アンリアルエンジンで「未来が変わる」!?

 2016年3月14日~18日(現地時間)、アメリカ・サンフランシスコ モスコーニセンターにて、ゲームクリエイターの技術交流を目的とした世界最大規模のセッション、GDC(ゲーム・デベロッパーズ・カンファレンス)2016が開催。3日目となる16日、オープニングセッション“State of Unreal: Epic Games Opening Session”が行われた。

Epic Games Opening Sessionリポート リアルタイム3D、VR用エディターモードなと最新テクノロジーを紹介【GDC 2016】_01

 今回の講演では、Unreal Engine(アンリアルエンジン)におけるこの1年の振り返るとともに、いくつかの技術デモが紹介された。

 最初に登壇したのは、Epic Gamesの創設者兼CEOのTim Sweeney氏。昨年のGDC2015よりUnreal Engineを無料で配信開始し、その利用者の伸び率はゲームエンジンでもトップクラスであると強調。そして2015年は過去最高の年だったと述べ、幾つかのキータイトルを紹介した。
 CCP社のVRプロジェクト『EVE: Valkyrie』、そして同社のGearVRを使ったプロジェクト『EVE: Gunjack 』、『Into the stars』を上げる。また恐竜が住む土地でサバイバルする『ARC Survival Evolved』については、Unreal Engine MOD Toolもリリースされファンに広く使われている、ゲーム開発はユーザー参加型になったことを示していると述べた。さらに、Psyonixのレーシングスポーツゲーム『Rocket League』については、小規模チームで400万本以上を販売したと発表。いまやeSportsタイトルへと成長しさまざまなゲーム賞を受賞している。

 このほかにも多数の優れたタイトルがUnreal Engine 4を用いて制作されている。

Gunjack - Oculus Rift and HTC Vive PC VR Gameplay

Unreal Engine Sizzle Reel 2016 - GDC

 Epic Gameでは「技術革新を推し進める (Pushing technology forward)」をモットーとして、開発を進めてきていると言う。例えばVRコンテンツである『Bullet train』はパフォーマンスを維持したまま、高い忠実性と毎秒90フレームを両立する必要があった。とくにVRコンテンツの場合は少しの問題が体験に大きく影響するので、最適化には非常に多大な労力を注いだそうだ。「そういった苦労が、最終的には世界中のVR開発者に還元されるようになったことは喜ばしいことである」とSweeney氏は述べた。
 また3月18日にアーリーアクセスが開始されるMOBA『Paragon』についても、このプロジェクトで得られた知見は今後開発者に還元される(とくにPS4とPC開発者)とコメントした。

 続いてモバイルゲームについて。AppleのMetal APIを最初にサポートしたゲームエンジンもUnreal Engineだったが、それに続きVulcan APIもサポートを開始している。これらは韓国で展開されているAAAモバイルゲームの流れにも対応するもので、俄然盛り上がってきているそうだ。

Epic Games Opening Sessionリポート リアルタイム3D、VR用エディターモードなと最新テクノロジーを紹介【GDC 2016】_02
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 続いてVR空間で3Dマップを作成するエディットモードが披露された。このモードは、エディター上でボタンをクリックするだけで、VRエディットモードに入れる。iPadのようにスライドして前後左右上下に移動できるほか、操作はすべて手の届く範囲ほどで完結するそうだ。
 また、メニューを呼び出して3D空間をエディットでき、コントローラーの先から出ているレーザーみたいなもので指定した内容をいじれるようになっている。作成メニューのレイアウトも、VR空間に好きなところに配置できるようになっていた。

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 Sweeney氏のつぎに登壇したのは、Oculus Co FounderのBrendan Iribe氏。Oculus Rift最初期はのダクトテープでとめた機材で視差の調整に手こずったりしていたが、いまや『Bullet Train』が公開されUnreal Engineのエディター環境がVR対応したりと数年前には考えられなかった世界が来ていると述べた。
 なお3月28日のOculus Rift発売時には、Oculus SDK 1.3も提供されると発表した。

