大熱戦の後に、野上プロデューサーを直撃!

 2016年1月31日、千葉・幕張メッセで開催された、ゲーム実況とゲーム大会の祭典“闘会議2016”にて、“スプラトゥーン甲子園”が幕を閉じた。Wii U用ソフト『Splatoon(スプラトゥーン)』の全国大会として、2015年9月13日の九州地区大会から始まった、スプラトゥーン甲子園は、全国8ヵ所での地区大会を経て、2016年1月31日の決勝大会が開催。全国の代表10チームによる熱戦がくり広げられ、最終的に関東Aブロック代表の“いかたまkids”が優勝を飾った。詳細なリポートは、コチラの記事を読んでいただきたい。

 記者は、約半年に及ぶ地区大会をすべて観戦し、ときに大会の解説を担当させていただいたが、それぞれの優勝チームに思い入れを持った状態で見る全国大会は、非常に熱かった。また、大会の最後に行われたイカ研究員の総括では、多くの来場者を前に男泣きをするイカ研究員の姿に、思わずもらい泣きをした人も多いはずだ。そんな熱戦と涙の中で閉幕したスプラトゥーン甲子園を終えた感想、そして総括の中でイカ研究員が話した「1月でコンテンツの配信は終了するとお知らせしましたが、もう少し何かができないかなと考え始めています」という言葉の真意を確かめるべく、スプラトゥーン甲子園終了直後の楽屋にて、プロデューサーの野上恒氏にお話をうかがった。

『スプラトゥーン』インタビュー――プロデューサー野上氏に訊く、スプラトゥーン甲子園への想いと今後のこと_01
▲写真は、野上プロデューサーによく似たイカ研究員。

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 なお、ニコニコ動画でスプラトゥーン甲子園 決勝大会などの高画質動画が公開されている。各大会はタイムシフトでも見られるが(視聴期限は2016年2月いっぱい)、まだご覧になっていない方は、この動画をご覧になったうえで、インタビューを読んでいただければ、より雰囲気が伝わるはずだ。

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【Splatoon甲子園2016】全国大会 2回戦2
【Splatoon甲子園2016】全国大会 準決勝

各大会ごとに残る思い出

――スプラトゥーン甲子園、無事に終了しました。約半年間に及ぶ大会は、いかがでしたか?
野上恒氏(以下、野上) 何でしょう。長かったような、あっという間だったような。でも、今日、.Regen(九州地区大会優勝チーム)をはじめとする大会初期からの参加選手を見ただけで泣きそうになりましたね(笑)。

――わかります(笑)。昨日(1月30日)の関東地区大会の観覧スペースで、ほかの地区大会の優勝チームどうしが話しているのを見たんですが、とても感慨深かったです。
野上 彼らを見るだけで地区大会の思い出が蘇るんですよね。長かったと思う一方、自分の中に各大会の記憶がちゃんと残っていて、充実した半年間だったんだなと改めて思います。

――今日(1月31日)までの盛り上がりを見ると、この半年に及ぶ大会の結末としては最高の流れだったのではないかと思います。
野上 『スプラトゥーン』は対戦ゲームで、勝ち負けがつくものなので、どうしても悔しい想いも混じるじゃないですか。真剣勝負をして「勝った!」という喜びや「負けた」という悔しさを経て、それでも、いっしょに戦った相手を、認め合った仲間として交流を深めるようなことが起こっているのはすごいなあと思います。

――解説をしながら、試合終了が近づくと、「どちらかのチームが負けちゃうのか……」と悲しくなってくるんです。
野上 そうそうそう(笑)。なんか肩入れしたくなっちゃうんですよね。

――優勢なチームに勝ってほしくないわけじゃなくて、どちらも負けてほしくないという(笑)。
野上 そうなんです。とくに決勝大会はどこにも負けてほしくなかった……(笑)。残り10秒で配信画面が8画面になると、「○○が! 負ける……!」って思ってしまう。もちろん、勝つほうにも思い入れがあるんですけどね。

