アクアプラス20年の歩みと今後の展望――下川直哉社長にインタビュー

アクアプラスの20年と今後について、同社代表取締役社長 下川直哉氏に話を訊いた。

●2016年は9月まで『二人の白皇』をスタッフ総動員で開発

 20周年を迎えたアクアプラス。同社は1994年、有限会社ユーオフィスとして設立。1997年に社名を現在のアクアプラスへと変更し、これまでPC向けにはアダルトゲーム、家庭用ゲーム機向けには『ToHeart』や『うたわれるもの』、『ティアーズ・トゥ・ティアラ』など、人気美少女ゲームシリーズを中心にリリースしてきた。2015年9月には、『うたわれるもの』の13年ぶりの続編『うたわれるもの 偽りの仮面』を発売。同年11月28日、29日には東京・両国国技館で20周年記念イベント“大アクアプラス祭”が開催された。そんなアクアプラスの20年と今後について、同社代表取締役社長 下川直哉氏に話を訊いた。 (聞き手:本誌編集長 林克彦)


プロフ用

アクアプラス 代表取締役社長
下川直哉氏
NAOYA SHIMOKAWA
(文中は下川)

※本インタビューは、週刊ファミ通2015年12月17日号に掲載されたものです。



■業務提携から2年――思い切った戦略も可能に

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――アクアプラス20周年おめでとうございます。まずは、20年を迎えた感想、20年の総括を最初にうかがえますか?

下川 本音で言うなら、「よく20年も持ったな」と(笑)。いや、もちろん潰れることを考えてやってはいませんが、振り返ると20年もゲーム作りをさせてもらえた、という驚きがあります。同人活動の延長のような感じで、仲間たちとゲームを作ろうと設立した会社が、20年目を迎えられたというのは、「なかなかやるじゃん」と思っています。正直なところ。

――20年の中での大きな転機としては、2013年10月に、ユメノソラホールディングスが設立され、同時にアクアプラスが同社の傘下に収まることが発表されました。

下川 20周年を迎えるにあたり、新しいつぎの20年に対して、長期戦略を考えたときに、当時の我々だけでは、作ったゲームをさらに多くのユーザーさんに広めていくノウハウや体力が不足していることを実感していました。今後さらに会社を大きくするためには、自分たちの中だけでは足りない能力を補う必要がある、と考えた結果の業務提携でした。

――その業務提携から2年が経ちましたが、振り返っていかがですか?

下川 成功だったと思います。やはりグループ会社というバックボーンがあれば、少々のリスクがあってもチャレンジできます。たとえば、9月に発売した『うたわれるもの 偽りの仮面』のようなタイトルは、ゲームの中身にいくら自信があっても中途半端なプロモーションでは失敗するタイプのものだと思うんです。そこで目一杯、プロモーション費用を投入したのですが、それができたのも、「失敗しても潰れることはないな」という安心感があったから。もし、控えめにやってしまっていたら、ひょっとすると失敗していたかもしれません。また、“とらのあな”という販売店舗側からユーザーさんの動向や生の声が私たちにダイレクトに伝わるということも、プロモーションをするに当たって、すごく参考になります。あと、とにかく感謝をしているのは、ウチのやりたいようにやらせてもらっているところですね。

――たしかに、以前のアクアプラスらしさがそのまま変わっていない印象を受けます。

下川 ユメノソラホールディングスの代表取締役を始め、皆さんが気を使ってくれていて、「アクアプラスのソフトをたくさんの人に広めるために、やれるだけのことはやるから遠慮なく言ってくれ」などと言ってもらえて感謝の気持ちしかありません。

――そうしたシナジーの効果でヒットにつながった『うたわれ』の13年ぶりの続編『偽りの仮面』ですが、下川社長自身も今後への手応えも感じたのでは?

