心に傷を抱えた大人たちを見下ろすワイオミングの大自然。一人称視点アドベンチャーゲーム『Firewatch』

Campo Santoの『Firewatch』を紹介する。

●1989年夏、ワイオミング。傷ついた大人たちのひと夏の物語

 「で、あなたは何が問題だったの? みんな何かから逃れるためにこの仕事を選ぶのよ」トランシーバーの向こうの女は自己紹介もそこそこに、突然そんなことを言い出した。まったく大きなお世話だ。しかしそれが、ひどく暑い夏の物語の始まりだった……。

 Campo Santoの『Firewatch』を紹介する。本作はプレイステーション4/Windows/Mac/Linuxをプラットフォームに海外で配信中。参考までにSteamでの価格は1980円。なお言語対応は英語音声・字幕とロシア語字幕のみ。(※当初誤ったプラットフォーム表記をしておりました。正しくはプレイステーション4とWindows・Mac・Linuxのみになります。お詫びするとともに訂正致します。)


 本作は一人称視点のアドベンチャーゲームだ。主人公は中年の男ヘンリー。オープニングでは若き日の彼が妻ジュリアと出会い、結婚してともに暮らした数年間の様子がテキストで綴られる(選択肢による分岐つき)。しかし、妻がとある病気を発症。その症状の悪化により、ヘンリーは最愛の女性と引き離されてしまう。


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▲勤務地に向かうまでを描くシーンの間に、妻との間に何があったかがテキストで回想される。選択肢もあって、少しだけ話の流れが変わる。

 そして彼は、その傷を抱えたまま森林火災の夏季監視員(fire watch)の仕事に応募する。人里離れた高原で、ほぼ毎日誰とも会わずにワイオミングの自然と向き合い過ごす静かな時間(ちなみにワイオミングは総人口が最低の州。人口密度も一平方キロメートルあたり2.31人しかなく、これより低い州はアラスカしかない)。そんな場所ならば、自分やジュリアの今後と向き合うこともできるかもしれない……。物語の本編は、ヘンリーが妻との思い出が詰まったコロラド州ボルダーを離れて隣の州ワイオミングに向かい、2日間のトレッキングを経て勤務地の監視塔にたどり着いたところからスタートする。


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▲淡々と辛い現状が明かされる中、美しい景色を黙々と進んでいくさまが示される。

●新たな我が家、新たな友達、新たな生活への慣れ。

 かくして始まる監視員業。隣の地域の監視塔に住む同僚にして先輩の女性“デライラ”からトランシーバーで指示を受けて目的地に向かい、不審火の調査などを行うのが毎日のお仕事だ。そして、この記事冒頭に出てきた、いきなりフランクのプライベートな部分に踏み込んできた女性こそデライラ。本作では顔も知らない彼女とトランシーバーで会話するのが、非常に重要な部分を占めている。


 ダイアログ(セリフ)システムでは、発見した物や出来事を見ながらダイアログボタン/キーを押し、いわゆる報連相(報告・連絡・相談)をすることで会話が発展し、物語も動いていく。応答するかしないか時間制限がある場合や、さらに時間制限に加えて回答内容を選択できる場合もあるのだが、ちょっと英語力が必要なのが難点。現状では日本語ローカライズされていないので、英語字幕で洋画を見てなんとなく楽しめる程度の語学力(または適度に推測で解釈する慣れ)が必要だ。
 しかし、いい意味でゲームらしくない、よく練られた映画のような血の通った会話が非常にいい感じ。彼女と他愛もない会話を交わしたり、時に問題に協力して取り組むことで、彼女がこの隔絶された孤独な土地でヘンリーの唯一の友人となっていくのが染みこむように伝わってくる。どこかローカライズしてくれるとありがたいが……(ちなみに冒頭のセリフは愛飲するテキーラで酔ったうえでのことで、デライラは翌日ちゃんと謝る)。


