豪華クリエイターが参加した意欲作
『Caligula -カリギュラ-』は、仮想現実の世界“メビウス”を舞台に、仮想現実の世界を舞台に、現実への復帰を目指す主人公たちと、バーチャルアイドルやその信者たちとの戦いを描くRPG。タイトルに“見てはいけないものほど見たくなる、してはいけないものほどしたくなる”という、“カリギュラ効果”の名を冠していたり、現代的な病理やトラウマに焦点を当てているのも、本作の大きな特徴だ。唯一無二の設定はどのようにして生まれたのか?
2016年2月23日発売の週刊ファミ通では、本作の企画・原案・ディレクターを務める山中拓也氏、シナリオを手掛けた里見 直氏、キャラクターデザインを担当したおぐち氏にインタビューを実施した。本記事では、スペースや情報を出すタイミングの都合上、なくなくカットしたエピソードを盛り込んだ完全版を公開する。2016年3月10日発売の週刊ファミ通で紹介した“カタルシスエフェクト”など、最新情報の話題もあるので、ぜひ最後までチェックしてほしい。
企画・原案・ディレクター
山中拓也氏(文中は山中)
■写真中央(メガネ)
シナリオ
里見 直氏(文中は里見)
■写真右
キャラクターデザイン
おぐち氏(文中はおぐち)
キャラクター設定のタブーにチャレンジ
――まずは、“カリギュラ効果”を作品の題材に選んだ経緯を教えてください。
山中 もともと僕の中に、「優れたゲームとは、現実では体験できないものに踏み込んだもの」という考えがあって。本作でそれを追求するためのキーワードが“カリギュラ効果”だったんです。それで、いつのまにか自然とタイトルになっていました。この単語がゲームに出てくるわけではなく、本作のプレイ体験を体現する言葉です。見てはいけないものや、「本当にこれでいいの?」と思うような展開が目の前に現れ、だからこそ先に進みたくなる……みたいな感じですね。
――テーマが難しい作品だから、里見さんにシナリオをお願いしたのでしょうか?
山中 そうですね。僕の上司が前の会社で里見さんといっしょに仕事をしていたご縁もあり、今回の企画を進めて行くなかで、紹介していただきました。
里見 山中さんから企画を聞いたときに、難しいなと思うと同時に、おもしろそうだと思ったのを覚えています。登場人物ひとりひとりが、現代的なトラウマやコンプレックスを抱えているのですが、それをどう表現するかを考えただけで、やり甲斐があるな、と。
――現代の病理をゲームで切り取るというのは、おもしろいですよね。一方のおぐちさんの起用理由は?
山中 本作は、完全新規の作品ということもあり、この作品のシンボルになってくれるような、家庭用ゲームに新しい風を吹かせてくれるような方を探していました。そのなかで、とある雑誌でおぐちさんのイラストを拝見しまして。感性はすごく新しいのに、デザインに品があるというか、説得力やリアリティーがあるんですよね。そこが、本作のイメージに合致し、届けたいターゲットに深く刺さるのではないかと思い、すぐに連絡を取りました。
――山中さんから依頼されて、おぐちさんはどのように感じましたか?
おぐち 非常に光栄でしたね。山中さんは僕の腕をものすごく買ってくれていて、敵・味方のキャラクターデザインだけではなく、「世界観のデザインまでお願いします」と依頼してくれたんです。
――ゼロから考えられるのは、やり甲斐があるぶん、苦労もされたのでは?
おぐち もちろんたいへんでしたが、今回は山中さんに「お任せします」とお願いされていたので、やり甲斐のほうが大きかったです。どの仕事も全力で取り組みますが、注文通りに描くのと、信じて任せていただけるのとでは、熱の入りかたが自然と変わってきますから。
山中 おぐちさんには、僕からキャラクターごとに目指すべき方向性や、表現を説明しつつも、「僕がお願いしたものを、そのまま描いてこないでください」とオーダーしていましたからね(笑)。その結果、おぐちさんの斬新な解釈や絵的な発想をシナリオに逆輸入するような進行をした箇所もあります。
――初対面の3人が集まったことで、いい科学反応が起きたわけですね。里見さんもやり甲斐を感じましたか?
里見 おぐちさんと同じく、僕も自由にやらせてもらえたので。むしろ、やりすぎちゃって山中さんが引いているなと感じることもありました(苦笑)。
――カリギュラをテーマにしているだけに、シナリオも攻めていそうですね。
里見 そうですね。テーマにするからには、「ここまでやらないといけないのでは?」というお話をさせていただきました。あえてほかのゲームが避けて通っているものを作るなら、それなりのキャラクターが必要ではないかと。
――避けて通っているものとは?
