“中国と海外を結ぶ港”でありたい
2015年7月30日~8月2日に中国・上海で開催されたChinaJoy 2015。この会期中に崑崙遊戯(コンロン)CEO ファン・チェン氏に単独取材する機会を得た。チェン氏は、盛大遊戯時代に『拡散性ミリオンアーサー』を中国市場で大ヒットさせた、中国ゲーム業界におけるキーパーソンのひとり。1年前に崑崙遊戯(コンロン)に入社後は、スマートフォンアプリ向けを中心に数々のタイトルの中国展開を手掛けている。チュン氏が思い描く中国展開の秘訣とは?
――まずは、チェンさんの盛大遊戯時代のお話から聞かせてください。チェンさんは、盛大遊戯時代に『拡散性ミリオンアーサー』の中国版を大ヒットさせた実績をお持ちですが、その際に学ばれたことを教えてください。
チェン ローカライズという意味ではかなり手を加えました。それだけでも1冊本が書けるくらい語り尽くせないことはやりました。
――とくにポイントとなったのはどんな点ですか?
チェン マーケティングの視点、ゲーム性の視点、マネタイズの視点という3つの角度からそれぞれ考える必要があると思っていました。マーケティングという見地では、“ローカライズに対してどれだけ時間と労力を割くか”というのが、選択肢として出てくると思っています。当然のこと、中国のユーザーにリーチするためには、より時間と労力を割いて、丁寧なローカライズをするのがベストなのですが、一方では、あまりにローカライズに時間をかけ過ぎると、タイミングというものを逃しかねない。どこまでやるのが最適かという判断は、必要になると思っています。分かりやすく例に上げるとボイスですね。日本の声優さんのボイスをそのまま残すのか、それとも中国人向けに全部変えるのか……というのは、その都度タイトルごとの判断になりますね。
――ゲームに関してはいかがですか?
チェン ゲーム性に関しては、中国ではチュートリアルを非常に重視していますので、そこをより丁寧にする必要があります。
――チュートリアルに力を入れたほうが、よりプレイされやすくなるのですか?
チュン そうですね。定着率という面からすると、かなり違います。あとは、マネタイズに関しても、日本のゲームはマネタイズの課金ポイントがガチャに集中していますが、中国だと、マネタイズのポイントがひとつに集中しているのは、あまりウケがよくない。ですので、そこは調整をする必要がありました。
――なるほど。やはり、国によって差異があるのですね。中国で『拡散性ミリオンアーサー』がサービスイン当初から受け入れられた理由はなんだったと思いますか?
チュン 中国で“2次元”という言いかたをよくしているのですが、日本のアニメ表現的なコンテンツが好きな層が、ここ数十年のあいだに着実に増えているんですね。ところが、そういう方々にリーチできるタイトルが、スマートフォンゲームとして、これまであまりなかった。そんなときに『拡散性ミリオンアーサー』をタイミングよくリリースでき、アニメは好きで見ていたがゲームはやっていなかった。という層を取り込むことができ、配信後即ヒットに結びついたのだと思います。
――もともとヒットする土壌があったということですね?
チュン そうですね。ただ、スマートフォンゲームとしては類似タイトルはなかったので、新しい道を切り開いたタイトルだったと思います。
――『拡散性ミリオンアーサー』で日本サイドとやりとりをしていて、他国で作られたコンテンツを、中国で成功させる重要な要素は何だと学ばれましたか?
チュン そうですね……。これもポイントは3つと思っています。ひとつ目はやはりIPですね。中国のユーザーにどれだけの知名度を持ってゲームを見せられるかというのが重要なので、IPというのは成功に欠かせない要素です。ふたつ目はローカライズ。先ほども延べましたが、ローカライズを丁寧にしないと、やはり中国に対してリーチできないです。そして、3つ目はやはり運営です。ちゃんとした運営をして、しっかりとコミュニティーを形成して、ゲームを活性化していかないといけない。そこは丁寧に、忍耐強く、運営していくことが重要だと思っています。
――お話をうかがっていると、海外タイトルを日本で展開するときの重要なポイントと共通点は多いのかもしれませんね。ところで、チェンさんは、その後崑崙遊戯(コンロン)にお移りになり、『Boom Beach』や『アングリーバード2』などの欧米タイトルを中国で展開していますが、日本のクリエイターと欧米のクリエイターで、何か違いなど感じられたりしますか?
チュン 欧米のメーカーの場合は、世界共通の基準で、中国でも世界統一のブランディングしたいという要望が強いという印象は受けますね。その点に関しては、お互いの齟齬がないように、やりとりには相当労力を割いています。日本のメーカーに関しては、文化的にもともと中国と日本は近いというところがあるので、ユーザーさんに対するアプローチという意味ではそれほど負担は大きくありません。その点、ゲームの本質的な部分でのやりとりが、より深くできると思っています。
――これはあくまで個人的な感触ですが、日本のメーカーのほうが中国の文化に合わせてカルチャライズしてくれるような印象があるのですが、欧米のメーカーさんもカルチャライズは厭わないのですか?
