失敗を含めたゲーム開発経験を、たっぷりと語る!
2015年8月26日~28日の3日間、パシフィコ横浜にて開催された、日本最大級のゲーム開発者向けカンファレンス“CEDEC 2015”。ここでは、同イベント初日となる26日に実施された“絶対に夢を叶える!~オリジナルゲーム開発への挑戦~”の内容をリポートする。
スピーカーの下田賢佑氏は、2005年にスクウェア・エニックスに入社しキャリアをスタートさせたゲームデザイナーだ。『ファイナルファンタジーXI』などの大作ゲームに携わり、2009年に独立。以後、『ファイナルファンタジー アギト』、『BFB 2015』などのスマートフォン用ゲームを手掛けている。現在は、初のセルフプロデュース作『GDH2030』を開発中。そこで得た経験や知識、オリジナルゲームを開発する上でのリスクなどがあますところなく披露された。
講演ではなくカンファレンス。情報提供の場にしたい
下田氏の口から最初に語られたのは、このセッションのコンセプトだった。
「本セッションは、講演ではありません。調査報告や研究の場だと考えています。オリジナルゲームの現状を整理し、今後の可能性について考え、議論のきっかけにしていただくことが狙い。ですから、ゲーム開発者としての心構えや努力の方向性などといった内容はお話しいたしません」
成功者が熱くその秘訣を語るような啓発系のセッションとは、まったく異なる雰囲気。どこか淡々としたアカデミックな空気のなか、本題へと話が進められていった。
オリジナルゲームの定義とは?
オリジナルゲームに憧れるゲーム開発者は少なくないが、その定義はやや曖昧だ。会社によって解釈が異なる場合もあるし、人によっても考えが違うことだろう。ここにブレがあるとセッションへの理解が深まらないため、“そもそも、オリジナルゲームとはどういったものなのか”といったところから解説が始められた。下田氏が考える“オリジナルゲームの定義”は以下の通り。
・新規IPであること
・明確な発案者がいること
・営利目的のゲームである
上記3つの条件を満たしていれば、規模の大小や、ジャンルは問わないという。
3つの定義のなかで、特に注目したいのが、“営利目的のゲームである”という項目だ。作ったゲームをきちんと売り、金銭を得て、なおかつ利益を上げる。趣味やボランティアで作るものでなく、経済活動につながるゲームでなければいけないというのである。ただし、将来的に利益を得るために作る低価格のゲームや同人ゲームなどは、営利目的の範疇に入る。いつ利益になるかは問題ではなく“営利を目的としていること”が重要なのだ。
「オリジナルゲームを作り、自らがパブリッシャーになれば、利益を総取りすることも可能です。作りたいゲームを作ることができるというメリットも大きいと思いますが、金銭的なメリットも小さくはないと思いますね」(下田氏)
資金不足に陥らないためのリスクヘッジ
ゲーム開発者が必ずといっていいほどぶち当たる壁……。それが、“資金の不足”である。下田氏自身も苦労したことがあるそうで、その体験から、リスクヘッジの方法が語られた。
「オリジナルゲームを開発する場合は、規模を小さくするとよいと思います。また、いま作れるものを作ることも重要です。もうひとつ欠かせないのが、個人のスキルを高めておくこと。しっかり勉強してできることを増やしておけば、業務のスピードが上がり、生産性もアップします」
これらを踏まえ、いま、下田氏が取り組んでいるのが、自身初のセルフプロデュースゲーム『GDH2030』の開発だ。もともとは大規模なオリジナルゲームを開発していたのだが、予算が底を尽きたためシフトチェンジ。ゲームの内容を考え直し、スケールダウンして、数百万で作ることができる『GDH2030』の開発に着手したという。
ただし、決して「とりあえず作れるものを作ればいいや」といういい加減な気持ちで取り組んでいるわけではない。自分が心から作りたいと思っており、なおかつ、いま現実的に作れるものを作っているだけ。また、資金不足のため開発を休止してしまったゲームも、『GDH2030』を成功させた上で、シリーズ作としてリリースしたいと考えているそうだ。過去の開発作と『GDH2030』を比べた場合はスケールダウンでしかないが、長期的な視点で考えた場合は、スケールアップになっている。こうしたビジョンを持つことも、大切だという。
長期的なビジョンを持って、長く開発を続けよう
最後にまとめとして、下田氏が考える“オリジナルゲームを開発する上で意識したいこと”が3つ提示された。
なかでも重要なのが“作っているゲームを長期的なポートフォリオに組み込むこと”。作って終わりではなく、その先、どう発展させるかをしっかり考えてほしいという。
「ゲーム開発は続けていくことが大切です。開発を続ければ、それがスキルアップにもつながり、チャンスにもなる。ですから、長期的なポートフォリオをしっかり思い描いて、そのなかにいまやっていることがあるのだというイメージを持つべきだと感じました。逆にやってはいけないことは、ブランディングにつながらないような適当なゲームを作ること。誰にも見向きされないようなゲームを作っても、意味がありません。ゲームは、投げ出さなければいつか完成するもの。せっかく上司や出資者から文句を言われない環境でゲームを作っているのですから、『いつ完成するかわからないけど、それでいいや』ぐらいの気持ちでいようと思っています」(下田氏)
セッション終了後の質疑応答では活発なやりとりがなされ、なかには資金不足の理由について掘り下げた質問が飛ぶ一幕も。オリジナルゲームに対する参加者の関心の高さがうかがえた。