山中 ネタバレになってしまうので、具体的にはお答えできないのですが、もともとこの作品では、登場キャラクターたちに、さまざまなタブーを冒してもらおうと考えていて。ただ、経験則から「これは避けたほうがいいな」という特定の領域のタブーがあって、自然と避けていたのですが、里見さんからはピンポイントで“その領域の極み”みたいなキャラクター設定があがってきまして(笑)。あぁ、自分には禁忌を冒す覚悟が足りなかったと若干反省しつつ、そのキャラクターはいまなお健在です。
登場人物たちは人としてダメなキャラクターばかり!?
――そこまで突き抜けたほうが、現代的なトラウマやコンプレックスを抱えているという人間らしさが、より強調されそうですね。
山中 本作に登場するキャラクターたちは、いわゆるRPGで活躍するような、強い人たちではないですから。
里見 人としてダメなキャラクターだらけです(笑)。
山中 そうですね(笑)。今回は、ゲームのキャラクターを作っているという感覚があまりなくて。本当に人間そのものを作っているという感じですね。ですから、シナリオでキャラクターがうまく行動できないシーンを見ても、彼らの内面にすべて踏み込んだ後に見返すと「このキャラクターならしかたない」と思えるような、変わった体験をしていただけると思います。演者の皆さんも難しい作品だけに熱を持って演じていただきました。人によっては演じながら泣きだしちゃったり……。
――そんなに熱がこもってしまったんですね。シナリオを作っていくなかで、とくに苦労したことはありますか?
里見 主人公たちが「なぜメビウスから脱出したがっているのか?」という理由を、“どうやってプレイヤーに伝えていくか”という部分で頭を悩ませました。通常ですと、ゲームをプレイしていくうちにメインシナリオで少しずつ明かされていくと思うのですが、本作ではメインシナリオを進めるだけではわからないようにしたくて。帰宅部のメンバーが現実世界に帰りたい理由は、キャラクターたちと親しくなって、関係性を深めると個別のサブシナリオで明らかになっていくようにしています。
山中 メインシナリオでは、一見、主人公たちが「理想に甘えてちゃいけない!」と前向きに偽りの世界から脱出しているように見えるのですが、サブシナリオを進めていくと、キャラクターの動機や裏の顔が見えてくると言うか……。登場人物に対する印象が大きく変わると思います。もともとそういうプレイヤーが見てきたものによって、精神的に受け取りかたの変わるギミックを作りたかったので、キャラクターのギャップを楽しんでもらえるとうれしいですね。
里見 いまどきの作品に比べて、本作は嫌われそうなキャラクターが多いのですが(苦笑)、嫌いなキャラクターのシナリオを進めていくと、じつはいちばんかわいそうな奴だったというのがわかったりとか……。そういった仕掛けを用意しているので、最後まで見てほしいです。
――公開された登場人物たちのイラストからは、まったく想像できませんね。
山中 そう見せないのが、おぐちさんの作るビジュアルの説得力だと思うんですよね。メビウスでの姿が現実世界の姿と同じでないとはいえ、こんな人たちが人としてダメだとは思わないので(笑)。
――そのようなキャラクター設定だというのがわかったうえで、どのようにデザインのイメージを膨らませていったのですか?
おぐち 性格や現代病理などがキャラクターのベースになっているので、デザインや衣服などは実社会で使われているものがいいと考えました。派手さを抑えつつ、個性が出るように制服のデザインや着こなしかたを変えています。
――戦闘では、“カタルシスエフェクト”が顕現してキャラクターの姿が少し変わりますが、この姿もおぐちさんがデザインされているのですか?
おぐち はい。カタルシスエフェクトが顕れたときの姿は、ハンマーを持った美笛なら攻撃が得意というように、キャラクターのアクションが想像しやすいようなビジュアルにしたいと思い、デザインを考えました。
(声:沢城千春)
(声:武内駿輔)
(声:高橋李依)
山中 カタルシスエフェクトが現れた姿には、ほかにも秘密がありまして。登場人物たちは、それぞれトラウマやコンプレックスを持っているとお話しましたが、カタルシスエフェクトでそれが想像できるようにしています。
――おぐちさんのお話しで登場した美笛は、口元が隠れていますよね? つまり、口元にトラウマやコンプレックスを抱えていると?
