VRのちょっと先の未来を見据えた実験的なイベントを実施

 リクルートテクノロジーズの研究開発期間アドバンステクノロジーラボは、2016年3月17日・18日に、東京タワーメディアセンター内スタジオアースにて、“未来アミューズメントパーク ~視覚・聴覚・触覚を刺激する、VRを超えたスーパーVR体験会~”を開催。一般体験会に先行して行われたプレス体験会に参加できたので、その模様をお届けする。

VRを超えた“スーパーVR”を体験! リクルートテクノロジーズが開催した“未来アミューズメントパーク”の模様をリポート_01
▲東京タワーのお膝元にある、東京タワースタジオが今回のイベント会場。

 今回のイベントは、リクルートグループのなかで、新しい技術の開発や未来のサービスにつながるソリューションを生み出す研究開発機関アドバンスドテクノロジーラボ(Advanced Technology Lab、以下ATL)が、今年一気に普及が予想されるVR(仮想現実)技術を使って、どのようなサービスが実現できるのか。ATLが、“未来アミューズメントパーク”のプロジェクトメンバーといっしょになって開発・制作したさまざまな取り組みを、実際に体験できる場となっている。

 イベント開催に先立ち、リクルートテクノロジーズ 執行役員 CTO 米谷修氏が登壇し、“未来アミューズメントパーク 〜視覚・聴覚・触覚を刺激する、VRを超えたスーパーVR体験会〜”の趣旨、今後の展望などについて語られた。

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▲リクルートテクノロジーズ 執行役員 CTO 米谷修氏

 米谷氏によると、VRといえばエンターテインメントサービスをまっ先に思い浮かぶはずだが、実は三菱地所のモデルハウスに導入され、営業ツールとして利用されていたり、楽天ウェディングが、式場の下見を疑似体験できるバーチャルウェディングシステムサービスをリリースしていたりと、BtoBのサービス展開も進んできているとのこと。実際にリクルートの発行する結婚式場情報誌“ゼクシィ”でも、段ボールを組み立ててスマホをセットすることで、海外の挙式会場をVR体験できる付録サービスを行っている。
 米谷氏は、2007年にiPhoneが登場したことを、時代の潮流が変わったタイミングとして捉え、2016年のVRもそのときと同じように、今後大きな潮流になっていくのではないかと語っていた。
 コンピューターの進化の過程において、インプットデバイスはキーボードに始まり、その後マウス、タッチデバイス、音声やジェスチャーコントロールなど、時代を重ねるごとに進化してきているものの、アウトプットデバイスは進化が停滞していると米谷氏は指摘。今年、本格的な普及が予想されるVRデバイスによってもたらされるVR/AR(※1)/テレイグジスタンス(※2)といったものが、このアウトプットの次の体験と定義したうえで、今回は視覚だけでない仮想体験の実現を追求したものが、今回開催される“スーパーVR”イベントとなっている。

※1:Augmented Reality(拡張現実)、人工的に作り出した仮想現実に対して、現実世界に何らかの情報を付加させるテクノロジー。ヘッドマウントディスプレイに投影された現実世界の映像に、そこにいないキャラクターを表示して同化させる、などといった利用が行われている
※2:Telexistence(遠隔臨場感)、遠隔地にある物(あるいは人)があたかも近くにあるかのように感じながら、操作などをリアルタイムに行う環境を構築する技術およびその体系のこと。最近ではカメラ付きドローンを、ヘッドマウントディスプレイを装着してリアルタイムに操作するといった、装着者があたかも実際に飛行しているかのような感覚を得られるデバイスなども登場している

 米谷氏の説明が終わったところで、いよいよ“スーパーVR”を体験する時間となった。今回用意されているコンテンツは、全部で6種類。ここからは、それぞれのコンテンツの概要と、筆者が実際に体験した感想を順番に紹介していこう。

四季の世界遺産ドライブ
 冬の白川郷から、白神山地、熊野古道を抜けて春の姫路城まで、日本を代表する世界遺産を大型バイクに乗って走る爽快感を堪能できるコンテンツ。ハンドルが付いてはいるものの、基本的には完全に受け身で体感する完全受動型の作品。なお、こちらのコンテンツは今回のイベントのために作られ、本邦初公開とのこと。

