ガチャなどに関する業界が守るべき基準を提示

 オンラインゲーム産業やIT産業の振興などを目的に、オンラインゲームビジネスに関わる企業により設立された一般社団法人日本オンラインゲーム協会(JOGA)。同協会が、これまでパソコン版とスマートフォン版のデバイス別に制定されていた既存の“JOGA ガイドライン”を統合するとともに、その内容を改訂。2016年4月1日より新たなガイドラインに基づき、オンラインゲーム関連法規の順守とコンプライアンスの強化に努めていくとアナウンスしたのは既報の通り

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 その改訂を受けて、2016年4月15日、JOGAと、モバイルインターネット業界の団体である一般社団法人モバイル・コンテンツ・フォーラム(MCF)が共同で、ガイドラインの理解を深めてもらうことを目的として、東京・恵比寿コロプラ本社にて“JOGAガイドライン解説セミナー”を、ゲームメーカーやマスコミを対象に開催した。セミナーには、JOGAやMCFに所属していないゲームメーカー60社を含む、105社、195名が参加。“JOGA ガイドライン”に対する関心の高さを見せた。

 まず登壇したのは、JOGA 共同代表 越智政人氏。越智氏は、オンラインゲームの運営がメディアでも取り上げられる機会が多いのは、関心が高まっているからとしたうえで、通常JOGAの会員向けに提供しているプログラムを、“数多くの事業者に知ってほしい”という意図から、今回のセミナーを開催したと、実施の経緯を説明。続けて、MCF 代表理事 千葉功太郎氏は、「広く啓蒙活動をしていこうということで、今回のセミナーを企画しました。両団体に加盟してないものの、“この問題に関心がある”という60社の事業者様に参加していただけたことはうれしく思います。何よりも大切なのはユーザー様にとって安心安全で楽しんでいただけるようにすることです」とコメントした。

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▲JOGA 共同代表 越智政人氏。
▲MCF 代表理事 千葉功太郎氏。
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▲消費者庁 消費者政策課 課長 鈴木一広氏。

 今回の解説セミナーには、関係省庁として、消費者庁 消費者政策課 課長 鈴木一広氏も登壇。鈴木氏は、「消費者庁としましては、消費者の方が適切な判断ができるような情報を、事業者の方からわかりやすく提供していただくことが重要だと思っています。オンラインゲームについても、業界の健全な発展のために、そういう観点でのルールを業界で作っていただいて、実効性を担保していただくことが重要かなと思っています。このセミナーが、業界横断的に開催されることは有意義なことだと考えています。このセミナーをきっかけにしてルールに則った消費者向けのわかりやすい情報提供がひろがっていくことを期待しています」と挨拶した。

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▲JOGA 小川智洋氏。

 解説セミナーのメインとなる“JOGAガイドラインについての解説”を担当したのは、JOGAガイドラインワーキンググループにてガイドラインの作成に携わったガンホー・オンライン・エンターテイメントの小川智洋氏。小川氏は、まずはJOGAガイドライン作成に至る経緯を説明。2012年の“コンプリートガチャ騒動”などに代表されるオンラインゲーム業界が抱えるさまざまな問題に対して、ゲーム会社の自発的な取り組みが求められたことから、自主規制を目的としたガイドライン4種を2012年~2013年にかけて公表したと語った。公表されたガイドラインは、以下の4種類。

・“オンラインゲーム安心安全宣言”
・“オンラインゲームにおけるビジネスモデルの企画設計および運用ガイドライン”
・“ランダム型アイテム提供方式における表示および運営ガイドライン”
・“スマートフォンゲームアプリケーション運用ガイドライン”

 そのガイドラインが今回改訂されるに至ったのは、各種ガイドライン公表からおよそ3年が経過し、スマートフォンゲームの隆盛による利用者数の増加などによるオンラインゲーム自体の多様化などにより、これまでのガイドラインでは対応が困難になりつつあったため。また、今年4月1日に景品表示法が改正されたこともあり、事業者に求められる役割が大きくなっていることも改訂の後押しをしたようだ。今回ガイドライン4種の改訂方針としては、“オンラインゲーム安心安全宣言” (以下、“安心安全宣言”)と“スマートフォンゲームアプリケーション運用ガイドライン” (以下、“スマホガイドライン”)との統合などがあったという。

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 今回の解説セミナーでピックアップされたのは、“安心安全宣言”と“ランダム型アイテム提供方式における表示および運営ガイドライン” (以下、“ガチャガイドライン”)の2種類。

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 “安心安全宣言”の改訂箇所としては、対象をパソコン、スマートフォン、携帯電話、ウェアラブル端末でプレイするゲームに拡大したと説明。さらに、“スマホガイドライン”との統合により、利用者が安心して利用できる安全な環境を提供するために、利用規約を定めるために利用規約の提示や不正行為や禁止行為を明確に定めたことや、未成年者が安心して利用できるように、しかるべく方法で未成年者であるかを確認し、未成年者である場合には保護者の明示的な同意を得るなど、適切な利用者保護を実施するといったガイドラインが示された。

