ポテトチップスを食べながら楽しめる!

『niconicoVR』は、簡単にバーチャルリアリティが楽しめるスグレモノ 担当者に開発の狙いを聞いてみた【TGS2015】_07

 2015年9月17日(木)から9月20日(日)まで、千葉・幕張メッセにて東京ゲームショウ2015(17日・18日はビジネスデー)が開催。既報の通り、ドワンゴとニワンゴは、動画サービスniconicoにて、Gear VR向けアプリ『niconicoVR』を開発中であることを明らかにした。VR(バーチャルリアリティ)華やかなりし昨今だが、Gear VRは、サムスン電子とOculus VRの共同開発によるバーチャルリアリティーヘッドセット。スマートフォンを差し込むだけで手軽にバーチャルリアリティが楽しめるのが特徴。

 今回の発表に合わせて、東京ゲームショウのOculusブースでは、『niconicoVR』のデモンストレーション版が出展。来場者は“どこを向いてもニコ動・ニコ生、投稿コメントを360度空間で体感できる”というキャッチコピーそのままに、バーチャルリアリティ空間でニコニコ動画などを堪能できた。

 それにしても、VRでニコニコ動画を楽しめるなんてなかなかに新鮮! というわけで、ファミ通.comでは『niconicoVR』の開発を担当するドワンゴ プラットフォーム事業本部 マルチデバイス企画開発部 先端演出技術開発セクション セクションマネージャの岩城進之介氏に話を聞いた。

――まずは、『niconicoVR』を開発するに至った経緯を教えてください。
岩城 いままでもniconicoでは、360度中継を始めとして、VRの取り組みをしていたんですね。日本武道館で行われた、小林幸子さんの50周年記念ライブを生放送で中継して、それをOculus Riftで見ることができるといったことをしていたんです。360度のコンテンツがいっぱいできて、それをniconicoで見ることができるかな……と思っていたのですが、中継がけっこうたいへんだったんですよ。番組を作るために、運用コストもかかる。360度放送用のアプリを作っても、皆さん利用してくれないのでは……との心配もありました。だったら逆にふつうのニコニコを快適に楽しく見られるアプリが先なんじゃないかなと思ったんです。

――ちなみに、niconicoさんでは、なぜ360度の放送に取り組んでいるのですか?
岩城 それはやっぱり、ネットとリアルをいかに混ぜるかという発想から生まれたものです。ネットで流行っているものをリアルに持ってきたり、リアルイベントをネットで見て楽しんだり……といったふうにネットとリアルをいかに行き来するかというのをやっているんです。360度中継も、リアルなものをそのままネットに持ってくるという意味では、とてもおもしろい取り組みだとは思っていたんです。360度中継そのものは、今後も機会があればやってみたいですね。

――ネットとリアルの融合の過程でVRに着目した?
岩城 まあ、そもそもの話として、私がVRを大好きなんです。ヘッドマウントディスプレイも、個人で10個以上持っていますから。

――そんなに!?
岩城 Oculus RiftもKickstarterで購入したクチです。それを試しているうちに、「これをniconicoでやったらおもしろいんじゃない?」ということで、360度中継のテストを始めたくらいで。

――岩城さんのVRに対する思いが、今回のプロジェクトの原動力になったということですね?
岩城 まさしくそんな感じです。

――なぜ、VRがそれほどまでにお好きなのですか?
''岩城 いやー、なんですかね。おもしろいから(笑)。

――おもしろいに理由はいりませんものね。で、ニコニコ動画をVRで試作してみてどうだったのですか?
岩城 とてもおもしろかったんですよ! すごいおもしろいんだけど、「これをほかのみんなにも使ってもらうにはどうすればいいんだろう?」ということは考えました。

――ああ。テーマになったのはどのような点でした?
岩城 まずは簡単に使えなきゃダメだなと思いました。簡単に使えて、かついつ使っても楽しく使えないといけない。たとえば、360度中継が始まるから引っ張りだして視聴していただくということだと、使っていただけないと思ったんです。ふだんから使っているデバイスが、ある日30度中継になるといったような気軽さじゃないと。ふだんから使っていただけるほど簡単で、しかも楽しいものをまずは作らないとダメかなと。

