シンラ・テクノロジーが思い描く未来のプラットフォームの在り方

 2015年8月26日から8月28日までの3日間、パシフィコ横浜で開催されるコンピューターエンターテインメント開発者向けカンファレンス“CEDEC 2015”。開催二日目となる8月27日に、シンラ・テクノロジーの和田洋一氏が語るクラウドゲームの未来についての講演が行われた。

逆算した未来に力を注ぐ! シンラ・テクノロジーの和田洋一氏が、クラウドゲームが作り出すゲーム業界の次なる世界を語る【CEDEC 2015】_01
逆算した未来に力を注ぐ! シンラ・テクノロジーの和田洋一氏が、クラウドゲームが作り出すゲーム業界の次なる世界を語る【CEDEC 2015】_02

 このセッションは、単なるストリーミング配信としてのゲームサービスではない、新たなプラットフォームとしてのクラウドサービスを構築することによって、ユーザー、クリエイターにどのような変化が訪れるのか。また、クラウドならではのゲーム体験とはどのようなものなのかについて、シンラ・テクノロジー代表の和田洋一氏が登壇し、ゲーム業界のこれまでと未来図を語ってくれた。

未来をむりやり逆算して、そこに力を注いでいく

 和田氏は、いまのゲーム業界を取り巻く時間の流れが予想以上の速さだとし、現在注力している延長線上で物事を考え、力を出していっても、完成するころには周りの状況が様変わりし、陳腐化しかねない懸念点をあげている。そこで、未来の最終形をいったん予想し、それを逆算して考え、その方向を目指してリソースの10〜20%をかけていけばいいのではないか。未来を向いて物事を進めていくことができれば、時代が早く動いても生き残れるというのが、和田氏の根底にある考えだ。

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▲未来を予想しきるのは難しいが、最終形を予想し、その一要素だけでも想定して力を注ぐことができれば、時代に取り残される危険性がぐっと減るというのが和田氏の考え。

プラットフォームの変遷とともに入れ替わるゲーム市場のトレンド

 コンピューターの性能が低い'70年代後半は、ゲームを遊ぶには専用の高価な機械が必要で、ゲームセンターに行って遊ぶ必要があった。それが'80年代に入り、ファミコンの登場によって一般家庭にゲームが普及。そして2000年代後半頃から、スマートフォンやタブレットといった汎用端末が登場し、現在のソーシャルゲームのヒットといった要因を作り出している。和田氏は、このようにプラットフォームの変遷によって、ビジネスモデルやコンテンツデザイン、業界のリーダーが、常に入れ替わっているのがゲーム業界の特徴であると指摘。コンピューターが誕生時、メインフレームから始まり、ワークステーション、デスクトップPC、ノートPC、スマートフォンとどんどんダウンサイジングしていき、いまではIoT(INTERNET of THINGS)という、すでにコンピューターの形を成していないところまで来てしまった進化と準えながら、現在のゲーム市場が数十年来の大きなターニングポイントに来ていることを指し示した。

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▲アーケード、ゲーム専用機、汎用端末、そしてクラウドと、時代とともにプラットフォームが移行していく様子を図解で解説。

クラウド化による産業構造の変化

 新たなターニングポイントとして期待されるクラウドゲームだが、じつはこれまでもクラウドを利用したゲーム配信サービスは行われてきていた。ただ、そのすべてがデータセンター側でゲームを処理し、それをストリーミング配信するというもので、これまでのパッケージ販売や通信販売、ダウンロード購入の延長線上としてのサービスでしかなかった。いわゆる、ビジネスサイドからのアプローチとして行われているものであったため、技術的なブレイクスルーもなかったのだが、「ゲームは動作環境のうえでコンテンツが成立しており、その動作環境が変わるとコンテンツも丸ごと変わってくる。」と和田氏は語り、クラウドという動作環境のうえでゲームを作ることのメリットとして、以下の点をあげていた。