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 このコンテンツの見た目は、アミューズメント施設にある大型の体感マシーンといったところ。ただ、商業作品ではなく、今回のイベントにあわせて制作された機器であるため、特別な装飾は施されていない、簡易的なマシンといった風貌となっている。実際に体感してみた感想は、クルマのようなシートに座って、自転車のようなハンドルを持っているだけなのに、本当にバイクに乗っているような疾走感を味わうことができた。シートの乗っている台座自体がサスペンションの上に乗っているような作りになっているうえ、コースにあわせて、シートが前後移動することと、大型ファンから送り込まれる走行風によって、走行感はリアルそのもの。自分で運転しているわけではないので、どちらかというとタンデムシートに乗って、ライダーに身を委ねて景色を楽しんでいる感覚といったほうが近いだろうか。今回のコンテンツは日本国内の世界遺産を回ったが、もし次回があるなら、今度は世界各地の遺産を巡るツアーを希望したいと思った。

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美瑛の丘レース
 北海道の美瑛にある丘陵地帯で、馬に乗ってレースをするアトラクション型コンテンツ。4人同時対戦が可能となっており、手綱での馬捌きによって、勝負を決するレースの醍醐味と、北海道美瑛地区の雄大な自然を楽しめる作品となっている。

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 このコンテンツでもっとも特徴的なのは、ロデオマシーン型のシートそのものが挙げられる。家庭で気軽に乗馬体験をしながら、エクササイズができるというアレに、VRを組み合わせることで、これまで体感したことのない乗馬感覚をの楽しむことができるというわけだ。また、走行感をよりリアルに感じるため、前方にサーキュレーターを設置するという芸の細かさもポイント。実験的なコンテンツのため、見た目は手作り感満載だが、実際に体験してみると、見た目で思ってるのとは大違い。筆者はこれまで乗馬経験をしたことがないが、まるで本当に馬に乗って高低差のある大自然のコースを疾走している感覚がリアルに感じることができた。その臨場感たるや、コーナーなどで座っているシートそのものが傾くわけではないのに、体が外側に持っていかれ、落馬しないように必至に手綱(型のコントローラー)を握りしめている、といった次第である。

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TOKYOスカイラン -Urban Coaster-
 こちらはCGで作られた、東京のような仮想都市のなかで、ジェットコースターのような疾走感を体験できるコンテンツ。仮想都市のなかを縦横無尽に張り巡らされたレールに沿って、街中を高速で駈け巡る感覚を味わえる作品だが、着座部分の見た目はブランコの椅子そのものと、今回のイベントのなかでは、シンプルな機材構成となっている。

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 さっそく仮想東京の空中散歩に挑戦。まずはブランコ状の椅子に着座。続けてヘッドマウントディスプレイとヘッドホンを装着し、いよいよスタート。こちらも“四季の世界遺産ドライブ”と同様、動き出したらあとは身を任せるだけという、ジェットコースターのような受動型のコンテンツとなっている。着座部分が稼動するわけではないのだが、足が宙に浮いた状態のせいか、上昇下降、左右方向の展開と、まるで本当に体がGを感じているかのような感覚を味わえるのだから不思議なものである。シンプルな機材構成と最初に述べたが、完成度の高さはそのままアミューズメントに設置されていてもいいと思えるほどの出来映え。ここにシューティング要素などを盛り込んだら、かなりおもしろいアトラクションになるのではないか。などといったことを感じつつ、あっという間の試遊時間終了となってしまった。

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座間味ロケットジャンプ
 このコンテンツは、これまで紹介したCGで作られた仮想現実空間ではなく、360度全天球カメラで撮影した映像を用いた“スーパーVR”コンテンツ。沖縄県座間味島にある小島を、ジェットパックを背負って飛んで移動する気分を体感できるといったものになっている。

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 こちらの装置を体験するには、まずはハーネスを装着するなど、これまでの体験と違って事前準備が必要。実際の装置も、体験者の体を空中に持ち上げるため、かなり大がかりなものとなっている。筆者もハーネスをしっかりと身につけ、さっそくロケットジャンプに挑戦。体験自体はシンプルで、2〜3箇所ある飛びたい場所を選択したら、あとはジェットパックの噴射にまかせて空中移動が楽しめるのだが、ジェットパックの噴射宙は実際に体が浮いた状態になるので、画面のなかの浮遊感がよりリアルなものに感じられる。このコンテンツで用いられている映像も、ドローンを使って撮影されているとのことなので、かなりの高所からのものとなっており、沖縄県の小島や綺麗な海を、しっかり堪能することができた。演出として、背中にジェットパックを背負わされるのも、雰囲気があって○。

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指サッカー
 これはVRではなく、テレイグジスタンス体験を楽しめるコンテンツで、自分の指先を足に見立てて、卓上サイズのフィールドでサッカーが楽しめる。手首に装着した可動式のカメラの映像をヘッドマウントディスプレイで見ることで、視界のなかでは自分の指がリアルな足のように見えるという、なんとも言えない不思議な体験を味わうことができる作品となっている。ちなみに、FInFAとは、(Finger Football Association)の略とのこと。