――勝負ですから、勝ち負けは絶対にあるんですけどね。
野上 真剣に勝ち負けを競っているからこそ、これだけ感情が動くんですよね。

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――スプラトゥーン甲子園は、参加者も観客も、皆さんがとにかく楽しそうにしているのが印象的です。
野上 そうですね。関わってくださっている皆さんが、本当に楽しんでいただいたというのが、いちばんよかったなと思いますね。運営している側の情熱もお客さんや参加しているチームに伝わりますし、ステージの前に張りつくように観戦してくださっていたお客さんも、試合が終わっても名残り惜しそうに会場に残っていましたから。

――試合だけでなく、選手を始め、コンテンツに関わるあらゆるものを見に来ているんでしょうね。
野上 『スプラトゥーン』というゲームそのものもそうですが、ゲームから生まれたコミュニティーや場を楽しんでくださっているんだと思います。昔の話ですが、僕が子どものときは近所の駄菓子屋がゲームを遊ぶ場所で、そこに行くと、ゲームのうまい人がいたり、友だちがいたりして交流を深められたんですが、それがいまはネットワークの上に広がっていたり、甲子園のようにリアルイベントになったりして、当時の自分たちの原体験にあるすごくいい経験が、今日のイベントでちょっとでも皆さんに体感していただけていたらいいかなと思います。

――以前、インタビューさせていただいたときにも、現実を絡めたりしてイベントのようにしたいとお話をされていましたよね。
野上 自分が関わるものでは、ゲームの中だけで留まらずに、ゲームを通じて遊んでくださった方の人生や生活に何か残ってほしいと思っていて、たとえば、ゲームでいい思い出が作れれば、結果的に「ゲームっていいなあ」、「おもしろいなあ」という印象が残って、それがつぎの世代につながっていくと思うんですよね。いまでも、お父さん、お母さんで『スプラトゥーン』を遊んでくださっている方がいますが、いまの30代や40代の方々はどこかで一度はゲームに触れて育っている人が多くて、その人たちが、『スプラトゥーン』に触れることで、「当時遊んでたゲームっておもしろかったな」と思い出していただけると、ゲームという文化が続く一助になれるかなと思っています。

――昨日のシオカライブ、本日の決勝大会という2日間は、そういう現実を絡めた展開の究極系ではないかと感じました。
野上 すごいやりきった感はありますね。ホタルも「やりきった感あるわー」って言っていましたけど(笑)。僕らが狙って仕掛けたというわけではなく、お客さんがゲームのいろいろな要素に反応をしてくださって、そういう想いに応えようとした結果が甲子園やシオカライブだったので、僕らから押しつけるように仕掛けてもこんなにうまくはいかなかっただろうなと。ですから、本当にお客さんとともに歩んでいっているようなイメージですね。

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――最初から想定していたわけではなく、ゲームやサントラなどにここまでの反響があったからこそ、実現した企画ということですね。
野上 お客さん全員の反応を見られているわけではないのですが、いろいろなところで挙がっているお客さんの声を見聞きして、「もし、こういう声があるなら、こういうことは実現できないのかな」と考えながら、ここ半年の展開をやってきました。あと、それにプラスして、お客さんが予想していないような“Sagakeen”といったイベントで、「えっ!」と驚いてもらって(笑)。そういうサプライズを混ぜながら、お客さんに、興味を持ち続けてもらって、イベントを楽しもうという気分になってほしいなと考えていました。

――なるほど。ちなみに、スプラトゥーン甲子園を半年間見てきて、これは盛り上がるなと、手応えを感じた瞬間はどこでしたか?
野上 正直、最初の九州地区大会はヒヤヒヤでしたね。やってみて課題もいろいろ見えてきて、試合はすごくおもしろかったんですが、もうちょっとお客さんにちゃんと楽しんでもらえるようにしなきゃいけないというのがあって。でも、それを乗り越えて、北海道地区大会で形が見えてきて。手応えを感じられたのは、そのつぎの東海地区大会ですかね。あそこの盛り上がりは、想定以上すぎて。

