まずは両者がゲーム作りの発想を紹介

斎藤由多加×ジョン・ハンケ 異能クリエイターふたりが徹底対談!【ニコ超2016】_01

 2016年4月29日・30日、千葉県・幕張メッセにて開催されるニコニコ動画最大のイベント“ニコニコ超会議2016”。初日の29日には、超トークステージブースで、“生身の群衆、ゲームの群衆”というタイトルのトークセッションが行なわれた。その模様をリポートする。

 セッションの出演者は、Niantec.Inc CEOのジョン・ハンケ氏と、ゲームクリエイターの斎藤由多加氏。まずはそれぞれの代表作がスクリーンで紹介されたのち、ふたりがステージに登場。以降は斎藤氏がMCも兼ねながら、さまざまなテーマに関して対談するというスタイルで、セッションは進行した。

斎藤由多加×ジョン・ハンケ 異能クリエイターふたりが徹底対談!【ニコ超2016】_02
斎藤由多加×ジョン・ハンケ 異能クリエイターふたりが徹底対談!【ニコ超2016】_03
斎藤由多加×ジョン・ハンケ 異能クリエイターふたりが徹底対談!【ニコ超2016】_04
▲斎藤由多加氏の代表作は、『ザ・タワー』、『シーマン』など。
斎藤由多加×ジョン・ハンケ 異能クリエイターふたりが徹底対談!【ニコ超2016】_05
斎藤由多加×ジョン・ハンケ 異能クリエイターふたりが徹底対談!【ニコ超2016】_06
斎藤由多加×ジョン・ハンケ 異能クリエイターふたりが徹底対談!【ニコ超2016】_07
▲『Google Earth』や『Ingress』の開発で有名なジョン・ハンケ氏。

 セッションでは冒頭に斎藤氏が、いままで手掛けてきたゲームを簡単に説明。『ザ・タワー』は「エレベーターにできる行列など、人の“群れ”をどうさばくかが、このゲームのミソ」(斎藤氏)、また『シーマン』については「人間の人格を作りたいと思ったんです。音声認識を使ったことでも、当時は話題になりました。キャラがテレビの中からお茶の間を覗き込んで、話しかけてくるようなことをやってみたかったんです」と解説した。
 
 続けて斎藤氏は、「5年間ゲームを離れて、地図を作っていました」とコメント。そのアプリ『Earth Book』が、スクリーンで紹介された。これは歴史的情報とマップがリンクしたような内容のアプリで、たとえば“1919年当時のイギリス領地”を調べると、マップ上で領地エリアが赤く表示される。
 「ゲームで培ったノウハウで、ただ地図を見るだけじゃなくどう変化させるかという部分を、デジタル上で再現しました」(斎藤氏)。

斎藤由多加×ジョン・ハンケ 異能クリエイターふたりが徹底対談!【ニコ超2016】_08
斎藤由多加×ジョン・ハンケ 異能クリエイターふたりが徹底対談!【ニコ超2016】_09
▲タイムレバーをずらしていくと、各国の領地の変遷がひと目でわかる仕組みだ。

 斎藤氏が、このようにゲームから地図を作ったとすれば、逆にハンケ氏は、『Google Earth』という地図からゲーム『Ingress』を作ったということになる。ここで斎藤氏は、ハンケ氏にその発想を問いた。回答コメントは以下のとおりだ。
 「私もじつはゲームから入ったんです。1993年に、オンラインMMOの走りのようなゲームを作りました。そのあとに『Google Earth』などを作ることになるわけですが、そのあいだも、コレがゲームになればおもしろいのでは? と、ずっと思っていたことがあって。その夢がNiantec.Incでかなったということです」(ハンケ氏)。

 さらに斎藤氏は、「『Ingress』は、いわゆる一般的なゲームっぽくはないですよね。どうやって思いついたんですか?」と続けて質問。それに対してハンケ氏は「新しい技術がアイデアを可能にしました。ゲームの電源を抜いて外に持っていけるようになり、そしてGPSもあり、そこでどういうことができるだろうと考えたことから生まれてきたんです」と返答。また「そうした発想は、グーグルで仕事をしてきたことが大きく影響しているんでしょうか?」という問いについては、ハンケ氏は家庭環境を絡めてつぎのように答えてくれた。
 「グーグルでの影響というよりは、私には3人の子どもがいて、家にずっといるのをなんとかしたいと思っていたんです。ゲームから学べることはもちろん多いのですが、どうやって外に出して、さまざまな発見をさせてあげようかと考えていました」(ハンケ氏)。ちなみに子どもたちはいま、『マインクラフト』にハマっているそうだ。