山中 ご想像にお任せします(笑)。カタルシスエフェクトは内側から彼らの皮膚を突き破ってでてくる“隠せない部分”です。通常の姿と変化したところが、登場人物たちのことを知る手がかりのひとつになりますね。あとは、カタルシスエフェクトが顕れると、胸に花が咲くのですが、登場人物たちのルーツやスタンスなどに則った花言葉になるように、それぞれ花を選んでいます。このアイデアは、制作過程でおぐちさんが作ったデザインをきっかけにして産まれたもののひとつです。それ以降“花”というキーワードは各所のデザイン、ロゴにも取り込まれていきましたね。
おぐち 顕現後の姿には色を使いたかったのですが、色を使うときの理由を考えるのがかなり難しくて……。服の色を変えるにしても、そのキャラクターがなぜその色の服を着ているのかという必然性を考えたり、ほかのキャラクターとの差を考えたりするのが難しいですよね? それで何に色をつけてキャラクターに差をつけるか考えていたときに、花がいいんじゃないかと思いました。花には固有の色がありますし、花言葉を活かしてデザインにメッセージを込めることもできるなって。
山中 キャラクターのデザインは、ギリギリのリアリティーというのを保持するように意識的に派手さを抑えているので、ほかの作品と比べてかなり抑え目になっているのですが、胸に咲く花がビジュアルだけではなく、色味としてもインパクトを出してくれていると思います。戦闘中も胸の花が散るので、派手な見た目になっています。
立ちはだかる強敵への対抗策は“空想力”!?
――ここからは、μ(ミュウ)やオスティナートの楽士についてお聞きしたいと思います。
山中 μは、本作における絶対的なアイドルです。μは純粋な善意で人間のために動いているのですが、そのたびに世界は歪んでしまうのです。物語は彼女を中心に展開していきます。彼女が純粋ゆえに、周囲の人間の闇がより浮き彫りになるという存在です。
おぐち 本作において、μはいわゆる二次元のキャラクターになります。ですから、ほかの登場人物たちよりも、ファンタジックな装飾品が多いデザインになっています。
――白が基調のデザインも印象的でした。
山中 キャラクターのデザイン論からすると、ここまで白いのは本当はアウトなんです。開発のスタッフにも、「白すぎじゃないですか?」と突っ込まれました(笑)。
おぐち μは、髪の毛や肌の色を何パターンか作ったのですが、突き抜けようという意味で白に決めました。
山中 それに、もともとこの作品のカラーコンセプトを白と決めていまして。こういったテーマの作品は黒に寄りがちなのですが、白をメインにすることによって、その上に乗る絵を際立たせるようにしています。それに、白には純粋無垢でキレイなイメージがありますが、不安を喚起させたり、狂気を促したりするような側面もあるので、μにはピッタリかなと考えました。ですので、μを見ていて可愛いけれど、なんとなく不安、なんとなく怖いという感覚を覚える方もいると思います。
――では、楽士についてお願いします。
山中 楽士というのは、μに歌わせる楽曲を作曲している人たちのことです。シナリオを作っていくなかで、主人公たちと対立する相手を作曲者にしようと考えました。
おぐち デザインに関してお話しすると、楽士たちはスター性を重視しています。それでベースのデザインを考えて、アクセントして「スターである前に人間である」ということを示唆する要素を入れました。
山中 楽士たちは、主人公たちとは対照的に「絶対にメビウスにいたい」という理由を持っています。メビウスという何でもありの世界を肯定していて、欲望もダイレクトに出しているのですが、楽士たちのイラストにもその欲望が現れていて、とてもいいデザインになったと思います。
おぐち 現実の世界だと、ふつうの服を着ている人とコスプレのような衣装の人のあいだには、見た目に違和感が生じると思います。ゲームの世界ではその違和感はないのですが、本作では主人公たちと楽士たちの服装に違和感を感じてほしいですね。
――動画サイトなどで活躍しているコンポーザーの方々が参加しているのにも、驚きました。起用の意図は?
山中 本作の舞台がμが支配している世界なので、彼女の歌が流れる中で戦闘を行なうようにしたいと思っていたんです。設定上、そこで流れる曲の作曲者である楽士たちの存在をより立たせるなら、彼らになりきって曲を作ってくれる方が必要だと思い、いろいろなコンポーザーの方に相談して、参加していただきました。自分自身ではなく、キャラクターになりきって作曲するというのは皆さん初体験だったようで、かなり尖った曲ができあがりました。本当に楽士のひとりひとりが“作りそうな”曲になっているので、人物と照らしあわせて聞いてみてほしいです。
――歌が流れるというのもおもしろい仕掛けですね。
山中 “デジヘッド”と呼ばれる楽士の狂信者がいるのですが、通常の戦闘はデジヘッドと戦うことになります。ダンジョン探索中は楽士たちの曲のインストが流れ、デジヘッドとエンカウントして戦闘に入るとシームレスにボーカルが加わります。さらに、そのダンジョンを支配する楽士、つまりボスとのバトルになるとさらに音数の増えたリミックスバージョンが流れるという仕掛けになっています。物語の進展に合わせて、音もボリュームアップしていくので、実際にプレイするとテンションがかなり上がると思います。ぜひ、楽しみにしていただければ。
――ボス戦は、さらにリミックスバージョンもあるということですね、楽しみです! 最後にゲームシステムについてお聞きしたいのですが、キャラクターの成長システムはどのような形になるのですか?
