ようやく勝負できる環境が整ってきた

 2015年9月17日~20日の4日間、千葉・幕張メッセにて開催中の東京ゲームショウ2015。同イベント二日目となる18日、東京ゲームショウ会場近くのホテルにて、ソニー・コンピュータエンタテインメントジャパンアジアの盛田厚プレジデントにSCEJA Press Conference 2015での発表や東京ゲームショウ2015での出展を受け、日本市場でのプレイステーションビジネスについて話を訊いた。

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ソニー・コンピュータエンタテインメントジャパンアジア プレジデント
盛田厚氏

――去年のこの時期プレジデントに就任されて一年が経ちましたが、この一年を振り返っていかがですか?

盛田 早かったですね。それは年を取ったせいだという噂もありますが(笑)。ただ、本当にいろいろなことがありましたけれど、ちょうど去年のこの時期までは、プレイステーション4のタイトルがない、と言われていて、「これから日本のすばらしいタイトルが出てきます!」とアピールできたのが昨年のカンファレンスでした。そのあとの年末商戦と、発表したタイトルが出揃う2~3月というのが勝負の時期だと感じていて、危機感と緊張感を持っていましたが、おかげさまでタイトルも売上も好調でしたし、PS4本体も牽引してくれました。昨年のこの時期と、いま現在の本体の週販を見ても、一段上にきたと思っていますし、改めて「コンテンツの力はスゴい」、「コンテンツがなければプラットフォームは成り立たない」と感じました。先日発売された『メタルギア ソリッド V ファントムペイン』も好調で、先日開催したカンファレンスで2015年後半から2016年の有力なタイトル群も発表できましたので、ようやく勝負できる環境が整ってきたのかなと。それに併せて価格の改定も行い、いい流れできているとは思います。

――手応えを感じてらっしゃると。

盛田 はい。

――たしかに今年の前半は『龍が如く0 誓いの場所』や『ドラゴンクエストヒーローズ 闇竜と世界樹の城』、『Bloodborne(ブラッドボーン)』といった有力タイトルがコンスタントに出て、点が線になっていまにつながっている気がします。

盛田 今年のカンファレンスでの発表で、日本のメーカーさんもプレイステーション4でイケる、と確信を持っていただけたのではないかと思います。

――先ほど『メタルギア ソリッド V ファントムペイン』が好調というお話がありましたが、どちらかというと、すでにPS4を持っているようなコアな層に響くタイトルだと思うのですが、PS4本体も大きく牽引しました。『メタルギア』を待っていた、という表現が正しいのかもしれませんが、まだまだ待ち望まれている日本のタイトルはたくさん眠っています。そういう意味で、PS4の伸びしろはまだまだあると感じました。2016年には、その待ち望まれているタイトルが多数発売予定です。2016年にこれほどタイトルが揃ったというのは、偶然なのですか?

盛田 パブリッシャーさんやクリエイターさんと話し合いをしていった中で、2016年に花開くタイミングが重なりました。狙ったわけではないですが、すべてが偶然でもなく、そういう状況が作れた、ということだと思います。

――そのカンファレンスの発表内容を具体的に見せてくれるのが、今年のゲームショウのSCEJAブースだと思うのですが。ブースのコンセプトを教えてください。

盛田 タイトルがたくさん揃っています、というのを来場された方にお見せする、ということと、PlayStation VR(プレイステーション ヴィーアール)やPlayStation Nowといった将来を見据えた新しい技術を体験していただく、というふたつがコンセプトになっています。

――PS VRは10タイトルが出展されていましたが、PS VRについてはいかがですか?

盛田 これまで我々がゲームで目指してきた体験というのは、PS4でかなり集大成に近いところまで実現できたのではないかと感じています。だとすると、次の体験は“ゲームの中に入って楽しむ”というものではないかと私は思っています。PS VRはそれを実現できるものですし、わかりやすいプラットフォームだと思っていますので、非常に期待しています。

――カンファレンスではPS4の価格改定の発表もありましたが、有力タイトルの発表の勢いを借りて普及拡大を目指す、といった理由以外にも何かあれば教えてください。

盛田 コストダウンが実現できるという前提はありますが、タイトルが揃い、ハードとソフトが一体になって盛り上げていく、というのがプレイステーションの戦略でした。そういう意味では今回も同様です。コストダウンはエンジニアたちががんばってくれたおかげですが、欧米でPS4が非常に好調だということも、その助けになっています。

――なるほど。カンファレンスはタイトルの発表はもちろん、PS4 HDDベイカバーのカラーバリエーション、DUALSHOCK 4の数量限定モデル、PS NowのBetaサービスの発表など、内容も非常に盛りだくさんでした。このボリューム感は、ずっと計画していたことなのですか?

