ゲーム規模の拡大で新たな職種が誕生

ゲームプログラマーが新たな救世主となる! “カプコンにおけるゲームプログラマのキャリアパス”リポート【CEDEC 2015】_01
▲大井勇樹氏(左)と上東琢磨氏(右)。プログラマーから新たな職種に就いたおふたりが講演を行った。

 2015年8月26日~28日の3日間、パシフィコ横浜にて開催された日本最大級のゲーム開発者向けカンファレンスCEDEC 2015。ここでは、2日目に開催されたセッション“カプコンにおけるゲームプログラマのキャリアパス”の内容をリポートしていく。

 本セッションの講師は、カプコン リリースマネージャーの上東琢磨氏と、カプコン テクニカルディレクターの大井勇樹氏。では、講演内容に注目していこう。

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▲おふたりの簡単な経歴。上東氏は元IT業界のシステムエンジニアで、ビジネス用システムの開発に携わった後、4年半前にカプコンに入社。大井氏は2003年より新卒で入社、数々の大型タイトルにプログラマーとして関わり、エンジンプログラマーを経てテクニカルサポートに。

 セッションの前半は、上東氏が講演。氏はまず、「ゲームプログラマーのつぎの道は何か。考えられそうな選択肢は管理職、プロデューサー、ディレクター。だが、これでは少なすぎるし、もったいない」と問題提起。続けて「ゲームの規模は拡大し続け、やらなければならない要素が増えている。ならば、それに関する新たな仕事が生まれているはずで、新たな職種が必要とされている」と、ゲームプログラマーの新たな道を示した。

 カプコンでのプログラマーには、テクニカルディレクターや人材管理といったキャリアパスが存在しているが、本セッションで焦点を当てるのは、テクニカルサポートとリリースマネージャーという職種。その理由は「カプコンの独自色が強く、また今後は欠かせなくなる新たなる職種であるから」と上東氏が解説した。

ゲームを“問題なく”発売することが大きな目的

 まず、リリースマネージャーについて上東氏より解説された。この職種が生まれた経緯については、「サブミッション(提出)業務にある」と上東氏。ゲーム業界では、ゲームをリリースするとき、パブリッシャーがプラットフォームホルダーに、ゲームのマスターデータやレーティングの取得申請、デジタルストアの宣伝用素材を提出する必要がある。この提出、申請をサブミッション業務と呼ぶそうだ。

 このサブミッション業務は各プラットフォームホルダーごとに専用ツールで行うそうだが、「各開発チームがバラバラにデータを提出していたのでは効率が悪く、提出を専門に行うグループが発生した」と上東氏。この部署ができたことで、プラットフォームホルダーへの提出はサブミッショングループから行うように一本化され、一見効率はよくなったように見えた。

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▲カプコンでは、プラットフォームホルダーにさまざまなデータを提出する業務を、まとめてサブミッション業務と呼んでいるそうだ。
▲サブミッショングループが発足したことで、提出業務は一本化された。

 だが、新たなる問題も発生し始めた。「サブミッショングループへ渡す素材や情報のスケジュール管理を、各タイトルの担当者が行うことで、担当者に負担が生じていた」と上東氏。さらに、提出するデータに土壇場で不備が判明するトラブルも発生。たとえば、Webサイトとの連動やSNSへの投稿機能を搭載する場合、マスターチェック用の環境を用意する必要がある。だが開発終盤になって、その環境が用意されていない、といった具合だ。DLCでも、配信計画がプラットフォームホルダーのビジネスポリシーに違反するような内容だった、というトラブルが開発終盤で発生したとのこと。

 このようなトラブルが発生する根本的な理由は「開発チームとサブミッショングループ間に知識的な断絶が起きているから」と上東氏。サブミッショングループのメンバーは、プラットフォームホルダーが定めているルールに精通したエキスパート。その知識を持っていないタイトルの担当者だけでは、気づくことができない問題がいくつも潜んでいるという。

 また察知した問題に対してどのような影響が発生するか、どう対応するかといった判断を行うには、開発者としての知識や経験が重要になるそうだ。

 そこで、開発とサブミッション業務の双方に精通した人材が、開発初期から開発チームに加わることを提案。ゲームの仕様や環境を把握することで、序盤から問題点が洗い出され、重大な問題を早期に解決できる。この人材こそが、リリースマネージャーだ。

