スパイク・チュンソフトが考える今後の戦略と見通しとは?

 『ダンガンロンパ』シリーズや『喧嘩番長』シリーズなどを発売してきたスパイクと、『不思議のダンジョン』シリーズや多くのサウンドノベルを発売してきたチュンソフトという、超個性的な2社が合併して、2012年4月にスタートしたスパイク・チュンソフト。合併以降も、既存の人気シリーズの展開はもちろん、『不思議のダンジョン』シリーズと他社のIP(知的財産)とのコラボを実施したり、トライエースとタッグを組み、完全新作『イグジストアーカイヴ -The Other Side of the Sky-』を発表したりするなど、精力的な活動を続けている。さらに今年は、以前より注力してきた海外のローカライズ作品の中から、『ウィッチャー3 ワイルドハント』がヒットを記録したことも見逃せない。そこで今回は、個性的集団をけん引する櫻井光俊氏に、2015年前半を振り返ってもらいつつ、スパイク・チュンソフトが考える今後の戦略や見通しについて聞いた。
(聞き手:週刊ファミ通編集長 林克彦)
※この記事は、週刊ファミ通10月15日増刊号(2015年10月1日発売)に掲載されたものと同内容です。


すぐれた“目利き”で『ウィッチャー3』が大ヒット

新境地を切り拓く原動力はプロデュース力と攻めの姿勢――スパイク・チュンソフト 櫻井光俊氏に聞く【ゲームメーカー新世代戦略】_01
▲スパイク・チュンソフト
代表取締役社長
櫻井 光俊氏

――2015年も多彩なタイトルをリリースされ、アグレッシブに攻めている印象があります。2015年のここまでを振り返って、印象的なトピックはありますか?
櫻井光俊氏(以下、櫻井) やはり印象的なのは、『ウィッチャー3 ワイルドハント』が成功したことです。ゲーム業界の方やゲームファンの方ならご存知だと思いますが、前作『ウィッチャー2』も2012年に弊社から発売しています。3年ほど前の“gamescom”だったと思うのですが、『ウィッチャー2』を開発していたCD PROJEKT REDのスタッフと会いました。当時はXbox 360版しか制作していなかったのですが、プレイステーション3版も作ってほしい、そして両機種版を日本で販売したいと提案しました。いわゆる“洋ゲー”を発売する場合は、完成したものを見せてもらい、日本でも売れそうならローカライズをして販売する……という手順を踏むのがふつうなので、それまではそういった提案をすることはありませんでした。でも『ウィッチャー』の場合、開発会社が若くて、可能性があると感じたんです。彼らは、それから半年以上かけてPS3版の開発をしてくれたのですが、PCベースだったこともあって、最終的にはPS3版の開発は断念することになりました。しかし、ソフトの出来がよかったのはもちろん、そうやってがんばってくれた開発陣に応えようと、日本でのXbox 360版の発売に踏み切りました

――『ウィッチャー2』のころから、そういった経緯があったのですね。
櫻井 けっきょく赤字だったのですが(笑)、そのときのがんばりが『ウィッチャー3』へとつながっています。CD PROJEKT REDも弊社のことを気にしてくれていて、早い段階で『ウィッチャー3』を見せてくれました。思い入れのあるシリーズ、そして思い入れのある開発会社だったので、僕としては『ウィッチャー3』がこうして成功したのは本当にうれしいんですよ。『ウィッチャー3』は世界同時発売を目指していたのですが、ローカライズの作業もありますから、通常の工程では日本での同時発売は間に合いません。そこで、弊社のローカライズ担当のスタッフが、CD PROJEKT REDがあるポーランドに2、3ヵ月滞在して作業をしました。英語ででき上がってくるものを、その場で日本語に翻訳して、ラインに組み込んで、その場でデバック作業をするという(笑)。ふつうは、開発現場に外部のスタッフを入れるなんてことは、まずありません。それまでの信頼関係があればこそだと思っています。

――『ウィッチャー』シリーズのどこに魅力を感じていたのですか?
櫻井 弊社の海外グループから「ぜひやりたい」という強い要望があったことも要因ですし、『ウィッチャー3』を見たときに、ただ単純に「プレイしてみたい」と思ったんです。弊社で発売するタイトルについては、社内の定例会議でジャッジするわけですが、個人的にはあまりRPGはプレイしないんですよ(笑)。しかし、実際に遊んでみると本当におもしろかった。最終的な判断は、直感やこれまでの経験が重要になりますね。

