変わっていく。すべてのキャラクターを“特別”に感じてほしいという開発の思いが、随所にこめられていると言えよう。

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▲新たなコルヴォの姿。前作よりもスタイリッシュになっただけでなく、アクションをもっとも効果的に表現できるよう機能的なデザインが施されているのだ。
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▲ノンプレイヤーキャラクターひとりにも手を抜かず、かつひと目で『ディスオナード』の住人と伝わるようなデザインとなっていることがわかる。
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▲肌や服の質感、ライティング……そして環境の変化によって変わる動きがダイナミックに表現される。これが、Void Engineの実力だ。

 音声に関しても、デザインと同様にこだわりが貫かれている。その例として、“Dreadful Wale”という船のシーンを見せてもらった。この船はコルヴォとエミリーのベースとなる場所で、船上ではさまざまなキャラクターが行き来している。ここで交される会話はプロシージャル技術で自動生成されており、プレイヤーの行動で音声が変化するという。会話以外にも、風や波の音、ウミネコの鳴き声、低いエンジン音も聞こえてくる。何層も重ねられた音声が耳に飛び込んでくる感覚は、形容しがたい高揚感をもたらせてくれた。その音の厚さは、ぜひ自身で体感してほしい。グラフィックだけではリアリティーは生まれないことがわかると思う。

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▲この船が主人公たちの基地となる。船には収集物を置けるようになっており、戻ってくるたびに何かしらの変化が起きているので注目してほしいとのこと。