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▲開発チームにサブミッションに精通した人材がいないと、問題点に気づかず、開発終盤で大きなトラブルへ発展してしまう。
▲サブミッションに精通した人材が開発初期からチームに加わることで、さまざまな問題を解決できる。

 リリースマネージャーを活用した事例として、上東氏が初めてリリースマネージャーとして参加したタイトル『バイオハザード リベレーションズ2』が題材として紹介された。

 『バイオハザード リベレーションズ2』の特徴は、1週間ごとに新エピソードを配信していく“エピソディック形式”での配信。また全エピソードとDLCをパックにしたパッケージ版も存在し、これを世界同時に5プラットフォームで発売するという計画だった。「サブミッション業務を知っている人であれば、めまいがする状況」と上東氏。

 そんな『バイオハザード リベレーションズ2』でリリースマネージャーが達成すべき課題は、ひとつが特殊なエピソディック形式での配信を実現すること。もうひとつが、膨大にあるDLCをミスなく申請することだ。

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▲カプコンでも前例がない、分割リリースを採用した『バイオハザード リベレーションズ2』。
▲『バイオハザード リベレーションズ2』における、リリースマネージャーの達成すべき目標。

 では、エピソディック形式での配信から見ていこう。開発初期はイメージが固まっていなかったため、まずはプロデューサーと意図をすりあわせ、どのような形で実現するかを具体的なプランへ落とし込む。続いて、各デジタルストアの担当者と説明会の場を設け、各社のシステムやビジネスルールの違いを吸収した落としどころを探っていったそうだ。

 ゲームはエピソード1をゲーム本体、エピソード2以降はDLC扱いで配信することに決定。だが、パッケージ版で懸念が生じた。データをすべて入れるというが、具体的にはどうすればいいのか。セーブデータは共通させなくてはならないし、オンライン協力プレイも両者間で実現させなくてはならない。

 これらのことを問題と考え、確認していったところ、予感は的中。必要となる対応はプラットフォームごとに大きく異なったそうだ。データをそのまま入れれば問題ないプラットフォームもあれば、通常のゲームと同様にディスク用のビルドを新たに作成する必要があるケースも。さらには、新たにランチャープログラムを搭載しなければならないプラットフォームも存在した。

 これらプラットフォームごとの差異をプログラマーと相談し、対応を実装することで、開発を進めていったという。結果、見事に実現できたのはご存じの通りだ。リリースマネージャーがいない環境では、この手の問題を気にする役割の人がなかなかおらず、終盤になってヤバイ状況となることが多かったという。

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▲パッケージ版をリリースする際、プラットフォームごとの差異が大きな問題となった。

 もうひとつは、DLCについて。DLCを配信する場合、ストアに掲載する紹介テキストとアイコン、配信日、価格といったデータも提出する必要がある。たとえばDLCが10本あったとして、『バイオハザード リベレーションズ2』は5プラットフォームで展開しているため、50回も申請を行う必要があるとのことだ。

 もしもそのデータが間違っていた場合、大きなトラブルに発展する。たとえば100円と800円のコンテンツがあり、価格を逆に設定してしまった場合。会社やユーザーに大きな不利益となる。だが、手作業で申請を進めるため、ヒューマンエラーはどうしても発生してしまう。リリースマネージャが行うべき役割は、サブミッショングループのメンバーが、丁寧にチェックできる環境を構築することだ。

 これまでは締切当日になって、サブミッショングループにデータが渡されることもあり、チェックに十分な時間が取れないケースもあった。だがリリースマネージャーが加わることで、開発のスケジュールを考慮した素材の締切を設定できた。結果、サブミッショングループ側にもチェックに十分な時間をかけられる環境が構築でき、ミスなく配信を実現できたという。

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▲これまでは素材を待つしかできなかったサブミッショングループだが、リリースマネージャーがスケジュール管理を行うことで、双方スムーズに業務を遂行でき、ヒューマンエラーを防げるようになった。

 このように、リリースマネージャーが開発チームに存在すれば、潜在的な問題を吸い上げることができる。また、これまでは誰かが担っていたサブミッション関連の作業をリリースマネージャーが担当することで、プロジェクトの効率がアップ。さらには、思い描いたリリースも実現できる。上東氏は「リリースマネージャーは、必然的に生まれるべきして生まれた職種。その業務は今後需要が高まり、今後は専門職として定着していくであろう」と、その重要性を語った。