3名が独立のきっかけを語る
おなじみ黒川文雄氏による“黒川塾(二十八) ”が、デジタルハリウッド東京本校にて2015年8月20日に開催された。
黒川塾とは、“すべてのエンターテインメントの原点を見つめ直し、来るべき未来へのエンターテインメントのあるべき姿をポジティブに考える”というテーマのもと、各界の著名人を招いてトークを行う会。第28回のテーマは“クリエイターのシンギュラリティ(技術的特異点)”。据え置きのゲームからスマートフォンアプリなどのカジュアルなゲームへのトレンドの移り変わりが起きたことや、クラウドファンディングなどの新たな開発の仕組みができたことなど、クリエイターの自由度が高まりをみせている現在のゲームやアニメ業界の事情について、第一線で活躍するクリエイターが語り合った。
登壇者は、ArtPlay代表取締役プロデューサーとしてコンテンツの開発準備を進めている五十嵐孝司氏、10月10日よりYouTubeで配信開始予定のアニメ『モンスターストライク』でストーリー・プロジェクト構成を務めるイシイジロウ氏、ユークスへの移籍ともに自身のスタジオを設立した内田明理氏の3名となった。
以下からは、ゲストによるトークの模様をお届けしよう。
■独立のきっかけは?
今回の登壇者3名は大手企業を辞めて独立したということで、“何が独立までの決断の理由になったか”という話題になった。
五十嵐孝司氏は「僕は独立のタイミングがすごく悪いんですよ」と語った。五十嵐氏は、GDC(ゲームデベロッパーズ カンファレンス)でパブリッシャーが多く集まっているタイミングで独立を決めたのだが、けっきょく6ヵ月の無職期間を経ていたのだという。さらに、ArtPlayを立ち上げた後に、「いっしょにゲームを作らないか」という誘いをたくさん受けたのだそうだ。それを踏まえて、五十嵐氏は「いま選んでいるArtPlayがベスト」と思っているのだという。
イシイジロウ氏は、2018年に完成予定のアニメの脚本の依頼を受けたとき、「期間が空きすぎているので、サラリーマンとしては受けられない仕事だ」と考えたことが独立のきっかけなのだそうだ。また、イシイ氏は自身でデジタルゲームを手がけると4年に1本しか完成しないほどのスローペースなのだが、フリーランスとして仕事をすれば1年に2本のペースで世に出せるほどのアイデアが溜まっているのだという。
内田明理氏は「個人的にはギャンブルは苦手だけど、大人には思い切って独立するようなチャレンジが必要だと思いました」と答えた。また、内田氏は「たとえばスマートフォンアプリでは大手がランキングの上位にある一方で、個人で作ったものもランキングに入っています。さらに最近ではYouTubeやTwitterなどのソーシャルメディアが発展しているので、発信するのが企業である必要ですらないんです」と、個人でも人気のあるコンテンツが作り出せる可能性を語っていた。
また、五十嵐氏が「まるで荒野に放り込まれる気分でした」、内田氏が「通帳を見たとき、給与が振り込まれていないことのインパクトがものすごかった」と、独立したときの不安について語った一幕もあった。
■チャレンジングな企画に必要なこと
ここからは、独立したうえで、どのような企画をしていくかという話題になった。
五十嵐氏は、「僕はもともとプログラマーだったので、ゲーム以外をやろうとは思わなかったんです。また、僕のファンはコアなゲームに期待している方が多いので、ビジネスをやろうと思ったらゲームを作るしかありませんでした」と、“選択肢の少なさ”を語った。
また、五十嵐氏は「僕なりのインディーゲームみたいなものを作りたいです。僕の“ゲームらしさ”をファンに信用してもらいつつ、その予想から外すところは外していきます」と、自身のゲームならではの個性を大切にして企画を作りたいと考えているおうだ。
イシイ氏は、チャレンジングな企画において、IP(知的財産権)をうまく運用する必要性があると語った。たとえば、自身のアニメ『モンスターストライク』の企画においては「アニメにIPを置くとしたら、ゲームとどう連動すればいいのか」、「外部のIPに対して適正化したゲームでないといけないのではないか」ということを考えていたのだそうだ。
また、イシイ氏はこうしたアニメとゲームの連動においては、『Fate/Grand Order』のように「ゲームをイチから作る必要があるのではないか」と悩んだこともあったのだという。アニメ『モンスターストライク』では、「ゲームの外部にキャラをおいて物語を作る」というやりかたをしたため、何とか既存のゲームを使いながら企画ができたそうだ。
内田氏は、“クラウドファンディングとパブリッシャーの中間”、“自分がこういうものを提案して、賛同してくれる人を求める”、というコンテンツ作りを目指しているそうだ。
そのうえで、内田氏は「自分はキャラクターを作るのが得意なので、その分野で何かをしたいです」と語った。