・ゲーム専用機の再興
 これまでは、たとえば家族4人で同じタイトルを遊ぶ場合、ゲーム機を設置した場所で協力や対戦プレイをしていたが、ゲーム機本体部分がクラウド化されることで、家族4人がそれぞれ専用のゲーム機を持っているのと同じ感覚で遊ぶことができる。また、ユーザーが分散化されることで、それぞれから課金が可能になるといったスキームも可能になるといったように、ユーザーの分散化と拡大が見込めるようになる。
・ネットワークゲームの飛躍的多様化
 これまでのプラットフォームのように、ユーザーがパッチデータを入手しての対応が必要がなくなる。また、各クライアントの端末で構築された世界で、限られたデータを共有するこれまでのマッチングシステムと異なり、プレイヤー全員が同じ世界にいる状況になることで、同期の確認といったネットワーク関連の手間が軽減。その他にもチート対策やユーザーへのパッチ対応といった、オンライン対応作品の障壁が下がることで、これまでオンラインサービスに対応していなかったデベロッパー、開発者も参入しやすくなり、ゲームデザインの多様性が出やすくなる。
・端末のフリー化
 クラウド上ですべての処理を行うため、従来ゲーム機のような高スペックが必要なくなる。さらに、これまでマルチプラットフォームのタイトルで行ってきた、ハードの仕様にあわせた最適化といった作業も省くことができるようになるため、本当の意味でのマルチプラットフォームとなり、プレイ環境のフリー化が実現する。

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信じられない広さの世界で驚くべき現象が同時進行する驚異の世界

 ここで、シンラ・テクノロジーの目指す世界の一部を垣間見られるデモ作品『The Living World』が公開された。この作品は、32キロ四方の広大な世界に、100万本の木が植えられており、上空には16000匹ものドラゴンが飛行しているという、壮大な世界が作り込まれている。上空を飛び交うドラゴンたちはすべて個々のAIを持っており、ぶつからないようにそれぞれ自立して飛行している。地表に流れている川の水も流体シミュレーションを使ったものだ。
 通常のオープンワールドゲームでは、プレイヤーから見える範囲だけがレンダリングされており、ユーザーの動きを予測して先読みで世界を描くという手法が用いられている。また、マルチプレイゲームでは、クライアントそれぞれの端末内に世界が構築されており、キャラクターなどを動かすためのパラメータをネットワーク上で同期することで、擬似的に同じ世界にいるように見せるなど、リソースの制約内で、できるだけ違和感のないような処理が施されていた。
 これが、『The Living World』では、32キロ四方の世界がすべてリアルタイムに描かれており、これだけの広大な世界の中で複数のプレイヤーがマッチングしても、通信時の同期やマッチング確認といった作業が必要なくなる。さらに、これまでのゲーム専用ハードではメモリーやCPU能力の限界で出来なかった複雑な処理も、クライアントの環境に関係なく行うことができ、それを参加しているプレイヤー全員がそっくり共有できるというわけだ。これぞ正真正銘、本物のオープンワールドゲームというわけである。

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▲ドラゴンたちが広大な世界を飛び交うデモ作品。この画面のすべてがそれぞれ単独のキャラクター視点となっているが、見えている景色のすべてが、存在している同じ世界を見ている。
逆算した未来に力を注ぐ! シンラ・テクノロジーの和田洋一氏が、クラウドゲームが作り出すゲーム業界の次なる世界を語る【CEDEC 2015】_08
逆算した未来に力を注ぐ! シンラ・テクノロジーの和田洋一氏が、クラウドゲームが作り出すゲーム業界の次なる世界を語る【CEDEC 2015】_09
▲16000匹のドラゴンが不規則に、でもぶつかることなく上空を飛び交っている様は圧巻。これほどの複雑な処理も、クラウド上の端末による処理で処理落ちや同期のズレなどなく再現可能。
逆算した未来に力を注ぐ! シンラ・テクノロジーの和田洋一氏が、クラウドゲームが作り出すゲーム業界の次なる世界を語る【CEDEC 2015】_10
逆算した未来に力を注ぐ! シンラ・テクノロジーの和田洋一氏が、クラウドゲームが作り出すゲーム業界の次なる世界を語る【CEDEC 2015】_11
▲隆起する大地と、それによって流れが変わる川の様子。このように膨大なリソースを必要とする複雑な処理もクラウド上の世界で再現しているため、全プレイヤーが同時に体験できる。