シンプルに削ぎ落とし、無限に拡大するステルスゲーム
Mike Bithell Gamesによる新作『Volume』を紹介する。本作のプラットフォームはPC/PS4/Vita。現在日本から購入できるSteamでの価格は1980円(執筆時点では発売記念セールでさらに10%引き)。今回レビュープログラムに参加してガッツリプレイしたので、海外のレビュー解禁に合わせたインプレッションをお届けしよう。
さて、『Volume』は面クリアー型のステルスゲームで、共通の核となるキャンペーンモードは100面を収録。怪優アンディ・サーキス(「ロード・オブ・ザ・リング」のゴラム)やBithell氏の前作『Thomas Was Alone』で素っ頓狂なナレーションを提供していたダニー・ウォレスらによって近未来のロビン・フッド物語が演じられる。
しかしそれはただの始まりに過ぎない。ステージごとにクリアータイムのリーダーボード(ランキング)があるほか、面を自作できるエディターがついており、自分で作った面を世界に共有可能。『Volume』とは、UGC(ユーザー作成のコンテンツ)込みの巨大なステルスパズルネットワークなのだ。
ミニマルな“パズルとしてのステルス”
『Volume』がメタルギアシリーズのVRミッション、特に初代MGSのそれに多大な影響を受けているのは一目瞭然だ(本人自ら、子供の時に遊んだMGSに影響を受けていることを公言している)。
それは単にローポリゴンなアートスタイルや見下ろし気味の視点といった見た目だけでなく、例えば“少しでも視界外だとすぐそこに不審者がいても絶対気が付かない”とか、“プログラム通りきっちり不審な音におびき出されて、何もなくて周回ルートに帰っていく”といった警備の挙動も含まれる。
ゲーム的なご都合主義? だからいいんじゃないですか! シリアスなストーリーに即して見ると間抜けに見えかねない挙動も、プレイヤーがその裏をかくべきパズルのお題となれば、逆に愛おしさが増す。VRミッションはそんな特徴を逆手に取って、本編の構成要素からステルスのレベルデザイン(設計)だけを抜き出したチャレンジモードだった。
そして『Volume』ではさらにパズル化を突き詰め、まず戦闘要素は排除。各面でプレイヤーに与えられる各種ガジェットも、音を出して誘導するものや、一定時間行動不能にさせるトリップワイア、一定時間の変装など、警備を騙したりやり過ごすためのものに限定されていて、アクションはあくまでステルスに限定。
ルールはシンプルで、警備の目を避けながらマップ内に落ちている白い“ジェム”をすべて拾い、ゴールに飛び込めばオーケーだ(ちなみにこれは『パックマン』からのインスパイアで、モロにオマージュを捧げた面も存在する)。
警備をしている敵キャラクターは、種別ごとに視界範囲や発見から射撃までの猶予時間などの性能が異なる。発見されるだけなら問題ないが、一発撃たれれば終了。マップ内のチェックポイントからリスタートになる。
各面にはゴルフ的に“PAR”なる目標タイムが設定されており、オーソドックスな解法で丁寧にプレイすると大体それぐらいの秒数になる。当然、ワールドランキングにランクインするには一般的なクリアー手順では無理で、“本当は一回待たなきゃいけない場所をギリギリすり抜けるタイミング”や“見つかりながら撃たれない程度にゴリ押しできるルート”といった、挙動のさらなる裏をかいた方法を見つける必要がある(ノーアラートである必要はなく、単純にクリアータイムだけで判定される)。
近未来のロビン・フッドは義賊的配信者
ストーリーは、巨大な企業体によって支配される近未来のイングランドを舞台に、今時のネット文化が融合したディストピアもの。
ある日、主人公の青年ロバート・ハックスリーは、国を支配する悪の企業を率いるギズボーンが開発した傭兵養成プログラムを発見する。ハックスリーはネット世代のアウトサイダーらしく、このトレーニング用シミュレーションで遊び、退廃した上流階級のオフィスや自宅に進入する様子を配信するという形で暴露。次々と侵入シミュレーションをクリアーしていくのだが……。
設定は義賊ロビン・フッドの物語を下敷きにしており、ロックスリーやギズボーン、プログラムのインターフェース用AIの“アラン”などの名前も、ロビン・フッドの伝承からの引用になっている(ロビン・フッドの名前のひとつに“ロックスリーのロビン”がある)。
Mike Bithell氏と言えば、2012年に発売されて世界的に高い評価を受けた前作『Thomas Was Alone』で一躍名を挙げたクリエイターだが、“直方体たちが冒険する2Dプラットフォームアクション、しかも泣ける”というミラクルが起きていた同作に引き続いて、ちょっとヒネた、しかしどこか温かい、優れたストーリーテリングは健在だ。
残念ながらセリフ、マップ内に落ちているノート類(マップ設計者からのメッセージや機密メール)のいずれも日本語化はされていないので、ストーリーを堪能するにはそれなりの英語力と慣れが必要。しかし緊張したステルスゲームプレイ(ゲーム内シミュレーション)に対して、どこか飄々とした軽いノリで語られる物語(ゲーム内現実)という対比はちょっと面白い。
現実のプレイヤーコミュニティがVolumeの一部になっていく
そしてもちろんこの二本立ての話は、実際にゲームを遊ぶ現実のプレイヤーを巻き込んでいく。プレイヤーたちがワールドランキング上位を狙って侵入の腕前を競い、新たな侵入マップを作成して共有することで、『Volume』は現実と虚構が一体化した巨大な侵入シミュレーションネットワークになっていくのだ。
実際に配信に向いているのも面白いところで、1サイクルが短く、各マップは短いものなら数十秒で、長くても大体3分もあればクリアー可能。失敗も「見つかって撃たれたら終わり」とわかりやすく、リスタートもサクッと始められるから、やり直しがダルくならないのもいい感じ。もちろんマップ制作の模様を配信したり、人気配信者なら逆に視聴者からの挑戦を受けて立ったり、いろんなやり方が可能だろう。そんなわけで、まさに可能性は無限大。
さてステルスゲームでは、KONAMIの『メタルギア ソリッド V ファントムペイン』の発売が9月に迫っている。あちらはオープンワールドでのサンドボックススタイルの潜入という、本作のミニマリズムとは真逆の極大のステルスに挑戦しているタイトルだ。
3Dの潜入を実現した初代MGSの発売から約17年。その歴史を積み重ねてきた本家の極大の進化と、インディー作家から17年越しでやってきたシンプルに削ぎ落とされたアンサー。そんな対称的なタイトルが、1ヶ月あけずに立て続けにリリースされるのは運命的なものを感じざるを得ない(もちろん日付レベルでは本家が出る前に出しておきたいという事情もあるだろうが)。9月はこの2タイトルを遊び倒すつもりだ。