アジア進出を考える企業に向けた実践的なセッション

 2015年8月26日~28日の3日間、パシフィコ横浜にて開催された、日本最大級のゲーム開発者向けカンファレンスCEDEC 2015。最終日には、“アジアゲーム産業最前線2015:新興ゲームスタジオの戦略にみる国際展開の処方箋”と題したパネルディスカッションが行われた。司会として、アジアのゲームビジネスに詳しい立命館大学映像学部教授の中村彰憲博士、パネリストとして、崑崙日本株式会社の北阪幹生氏と、株式会社Aimingの萩原和之氏が登壇。実際にアジア進出を考える企業に向けた、実践的なセッションが展開された。

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▲左から、中村彰憲博士(立命館大学)、北阪幹生氏(崑崙日本)、萩原和之氏(Aiming)。

 崑崙は中国に本社を置くパブリッシャー/ディベロッパーで、中国国内では欧米アプリを展開し、日本を含むアジアでは自社アプリを成功させて実績を積んできた。崑崙日本はその日本法人として、2009年に設立。北阪氏は中国・上海での勤務経験や、上海のディベロッパーの日本事業立ち上げなどの経験を活かし、2013年に副社長に就任した。

 また、Aimingは日本のオンラインゲーム開発・運営会社で、2011年に設立。最近では中国最大手IT企業テンセントと資本業務提携を進めるなど、積極的な国際展開を推進している。萩原氏は2001年から韓国資本のオンラインゲーム会社ゲームオンの創業期に参画。長年のオンラインゲーム事業の経験を元に、Aimingの創業期からCOO(最高執行責任者)として参与している。

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中国とASEAN6ヵ国のゲーム産業の“いま”

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 はじめに中村博士から、中国とASEAN6ヵ国におけるゲーム産業の概要が説明された。中国では昨年、ついにゲーム市場規模が1000億元の大台を突破。元高の状況も相まって、日本円にして2兆円市場となる、世界最大規模のゲーム大国へとのしあがったという。

 そんな中国の最新の動向として、中村博士は2014年の中国トップゲームアプリ企業ランキングを紹介。中国最大手のテンセントと、MMOROGで大手のPerfectをのぞき、ほとんどが新興企業であると解説した。

 また、中国での2015年の人気タイトルランキングも公開。全世界でプレイされている『LEAGUE OF LEGENDS』(開発:アメリカ)、テンセントが中国でシェアトップになる牽引力となった『アラド戦記』(開発:韓国)、2000年代初

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 続いて、インドネシア、マレーシア、フィリピン、シンガポール、タイ、ベトナムのASEAN6ヵ国のインターネット人口と普及率、スマートフォン普及率を掲示して、市場の成熟度や伸びしろを分析。また、2014年は6ヵ国合計で7億8440万ドル(約941億円)~10億9400万ドル(約1300億円)にまでなったという、ASEANのゲーム市場規模推移を紹介した。一般的に事業計画を立てるとき、ひとつの地域での市場規模が1000億円を超えたら、事業所を展開する価値があると言われているそうで、すでにASEANは進出の価値がある市場規模になっているというワケだ。ちなみに、現在ASEANで人気のタイトルとしては、日本の『ブレイブフロンティア』(エイリム)も挙げられるという。

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崑崙、Aimingの海外進出事例

 続いてパネリストが、実例を交えながらアジア・海外戦略について語った。北阪氏によると、崑崙は海外戦略として、2009年末から2010年にかけて、日本、韓国、台湾、タイ、北米、イギリスに子会社を設立し、「子会社を作るからには現地の会社に」ということでトップを現地採用した。ただし、多国展開をする関係上、大きな意思決定は北京の本社で行われるという。スマホで成果が出るまでに4~5年かかったと振り返り、だからこそ早い参入が重要だし、早く参入すれば先行者利益が得られると分析した。

 また、萩原氏は、Aimingが台湾、フィリピンに支社を持ち、中国テンセントと資本業務提携をしていることを説明。日本のトップがスタッフを現地採用する形を取っているそうだ。当初は韓国にも子会社があったが、紆余曲折を経て今年解散したという。韓国はオンラインゲーム市場が非常に成熟しており、そこで戦っていくのはたいへん厳しいと萩原氏は振り返った。

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崑崙、Aimingのローカライズ事例

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 つぎにローカライズについて、崑崙ではいろいろな試みがなされたという。たとえば2013年5月にリリースされた『マスターオブカオス』の日本版は、市場戦略的にすぐ出したいとの意向があり、テキストの翻訳とキャラクターの2Dグラフィックを日本向けに差し替えただけで、2~3ヵ月後に即発表。一方、2014年の『三国魂』は、半年程度の期間をかけ、テキストや2Dグラフィックの差し替えのほかに、3Dモデルの差し替えと豪華声優陣によるボイスの搭載も行われた。さらに、2015年の『戦国あどべんちゃー』は、原作のテーマである武侠が日本のユーザーにミスマッチであることや、『三国魂』の時間をかけたローカライズが当たったこともあり、9ヵ月かけてゲームシステム以外はほぼすべて変更したそうだ。

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 また、最初に台湾・香港版がリリースされた『三国魂』が、韓国版→日本版→タイ版→台湾版大型アップデートをリリースしていくにあたり、どのようなローカライズの変遷をたどったという、興味深い事例も公開された。

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 一方、Aimingは、日本では見事4年目に突入し、韓国、中国、台湾、英語圏でもリリースされた『Load of knights』について、失敗を繰り返していたことを明かした。まず、過去にスピードを重視し、きちんとローカライズしなかったオンラインゲームが成功した経験から、本作にも同じ手法を適用したという。各国の市場も無視、各地域の携帯のスペックも無視、客単価も無視して、日本と同じ仕様で出してみたところ、すべて失敗に終わった。台湾では、Aimingが直接やってダメだったので、タイトル名を変えて現地のパブリッシャーにまかせてみたものの、半年で終了。英語圏では、DeNAにお願いしたこともあったが、パートナーと組んだことにより採算性がより重視され、チャレンジングなことができなくなって2年弱で終了。最終的に何も関与せず、現地のことがわかっているフィリピン支社にソースを丸投げし、ゲームはもちろん客単価の調整などもすべてまかせたところようやく成功し、この英語圏版は日本版とともに現在でも稼働しているという。

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 そして現在は、日本で大人気のスマホ用MMORPG『剣と魔法のログレス いにしえの女神』を台湾向けにローカライズ中だ。こちらはシステムが複雑なため、どこかにソースごと丸投げというわけにはいかず、大阪スタジオが作っているという。だが、『Load of knights』の失敗を踏まえ、ローカライズに関しては、現地のことがわかっているパブリッシャーであるGarenaに、どこを変えれば台湾市場にマッチするか要望を出してもらっているとのこと。1月から着手し、ようやく10月にリリース予定だそうだ。

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今ならまだ間に合う日本企業のアジア進出

 最後に中村博士が、実際にアジアに進出する際の相談窓口や、コンテンツを海外展開する際に支給される助成金などを紹介した。そして、崑崙とAimingの共通点を「創業して1年くらいで、とにかく海外へ進出した」と指摘し、現在ランキング上位にいる企業もスピーディに海外に進出し、先行者利益を得ていると解説。インドネシアやタイなどの成長を見てもまだ間に合うとし、市場の可能性を検討する前にまず動くのがいいとまとめて、オーディエンスにアジアへのスピーディな進出を促した。

[2015年8月31日午後11時55分修正]
※中国の市場規模に関して、リポート記事の記載に誤りがありました。お詫びして修正します。