ゲームはプレイヤーの心を写し出す鏡

 続いて話題は、コンピュータゲーム全般へ。まず“ゲームができること”について、斎藤氏は「プレイヤーの視点を変えさせることだと思います」と持論を展開。斎藤氏が業界に入るきっかけは、『シムシティ』をプレイしたことだそうで、同作品について「こうしたほうがいいな、とユーザーに思わせる力があった。違う視点から物事を見させてくれる。いわゆる“神の視点”ですね」と印象を述べた。
 「プレイヤーにそうした視線で体験をさせることが、僕らの仕事だと思っています」(斎藤氏)。

 ここで逆にハンケ氏から聞き役の斎藤氏に、「『シーマン』は、どうやって思いつかれたのですか?」と質問が飛ぶ。それを受けて斎藤氏は、「いままでのゲームと逆をやりたかったんです」と回答した。
 「それまでのゲームは、“カワイイ”。まずその逆をやりました。また従来はユーザーがテレビの中にコマンドを出しますが、逆にテレビの中のキャラがユーザーにコマンドを出します」(斎藤氏)。ちなみに当時、銀行にお金の融資を頼んだときには、「ヒットする要素がひとつもない」ということで断られたそうだ。
 「だから、ふつうの人がつまらないと言ったら、逆にこれはヒットするヒントだと思います。最初に『シーマン』のスケッチを妻に見せたとき、気持ち悪くてゾクゾクするから作ったほうがいいよ、と言われました。ヘビーユーザーよりも女性など一般層に受けることは大事で、じつは『シーマン』はセガの歴史のなかでも、女性比率はトップレベルのタイトルになっています」(斎藤氏)。

斎藤由多加×ジョン・ハンケ 異能クリエイターふたりが徹底対談!【ニコ超2016】_10
▲ときにはハンケ氏から、斎藤氏に質問が投げかけられた。

 斎藤氏は続いて、『テトリス』について語る。斎藤氏はかつてほかのクリエイターから、「『シーマン』はいろいろ教えてくれます。アドバイスもくれます。でも斎藤さんの好きな『テトリス』は、何も教えてくれないじゃないですか」と言われたことがあるという。
 「それは違うし、教えてくれると答えました。たとえば、いまの俺は長い1本の棒を待つことをやめた、と教えてくれるじゃないですか。エリック・クラプトンが、子どもを亡くして消沈していた数年、『テトリス』をプレイしていたそうですが、それはきっと心の鏡なんですよ。いいゲームはユーザーの心の鏡になります。悪いゲームはただのムービーかもしれませんが」(斎藤氏)。
 さらに斎藤氏は、その究極がシナリオもない『Ingress』のようなゲームでだと指摘し、その背景にある『Google Earth』の凄さをあらためて評価。「いい意味で、バカげた企画だと思います。どのようにして実現できたのですか?」と、ハンケ氏に質問した。
 ハンケ氏は「アイデアが、はずみとしてそのまま動くいい例だと思います。思いついてデモを見せたらみんなが、ぜひやろう! となりました」と経緯を説明。「私じゃなく誰が考えたとしても、ドーンと世に出ていった、そんな企画だったと思っています」(ハンケ氏)。

ARとVRの違い、そして今後の可能性とは?

 トークは終盤を迎え、テーマはいよいよメインとなる、“AR(拡張現実)&VR(バーチャルリアリティ)”について。まずはこのふたつの認識の違いについて、ハンケ氏は「現実から切り離す、アンリアルな空間に没入するのがVR。対してARは、リアルの中で、その経験をよりよくするためのもの。そこにはリアルに人がいて、リアルな情報があります。どちらも使い道はあるわけですが、私はARのほうに、より興味がありますね」と語った。ちなみに数日前、PlayStation VRを体験する機会があり、そのリアルさには驚かされたとのこと。
 「海の中にいるとサメが寄ってきて、まさにそこにいるかのようでした。ここまでバーチャルな体験ができると、リアルな現実世界よりそっちに行きたくなる人が増えてきて、我々の文明はどうなるのかという思いもちょっと感じました。心配ですね」(ハンケ氏)。

 ここで斎藤氏は、グラフィックにおけるリアルと、ユーザーの頭にある実感値のリアルとの違いを指摘。例として、『ザ・タワー』の実験プログラムがスクリーンに流された。グラフィックは単調だが、いざ人のシルエットがワラワラと動き出すと、リアルに見えてくる。
 「イマジネーションにスイッチが入ると、急にリアルに見えてくるのが、人間の特徴だと思います」と語る斎藤氏。「また、このデモとはべつの話ですが、“人間”をすごく大事にする気持ちが、自分のクリエイティブな面で現れているのかなとも思います。人と人との出会いを作り出したいという意図は、『Ingress』にもありましたよね」と、ハンケ氏に話を振った。
 「かつては技術が人と人を結びましたが、いまはテクノロジーゆえに、人と人が密接にならなくてもいい時代になりました。でも本当はそうじゃないと思うんです。たとえば今日のニコ超も、家で見られるけれど、あえてこの場所に来る。それでみんなでいっしょにいると、すごく満足感が得られたりもするし、来てよかったなと思える。そういうふうに、人が外に出られるお手伝いができないものかと、いつも考えています。こんなすばらしいイベントがVRでできるかというと……、う~ん、どうでしょうかね?」(ハンケ氏)。

斎藤由多加×ジョン・ハンケ 異能クリエイターふたりが徹底対談!【ニコ超2016】_11
▲『ザ・タワー』を模したデモ。グラフィックはシンプルそのものだが、人の流れを頭の中でリアルに感じることができる。

ドワンゴの川上氏がサプライズで登場!

