あなたは今日、何を作りますか?

 2015年8月26日~28日の3日間、パシフィコ横浜にて開催されている、日本最大級のゲーム開発者向けカンファレンス“CEDEC 2015”。ここでは、同イベント初日となる26日に実施された慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授 中村伊知哉氏による基調講演“つくる、ということ。”の内容をリポートしよう。

超人スポーツ!? デジタル×コンテンツの夢の街!? 想像と創造で作る未来――中村伊知哉氏による基調講演“つくる、ということ。”【CEDEC 2015】_01
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中村伊知哉氏

 中村氏は、1961年生まれ。京都大学経済学部卒。慶應義塾大学で博士号取得(政策・メディア)。1984年、ロックバンド“少年ナイフ”のディレクターを経て郵政省に入省するという異色の経歴から始まり、通信・放送融合政策、インターネット政策を政府で最初に担当。橋本行革で省庁再編に携わったのを最後に退官し、渡米。その後、1998年にMITメディアラボ客員教授。2002年 スタンフォード日本センター研究所長。2006年より慶應義塾大学教授となり、現在は社団法人CiP協議会理事長、社団法人デジタルサイネージコンソーシアム理事長、超人スポーツ協会共同代表、デジタル教科書教材協議会事務局長、NPO“CANVAS”副理事長、ミクシィ社外取締役など、さまざまな役職を兼務している。

 ゲーム関連でも深い関わりがある中村氏は、セガ(現セガゲームス)の顧問を担当していた時期に、家庭用ゲーム機初のモデム通信機能を搭載したドリームキャストの開発、セガトイズの犬型ロボットペット“プーチ”の開発にも携わったという。また最近では、一般社団法人ソーシャルゲーム協会(JASGA)の立ち上げに参加している(JASGAは一般社団法人コンピュータエンターテインメント協会(CESA)と合併)。

 最先端の技術やカルチャーに触れてきた中村氏。講演では、最先端技術とポップカルチャーを掛け合わせて作られる未来について、進行しているさまざまな動きや、可能性が語られた。

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 まず、中村氏はこれまでの人とデジタル技術との関係について振り返った。印刷物しかなかった時代、音楽やビジュアルといったコンテンツはライブで楽しむものだったが、その後、技術の進歩により、メディアは印刷物に加え、音楽・映像といったオーディオビジュアルも扱えるようになった。80年代半ばには、ファミコンなどゲーム機の登場で人類は映像で遊べる時代に。さらにインターネットの整備とともにPCが広く活用され、それは現在ではスマホに代表されるモバイルデバイスに取って代わり、爆発的に普及。モバイルデバイスとともにソーシャルメディアは拡大し、コミュニティーやコミュニケーションのありようも、ここ5年で大きく変化してきている。「現在はネットワーク、クラウド、そしてそれを利用したサービスが欠かせない時代になりました」(中村氏)。

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▲ソーシャルメディアで新しいコミュニケーション、コミュニティが生まれている。あるSNSで決闘をすることになったり、最近では、グループに属さない暴走族も存在。LINEやTwitterで集まって暴走行為だけ行うのだとか(組織の上下関係やしきたりなどを嫌う)。また、求人の際は面接だけではなく、本人のソーシャルメディアでの書き込みなどを合否の参考にしているケースも。もはやリアルより、バーチャル(ソーシャル)のほうが本当の姿がわかる時代。

 そして、これからの時代のキーワードとして挙げられたのは“WEAR(いつも)”、IoT(なんでも)、“AI(かしこい)”

 “WEAR”は、Google GlassやApple Watchなどに代表される、ウェアラブル端末で実現される、スマホのような“どこでも”ではなく、“いつでも”ネットワークとつながる未来。

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 “IoT”は“Internet of Things”の略で、テレビや家電、それ以外のさまざまなものがネットで繋がることを差す。また、3Dプリンタの登場で、モノをダウンロードする(モノがコンテンツになる)時代がくるかもしれない。

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 “AI”はさらに進化を続け、いままでに以上にロボットが人の仕事を受け持つことになる。ある調査では、これから10年から20年で、人の仕事の40%以上はAIに取って代わられるだろうという報告もあるという。

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 そんな未来が予見される時代、人類に残された仕事は? 何が作れるのかを改めて問いかける必要がある、と中村氏。そんな中村氏自身は何を作るのか。そのひとつとして中村氏が紹介したのは、“超人スポーツ”

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 人類はこれまで、手足以外を使った移動手段として義足やクルマ、飛行機、ロケットなどを開発。視聴覚の拡張としてはメガネや電話、テレビ、コンピュータなどが挙げられる。つまり、人類は身体の拡張を求めてきた歴史があるというわけだ。それを発展させた超人スポーツは、外骨格スーツ、あるいはスーパーな義手義足、スマートな補助具で身体を拡張する技術を用い、まさに超人的な競技を競い、楽しむもの。その実現のために、誰もが魔球を投げられるボール、何kmも先の的を射抜くアーチェリーの弓矢、そんな道具の開発・デザインの開発などを行うという。

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 外骨格といえば『コール オブ デューティ アドバンスド・ウォーフェア』、身体拡張といえば『デウスエクス』や『攻殻機動隊』などを連想してしまう筆者だが、このなんとも壮大でSFチックな超人スポーツは、遠い未来の話ではなく、今年、超人スポーツ協会を発足させ、2020年の超人五種競技国際大会の開催を目指すという。まだ、競技のアイデアを固めている段階だというが、eスポーツなどの発展系もアイデアとしてはおもしろそうだ。果たして、どんな超人スポーツが生まれるのか!?