 来場者の注目が集まったのは、やはり“ガチャガイドライン”。“有料ガチャの表示に関する事項”では、公式サイトのトップページや有料ガチャを提供する各種画面などに掲載する情報をさらに厳密化。具体的には、有料ガチャで提供されるすべてのアイテム名称やガチャレアアイテム、さらには提供数や提供期間なども記載すべきであるとした。

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▲こちらはガチャページの表示例。ユーザーに対してきっちりとした情報を開示している。

 また、“有料ガチャの設定に関する事項”では、設定や表示を明確化することが求められている。具体的には以下の通り。

(a)いずれかのガチャレアアイテムを取得するまでの推定金額を有料ガチャ一回分の価格の100倍以内に設定
(b)いずれかのガチャレアアイテムを取得するまでの推定金額の上限を50000円以内に設定
(c)ガチャレアアイテムの提示割合の上限と下限を表示
(d)ガチャアイテムの種別(レア度やカテゴリなど)ごとに提供割合を表示

(a)は、100回利用したら、いずれかのガチャアイテムが入手できる確率設定にしてほしいということ。複数のガチャレアアイテムがある場合は、全部足して1%を超えるように設定するということだ。もちろんこれは理論的な数値であり、1%に設定したからといって、必ずしも100回に1回当たるわけではない。100回引いて0になることもあれば、100回引いて2回当たる場合もあるだろう。あくまで“期待値”としての数字だ。なお、(a)や(b)の設定以下の場合は、確率や金額を明示すべきだとガイドラインでは決められている。

 また、ガチャアイテムは価格を設定したうえで、以下のいずれかに遵守するべきだと説明。こちらは以下の通り。

(a)有料ガチャ1回利用時、有料ガチャ1回分の価格と同等またはそれ以上が提供される
(b)有料ガチャ10回利用時、有料ガチャ10回分の価格と同等またはそれ以上が提供される
(c)有料ガチャ5000円利用時、5000円と同等またはそれ以上が提供される

 小川氏は、「デジタルデータなので、あまり価格の概念を持たずに運営されている方もいるかと思いますが、ガチャとして提供している以上は販売しているアイテムなので、それがいくら相当なのかは社内でしっかりと検討していただく必要があります」と補足。そのうえで「ガイドラインはできるだけ多くの企業様に守っていただきたいという目的で策定されたものですので、これ以上のレベルを上げたうえで対応していただくというのが、本来のお客様に対する提供の仕方だと考えています」と小川氏。

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 引き続き“有料ガチャの運用に関する事項”の説明に。こちらでは、“ガチャアイテムの提供割合を事前の告知なく変更しない”ことや“運用責任者定める”、“有料ガチャシステムは安易に提供割合が変更できないようにする”、“不当表示をしない”、“絵合わせ(コンプガチャ)をしない”といったガイドラインが提示された。

 “内部監査に関する事項”では、本ガイドラインの記載内容が、“表示”、“設定”、“運用”すべてにおいて適切に適用されているか、監査するべきなどといったことを策定している。

 なお、“安心安全宣言”と“ガチャガイドライン”に関しては、JOGAの公式サイトでその全文が公開されている。気になる方はそちらをチェックされるといいだろう。

※JOGAガイドライン
※“オンラインゲーム安心安全宣言”(PDF)
※“ランダム型アイテム提供方式における表示および運営ガイドライン”(PDF)

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▲JOGA 共同代表理事 植田修平氏。

 最後は、JOGA 共同代表理事 植田修平氏が、JOGAの概要とコンプライアンス活動について紹介すべく登壇。同団体がオンラインゲームの会社を母体に2007年に設立され、現在正会員・準会員を合わせ70社が加盟していると説明した。さらに、JOGAの強みとして、“関係省庁との太いパイプ”や“各種勉強会やセミナーの定期的な実施”などをピックアップ。勉強会の成果などにより、「会員企業にはこうしたガイドラインは徹底されつつある」(植田氏)とのことだ。

 今回JOGAによる今後の取り組みとして初めて紹介されたのが、安心安全ガイドライン窓口の設定。こちらは、一般消費者からのJOGA加盟企業のゲーム運営に関する意見や要望、クレームなどを業界団体内で吸収し、サービス改善につなげるために意図されたもので、2016年夏ころまでをめどに設置を検討しているという。

 JOGAでは、今後も直面している課題に対してセミナーを実施して、「よりよい運営ができるようにしていきたい」(植田氏)とのこと。さらに、ガイドラインも重要だがより大切なのがオペレーションだと植田氏。「オペレーションが手間もかかりますし、それぞれの部署の担当者にご理解いただいて、初めてユーザー様にいいサービスが提供できると思っています。今後もセミナーなどで啓蒙活動を行っていきますので、ガイドラインや運営方針を理解していただいて、業界の健全な発展につなげていければと思っています」と締めくくった。

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 冒頭でも述べた通り、今回の解説セミナーには、ゲームメーカーなど105社の195名が参加し、この件に関する業界の関心の高さをうかがわせた。一方で、一般社団法人コンピュータエンターテインメント協会(CESA)も、利用者が安心、安全にゲームを楽しめることを趣旨として、“オンラインゲーム運営ガイドライン”の見直し作業を進めており、改訂したガイドラインは4月中に開示予定だ。

 業界全体が一体となって、ユーザーが安心してオンラインゲームを楽しめるような指針が整備されることを期待したい。