2015年は土台が整った年。2016年は、そこから一気に走っていく

 2015年の年末・年始商戦期、プレイステーション4が世界合計570万台以上の実売を達成。全世界の累計実売台数は3590万台を突破し、PlayStation Plus加入者数も大きく増加するなど、プレイステーションビジネスが勢いに乗っている(数字はソニー・コンピュータエンタテインメント調べ)。

 この勢いの中、2016年のプレイステーションは何を目指すのか。日本におけるプレイステーションビジネスの指揮を執る、ソニー・コンピュータエンタテインメントジャパンアジア(以下、SCEJA)の盛田厚プレジデントにお話をうかがった。
(聞き手:週刊ファミ通編集長 林克彦)
※本インタビューは、週刊ファミ通2016年1月21日増刊号に掲載されたものです。

2016年、プレイステーションは思いっきり走ります――SCEJA盛田厚プレジデントに新年の展望を訊く_01
ソニー・コンピュータエンタテインメントジャパンアジア
プレジデント
盛田 厚氏

PSビジネスを大きく拡大できた2015年

――PS4の国内累計販売台数がついに200万台を突破し(ファミ通調べ)、PS4の市場にはさらにブーストがかかっていくと思います。2015年は、その準備段階とも言える年でしたが、改めて振り返ってみて、いかがでしょうか。
盛田厚氏(以下、盛田) 2015年は、「絶対に達成しなければいけない」と考えていたことの大半は実現できたんじゃないかな、と思っています。そう思えるくらいの達成感がありますね。その目標はけっして容易なものではありませんでしたから。

――その“達成しなければならない”と思っていたことというのは、たとえば?
盛田 具体的に言いますと、まずはPS4市場の拡大です。2014年に発表した注目タイトルを発売して、E3(※1)や東京ゲームショウでは新しい大型タイトルを発表。本体の価格改定も行って、結果、PS4の市場を大きく伸ばせたと思っています。PlayStation Nowなどのネットワークサービスも拡大できました。PS Vitaについては、『マインクラフト』と本体のカラーバリエーションによって、子ども層にうまく訴求することができました。プレイステーションが、親子のコミュニケーションに貢献することも目指していたことのひとつでしたので、やりきれたな、と思っています。
※1 エレクトロニック・エンターテインメント・エキスポの略称。世界最大級のゲームの見本市。毎年6月にアメリカ・ロサンゼルスで開催される。

――とくに、PS4の価格改定は市場に大きな影響を与えたと思います。
盛田 プレイステーションのビジネスというのは、ハードの施策単体で動くものではなくて、ハードとソフトの施策が連動することで効果が生まれると思っています。大型タイトルが発売、または発表される時期が、ちょうど2015年の秋でしたので、それに合わせて価格を改定しました。いいタイミングで実施できたと思っています。

2016年、プレイステーションは思いっきり走ります――SCEJA盛田厚プレジデントに新年の展望を訊く_02
▲2015年9月15日に行われた発表会“SCEJA Press Conference 2015”にて、盛田プレジデントが、PS4(500GB)の国内における新価格を発表した。新規ユーザーの獲得を目指すため、2015年10月1日より、39980円[税抜](43178円[税込])から34980円[税抜](37778円[税込])に価格を改定。この5000円の値下げはPS4の売上に大きく貢献した。

――この秋には『メタルギア ソリッド V ファントムペイン』や『コール オブ デューティ ブラックオプスIII』が発売されましたが、マルチプラットフォームのタイトルの販売本数は、PS4版がPS3版を上回るようになりましたね。
盛田 大型タイトルが発売されると、そのタイトルを待っていた方々がPS4を買うことを決断してくださるので、ハードの売上が一気に上がるんですよね。価格改定の効果もあって、ひとつの指標である週間販売台数が、一段上がったな、と感じました。それから、日本ではオンラインマルチプレイを楽しまれる方が欧米に比べると少なかったのですが、2015年で飛躍的に増えました。

ゲーム体験のすばらしさは長いスパンで伝えていく

――2015年のプレイステーションの取り組みとしては、“できないことが、できるって、最高だ。”をテーマにしたキャンペーンも印象的でした。
盛田 我々は、PS4の拡大はもちろんですが、ゲームを文化として定着させることも目指しています。それから、ゲームだけではなくて、エンタテインメントと呼ばれるものは、すべてプレイステーションで楽しめるようにしたい。友だちや、親子で遊べるようにしたい。“みんなのプレイステーション”。それが、我々の目指すものだと思っているんですね。

――このキャンペーンは、その目標を達成するための施策ということですね。
盛田 そうですね。その目標を成し遂げるために、まずやらなければいけないと思ったのは、子どものころにゲームを遊んでいたけれど、大人になって遊ばなくなってしまった人たちに、“あのころ、ゲームは本当に楽しかったし、いま遊んでも楽しい”ということを伝えることです。すごく楽しくて、ワクワクして、感情が動く。“ゲームを遊ぶと、こんな世界が待っているんです”ということを、このキャンペーンで伝えたいと思っています。簡単に終わる取り組みではないと思っていますから、短期的ではなく、中期的に続けていくつもりです。

――腰を据えて取り組むおつもりなんですね。ゲームの楽しさを思い出した人たちに、ゲームに触ってもらって、最終的に購入してもらえるまで、根気よく続けていく、と。
盛田 ゲームに限るつもりはないんですけどね。ゲームとそのほかのエンタテインメントの境目はあいまいになっていますし。エンタテインメントによって、気持ちが動く。その経験を味わってもらえるように発信していきたいです。

――企業としては、“目先の利益”と言いますか、短期的な売上に目がいきがちになってしまう面もあると思うのですが、長く続けていくキャンペーンの実施に踏み切った理由を教えていただけますでしょうか。
盛田 短期で利益を出さなければいけないのはもちろんですが、そのことだけを考えていると、我々の大きな目標は達成できないと感じ、長い時間をかけてスタッフたちと議論を重ねて出たひとつの結論が、“できないことが、できるって、最高だ。”というキャンペーンなんです。アンディ(アンドリュー・ハウス氏。ソニー・コンピュータエンタテインメント代表取締役 社長 兼 グローバルCEO)も、この施策をサポートしてくれていますし、SCEJA全体で取り組んでいく覚悟です。