チュン 欧米のメーカーさんは、“世界統一規格”というものをものすごく意識されていますね。ゲームの部分に関しては世界と同じ基準で展開されますので、中国国内では、よりマーケティングに力を入れていくという傾向が強いです。
逆に、日本のコンテンツの場合は、もともと日本市場に深くリーチするために、日本ユーザー向けにチューニングが施されているゲームがほとんどです。それを中国に持ってこようと思うと、中国向けにチューニングしようと思われるメーカーが多くなるのかなと。
――なるほど。ちなみに、海外タイトルを中国で展開するにあたって、マーケティングの成功例としてはどのようなものが?
チュン 具体的な例をお教えしますと、『Boom Beach』では、中国で十数年間第一線で活躍しているバラエティーグループに、イメージキャラクターとして、ゲームのプロモーションをお願いしたりしました。ゴールデンタイムで放送している彼らの番組で、『Boom Beach』のことに触れてもらったり、コスプレをしてもらったり。そういう形でしっかりとブランディングできたのは、『Boom Beach』の成功の秘訣かなと思っています。
『アングリーバード』に関しても、あのゲームはこれまでいろいろなバージョンが中国でも出てきましたが、今回正式な続編として、『アングリーバード2』という形でリリースされます。もう一度仕切り直しということで、今回は中国でいちばん人気のあるスターの方を起用して、『アングリーバード2』のプロモーションを展開する予定です。中国においては、そういった著名人とのコラボは非常に重要ですね。
一方で、日本のコンテンツは『ワンピース』にしても、『NARUTO -ナルト-』にしても、IPとして確立していて、中国のユーザーはみんなが周知しています。逆に、人気スターを起用する必要がないわけです。
――ところで、“2次元”コンテンツが中国で受け入れられるとのことですが、そのほか海外コンテンツで、中国の方に受け入れられやすい傾向などあったりするのですか?
チュン 日本のアニメやゲームは、ユニークな世界観など、独特なセンスがあるので、とてもブランディングしやすいです。ある意味で、中国のユーザーにはリーチしやすいですね。一方で、認知度という観点から見ると、欧米のゲームはもともとのゲームが持っている突破力はそこまではないので、やはりマーケティングに力を割いていかないと、なかなかヒットさせるのは難しいです。
――おつぎは、崑崙さんのグローバル展開について聞かせてください。崑崙さんは、アジア各国で受け入れられているとの印象ですが、重要だったと感じていることはありますか?
チュン まずは、PCブラウザゲームのときから海外展開をしていたので、そこで海外運営をする実力が溜まっていたというのはありますね。そして、とにかく感謝しないといけないのがCPさんですね。開発会社の皆さんです。世界的に見ても一流と言える皆さんが、努力して新しく、かつおもしろいゲームを作ってくださる。私たちがそれをパブリッシャーとして海外へ持って行って運営するというモデルで成果を上げていけるのは、開発会社の方々の努力の賜物であることは間違いないです。
――となると、すぐれた開発会社を見抜く手腕というのも問われそうですね。
チュン で、3つ目が、これがご質問のいちばん大切な回答にあたると思うのですが、私たちの効率的な組織体系が、非常に効果的だったと考えています。最初にタイトル選定から始まって、どの国で展開して、どの程度ローカライズして、どのような形でマーケティングし、運営するのか……。ゲームをリリースしてから、どのように成長させていくのかというところまで、すべてノンストップで行っています。そして、成功も失敗も含めて、各国の責任者間で情報共有ができているので、ノウハウの蓄積がスムーズにできている。その点が私たちの海外展開の強みだと思っています。
――なるほど。本社側の方針と、各国の決定権というのは、どのような兼ね合いで?
チュン かつては本社の一極集中という形で展開していたのですが、いまは徐々に各国にある拠点に権限を委譲するようにしています。たとえば、自社のプラットフォーム展開など、本社で一括してコントロールする必要のあるものは、本社でハンドリングしますが、それ以外は情報はしっかり本社で吸い上げて、あとは各国に任せるという体制にしていますね。
――グローバル展開における、今後の目標をお教えください。
チュン 目標でもあり使命でもあるのですが、“中国と海外を結ぶ港”でありたいと思っています。中国国内のCPにとっては、私たちを介して世界的に展開できる。一方で、日本を含めた海外ゲームを、中国国内に持ってくる。これをやりきりたいです。
――“港”とは、いい表現ですね。最後にひとつだけうかがわせてください。崑崙さんのいまの事業展開とは少し関係がないかもしれないのですが、中国で家庭用ゲーム機が解禁されましたが、そのことが中国にもたらす意味は?
チュン 中国におけるコンシューマーのビジネスは、まさにいま始まったばかりというタイミングです。コンシューマーゲーム機は、これまでもそうだったように、これからもフラグシップになると思っています。“コンシューマー機ならではのゲーム表現”というのがあります。グラフィックひとつ取ってもそうですし、世界観やゲームプレイのおもしろさなど、コンシューマー機がひとつの基準になっていて、そこから新しいものが発信される。それに刺激を受けてスマートフォンやPCで展開されたりするわけです。中国でもコンシューマーゲーム機が解禁されたことによって、そんな動向が国内でもさらに活発になってくると期待しています。
――つまり、崑崙さんもプレイステーション4やXbox Oneに取り組む可能性があると?
チュン そのご質問にお答えするのは、現時点では難しいですね。ひとつお伝えできるのは、その新しい領域に対してビジネスの機会を逸するということはない……ということです。とくに、スマートフォンは小さいモニターなので、より大きなモニターのテレビといかに連動させるかという点は、興味深く見ています。