オープンワールドをさまよう主人公のマックス

 『バトルフィールド』や『スター・ウォーズ バトルフロント』を開発しているエレクトロニック・アーツ傘下のDICEや、世界的な大ヒットを記録している『Minecraft』のMojangなど、スウェーデンは密かなゲーム大国と言えるのかもしれない。今回紹介するAvalanche Studios(アバランチスタジオ)も、スウェーデンに本社を構えるゲームメーカーの1社。『Just Couse』シリーズなどでおなじみの同社は、高い開発力を持って知られ、つい最近ではスクウェア・エニックスの『ファイナルファンタジーXV』の開発に技術協力していることが発表され、注目を集めている。

 そんなアバランチスタジオの最新作がワーナー エンターテイメントから2015年10月1日に発売予定のプレイステーション4/Xbox One用ソフト『マッドマックス』だ。言うまでもなく、ゲームのベースになっているのは、1979年に第1作目が公開されるや、世界中から大絶賛を浴びた、ジョージ・ミラー監督による映画『マッドマックス』シリーズ。今年公開された、シリーズ最新作『マッドマックス 怒りのデス・ロード』の評価も高く、タイミング的には極めてタイムリーなゲーム化と言える。ただし、本作は、“映画のゲーム化”というわけではない。映画の世界観をモチーフとしつつも、ゲーム独自のストーリーが展開されるのだ。

『マッドマックス』の世界観だからこそ実現し得た、究極のオープンワールド【アバランチスタジオ訪問記・前編】_04

 『マッドマックス』をゲーム化するにあたり、アバランチスタジオが用意した舞台はオープンワールド。これは『マッドマックス』だからオープンワールドを用意したというわけではなくて、むしろ逆。つまり、オープンワールドに深いこだわりを持つアバランチスタジオだからこそ、それに最適に題材として『マッドマックス』を選んだというべきだが、まさに最高の組み合わせ。オープンワールドで『マッドマックス』が遊べるなんて、ワクワクしないほうが無理というものだろう。そんなアバランチスタジオスタジオのスタジオツアーが行われるということで、記者が勇んでスウェーデン・ストックホルムに飛んだのは、7月上旬のことだ。

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 アバランチスタジオがあるのは、ストックホルムの中心地(ではないかと想定される)にある小洒落たビル。近くにはDICEもあるそうで、「なぜか、ストックホルムのゲーム業界は、数ブロックの範囲内に密集している」とのこと。ちなみに、記者はスタジオツアーの初っ端からアバランチスタジオからのおもってなしを受けていた。取材日当日、「いよいよアバランチスタジオの取材だ!」と気合を入れながら、ホテルのロビーまで降りていくと、とんでもないものが待ち構えていたのだ。そう、ゲームでのマックスの愛車となる“マグナム・オプス”。どうやらアバランチスタジオでは、ゲームのプロモーションのために“マグナム・オプス”を作ったようで、「日本からわざわざ来たのだから……」ということで、特別にホテルからアバランチスタジオのオフィスまで、“マグナム・オプス”で送迎してもらえることになったのだ。こんなステキなおもてなしに、記者のテンションが一気にマックスになってしまったのは言うまでもない。

 この“マグナム・オプス”、実際に試乗してみると、なかなかの再現ぶり。記者はクルマにあまり詳しくないので、ベースになったのはどのクルマなのか正直わからなかったが、細部に至るまでのこだわりっぷりには感心。「たぶん、日本だと道路交通法とかに引っかかって走れないだろうなあ……」とか思いつつ、アバランチスタジオまでのしばしの道のりを満喫したのでした。見た目からなんとなく予想がつく通り、正直あまり乗り心地はよくないリアル版“マグナム・オプス”、さらにすさまじいのが音。あまりの迫力の排気音は、「これはいっそ近所迷惑なんじゃ!?  少なくともこんなにも風光明媚なスウェーデンには似つかわしくないなあ」と、心配になるほど。そんな騒音に注意を喚起されてか、道行くスウェーデンの皆さんがスマホを構えて写真を撮ることいったら。まあ、これはこれでプロモーションなのかしら……という感じでした。ちなみに、この“マグナム・オプス”スピードはあまり出ないそうです。

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▲取材陣からアツい視線を浴びまくった“マグナム・オプス”。
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▲クリストファー・サンドバーグ氏。

 さて、無事アバランチスタジオのオフィスに着いた記者たちを出迎えてくれたのは、同社の共同創業者にして、チーフ・クリエイティブ・ディレクターのクリストファー・サンドバーグ氏。サンドバーグ氏は、アバランチスタジオを設立した理由を「ゲームをひたすら愛しているから」と説明。2003年の創業以降、そんな初心を忘れずに、なるべくシンプルな形で運営することを心掛けて邁進してきたというから、いかにゲーム作りに愛を注いでいるかがわかる。

 おつぎは、『マッドマックス』のシニアプロデューサーを担当するジョン・フラー氏が登壇し、ストーリーの導入部を説明してくれた。本作の舞台となるのは、近未来の荒廃した荒野ウェイストランド。ある日マックスは地域を牛耳るボス、スクロタスが率いる謎の武装集団“ウォー・ボーイズ”に遭遇し、愛車・インターセプターを奪われてしまう。“ウォー・ボーイズ”に襲われるという出だしは映画マッドマックス 怒りのデス・ロード』と共通しているが、ゲーム版はそこからが異なる。置き去りにされたマックスは、インターセプターに勝るとも劣らない戦闘マシンを作り上げ、スクロタスの勢力圏から脱出を図ることになるのだ。ジョン・フラー氏により明かされた、マックスの心の軌跡が興味深かった。「彼(マックス)は、人と親しくなる度に悲劇を招くため、人間との接触を避けています。どこででも構わないので、平和に暮らしたいだけなのです」という。つまり“脱出”が、本作におけるマックスの「究極のゴール」(フラー氏)となるわけだ。

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▲本作でマックスと対峙することになるスクロタス。

 そんな本作において、決して欠かすことのできない“パートナー”がいる。ウェイストランドの修理工のチャムバケットだ。チャムバケットは、ゲームの序盤から登場し、ときに“マグナム・オプス”のカスタマイズの際はアドバイスをし、ときにマックスがほかのクルマに乗って荒野を疾走すれば、“マグナム・オプス”を運転してマックスの後を追いかけ……と、影に日向にとマックスをサポートしてくれる。実際のところ、このチャムバケットという存在が、本作とって大きなアクセントとなっていることだけは間違いない。荒野での孤独な戦いになりがちな本作において、ときに茶々を入れたりしてくれるチャムバケットの存在は、ゲームプレイにおける“彩り”となっているのだ。いかに、チャムバケットが少々ぶっ飛んだ存在であるとしても。仲間や友だちの存在が心強いものであることは、現実生活もゲーム内生活も同様のようだ。