『ディスオナード』が世界に与えた衝撃
ベセスダ・ソフトワークスよりプレイステーション4・Xbox One向けに発売予定の、『ディスオナード2』。2012年に発売された前作の『ディスオナード』は、一人称視点のステルスアクションという斬新なゲーム性で、アクションゲームに新たな文脈を生み出した。それだけでなく、“Game of the Year”を筆頭に、英国アカデミー賞ゲーム部門で“ベストゲーム賞”を受賞するなど、高い評価を獲得した。超常能力とガジェットの組み合わせが生み出す幅広いプレイスタイルと、幾通りものルートが存在する高い自由度。唯一無二のゲームシステムが、世界中のファンを熱狂させたのである。
そして、2015年。世界最大規模のゲーム見本市“Electronic Entertainment Expo”の開催前に行われたプライベートカンファレンス“Bethesda's E3 Showcase”にて、待望の続編となる『ディスオナード2』が、電撃発表された。そこで明らかになったのは、『ディスオナード』の主人公・コルヴォに加えて、新たにエミリーが主人公として登場することだった。会場で流されたトレーラーに映るその姿に、ファンは少なからず衝撃を受けた。前作をプレイした人ならご存じの通り、エミリーはコルヴォが守った女帝の娘というキーパーソンだが、その姿は美しく成長した女性だったからだ。
本作は、前作から15年後の世界が舞台となっている正統派の続編である。なぜ、新たな女王として帝国に君臨していたはずのエミリーが、アサシンとなって戦うのか? 独自のステルスアクションは、どのように進化しているのか? 新たに生まれ変わる『ディスオナード』をこの目で確かめるべく、記者は世界中のメディアが招かれたスタジオツアーに参加することにした。取材の舞台は、フランスのリヨンだ。
フランス第2の都市であり、世界遺産である旧市街を擁するリヨン。その中心部に流れる川のほとりに、『ディスオナード2』の開発を手掛けるArkane Studiosはある。さっそくスタジオの玄関をくぐると、クリエイティブディレクターのハーヴェイ・スミス氏が出迎えてくれた。氏こそ本作の鍵を握る人物で、『ディスオナード』以前にも数々の作品に携わってきたクリエイターだ。“クレイジー・アート・イマジニスト”を自負する氏より、新たな『ディスオナード2』の概要をうかがったので、資料とともに紹介していこう。
新たな主人公・エミリーとコルヴォ
『ディスオナード』がなぜ高い評価を獲得したのか。その理由のひとつに、「開発すら考えもしなかったプレイを、プレイヤー自身が作り出した」ことでもわかるように、プレイの幅の広さがある。そこで『ディスオナード2』では、さらに自由なプレイを追求してもらえるよう、さらに動きの幅を持たせるだけでなく、高低差があってさらに遠くまで行けるマップを用意したという。「プレイヤーが異なるアプローチで楽しめるレベルデザインを重視し、ステルス、コンバット、リーサル、ノンリーサル……ルートの選択も含めて、プレイヤー自身のペースでプレイできるようになっている」と、ハーヴェイ氏は語る。
エミリーのアイデアは、2012年に前作をリリースしてからすぐ、続編で何ができるかを考え始めたことから生まれたそうだ。10歳の女の子が成長したら、どのような女性になっているだろうか? そのうち、エミリーをアクションキャラクターとして思い描くようになり、アイデアは固まっていった。ダンウォールでは、エミリーはあくまで女帝であり、汚れた服を着るような女性ではない。マスクにも金の紋章が入っているのが、その証だ。そして、さまざまな場所を縦横無尽に駆け巡って、密かに喉を切るアサシンとなる。そこから、王宮で生まれ育ったエミリーがすべてを失い、追われる身になり、未知の土地で敵対する者たちに立ち向かう。そんなストーリーが生まれていった。15年後のコルヴォは、“アウトサイダー”の印を隠しているが、王家の守護者でありスパイマスターである。追われるエミリーを保護するため、コルヴォは生まれ故郷であるカルナカへと帰還する……。これが導入部分となるようだ。