 エンディングに向け順調にトークが進む中、ここで突然のサプライズ演出! この対談の仕掛け人でもあるドワンゴ代表取締役・川上量生氏が客席にいることが明らかになり、急遽ステージに登壇してセッションに参加することに。以降は斎藤氏・川上氏。ハンケ氏の3人により、トークが展開されることとなった。

斎藤由多加×ジョン・ハンケ 異能クリエイターふたりが徹底対談!【ニコ超2016】_12
斎藤由多加×ジョン・ハンケ 異能クリエイターふたりが徹底対談!【ニコ超2016】_13
▲主催側の代表という立場ながら、フランクにトークに参加してくれた川上氏。

 登壇した川上氏がまず語ったのは、今回のイベントの意義について。ネットで見られればいいと、開催に反対する人も多かったというが、「でも現実とネットが融合したほうが、よりおもしろいじゃないですか?」と意見をつらぬき、開催にこぎつけたとか。その姿勢にはハンケ氏も、「このイベントのエネルギーはすばらしいです。ぜひアメリカでもやってほしい!」と絶賛していた。

 ここでまた、斎藤氏が新たに、開発中のアプリをスクリーンで紹介。残念ながら後半はバグで止まる一面もあったが、北朝鮮のミサイルがどの範囲まで届くのかとか、地中に埋まっている資源がどのくらいあるのかとかが、お遊び要素も含めてマップで表示された。

斎藤由多加×ジョン・ハンケ 異能クリエイターふたりが徹底対談!【ニコ超2016】_14
▲マップ上にミサイル射程を表示。これは便利……なのか?

 トークセッションはいよいよラストスパート。斎藤氏が切り出したテーマは、“人間とAIとの関係性”。いまや将棋やチェスなどでは、AIが人間に勝利することも珍しくない時代となっている。そうした点についてハンケ氏は、以下のように語った。
 「いろいろAIやロボットに、取って変わられることもあるかもしれませんが、きっと人間がやることは残ると思うんですよね。たとえば農業全般をロボットがやっても、ガーデニングが好きな人はなくらないでしょう。やれること、やれないことの選択肢が増える社会になるのではと思います」(ハンケ氏)。
 それを受けて、「テレビゲームは何ですか? と聞かれたら、“言語”ですと答えるようにしています」と斎藤氏。つまりはポーカーの勝負を通じて、相手の性格がわかるような、人間性を見抜ける要素がゲームには秘められているということだ。「手札がブタなのに、駆け引きだけで脅してくるとか、そういった人間性がおもしろいと思うんですね」(斎藤氏)。

 さらに白熱するトークだったが、残念ながらイベントはここでタイムアップ。最後に、各ゲストの感想を紹介してリポートを終えよう。
 「このステージに来るまえに“踊ってみた”ブースを覗いてみたのですが、メインの踊る人に合わせて見ている人も踊っていて、ここに未来のエンターテインメントがあるような気がしました。いろいろな形でユーザーが参加してお互いに影響を与え合うところがすばらしいと思いました。これだけの人がひとつ屋根の下に集まると、すごくポジティブなエネルギーが生まれてきますね。これが超会議のすばらしさです。本日はゲストとして呼んでいただいて、ありがとうございました」(ハンケ氏)。
 「不慣れなMCで、トークを引き出せ切れずに申し訳なく思います。ただ話をしていて、ハンケさんとは年代が近いせいかすごくおもしろかったし、もしつぎの機会があれば、がんばりたいと思います」(斎藤氏)。
 「超会議は、未来のエンターテインメントなのかもしれませんが、それは“まちがった未来”です。来ない未来とまでは言いませんが、たまたま来てしまったくらいの未来ですよね。ニコニコ動画がなかったら、こんなへんな場所は生まれてなかったでしょう。じつは『Ingress』もそうだと思っていて、ハンケ氏がいなかったら、あのヘンテコなゲームはなかったでしょう。だからハンケ氏がいてくれて、本当にうれしく思っています」(川上氏)。

斎藤由多加×ジョン・ハンケ 異能クリエイターふたりが徹底対談!【ニコ超2016】_15
▲斎藤氏とハンケ氏がガッチリと握手してトークショーはフィナーレとなった。