下川 そうですね。世の中の多くのユーザーさんは、不条理なオチや悲しみのあるエンディングはあまり望んでおらず、基本的にはハッピーエンドであってほしいと願う傾向が強いと思うんです。ただ、『うたわれ』はそういう世界でなくて、ダメなものはダメ、辛いものは辛いという結論をきちんと見せていく作品だと思っています。発売前は、そこが評価されるのかという怖さはありました。ですが、概ね受け入れられたかな、と安堵しています。また、グラフィック、ストーリー、音楽というゲームの部分も、弊社が持てる力をすべて出し切った作品でした。そこをユーザーさんもきっちりと拾い上げて、評価してくださったのだと思っています。販売本数も目標は20万本においていましたが、概ね大満足と言いますか、大成功だと思います。弊社タイトルの累計販売本数で見た場合、PS4、PS3、PS Vita版を合算すると『偽りの仮面』は、初代プレイステーションで発売した『ToHeart』に次ぐ歴代2位の販売本数になっています。ダウンロード版も好調で、販売本数の約15%を占め、いまも週600~700本はダウンロードされています。

――まだまだ伸びそうですね。

下川 はい。うれしい限りです。しかも、『ToHeart』が発売された1999年とは時代が
違うじゃないですか。

――たしかにハードの普及台数も違います。

下川 この時代にパッケージソフトが歴代2位になるというのは、もう弊社の歴代ソフトの中ではダントツのヒットと言ってもいいでしょう。それだけ、ユーザーさんに期待されていたのかなと思うと、うれしい反面、つぎへのプレッシャーも感じますが(苦笑)。


■ときには採算度外視のゲーム作り。それが結果的にはプラスに

――この20年間、アクアプラスは『ToHeart』や『ティアーズ・トゥ・ティアラ』、『WHITE ALBUM』など、リリースするタイトルをヒットにつなげていて、打率が高い印象があるんです。下川さんご自身では、ヒット率が高い秘訣はどこにあるとお考えですか?

下川 社内から見たときと、社外の方から見たヒット率というのは少し違うと思うのですが、私からすればそこまで高いという印象はないです。やはり、なかには鳴かず飛ばずのタイトルもありましたし。ただ、我々としては、3年から5年ごとに10万本を狙えるタイトルを出したい、ユーザーさんの心に響くものを作りたい、という熱意は強く持っていいます。採算はあまり追求しない、という無茶なところがあって、販売本数の割にはヒットしたという認識が薄いところもあるのかもしれません。正直なところ、『偽りの仮面』の採算分岐点は12万本でしたので、Twitterで私が「10万本を超えました」とツイートしたとき、多くのユーザーさんからは「真っ黒やな」などと言われたのですが、じつはあの時点ではまだ赤字でした(笑)。

――制作期間が長かったですからね(笑)。

下川 プレイステーション2版『ToHeart2』も10万本販売したのですが赤字でした。その赤字は『XRATED』版(PCに移植したアダルト版)で回収できましたが。『偽りの仮面』に関しては、『XRATED』版は100%発売はしないタイトルですので、回収できてよかったですね(笑)。ただ、振り返ってみると、そういったソフトに限って、発売当初は回収できなくても、長いあいだ愛され、気がつくと採算分岐点を超えて黒字になり、弊社を代表するタイトルとなることがよくあります。

――タイトルが徐々に育っていったということなんですね。

下川 ですが、開発中はそれこそ開発スタッフも販売スタッフも経営側も、ギスギスですよ。「お前、こんなの80000本売れないと採算取れねえじゃねーか!」とか、「昨今、12万本売れないと採算が取れないタイトルなんて、会社潰れるぞ」とか、怒号が飛び交うほど(笑)。ただ、“こだわって作った”という表現はイヤなのですが、開発コストが肥大化してしまっても、苦労して作った分の“念”は詰まっているはずで、それをユーザーの皆さんにも感じ取っていただけているからこそ、一定の評価をしてくださり、徐々にタイトルが広まっていったのかなと。まあ、結果論なんですけどね、これは。

――ユーザーの心に響くものを作らないとダメだというポリシーがあると。

下川 そうですね。あとは、現場が楽しめるものを作らないとダメだ、という部分も大きいです。これをやったら絶対おもしろい、みたいなノリを各セクションのリーダーが持っている。「ここは金をかけるべきだ」とか、「採算は考えず、とりあえずやっちゃおう」というときのほうが結果がよかったり。それがソフトの中身の全体的なレベルを押し上げているような感じはしますね。