福岡で若手クリエイターを発掘・育成

地方都市での3DCG制作の可能性とは? フロム・ソフトウェア 福岡スタジオの開設理由が語られたセッションをリポート_01

 2015年10月4日、CGWORLDと“福岡クリエイティブキャンプ”とのコラボイベント“CGWORLD CREATIVE MEETING”にて、フロム・ソフトウェア専務取締役・竹内将典氏と、空気株式会社代表取締役社長・木綿達史氏によるセッション“注目の福岡進出企業が語る、地方都市での3DCG制作の可能性とは”が行われた。その模様をリポート。

 先月、ゲーム用3DCGアセット制作を中心とした“福岡スタジオ”の開設を発表したフロム・ソフトウェア。東京本社と一体でコンテンツ開発を行い、福岡市とその周辺エリアが持つ高いポテンシャル――若い力、コンパクトシティにおける豊かな生活環境、そして東京からのアクセスがよいことなどが、より高い品質と創造性を生み出す開発基盤の構築に寄与できると期待している。今回のセッションでは、福岡ゲーム産業振興機構など、さまざまなプロジェクトにより盛り上がりを見せている福岡市について、なぜ福岡へスタジオを開設したのかが明かされた。

 講演に先立ち、福岡市経済観光文化局、創業・立地推進部部長の駒田浩良さん、同じく創業・立地推進部の内田沙弥香さんが登壇。福岡市が進めている、福岡クリエイティブキャンプについて説明してくれた。
 福岡クリエイティブキャンプ2015(FCC)は、おもに首都圏で活躍しているIT・デジタルコンテンツなどの開発経験者(クリエイティブ人材)の福岡市内企業へのU/Iターン転職を応援するために、福岡市が主催し、マイナビが受託・運営しているプロジェクト。本プロジェクトには、ゲームやCG・映像系、Web制作やシステム開発の企業が参加している(ゲーム関連参加企業:ガンバリオン、サイバーコネクトツー、レベルファイブ、フロム・ソフトウェア)。そういった企業への転職を検討している人に、移住資金・転職活動・生活といった面でさまざまなサポートをするのがFCCだ。
 内田さんは、FCCのメリットとして、県外から移住を伴って福岡市のクリエイティブ企業に就職した人へ、応援金として40万円の寄付、企業紹介や職場体験などの転職サポートを無償でサービス、移住後もフォローを行うプログラムが用意されているという3点を上げ、「このあとのセッションを通して、少しでも福岡へ興味を持ってほしい」と述べた。

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▲内田沙弥香さん(右)、駒田浩良さん(左)

 続いてセッションでは、フロム・ソフトウェア専務取締役・竹内将典氏と、空気株式会社代表取締役社長・木綿達史氏、モデレータとしてCGWORLD編集長・沼倉有人氏が登壇。「注目の福岡進出企業が語る、地方都市での3DCG制作の可能性とは」を大きなテーマとし、ここ数年東京都を中心とした首都圏以外に拠点を設けるCGプロダクションやゲーム会社が増加しており、福岡においても同様にここ数年で進出している企業が多い中、いままさに福岡スタジオ設立を発表したばかりのゲーム会社フロム・ソフトウェアの竹内氏に、なぜいま、福岡なのか?、地方都市での3DCG制作の可能性を、テーマごとに語った。

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▲フロム・ソフトウェア専務取締役・竹内将典氏(右)、空気株式会社代表取締役社長・木綿達史氏(左)

●福岡スタジオ設立の理由
 まずはじめにフロム・ソフトウェア“福岡スタジオ”開設についての話題に。フロム・ソフトウェアが東京以外の拠点に進出するのは今回が初めてとなるが、なぜ今回福岡への設立を決めたのかについて語られた。
 現在、家庭用ゲームソフトはフォトリアルな映像が必要となっている。そのCG制作には非常に多くの人手が必要とされる中、フロム・ソフトウェアではクリエイターを探すのに長期にわたって苦労していたと竹内氏は言う。そういった問題の解決策として福岡がよい環境であると決定し、スタジオ設立へと至ったとのこと。
 ではなぜ福岡を選んだのかについて竹内氏は、「東京の近くに出す理由はない。最近は海外にスタジオを設立する例も多いし、人材を探す条件として、福岡が一番よい条件だった」と語った。

 それに対して木綿氏は、「最近は福岡は元気があって良いと言われる」とコメントし、レベルファイブやガンバリオンなど、もともと福岡を拠点としていた会社がいくつかあるのが福岡スタジオ設立決定に至ったのか? と竹内氏へ質問。竹内氏はそれに対して、「何もない所に行くのは難しいので、それが理由のひとつにはなった。ただ一番大きな決め手となったのはゲームの作り手の世代が30代~40代が中心になってきているいま、若い世代がたくさんいるところが理想」とし、日本全体は高齢化社会になっているが細かく候補になった都市を調べたところ、福岡は若い世代が増えている傾向であることが分かり、“将来に渡って”という条件としては福岡が最適だったと述べた。ちなみに札幌も上記のような条件で候補にあがったのだが、人口が増える年代が50代以降だったので見送る結果に。海外のベトナムなども年齢層が理想的な人口ピラミッド(年齢ごとの人口を表したグラフ)だったが、言葉によるコミュニケーションが円滑に進まない可能性があるとして、最終的に福岡へのスタジオ設立が決定したとのことだ。
 また、福岡には3DCG制作を専攻・課程としている学校がいくつかあり、そういった所から優秀な人材が出てくる体制があるとのこと。そこで3DCG製作を学んだ人材は、福岡に留まらず、大阪、東京へ進出している人が大半だが、「それはそれでもったいないのでは」と竹内氏は指摘する。それに対して木綿は石川から福岡へ就職した自分を例に上げ、「男子はやっぱり田舎から出たい傾向にある(笑)」とコメント。女性はあまり東京などへ上京することは少ないが、男性は都心部へ就職する例が多いと述べた。