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 まずは日本代表ユニフォーム風の手袋を装着し、次に手首に稼動式のカメラを、頭部にヘッドトラッキングを認識するデバイスを装着したヘッドマウントディスプレイ付きのヘルメットを装着。すると、目の前には自分の指が足のよう見える、なんとも形容しがたい景色が映し出されるではないか。首を動かすと、手首に装着したカメラもその方向に稼働するので、自分の下半身が手首から先になってしまったような、これまでに体験したことのない感覚に包まれてしまった。ピンポン球サイズのサッカーボールを指で弾いて、ゴールマウスに叩き込むという、おそらく目視していればそれほど難しくなさそうな操作も、このような状況になってしまうと、途端に難度があがってしまい、ミスの連発に。そもそも、自分の指なのに、頭の中では足というおかしな認識状況での力加減は、本当に難しいのひと言に尽きる。また、手首の動きによっても視界が激しく揺れるので、おそらくフルタイムのプレイをしていたら、途中で具合が悪くなってしまっていたかもしれない。幸いにも、体験時間は数分と短めだったため普通に楽しむことができたが、これぞ人生で初体験という不思議なサッカー経験を味わうことができた。
 実際には装着する機器の仰々しさやカメラの可動範囲、実際の動きとのタイムラグなど、まだまだクリアーしなければならない課題は多数あるが、これはあくまでもテレイグジスタンス体験の実験コンテンツ。今後、VRデバイスがより発展・普及することで、こういった視点の異なる楽しみかたも、まだまだ出てくる余地があるはずである。

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ペンギンロボコントローラー
 遠隔地のプールにいるペンギンロボットをリモートコントロール体験できるという、テレイグジスタンス式のコンテンツを最後に体験。ペンギンロボットは会場から離れた品川のプールにいるのだが、搭載されているカメラとリンクしたヘッドマウントディスプレイの映像と、やはりペンギンロボットのヒレとリンクしているコントローラーの動きによって、まるで自分がペンギンになっているかのような体験ができる。

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 まずペンギンの着ぐるみのようなコントローラーを背中に装着。続けて、ヘッドマウントディスプレイを装着したら、準備はOK。あとは両手でペンギンのヒレをバタバタと動かすと、遠く品川にいるペンギンロボットも水中でヒレを動かし、泳いでくれるというわけだ。体を左右に傾けると、それにあわせてペンギンロボットも舵を切ってくれるなど、まさに水中遊泳気分を満喫することができた。
 ちなみに、ペンギンロボットはTRY BOTSという、生き物の動きを精巧に再現することを目的としたロボット作りを行っている工房が担当。リクルートテクノロジーズとの協業で実現した遠隔操作システムとなっている。こういったテクノロジーは、これまで調査が困難だった海洋生物の実体を間近で見ることができたり、人間が立ち入り困難な危険地域での活動など、いろいろな可能性を秘めた技術だといえるだろう。

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 ここまで6つのコンテンツを駆け足で回ってきたが、率直な感想を述べさせてもらうと、VRを超えた“スーパーVR”恐るべし、である。これまでのVRでは、視界と聴覚を仮想空間のなかに閉じ込めることで没入感が高められているが、この状態に触覚の刺激を追加するだけで、没入感が何倍にも高まるというのは、正直に驚かされてしまった。実際に今回用意されているコンテンツの映像だけを見ると、昨今のリアルを重視したゲームと比較しても一世代か二世代前のクオリティと言わざるを得ないが、五感(今回は味覚と嗅覚は利用していなかったので、正確には三感)を少し刺激するだけで、脳がここまでリアルに感じるとは、人間の感覚とはかくもいい加減なものだと、あらためて思い知らされた次第である。これが、さらに向上したリアルグラフィックで、味覚と嗅覚も兼ね備えたものになったら、いったいどのような体験になるのだろうか。
 究極のVR体験は、脳に直接データを送り込むという、『マトリックス』や『攻殻機動隊』のようなものになるのだろうが、そういった未来がいずれ来るにしても、それはまだ先のお話。いまはヘッドマウントディスプレイを用いたVRデバイスが、もっとも先進的な体験をもたらしてくれるデバイスといっても過言ではないだろう。VRデバイス自体、価格面や性能はもちろん、重量や装着感、配線といった、まだまだ一般に広く普及するには乗り越えるべきハードルがたくさん存在している。しかし、これから時間が経ち、日進月歩で技術が進歩していくことにより、普及度は高まっていくのではないだろうか。そのときに、どのような体験が待っているのか。これからも期待に胸を膨らませつつ、いまはVRの一日も早い普及を願うばかりである。

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