『Rez』という体験がVRでついに完成した!

 これまでさまざまなVRヘッドマウントディスプレイの記事を書く中で、しばしば目にしてきたのが「こういったVRで『Rez』を遊びたい!」といったコメント。音とビジュアルなど、複数の感覚が連動した体験“シナスタジア”(共感覚)をテーマにしたゲーム『Rez』は、もっともVR対応が期待されてきたタイトルのひとつだ。

 今年のPlayStation Experienceでエンハンス・ゲームズを率いる水口哲也氏によって発表された『Rez Infinite』は、まさにそんな『Rez』ファンの期待に応えた、PS4向けVRヘッドマウントディスプレイ“PSVR”に対応した新作だ。基調講演での発表時は、『Rez』の生みの親である水口氏自ら振動フィードバック付きの全身スーツ(シナスタジア・スーツ)を着込んで披露したド派手なパフォーマンスも話題を呼んだ。そんな本作を、なんと今回そのシナスタジア・スーツつきでプレイする貴重な機会を得たので、その模様をお伝えしよう。

VR対応こそが『Rez』の完成形! 視覚・聴覚・触覚が刺激される究極の共感覚体験を味わえる『Rez Infinite』体験リポート【PSX 2015】_04
▲水口氏とシナスタジア・スーツ。初公開時のデモでは、左側の振動フィードバックを仕込んだスーツの上に、右側のLEDのライティングを仕込んだスーツを着用していた。

当初不可能だったテーマに最新技術で再度挑む

 水口氏によると、実はオリジナル版『Rez』の開発当初からテーマのひとつとしてVRがあったそうなのだが、当時はそれを満足に実現できる技術やハードがなかったため断念。今回の『Rez Infinite』では、VR時代の到来を前にさまざまな環境が揃ったことで可能になった本来の構想を実現すべく、水口氏がアメリカに昨年立ち上げた新スタジオのエンハンス・ゲームズと、Rezオリジナル開発メンバーの1人、小寺攻氏の率いるモンスターズ社がタッグを組んで開発が行われている。

 ステージの構成などは基本的にオリジナル版を踏襲しつつ、グラフィック等を現在の技術やVRに合わせてリマスター。PSVRでプレイする際は快適なVR体験を提供するために120fpsでの動作を目標に開発が進められている(通常のディスプレイで遊ぶ際は1080Pで60fpsの安定動作)。その上で新コンテンツとして、最新の表現技術を使い、Rezの体験を拡張する、新たなエリア“Area X”も収録予定。まさにVR時代だからこそ形になったリメイクと言えるだろう。

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▲VRなしに、単に最新のリマスター版として遊ぶこともできるが、ぜひVRでやってみて欲しい!

 デモはPSVRのみをつけたパターンと、シナスタジア・スーツも身につけたパターンの2パターンでプレイした。まずは最初にPSVRのみでの体験について説明しよう。
 ゲーム本編はオリジナル版の三人称視点を踏襲しており、強制的にスクロールやカメラの方向が変わっていく演出もほぼそのまま。サイバー空間を進みながらロックオン攻撃で敵を倒していくというゲームプレイの基本は変わらない。しかし、『Rez』が本来持つ浮遊感や音楽とのシンクロ感にVRの没入感が加わると、その体験は別物。従来の『Rez』から体験としてのレイヤーが一段深くなっていて、自分がよりステージと一体化したかのような感覚が味わえる。
 ちなみにプレイする前は「VRでは強制的にスクロールが変えられると酔うのでは?」と思ったのだが、プレイ中は特に問題を感じず。このあたりは、一人称視点と比べると比較的酔いにくい三人称視点のVRにしているのがいいのかもしれない。

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▲視界が『Rez』のゲーム世界に入ったかのような体験はサイコー。しかし一人称視点ではなく、オリジナル版通り三人称視点と強制スクロールを踏襲しているのがユニーク。この画面でも、顔は左上を向いているにも関わらず、あくまでゲーム中の画面のスクロールは「進行方向右に出てきた敵を見るシーン」のまま。

 そして個人的に『Rez』の最高に気持ちいいポイントであるロックオン攻撃の爽快感が、VR化によってパワーアップしているのがうれしい。PSVR版では顔の向きでロックオンカーソルを動かせるようになっていて(左スティックでも移動可能)、ボタンを押しながら対象を見ることで敵をロックオンできる。この「見てロックオン」が思わず燃えるサイバー感で、半ば踊りながら敵を見ていくだけで、BGMのビートに合わせて「カッカカッカカッ」とパーカッションのようにテンポよくロックオンされていくのが絶妙に気持ちいい。

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▲「見てロックオン」が気持ちいい!

 実際遊んでみると、PSVRで遊ぶ『Rez Infinite』は、確かに水口氏の言うとおり、この形こそが本来の『Rez』と思わざるをえない、ファンなら絶対に体験すべき内容になっていると思う。この強烈さは正直、一度遊んでしまうとなかなかVRナシ版には後戻りできないぐらいだ。

専用スーツによる、さらに究極のRez体験

 ここで『Rez』の体験を語る上で忘れてはならないのが、振動だ。過去にはRez専用の振動体感装置(Trance Vibrator)が製作されるなど、振動によるシンクロは『Rez』やその後継作品にとってつねに重要な要素だった。そしてもちろん今回の『Rez Infinite』でも、振動要素の進化が検討されている。

 今回トライすることができたシナスタジア・スーツは、VRにおける『Rez』の理想を追求するために作られたプロトタイプ的なハードウェアで、スーツには新たな振動による表現を模索するべく全身26カ所に振動素子が埋め込まれている。着用してプレイすると、VRだけでなくゲームと連動した振動フィードバックによる“音の触感”も付け加えた、究極のRez体験ができるのだ。

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▲装着した見た目が未来すぎる!

 スーツの製作にあたっては、Perfumeのライブ演出なども手掛けるメディアアートの専門集団ライゾマティクス(Rhizomatiks)、そして水口氏が教鞭をとる慶應大学大学院(Keio Media Design)より、南澤孝太准教授率いるハプティクス(振動フィードバックで触覚を再現する)の研究チームが参加し、着用性から音色の違いをどう振動で再現するかというレベルまでこだわりぬいて開発されている。
 産学の研究成果を活かしたその効果は抜群で、このスーツを着てプレイすると、ベースドラムは足腰、スネアは肩肘あたりといった感じに、各エリアで流れるBGMのさまざまな音色が振動として全身を駆け巡る未知の体験ができる。ちょっとアブない発言に聞こえるかもしれないが、自分が音楽そのものになったような、本当に不思議な感覚だ。

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▲ゲームの処理と連動して振動の具合がMIDI信号で送られ、腰部から全身の振動素子に送られる。
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▲プレイしているあいだは、全身が音楽と振動で一体化。

 そんな感じに、PSVRとシナスタジア・スーツによって視覚、聴覚、触覚という3種類の感覚を『Rez』世界に没入させた異次元のプレイが終わった後は、「ようやく現実世界に帰ってきた」という雰囲気になるほど強烈だった。
 もう本当に最高の体験なのだが、残念ながら、シナスタジア・スーツ自体は幅広い体型の人でも着用できるように作ってあるものの、現状では製品化は未定である。実際の『Rez Infinite』での振動要素については、このプロトタイプから得られた知見を活用して、なんらかの形で取り入れていきたいとのこと。この異次元の体験からどう次世代の振動要素が盛り込まれるのか、期待して待ちたい。