●人材で期待していること
 続いて、福岡でどのような人材を求めているのかについて竹内氏は、「職人気質なところがゲーム製作には求められるので、粘り強く製作できる人がよい」とのこと。福岡では工学系の大学があり、幅広い人材が多く獲得できることを期待しているそうだ。
 木綿氏は、ほかの地方都市に比べると人材は厚いが、飛び抜けた人材はやはり都市部へ進出する傾向が強いとし、「そういった人材は福岡だけでは物足りないかも知れない」と述べた。
 また3DCGは、プログラムなどの工学系とグラフィック面と芸術面が両立した技術であるが、福岡は工学系と芸術系の学校があるのでどちらにも興味をもっている人材が多いのではないかと竹内氏は言う。木綿氏は、「スペシャリストは多くはないが、仕事をひとつのことに専念することはあまりなく、兼任することが多いので、それゆえにふたつの作業を同時にこなすことによって器用で特殊な能力をもっている人は多い」と述べた。

 逆に都市部で活躍しているU/Iターンを対象とした人材(クリエイター)について竹内氏は、都市部で揉まれて育ったクリエイターはタフに鍛えられているが、福岡はまだその面では弱いため、徐々に切瑳琢磨できるステージをなるべく早めに作り上げることが必要とのこと。東京など都市部で活躍しているクリエイターが、福岡の若いクリエイターへその精神を受け継いでいくというような、そういった都市部で活躍しているクリエイターが福岡には必要ではないかと見解を述べた。
 それに対して木綿氏は、「東京で仕事することはとてもよい刺激になるし、福岡などはやたら飲み会も多くてのんびりしているけど、東京で仕事をしていたクリエイターと一緒に仕事すると発見できる点や勉強できる点があり、お互いよいところがあって相乗効果も得られる。交わることが大事だ」とコメントした。

 話題は福岡で活躍する女性のクリエイターについてへ。空気株式会社は昨年5名の女性クリエイターが増えているが、対してフロム・ソフトウェアは「暗くてドロドロしたり、油くさいゲームを作っているからか95%は男性社員で構成されている(笑)」とのこと。しかし福岡スタジオ開設にあたって竹内氏は、「女性は細やかな気遣いができる傾向がある。3DCGはクオリティアップ作業は細かい作業を地道に作業していくことが多いので女性の力が発揮できるのではないか」と、女性スタッフの活躍を期待していた。
 また、「福岡は女性が綺麗だとよく聞く」とモデレーターの沼倉氏が述べると、木綿氏は「本当かわいい子が多い(笑)。女性が増えることによって男性陣のモチベーションや仕事の効率があがった」とコメントし、また婚活にも期待できる場所だとアピールしていた。

●環境面でのメリット
 福岡は年齢人口割合がよいと上げられたが、環境面ではどうなのか? それについて木綿氏は、近くに海も山もあり休日は自然を満喫できるとアピール。家賃や食費については、東京・大阪より比較的安く済むという。竹内氏は東京と福岡の生活環境の違いについて、「東京は人が多すぎる。電車も混雑して車も渋滞していたり、そういった意味でのストレスは福岡は比較的少ないですね。このような精神的ストレスは健康面に影響をおよぼすが、福岡ではゆったり過ごすことができる」とコメントした。

 また交通面では、福岡空港から博多駅へ約10分ほどで移動できるアクセスのよさを例にあげ、東京から大阪に行くより、福岡へ移動するほうが早く移動できるので両都市間のアクセスがしやすい環境であるという。さらに自宅から職場までの距離も近く、木綿氏の職場では自転車通勤者が多いとのこと。15分ほどで行き来できる距離とのことで、「あまり近過ぎて、自転車でのトレーニングにならない」といい、会場の笑いを誘っていた。

●今後の課題
 福岡で活躍するうえでの今後の課題として、竹内氏はネットワークのインフラが十分整っていないと指摘する。ギガバイトの送受信なら従来のインフラで十分だが、ゲーム用3DCGアセットとなるとテラバイトになるので、送受信が少し心もとないとのこと。木綿氏は、福岡ではクリエイティブ系のイベントがなかなか実施されないことや、福岡が近年注目されているが、この話題がブームという一過性のものではなく、“日本のクリエイティブ産業が活発な都市”として発展できるように「我々もまだまだ頑張らないといけない」と強調。10月に九州CEDECが開催されることに対しても、「少しずつ講演イベントは増えているが、東京に比べると圧倒的に少ない」と指摘し、よい人材がだけではなく、ネットワーク環境やイベントの重要性を語った。

 最後に、今後の展開について竹内氏は、「できるだけスタジオの人数を3年で30人体制まで増やしたい」と述べ、今年から募集を開始しておりスタジオの稼動は年明けを予定しているとのこと。年10名を雇用するハードなスケジュールとなるが、頑張っていきたいと意気込みを見せた。木綿氏は、「広告の仕事が多く、受注されて製作しているスタイルが多いが、今後は自社コンテンツも作って広めていきたい」、「一過性の盛り上がりではなく持続的に福岡を盛り上げていきたい」とコメントした。

 フロム・ソフトウェアの福岡スタジオ設立でますます注目度が高くなった福岡。今後の展開・発展にぜひ注目してほしい。