すでに明らかとなっている情報だが、ゲーム序盤ではプレイヤーはエミリーでプレイすることになり、その後にエミリーでプレイを続けるか、コルヴォになるかを選択する。エミリーとコルヴォの違いは、プレイすればはっきりと感じられるそうで、同じミッションをこなしていくが、独自のパーソナリティを持っていて、周囲で起きていることに対しても異なる反応を示すという。「本作ではふたりとも声を出すので、パーソナリティの違いはより明確になっている」とのこと。そう、前作では意図的にコルヴォは声を発しなかった。しかし、プレイヤーから「コルヴォが何を考えているのかを知りたい」という意見があったことで、コルヴォにも声を持たせることを決定したそうだ。
本作の最初と最後のミッションは、ダンウォールが舞台となる。これは、前作のプレイヤーが慣れ親しんだ場所から始めてもらい、より壮大になったダンウォールを感じてほしいという思いがある。本作で採用されたゲームエンジンは、id Techをベースにした新しい“Void Engine”で、「アートディレクションとゲームプレイをさらに良くするために作った独自のもので、以前よりずっとパワフルになったダンウォールが確認できる」とハーヴェイ氏は語った。
新たな舞台・カルナカの光と闇
本作の舞台はアイルズ帝国の南端、サーコノス地方にあるカルナカだ。スペイン、イタリア、ギリシャなどの南欧をイメージして作られたカルナカは、“南の宝石”と呼ばれている。主要産業は鯨油ではなく、銀。裕福な貴族たちが住んでおり、ダンウォールとはまったく違う雰囲気を持つこの都市は、公爵の支配下にある。汚職がはびこり、行き当たりばったりの税徴収などで、人々は苦しんでいる。父から仕事を引き継いだ現公爵は父に劣る統治者で、銀山を許容範囲の倍で稼働させ、一部の地域に公害と破壊をもたらしている。そのため、貧富の差は激しく、多くの社会問題を抱えている。それが、カルナカだ。
前作ではネズミによる伝染病が蔓延していたため、ダンウォールにほとんど人通りはなかった。本作では、伝染病は過去のもの。社会は混沌としているものの、釣人やトランプを楽しむ人々がいる。ダンウォールほど荒廃した場所ではないことがわかる。
しかし、カルナカには恐るべき生物が存在する。それが、“ブラッド・フライ”だ。死体に卵を生みつけるブラッド・フライは、動きや音、近接するものに反応し、プレイヤーが巣に近づくと興奮する習性を持っている。ステルスでゆっくり動けば巣に近寄ることもできるが、近づき過ぎれば興奮して反応を起こす。死体を放置すればそこに巣を作り、プレイヤーが死体を放置した場所にブラッド・フライがいた場合、ミッションを終えて同じ場所に戻ると状況が一変しているそうだ。これも、本作ならではの、ユニークなゲームデザインと言えるだろう。
ミッションのテーマは“メカニック”
ここで、ハーヴェイ氏が、ゲームの中からとあるミッションを見せてくれた。残念ながら、その詳細はまだ明かせない。後日に、インプレッションをお届けする予定だ。
ちなみに、本作のミッションは、正面突破かステルスか、屋上や細い道のどこを通るか(魚に憑依して水中を泳ぐのも可能)など、複数のアプローチを持つものであることは前作と変わりない。しかし、各ミッションには「メカニック」がテーマとなったさまざまな施策が施されているそうだ。
その一例を紹介しよう。E3 2015で発表されたトレーラーでは、“クロックワーク・マンション”という場所が登場している。このミッションの目標は“クロックワーク・ソルジャー”を作った男で、ここではスイッチを入れて壁や床を動かすように、仕掛けを使って建物の内部を変化させることで、目標までのアプローチが変わる。たとえば、タイミングを計って壁と壁の間に入り込むといったルートも存在するが、この仕掛けがあるのはこのミッションだけとのこと。それだけ多彩なミッションが用意されており、それぞれのミッションでプレイヤーが自由に行動できるだけの許容を持っていることは間違いなさそうだ。