山中 主人公たちは通常のレベルアップで成長するほか、敵を倒してさまざまなスキルを習得できます。また、本作ではメビウスに囚われた生徒500人以上に固有のプロフィールと悩みごとが存在します。マップをうろついている彼らの悩みをサブクエストで解決すると、異なるスキルを習得できるといった要素もあります。習得したスキルを組み替えることで、自分好みのキャラクターにカスタマイズできるのも、本作の魅力のひとつになっています。一見すると、モブの彼らの中にも、帰宅部や楽士に劣らずのくせ者が潜んでいますよ。
――敵がスキルを落とすということは、お目当てのスキルを狙うなどの要素もあるのですか?
山中 そうなんです。本作には、ハック&スラッシュの要素がありまして、同じスキルでも数値が異なっていたりするんです。より強いキャラクターにするために敵を倒して、いいスキルを狙うといったやり込み要素も楽しめます。もちろん、やり込まなくてもメインシナリオをクリアーできるバランスにはなっています。
――なるほど。では、バトルシステムはどのようなものになるのでしょうか?
山中 コマンド選択型のRPGを発展させた、“イマジナリーチェイン”というものになりまして。特徴としてはコマンドを選ぶときに、それを実行した際の敵・味方の動きが、ある程度先の展開まで“空想”として未来予知のように映像化されます。その映像を確認しながら、行動を選択していくことで味方全員がかりでの派手なコンボを誰でも直感的に組み立てていくことができます。一見、アクションゲームのように派手な動き回りますが、行動はコマンド選択式なので、じっくり考えながら楽しめますよ。本作の目標は“敷居は低く、遊びは深く”というところでして……アクリアさんともプレイスキル問わず、ユーザーさんごとに楽しんでもらえる戦闘になるよう制作を進めています。
――アクションゲームの腕前は関係ないということですね。発売後の展開などもお聞きしたいのですが、リアルでのライブイベントなどは考えていますか?
山中 僕個人としてはもちろん、会社としてもメディア展開を積極的に行っていきたいとは思っていて。皆さんの応援が必要なのですが、たとえばコミックやノベルで世界観を広げて、長く皆さんに愛される作品にしていきたいですね。そのなかで、ライブイベントなども行ってみたいです。まずは、予約特典で応募できるイベントに力を注ぎたいと思います。すでにミレイ役の中村繪里子さん、スイートP役の新田恵海さん、ソーン役の大坪由佳さんによるユニット“RePLiCA”の皆さんも、イベントのことでたいへん会話が盛り上がっていらっしゃったので、こちらも楽しみにしていただければ。
――今後の展開から目が離せませんね! それでは、読者の方にメッセージをお願いします。
里見 主人公たちや楽士たちには、何かしら共感できる部分があると思います。ゲームを通して、悩んだり苦しんでたりするのは自分だけではない、という感じで元気をもらっていただければなと。主人公たちのがんばっている姿を見て、前向きな気持ちになってくれたらありがたいなと思います。
おぐち 手前味噌ですが、主人公たちの衣装は、それぞれの内面を表しながら現代的なファッションを服飾に落とし込めたと思います。ゲームをプレイして、お気に入りのキャラクターを見つけたら、細部のデザインにまで注目してもらえるとうれしいです。
山中 μは主人公たちのために行動しているのですが、主人公たちは現実世界への帰還を目指して、μを倒そうとします。本作をプレイすると、μを倒してもいいのか、μを倒してまで現実世界に帰りたい理由は何なのか、といったさまざまな悩みや疑問が生じてくると思います。そのなかで背徳感や高揚感を味わえるようにしていますので、ぜひご期待ください。
Caligula -カリギュラ-
メーカー | フリュー |
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対応機種 | PSVPlayStation Vita |
発売日 | 2016年6月23日発売予定 |
価格 | 6980円[税抜](7538円[税込]) |
ジャンル | RPG |
備考 | ダウンロード版は6389円[税抜](6900円[税込])、シナリオ:里見直、キャラクターデザイン:おぐち、サウンド:増子津可燦、開発:アクリア |