――いわゆる“目利き”ですね。
櫻井 “目利き”をする部署のスタッフが推薦してきたタイトルを、冷静に判断して、成功するのかどうか見極める必要があります。ゲーム会社の社長というのは、プロデューサーだと思っています。作品を選別し、開発のための資金を調達し、いいスタッフを揃えて作品を完成させ、商業的にも成功させて、つぎの作品へとつなげるわけです。自分にはプロデューサーとしての長い経験があるので、多少は役に立っているのではないでしょうか。

――御社は“目利き”やプロデュースがとてもうまくいっていると感じます。たとえば、『不思議のクロニクル 振リ返リマセン勝ツマデハ』は、昨年“BitSummit 2014”の会場で“目利き”をしてきたわけですよね?
櫻井 そうですね。会社を続けていくためには、黒字にするというミッションがあります。それを大前提に、世の中の人が何に興味を持っているかをキチンと調べて、ゲームとしてうまく汲み取れていればいい。スタッフが優秀ですから、自分が思ってもいないようなことを提案してくることもありますし、おもしろいタイトルも探してきます。そういった面では、スタッフの成長を感じますね。

――確かに目のつけどころがいいですよね。2013年に発売した『テラリア』もそうでした。
櫻井 ありがとうございます。『テラリア』はまったくのノーマークで、最初は「これは本当に売れるの?」とちょっと疑問だったのですが(笑)、「おもしろそうだからやろうか!」という結論になりました。それから、弊社の特徴のひとつに“スピード感”があります。何度も会議ばかりしても仕方ないと思いますし、やりたいと思っているスタッフの熱意と、マーケティング面でいけるというバランスが重要で、その判断がとても早いのだと思います。たとえば、今年発売した『ホットライン マイアミ』はあのレトロ風のグラフィックですから、「これでいいの?」という意見も社内には確かにありましたが、海外グループの担当者の「これがいいんですよ!」という熱意に、「じゃあ、いいか」と(笑)。何もしないと何も起こらないし、ある程度の範囲になりますが、その中で“やれることはやる”と。

――ちなみに、今年のこれまでを採点すると?
櫻井 70~80点でしょうか。今年の前半はうまくいかなかったタイトルもありますが、『ウィッチャー3』、『不思議のダンジョン 風来のシレン5 plus フォーチュンタワーと運命のダイス』などは成功でした。それから『喧嘩番長6~ソウル&ブラッド~』は、ちょっと物足りなかったのですが、そこからいろいろと対策を考えて、その結果が『喧嘩番長 乙女』になりました(笑)。『喧嘩番長』のプロデューサーの渡辺(一弘氏)とも、けんけんごうごうの話し合いをしましたが、最終的には「やろう」と(笑)。まだ発売していないので何とも言えませんが、話題性も高いですし、成功するのではないかと期待しています。


<TOPIC(1)>目のつけどころが違う!? スパイク・チュンソフトの“目利き力”
 海外のタイトルを積極的にローカライズしているのも同社の特徴だ。なかでも5月に発売した『ウィッチャー3 ワイルドハント』は、PS4版が13万本を超える販売本数を記録(※ファミ通調べ)し、ファミ通が発表している週間販売本数のランキングでも1位を記録するなど、大きな成功を収めたのは記憶に新しいところ。ほかにも、『テラリア』や『セインツロウ』シリーズ、『Dragon Age』シリーズ、『デッドアイランド』シリーズなど、“洋ゲー”好きなら必ず同社にお世話になっているはず。

新境地を切り拓く原動力はプロデュース力と攻めの姿勢――スパイク・チュンソフト 櫻井光俊氏に聞く【ゲームメーカー新世代戦略】_02
新境地を切り拓く原動力はプロデュース力と攻めの姿勢――スパイク・チュンソフト 櫻井光俊氏に聞く【ゲームメーカー新世代戦略】_03
▲ウィッチャー3 ワイルドハント(PS4/Xbox One)
▲テラリア(PS Vita/PS4/PS3)