――敷居が低いということですね?
岩城 そこで、今回選んだのが、Gear VRなんです。これはスマートフォンを差し込むだけという簡単さで、しかも利用したときのVRの質が非常に高かったんです。スマートフォンを差し込むタイプはいろいろあるのですが、Gear VRは飛び抜けて品質が高かったので、「これだったらすごい楽しいのでは?と思ったんです。

――VRフリークの岩城さんのおメガネにかなかったということですね?
岩城 (笑)。そうですかね。かつ、作るものが本格的なゲームだったら、これはOculus Riftでいいんです。PCを立ち上げて「さあ、やるぞ!」と気合を入れてやる感じ。でも、niconicoを見るというのはそうではなくて、もっとダラっとした感じ。そのためにわざわざPCを立ち上げるのはツライなと。その点で、Gear VRはniconicoにあった使いかたを実現してくれるかなと思いました。

『niconicoVR』は、簡単にバーチャルリアリティが楽しめるスグレモノ 担当者に開発の狙いを聞いてみた【TGS2015】_04

――Gear VR向けにどのようにコンテンツを開発していったのですか?
岩城 作りたかったのは、長く快適に使えるアプリだったんですね。よくVRのアプリというと、派手な演出があって、驚かせる類のものが多かったのですが、それだとすぐに飽きてしまう。そうではなくて、毎日niconicoを見るのに、“ラクで快適だから使う”というものにしたかったんです。派手な演出を控えて、ラクに使える仕掛けをいろいろと工夫して入れています。

――たとえばどのようなところです?
岩城 たとえば、手元カメラ機能とかですね。niconicoはふつうにダラダラ見るじゃないですか。ポテトチップを食べながらくつろいで見るという感じなので、ポテトチップスをつまむのに、いちいち(VRヘッドセットを)外していられないんですよね。だから下を向くとスマホのカメラがオンになって、下の風景が見える。それが手元カメラ機能です。

――それはおもしろいですね。
岩城 だらだら動画を視聴していて、下を向いたらポテトチップスが見えるんです。そもそもniconicoは、リビングにドーンと座って見るものでもないですし。だらっと崩れた姿勢で見たりしがちなんです。で、だらっと仰向けになって見たらちゃんと画面が合わせてくれる。

――そうなんですか?
岩城 そういう、「こうだったらいいな」という自分の欲望を随所に盛り込んでいます。

――それが、視聴姿勢追随機能(寝ながら動画視聴可能)ですね?
岩城 そうです(笑)。その結果として、これを作っているときにデバッグをしていると、どんどんダメ人間になっていくという(笑)。

――(笑)。

『niconicoVR』は、簡単にバーチャルリアリティが楽しめるスグレモノ 担当者に開発の狙いを聞いてみた【TGS2015】_03

 というわけで、実際に『niconicoVR』を体験してみた。Gear VRを装着すると、目の前にはずらりとコンテンツがズラリ。首を傾けるとコンテンツにカーソルが定まり、ヘッドマウントディスプレイの右側にあるパッドにタッチすると映像が流れる仕組みだ。VR空間に映像が流れるさまは、(個人的な感想になってしまって申し訳ないが)まるで記者が好きな『攻殻機動隊』の世界のようで、「おおーっ!」という感動があった。そして何よりも印象的だったのが、下を向いていると自動的にスマートフォンのカメラ機能がオンになって、手元の映像が見られるということ。「これで現実世界にあるお菓子が食べられるじゃないか!」。このカメラ機能はたしかにOculus Riftにはないものだ。niconicoとGear VRの組み合わせはけっこう最強と見た。

『niconicoVR』は、簡単にバーチャルリアリティが楽しめるスグレモノ 担当者に開発の狙いを聞いてみた【TGS2015】_01

 『niconicoVR』の配信は2016年秋を予定しているとのこと。いくつかクリアーすべき課題はあるが、アプリ自体はほぼ完成しているという。VRが注目を集めている昨今に、『niconicoVR』が一席を投じそうだ。

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▲上を向いても画面が追随してくる(左)。手元カメラ機能も快適で、ずっとヘッドマウントディスプレイをはめていても苦にならない。