――東海地区大会はすごい盛り上がりでした。お客さんが、ステージの目の前までビッシリ入って。
野上 僕らは『スプラトゥーン』というゲームを使って、イベントを仕掛けましたが、結果、あれだけの盛り上がりができたのは、あの場所に来てくださったプレイヤーの方々がすごかったからなんですよね。本当にドラマティックな展開の試合が多くて。今日もイカサーのゴリラ(東海地区大会優勝チーム)の入場時に、アオリとホタルが言っていましたけど、イカサーのゴリラとYOUNG☆MANが戦った決勝は、本当に熱くて。あれは、今大会屈指の名試合でしたね。

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▲左から九州地区大会、北海道地区大会、東海地区大会の写真。大会を重ねるごとに観客は増えていった。

――1.6%差の勝敗は本当に熱戦でした。それが、今日は0.2%差の決着も出ましたね。
野上 あの試合もすごかった。でも、今日の試合はどれも接戦でしたね。パーセンテージ以上に、勝負の流れがあっち行ってこっち行ってと、つねに揺れていて、どのタイミングでどちらのチームが状況を打破するかとか、そのきっかけをつかめるかどうかの一瞬で勝敗が変わる。どちらのチームが、3分間の集中力を保ち続けることができるかという勝負だったと思います。本当にどの試合もいい試合でしたね。……いやー、本当にすごかったです。ダメですね。あまり話すと、また泣きそうになります(笑)。

――決勝大会はもちろんどのチームも強かったのですが、決勝まで勝ち上がった、いかたまkidsとゆめいろBWI(近畿地区大会優勝チーム)は、流れをつかんだ印象がありました。
野上 そうですね。とくにイカたまkidsは昨日から一気に駆け上がっていったので、地区大会からの勢いもありましたし。各地区大会の優勝者を思い出すと、その地区大会の思い出が甦るんですよね。近畿地区大会の決勝でゆめいろBWIと戦ったA.I.Kidsも強く印象に残っていますし。中学生のチームで。

――あのクレバーなチャージャーがいる。
野上 そう、アロワナモールの裏の通路で接近戦で敵を倒した瞬間とか、カッコよかったですねー。

――いろいろ印象に残っていますよね。九州地区でカービィと呼ばれた男の子がいたり、東海地区でロングブラスターがヒールになったり(笑)。
野上 各地区ごとに、いろいろな人気選手が生まれたり、事件が起こったりしましたからね(笑)。

――そして、大会最後のイカ研究員さんの総括と、涙についてお聞きしたいなと。
野上 いやー、すみません。ちゃんとしゃべろうと思ったんですけど、ダメでしたね(苦笑)。

――あれはもらい泣きしました。
野上 じつは、今日は最初からずっと泣きそうだったんですけどね(笑)。あのステージの上に立ったら、選手や観客の皆さんがこちらを見ているわけじゃないですか。それを見ただけで、グッと来て。改めて、真剣に遊んでくださっている皆さんに支えられているなと、そういう想いがこみ上げて来てしまって。『どうぶつの森』を開発したときも感じたことですが、自分たちでゲームを作る以上、“こういう風に楽しんでほしい”という想定はあるんですが、お客さんはそれ以上に、「こういうものがあるんだったら、こう楽しもう」とか、自分たちで楽しみかたを作ってくださったりするんですよね。そういう皆さんの反応に乗っかっていった結果が、このスプラトゥーン甲子園だったり、シオカライブだったりするので、くり返しになりますが、本当にお客さんといっしょに歩ませていただいたと感じています。

――ユーザーさん主導の大会もいろいろ広がっているようですね。
野上 大会の開催やチームなどを作るユーザーさんがかなり増えたようなのですが、その先駆者として大きなチームを組んでいたのが.Regenだったそうです。その後、そういうチームがどんどん増えていって。そういった流れを見ると、『スプラトゥーン』は僕らの手を離れていっているような印象があるんです。昨日のシオカライブでも、大きな歓声をもらっている彼女たちを見ていたりすると、娘が結婚していくのを見守るような気分になって(笑)。阪口(阪口翼氏。本作のディレクター)も言っていたんですけど、僕らの手の届かないところに行ってしまった感じでしたね。最初にあのふたりを作ったときは、あくまでゲームのガイド役として作ったんですが、それがこんなに多くの方に認知していただいて、愛していただけるとは夢にも思いませんでした。

