艦船作成に必要な情報量はケタ違い
2015年9月20日まで千葉・幕張メッセにて開催中の、東京ゲームショウ2015(以下、TGS2015)。ビジネスデイ2日目となる9月18日、ウォーゲーミングジャパンのブースにて“『World of Warships』(以下『WoWs』)軍艦スペシャルトーク”ステージが開催された。
こちらのトークステージのスペシャルゲストは、戦史・兵器研究家の小高正稔氏。このステージの前に行なわれた『World of Tanks』トークステージから引き続き、ウォーゲーミングジャパンのミリタリーアドバイザー宮永忠将氏も登壇した。
ステージではまず『WoWs』のPVを上映し、ウォーゲーミングならではのリアル志向で作り上げられた戦艦や巡洋艦のCGモデルの数々を再確認。宮永氏いわく、「『World of Tanks』でもっとも重いクラスの戦車は100tだが、『WoWs』ではその戦車1台ですら船の砲塔ひとつぶんに満たず、そのモデル作成に必要な情報量もケタ違いになる」という。
今回のステージでは『WoWs』開発最初期から、艦船の再現に協力しているという小高氏が持参した貴重な艦船の図面とともに、これらの艦船のモデルが完成するまでのさまざまな過程が解説された。その貴重な図面を順を追って紹介しつつ、解説の模様をお伝えしていこう。
貴重な資料が続々!
まず紹介されたのは、有名な艦船でありながら公式の図面がほとんど残っておらず、戦時下ではまともな艦影の写真さえ残らなかったという正規空母・翔鶴。『WoWs』ではすでに再現されているが、その図面を同じ正規空母・赤城のものと比較してみると、いかに情報が残っていないかが素人目にも理解できた。
そもそも艦船の図面は、板1枚のみのための図面など、船体以外にも細部にわたり、1隻で何千、何万枚もの図面を有する艦船もあるとのこと。その図面が日本艦船の場合は圧倒的に残っている枚数が少なく、翔鶴のモデルもほかの艦船などを参考に、図面がない部分は推測や検証を重ねて作り上げられているという。
たとえば装甲空母・大鳳の飛行甲板については、ラテックス装甲張りと板張りの二説があるが、図面や資料に確かなものはない。だが改大鳳型の空母・白龍の甲板は板張りであったこと、艦載機の発着のために甲板にさまざまな機構を搭載しなくてはならないことなどから考えると、板張りであったと結論付けたとのことだ。
続いて紹介されたのは、『WoWs』で実際の艦船モデルを製作する過程。まず全長などの枠組みが決まり、そこに平面図を重ねるようにして情報を蓄積し、船体や艦橋に肉付けがされていく。
さらに砲塔や魚雷発射管などの各パーツは、別の数十のチームが並行して作成。ウォーゲーミングの開発部では、新人は一週間“アカデミー”と呼ばれるきびしい試験過程を経てその適性を試され、最適なチームへと配属されていくとのことだ。
さらに、巡洋艦・青葉と戦艦・大和の図面が紹介された。こちらは翔鶴や大鳳などといった、図面や資料が残っていない艦船と比べ、かなりの資料が残されている。このように艦船ごとに残存資料の量にムラがある点も、開発陣からすると悩ましい点らしい。
なお、この青葉の図面も小高氏から提供されたものだが、入手経路は古書店で、顔なじみの店の方から「入荷した」との連絡をもらって駆けつけたそうだ。
ついで紹介されたのは、巡洋艦・妙高の図面。魚雷発射管の部分に旋回範囲が記されており、さらに断面図により平面図では不明だった船体のカーブや、装甲の配置がわかったという。『WoWs』でよくバイタルパートを抜かれる弱点についても、こうした資料や検証からしっかり導き出された位置のようなので、納得すべし。
このように図面によっては細かな情報が書かれてはいるが、小高氏いわく、「当時はこうした図面どおりの建造が行なわれていたわけではなく、現地の判断で「階段はこちらにあったほうが便利」などと、図面からの変更がされていたことも多々あったらしい。
時間ギリギリとなってもステージでは、駆逐艦・長月や巡洋艦・能代、実際には建造されなかった戦艦・妙義、さらにはラバウルの海図と、小高氏が所有するじつにおもしろい図面の数々が紹介された。
こうして閉幕となったステージだったが、宮永氏が最後に、『WoWs』開発開始段階のころからあらゆる艦船の再現において縁の下の力持ちとなってくれている小高氏を、「我々の秘密兵器」と称したのがとくに印象に残った。
資料収集と検証を重ね、細かな部分の再現にまでこだわり、1隻のモデルが完成するのには6ヵ月、開発陣の希望としては9ヵ月が費やされるという。ぜひプレイヤーの皆さんには、新たな艦船の追加に期待しつつも、そのたいへんな作業に関わる皆さん、そして我々の目には触れない場所で尽力している“秘密兵器”の皆さんを応援していただきたい。