日本の『WoT』にとって記念すべき大会が開幕!
2015年11月7日、ベルサール秋葉原にて開催された『World of Tanks』(以下、『WoT』)のオフライン大会“The Pacific Rumble”。
北米とアジア地域からトップクラスの実力を持つ2チームずつが参戦し、日本からもワイルドカード枠として1チームが参戦。賞金総額$100,000という、これまで日本で開催されてきた『WoT』イベントの中では、間違いなく最大級のe-sportsイベントだ。
公式大会では間もなくルール改正が行われるため、本大会は旧ルールで築き上げてきた集大成がもっとも輝く舞台とも言える。その節目の象徴として、大会の試合開始前には、エキシビジョンマッチとして中国のEL Gamingと北米のNoble eSportsの2チームが、最高ランクのTier Xの車両を用いて対戦をくり広げた(※)。
(※Tierとは、戦車のランクのこと。旧ルールではTier VIIIまでの制限があった)
エキシビジョンマッチ、しかもまだ公式大会では使われたことがないTier Xの車両ということで手探りに見える部分も多かったものの、片や現アジア地域首位、片や北米首位のチームなだけあり、新車両を用いた斬新な作戦を見せてくれた。
エキシビジョンマッチとは思えない、お互い非常に迅速な対応と正確無比な射撃、連携を駆使し、全8試合を4対4でタイブレークに持ち込むという展開からは、王者の貫録も垣間見えた。
このように接戦が発生しやすいのが、『WoT』公式戦の新ルールの特徴だ。ここで一度、今回の大会のルールを簡単におさらいしておこう。
・各チームともに車両は7両、1マッチの試合時間は7分。
・1マップにつき4マッチを行い、決勝以外は2マップ(8マッチ)5本先取、決勝は3マップ(12マッチ)7本先取で勝利となる。4対4や6対6となった場合、タイブレークとなりもう1マッチを行なって勝敗を決する。
・1マップにつき、各チームは攻撃側、防衛側を2回ずつ担当する。
・攻撃側はふたつある陣地のうち、片方を占領(CAP)すれば勝利。防衛側は時間切れまでCAPを妨害し続ければ勝利。
・相手チームの車両を全滅させても勝利。
車両数7での制限時間7分は、攻撃側にとってはゆっくりしていられない時間設定。通常のFPSなどとは異なり、『WoT』は砲の照準(レティクル)が収束し、命中弾を撃つために時間がかかるからだ。砲撃までの時間管理が重要なため、鈍重な戦車よりも足が速い軽・中戦車でのスピーディーな戦いがくり広げられることが多い。このため、持久戦よりも電撃的な強襲が多く見られることになり、少ないチャンスをものにできる各選手のプレイヤースキルが問われる。
防衛側としても、CAPをしている攻撃側の車両にダメージを与えることでCAP完了までのカウント数をリセットする必要があるため、CAPが攻撃側によるあぶり出しと分かっていても対応しなくてはならず、待ち続けることはできない。これらが絡み合い、普段の『WoT』とは異なるアグレッシブかつ見応えのある戦闘がくり広げられるのだ。
第1戦、日本の“Caren Tiger”がついに……!
エキシビジョンマッチが終わり、ついに“The Pacific Rumble”の本トーナメントが開始された。その第1戦で、早くも日本代表チームCaren Tigerと、2014年のアジア王者、韓国の雄KONGDOOのカードが実現した。
KONGDOOはCaren Tigerにとって、過去に公式戦で1回も勝利できたことのない、戦うたびに胸を借りてきた先生のような存在。日本での記念すべき大会、その第1戦で戦うにふさわしい相手だ。
その注目の1マップ目、HIMMELSDORF(ヒメルズドルフ)での1マッチ目で、IS-3やAMX 50 100、LTTB、AMX 12 tなどの定番戦車が並ぶなか、Caren Tigerはopelisk選手が快速戦車が入るべき枠にまさかのE25を選択。早くも会場をざわつかせてくれた。E25は足の速さや隠蔽率(隠れやすさ)、ダメージ効率に優れてはいるものの、LTTBやAMX 12 tなどのような働きが十分にできるとは思えない車両だ。
いざ開戦すると、防衛側ながらopelisk選手はE25を初動で敵陣近くまで偵察車両のように差し込む。このE25は早めに落とされてしまったものの、KONGDOOが仕掛けたこのマップで定番の8ラインからのラッシュをうまく挟み込み、ダメージの応酬で優位に立って1本先取に見事成功した。
その後も防衛側の2マッチ目で、opelisk選手はE25を選択。対してKONGDOOはここからIS-3を4両という、重量編成で打って出る。E25は1マッチ目と異なって従来の隠蔽率を活かした様子見に徹したが、陣地周辺の撃ち合いはKONGDOOに軍配が上がる。その後3マッチ、4マッチは定番の編成で互いに1本ずつ取って、1マップ目は2-2で終了となった。
続く2マップ目はLAKEVILLE(湖の村)。中央の大きな湖を挟み、東に障害物の多い入り組んだ市街地、西に快速戦車でないと迅速な突破が難しい丘陵地帯が広がっている。どちらのルートを主軸にするか、読み合いが重要なマップだ。