盛田 ワールドワイドでのイベントスケジュールを見て、いつどこでどんな発表をするのが適切なのかをアンディー(ソニー・コンピュータエンタテインメント代表取締役社長 兼 グローバルCEOのアンドリュー・ハウス氏)たちと議論して決めるのですが、そこで大枠の話はもちろんします。ですが、ソフトは開催時期が近づいたころで見えてきます。ですので、準備していたことが、いろいろ重なってこの時期に間に合ったということです。

――一方で、プレイステーション Vitaに関しては、本体の新色の発表はありましたが、新規タイトルの発表はありませんでした。PS Vitaについてはどうお考えですか?

盛田 日本国内では、ゲームに限らず、趣味嗜好が多様化してきています。ですが、好きなものに関しては、深く好きでいてくれる、という傾向が顕著にあると感じています。PS Vitaのタイトルもそうで、ファンのためのタイトルは一定数の需要があり、ビジネスになっています。そういう市場がある限り、PS Vitaはがんばっていきたいと思っていますし、その意思の表れが新色の発表です。

ゲームから離れた、いまは大人になったかつてのゲームファン、その子どもたちに“ゲーム機”に親しんでほしい

PS4とPS VRを含めた家庭用ゲームならではの体験を、ゲームから離れた大人たちや子どもたちにも味わってもらいたい――SCEJA 盛田厚プレジデント【TGS2015】_01

――“共闘”のような大がかりなイベントや仕掛けをやっていくことは今後もあるのですか?

盛田 これはPS Vitaに限らずですが、我々は子どもたちに方向キーやボタンなどコントローラで操作できる“ゲーム機”で遊んでほしいと思っています。いま『マインクラフト』を使って、お子さんやその親御さんたちにいっしょに遊んでもらえるような活動を積極的にやっています。カンファレンスでも発表されましたが、『ドラゴンクエストビルダーズ アレフガルドを復活せよ』や『エアシップQ』など、子どもたちが楽しめるタイトルも出てきますし、ゲーム機に親しんでもらう活動は今後も力を入れていきます。

――ゲーム機で遊ぶゲームって楽しい! と思ってもらいたい、ということですね。また、PS3についてはいかがですか? カンファレンスでも縦マルチではなく、PS4にターゲットを絞ったタイトルが増えてきましたが。

盛田 PS3を遊んでくださっている方が少なからずいらっしゃるのはありがたいことですし、そういう方に向けたタイトルはこれからもリリースされます。ただ、基本的にはPS4を出しましたので、ひとつ上の体験も味わっていただきたいですね。

――今年の年末商戦に向けた手応えはいかがでしょう。

盛田 これまで弊社では、日本のプレイステーション市場、そしてゲーム市場をどういう方向に誘導し、そのためにはどうアプローチすればいいかを議論してきました。我々がやらなければならないステップがいくつかあると思うのですが、まずはPS4の市場をPS3のレベルにまで早く到達させることがファーストステップ。それは今回発表されたタイトル群、ハードの販売台数のペース、さらに値下げの効果を見込んで、ある程度、実現できる道筋は見えてきました。我々が実現したいのはその次のステップで、かつて、ほとんどの家庭にゲーム機が一台あった時代にもっていきたいのです。

――PS2までのころがまさにそうでしたね。

盛田 あのころは子どもだけではなく、大人もゲームを楽しんでいました。どうしてそんなにゲームが子どもだけではなく、大人も惹き付けたかと考えると、ワクワク感だったと思うんです。ゲームをやらなくなった大人たちにゲームのおもしろさを改めて伝えていくというのが、いま我々がやっていかなければならないことだ、というところに行き着いたんです。カンファレンスの最後に披露した、キャンペーン映像を制作したのはそういう理由からです。

盛田 子どものころ、いちばんゲームを遊んでいた、いまは家庭を持っているであろう30代から40代の方に向けて、もう一度、家庭用ゲームを手に取ってもらって遊んでもらいたい。できればお子さんと遊んでいただきたい。これは今年の年度商戦だけで達成できるとは思っていませんので、長いスパンでやってきたいと考えており、その第一歩が今年です。今年の年末商戦は、いよいよ買っていただくタイミングですよ、という活動と、こんなにプレイステーションは楽しい、というメッセージに力を入れて、粘り強くやっていきたいと思っています。

――では、最後に今後のプレイステーションについて、ゲームファンにメッセージをいただけますか?

盛田 我々が今回、基本に戻ったと言いますか、思い出したのは、“ゲームの楽しさ”です。現実ではできないことがゲームだったらできる、ありえないようなことができる、という楽しさがゲームにはあります。その楽しさを実現するには、自分が体験しているかのような没入感がないと難しい。それを実現できるのが家庭用ゲームです。そんな家庭用ゲームをもう一度みんなで楽しんでいただきたい。そのひとつのフックになるのがVR体験だと思いますので、PS4とPS VRを含めた新しいゲーム体験をぜひ楽しんで、改めてゲームの魅力、スゴさを感じ取っていただければと思います。