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シオカライブ2016 シオカラーズ_ファーストライブ

――あと、これは聞いておかなければいけないと思うのですが……。大会の総括で、コンテンツの配信について「もう少し何かができないかなと考え始めています」とお話されていましたね。
野上 これだけ盛り上げてくださったお客さんに、もう少し長く楽しんでもらいたいという気持ちがあるのは確かで、なんとかそれを形にできればと思っています。

――“お客さんのために何かをしたい”という想いを、これから形にできるかどうか、という状態でしょうか。
野上 そうですね。1月の配信でもともと予定していた追加コンテンツはすべて終わったので、これから先はまた改めて考えるという状態です

――では、それによって第2章が始まるかどうか。
野上 第2章はちょっと大げさすぎかも……(苦笑)。ただ、遊び続けてくださっているお客さんや、お年玉で買って遊んでくださったお客さんが、もうちょっと長く『スプラトゥーン』を楽しめるように、何かをしたいなと思っていますので。

――さっき、いかたまkidsとゆめいろBWIにインタビューをさせてもらったんですが、「甲子園の第2回あるんですよね!?」って言っていましたよ(笑)。
野上 うーん、まだ本当に何も決まっていませんが(苦笑)。『スプラトゥーン』好きの方々が集まれる場を作れたらいいなと、漠然と考えています。ただ、今回の甲子園も運がよかったというか、闘会議GPというイベントにジョイントさせてもらえたのが大きくて、ふつうならばあのトラック(イカス号)作って1台で全国を回っても、ここまで広がりませんからね。そういう御縁や奇跡が重なってできたことですから。

――とはいえ、その奇跡を呼び込むコンテンツを作られたわけですし。
野上 僕らとしては、お客さんもそうですが、いろいろといっしょにお仕事をしたりと、何かと関係していただいた方に、『スプラトゥーン』に取り組んでよかったと思ってもらえるというのが大きくて。“Sagakeen”も今日(1月31日)で終わりですが、佐賀県の方に「こんなに若い子がいっぱい来るのは初めてやわー」と喜んでもらえたことがうれしかったですし。こうやって、『スプラトゥーン』というコンテンツがいい効果を生んで、たくさんの方の胸に残っていってもらえれば、つぎにつながるかなと思っています。

――どんどん、いろいろな人へとつながって、その連鎖の先に……。
野上 何かがある……かもしれないと。ですから、今後も引き続き、応援していただきたいなと思っています。

――甲子園を見た方が、またハイカラシティに集まるでしょうし。
野上 そうですね。“スプラトゥーン最強小学生軍団決定トーナメント”などのイベントもありますし、それに参加した方やご覧になった方、イベントとは関係なく遊び続けている方、新しく入ってきてくださった方もいらっしゃるので、そういう人たちがいっしょになって遊んでいただければ、もっともっと大きなことにつながれるかなと思っています。

――期待しています! ありがとうございました。

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 アップデートにひと区切りがつき、スプラトゥーン甲子園が閉幕し、『スプラトゥーン』熱がひと段落した人もいるかもしれない。しかし、先日の任天堂の発表にあったように、1月に開催されたフェスは、国内だけで約69万人が参加し、最高参加人数を更新するなど、『スプラトゥーン』の勢いは増すばかりだ。発売(2015年5月)から約9ヵ月経つソフトが、これだけの人気を継続するのは、とても稀有なことだろう。そして、野上プロデューサーが考えているという、これからの“何か”が実現すれば、ハイカラシティにさらに人が集まるはずだ。多くの『スプラトゥーン』ファンと同じく、筆者も夢見るのは、その先にあるかもしれない続編。いつの日か続編が出ることを願って、そして、また今回以上に熱い甲子園が実現することを期待して、またハイカラシティでナワバリバトルに興じたい。

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