Bullet Train Unreal Engine 4 Demo - Oculus Connect 2

 続いてNinja TheoryのTameem Antoniades氏が登壇。精神的なトラウマを抱えているケルトの女性戦士を主体とした映像が公開された。当初は単なるデモのお披露目かと思っていたが、ステージ下手(しもて)からモーションキャプチャースーツと表情読み取りセンサーを身につけた演者が登場。HellBladeデモ(リアルタイムで演者の動作(表情)が3Dキャラクターと同期するデモ)を披露した。
 ゲームや映像コンテンツのプレビズ (企画段階での映像制作)において大変役立つこの技術。最終的には規模の小さいスタジオでもプロダクションに利用できるようにしたいと述べ、またこれをソーシャルVR空間で行えたら、VR空間であっても人間と対面するのとほぼ同じになると期待を寄せていた。

Hellblade: Senua's Sacrifice - Senua Trailer

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 また、シーケンサー機能 (3Dシーンを直接扱う映像作成環境)も公開された。これは、カメラやシネマを理解したプロ向けの機能で、テレビや映画などでの利用に適しているノンリニアなシネマティックツール。動画編集みたいなインターフェースだが、扱っているクリップは実際の3Dシーンとなり、火のエフェクトを3Dシーンにポイッと放り込むこともできるし、カメラのアングルや位置も変えられる。これにより、優れた映像をより高速に作れ、細かな調整を何度も加えられるとのことだ。

Epic Games Opening Sessionリポート リアルタイム3D、VR用エディターモードなと最新テクノロジーを紹介【GDC 2016】_11

 続いて、高級スポーツカーメーカーMcLaren AutomotiveのMark Roberts氏が登壇。スポーツシリーズセクターのスーパーカー“570S”の映像デモを公開した。
 マクラーレンの強みは優れた技術力もさることながら卓越したデザインにあるとし、Epic Gamesと協力して車のデザインのビジュアライズ(映像化)に取り組んだとのこと。高いクオリティのモデルが作成できるので、デザイナーはハードウェアの限界を感じることなく、デザインを作成する前から思い巡らせることができるようになったと述べた。

McLaren 570S Unreal Engine 4 Cinematic Trailer

 続いてSweeney氏が再び登壇。ゲームショー番組futureuniverse.comが紹介された。
 futureuniverse.comは、The future groupによる番組で、ゲーム、建築、エンジニアリング、デザイン、教育、自動車といったデジタルコンテンツ産業をミックスした視聴者参加型のゲームショー番組になるとのこと。Unreal Engineの技術を使い、リアルタイム3Dを組み込んだのものを放送するそうだ。

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 また、MTVネットワークスが運営する幼児および児童向け番組専門のケーブルテレビチャンネルNickelodeonより、Unreal Enineで制作されたアニメ番組も公開された。

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 Lucas Film CTOからは、Rob Bredow氏が登壇。技術革新とストーリーテリングに特化したILMX LABを最近設立したLucas Filmは、Unreal Engineを使ってHTC VIVE使用タイトル『Star Wars Trials on Tatooine』を制作している。ゲームでは、VR空間でライトセーバーを使い、まるでプレイヤーがジェダイの騎士になったかのようなバトルが楽しめるようだ。

ILMxLAB's 'Trials on Tatooine' Trailer

 「リアルタイム3DとVRの力はものすごい広がりを見せている。しかし、ゲーム業界はその中心にある」とSweeney氏。『ファイナルファンタジーVII リメイク』、『キングダム ハーツIII』、『ドラゴンクエストXI』、『鉄拳7』、『ストリートファイターV』など……さまざまなゲームで使用されている本エンジン。昨年の無料化から始まり、VR関連機能の強化も期待できそうだ。ぜひこれからの展開にも注目したい。