5マッチと6マッチ目、定番のIS-3を4両の編成を組んだ攻撃側のCaren Tigerに対して、KONGDOOは砲塔周りが固く丘陵地帯に強いT32を1両投入。丘陵側を固めることを匂わせてゆさぶりをかける。
結果としては、5マッチ目は東西に分散していたKONGDOOに対し、Caren Tigerは市街地をIS-3で重点的に制圧。湖の横、マップ中央の細道に陣取った軽戦車59-16の見事なフォローもあってCaren Tigerが勝利。6マッチ目は早々に59-16を狩られてしまうものの、快速のT-54 ltwt.と重火力のIS-3を中心としたクロスファイアの連携がしっかりと決まり、勝利。4-2のリーチへと持ち込んだ。
そして注目のCaren Tigerが防衛側となっての7マッチ目。ここでopelisk選手は「見えない敵にも当てる」と称される自走砲、その精度と連射速度で愛される(憎まれる?)FV304を投入し、ふたたび会場をざわめかせてくれた。
攻撃側のKONGDOOはT-54 ltwt.を中心とした快速編成したため、自走砲が活躍できる状況がなかなか生まれない。さらにKONGDOOは市街地での戦いをその確かな技術と車両配分で制し、4-3と切り返す。
8マッチ目はダメージ交換どころか1両ずつ車両をつぶし合う1-1交換が続く派手な打撃戦となり、最後に残ったopelisk選手のAMX 12 tは、相手の最後の1両、T-54 ltwt.に敗れる。これで4-4となってタイブレーク、KONGDOOがその風格を見せつけた。
こうして迎えた最後の9マッチ目、マップはMINES(鉱山)。中央の大きな丘からの狙撃と、そこからの滑落を活かした奇襲が可能なマップだ。奇襲を得意とするアジア勢の両チームからは何が飛び出すか分からないマップである。
ここで攻撃側のKONGDOOは自走砲M44を1両投入。Caren Tiger側はIS-3を4両投入して守りを固めつつ、ふたたびE25が登場。M44の執拗な攻撃でIS-3を抑えられてしまうものの、軽戦車で致命打を受ける前にM44を処理し、その後は撃ち合いでしっかりと耐久力を削っていく。
全車両が生き残った状態で優勢を保ちつつ、最後にはE25が突貫! 盾として主力のIS-3を守ってKONGDOO最後のIS-3の撃破をサポートした。バランスを大きくCaren Tiger側に傾け、逆転の芽を摘むことにも成功。ついにKONGDOOに対しての、念願の公式戦での初勝利が実現した。
アジア王者 vs 北米ドリームチーム、そのレベルの高さ
劇的なCaren Tiger勝利の興奮冷めやらぬうちに、第2戦がスタート。アジア地域の現チャンピオンチームであり、すでに世界大会でも上位入賞を果たしてその実力を見せつけている中国のEL Gamingと、恐るべき実力者たちが集まり、シーズン中まだ1敗しかしていないという北米のドリームチームHigh Woltage Caballersの対戦だ。このカードの勝者が、決勝戦への切符を最初に掴むことになる。
その対戦は、まさに一進一退を絵に描いたような、接戦に次ぐ接戦となった。1マップ目のHIMMELSDORFでは、EL GamingがT-54 ltwt.などを投入して高速攻撃を展開し、High Woltage Caballersの防御を圧倒。だがHigh Woltage Caballersも攻撃側に回ると、味方のT37を盾にするというすさまじい戦法でEL Gamingを翻弄した。
2マップ目のRUINBERG(ルインベルク)では、CAPを目指すHigh Woltage Caballersを丁寧に討ち取っていくEL Gaming。そして逆にEL Gamingの攻勢を個々の撃ち合いで制していくHigh Woltage Caballersと、お互いの攻撃をいなす形で4-4のタイブレークへともつれ込む。
EL Gamingは集団で一気にラッシュをかける際の強さ、そしてそれに移行する判断の速さと足並みが即座に揃う統率力が際立つものの、“High Woltage Caballers”はとにかく各選手個人の技量が高く、少数同士の撃ち合いとなると圧倒的な強さを発揮した。集団と個人、対照的な強みを持つチーム同士のぶつかり合いは、いつどう転ぶかまったく予想がつかず、非常に見応えがあった。
そうして迎えた9マッチ目、マップはLAKEVILLE(湖の村)。両チームともにIS-3を2両投入したところで、防衛側のHigh Woltage CaballersがT-54 ltwt.を3両で機動力を確保しつつT32とT37を投入して守りを固め、攻撃側のEL GamingはT-54 ltwt.を2両に抑えてAMX 50 100、AMX 13 90、T21を揃え、攻撃を重視した布陣となった。
この攻撃的布陣が見事に発揮され、EL Gamingのまるで全車両がひとつの生きもののように思える集団ラッシュが防衛ラインを削り取って見事に勝利。EL Gamingが決勝戦へと駒を進めることとなった。