 フィールドとなる高原は一種のオープンワールドで、小規模なインディースタジオの作品にしてはちょっと驚くほど広い。ナビなどはないので、プレイヤーは地図とコンパスを当てにして歩くしかないのだが、マップの作りが絶妙に“どの方角にも行けそうでいて、実は段差などがあっていけない”ようになっていて、かつところどころで道が集合したり、ロープを使わないと降りられない場所があるなど実は細かく区切られているので、コレがまったく迷わない。むしろ終盤になれば、「コレは確か大体こっち行って……」と、地図を見ずに監視員としての慣れでサクサク歩けるぐらいだ。


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▲物語が進行し、各地のサプライボックスに残された地図を書き写すことで、地図に書き込みが増えていく。こうして地図が便利になる一方で、プレイヤー本人は地図を見る必要がなくなっていくというのもユニークなところ。

 厳しい現実から逃げこんだ先の、新たな生活での“慣れ”。ゲームにはこの感覚を刺激するいくつかの仕組みが巧妙に仕掛けられている。例えば、監視塔を降りる際に床に頭をぶつけないように出す手。これには専用のモーションが用意されていて、外出のたびに毎回律儀に再生される。
 あるいは監視員やレンジャーたちが物資を入れておく各地のサプライボックスもそうだ。かかっている鍵の暗証番号はすべて同じで、謎解きとしての要素などはない。毎回儀式のように、監視員とレンジャーだけが知る番号を入れて開けることが重要なのだ。


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▲各地にあるサプライボックスは、一部の例外を除いて同じ番号で開く。謎解きよりも「習慣づけ」のための要素だ。

●美しい自然の下に、人が生み出すミステリーの火種が潜む

 本作ではほとんど人間などのキャラクターが出てこない分、自然表現には目を見張るものがある。アートスタイルはかなり特徴的で、同じ風景でも時間帯による太陽の陽の加減や照り返しの具合によって複雑に色合いが変わるのを絶妙な色使いで表現している。
 地形などのモデル自体はややローポリゴン気味で、遠景のシルエットなどもパキっと出るので、リアルでもトゥーン寄りでもないイラストのようなタッチで、どの景色もカチッと絵になる(そして中盤で手に入るインスタントカメラで風景を撮影することも可能。撮影した写真は後で実プレイよりも高解像度なスクリーンショットとして取り出せるほか、提携するプリントサービスに出すこともできる)。


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▲エンディング後に、プレイ中に撮った写真をアップロードできる。アップされた写真はダウンロードやシェアが可能で、15ドルでプリントサービスにも出せる。

 しかし『Fire Watch』は、単なる景観のいい癒やしの物語にはならない。この絶景の下には、確かに火種が燻っている。すべてを焼き尽くしかねない、愛ゆえの哀しみの火が。「みんな何かから逃れるためにこの仕事を選ぶ」と言ったデライラもその例外ではなく、過去の火種を抱えたままこの地に逃れてきたのに他ならない。だから火の酒テキーラでも飲まずにはいられないのだ。


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▲中盤でついに火災が発生する。通報した後は、消防隊が食い止めてくれるのを祈る以外、ただの監視員にできることはない。ゆっくりと広がる古傷のように火が揺らめく。

 物語は、ヘンリーとデライラが表向き親密になるのと反比例するかのようにプレイヤーに与える心象が複雑になっていき、そこにやがてサスペンス仕立ての謎まで絡んでくる。エンディングまでのプレイは3時間程度で、価格が見合ったものかどうかは人によるだろうが、個人的には渋く苦い上質な映画を堪能した気分で納得できた。苦い話やエンディングの突き付け方、価格と尺の関係では、同じく海外インディーによる一人称視点アドベンチャーゲーム『Gone Home』に近いところがあると思う(ただし『Gone Home』はさまざまな物が揺らめく青春の苦味、『Firewatch』は大人ならひとつやふたつは抱えて生きている傷をテーマにしている点が異なる)。この物語の結末に何が待っているのか、どうかエンドロールも含めてしっかり見届けて欲しい。