中国で『ストリートファイター』シリーズを公式的に初展開

 2015年7月29日、中国・上海InterContinental Shanghai Expo Hotelにて、ソニー・コンピュータエンタテインメント主催による“2015 PlayStation Press Conference in China”が開催。以下にお伝えするのは、カンファレンス後に行われた、カプコンの小野義徳氏の合同取材の模様だ。ご存じの通り、カンファレンスでは小野氏みずからが中国市場への『ストリートファイターV』の投入を発表したばかり。中国での人気も高い『ストリートファイター』シリーズだが、オフィシャルに展開するのは初めてとのことで、中国市場に対する意気込みなどが語られた。

カプコン小野義徳氏に聞く 『ストリートファイターV』は前のめりで中国に展開する まさに“機は熟した”_02

――発表した瞬間にものすごい歓声が湧き上がりましたね。

小野 非常にうれしいことに、中国のゲームファンの皆さんが待ってくれていたようですね。中国のファンの方に、「(海外での)発売日とほぼ近いタイミングでリリースしたい」というのと、「簡体字に完全対応して開発を進めている」というのを発表できてよかったです。『ストリートファイター』に関しては、中国ではずっと草の根で大会などが行われていまして、どこで手に入れたのかわからないのですが、僕のメールアドレスあてに「(イベントに)来てください」というオファーもよく来ていたんですね。許可を得てないところにオフィシャルの人が行くと、いろいろと問題がある……ということで、なかなか木陰からしか見られない状態だったんです。それが、正式に発表できてうれしいです。
 あと、今回『ウルトラストリートファイターIV』に関しては、Chinajoyを基軸にして“Capcom Pro Tour”を仕掛けることによって、中国の政府からも、「これは問題ないでしょう」というお墨付きをもらったので、こういうところから少しずつ展開していって、オフィシャルで中国も対応していければ……と思っています。
 また、プロのゲーマーも中国からどんどん出始めていて、世界ランクトップ20の中にふたりも中国人の方が出始めたということは、我々にとっても“機は熟した”という感じがしていますので、そういった意味でも、今回こういう場で立たせていただいて、オフィシャルに「つぎの『V』はやりますよ」というのが明言できたのは、我々にとってもうれしいことです。さらに言えば、待っていていただいて、これまでラブコールを送っていただいた中国の『ストリートファイター』ファンの方に対しても、何かひとつ返せるタイミングができたのかなと思っています。

――『ストリートファイター』シリーズが中国で正式に展開されるのは?

小野 正式に展開するのは、ほぼ初めてです。過去、アンオフィシャルに基板が大陸に入っていたりもして、一部PC版とかもあったのですが、コンソール機は皆無の状態だったのが現状です。

――今回、『IV』ではなくて、いきなり『V』なんですね。

小野 『IV』でも行きたい気持ちは残っているんですよ。ちょうど海外では『ウルトラストリートファイターIV』のプレイステーション4版も出まして、日本でも、もう少ししたら「いつ出します」というアナウンスが出るので……。『IV』もチャンスがあれば展開したいです。一方で、『ストリートファイター』というのは、すごくおもしろい文化があってですね、ナンバリングごとでコミュニティーができあがっているんです。通常、格闘ゲームだと、ナンバリングの新作が出ると、ユーザーさんはそちらに移っていくのですが、『ストリートファイター』のこの30年ってすごくおもしろくて、『II』ならこのバージョン、『ストリートファイターZERO』でも『ZERO2』なのか『ZERO3』なのかで、それぞれコミュニティーができあがっているんです。たぶん『IV』は『IV』で、これだけ大きくなったコミュニティーなので、『V』が出ても消えることはないと思うんです。そうであれば、なおさら機会があれば、『ストリートファイターIV』のシリーズも(中国で)出しても無駄ではないと思っているので、チャンスは狙って行きたいです。

――『V』のあとに『IV』が出るかもしれない?

小野 可能性はゼロではないです。たぶん待っている人もいると思いますし、我々がよくリバイバルでHD版などを出すのですが、社内のほかのIPのリバイバル版よりも、販売本数がよかったりするんです。それはなぜかというと、個別にファンがいるからです。「俺は『IV』は嫌だけど、『III』をやり続ける」とかいう方がいらっしゃるんです。逆もしかりなのですが、そういう特殊なコミュニティーが文化として育っているので、我々はナンバリングに対してはずっとケアをしていきたいです。

――初めての中国で、いきなり簡体字版を出すのはチャレンジだと思うのですが。

小野 僕自身もう1本別のタイトルを持っておりまして、中国での“ゲームを競う”という風土は感じていたんですね。人と競うことが苦じゃない。どちらかというと、好戦的にそれをやりたいという人が多いと。「誰かよりも強くなりたい」という気持ちは下手をすると、日本人よりも強いのかもしれないと思っていて、中国のコミュニティーの大会を拝見させていただいていても、手作り感覚のものから企業っぽいところが主催する大会まで、非常に人が集まるんですね。今回の大会も予選は上海のソニーショップで実施するのですが、街中で予選を実施しても、100近いエントリーが入っている状態なので、そういった部分を見ていくと、「これは思い切って行ったほうがいいな」と。
 さらに、『ストリートファイターIV』で大きく変わったのは、下の方の年齢がグッと増えたんですね。これは統計でわかったのですが、30代、40代の『ストII』、『ストIII』のベテランゲーマーではなくて、純粋に『IV』から対戦格闘がおもしろいということで入ってきてくれた人がいる。その人たちが「どこから入ってくれたの?」というと、「まずは触ってみました」という方。さらに、「YouTubeで見て、あの3分の試合が楽しいと思いました」という方もいれば、もっと言うと、『ストリートファイター』にどんどんつけたアニメーションの特典映像がおもしろかったという方もいらっしゃる。だいたい三分されるんですね。だったら、この三分されたものを合わせていきましょうと。そして、興味を持ってもらって、つぎのウメハラ選手が生まれてくればいいなと思っているんです。実際のところ、ももち選手やシンガポールのXian選手とか、上海のHuman Bomb選手など、20代の選手も増えているんです。若返りが一気に図れるチャンスがあるのかなと思って、今回一気に簡体字にフル対応するという決断に至った次第です。

――小野さん的には(中国市場に対して)かなり前のめりで?

小野 やりたいですね。本当に“競う”ということが好きな人たちに、e-スポーツに参加してほしいと思っていますし、e-スポーツは、MOBA(マルチプレイヤーオンラインバトルオンアリーナ)が多いのですが、やっぱり中国は強いんですよね。充分世界チャンピオンになれそうな人も出ている。そういう風土の中では、格闘ゲームはe-スポーツにだいぶ近いジャンルなので、であれば、ここの人たちになるべくやってもらいたいなと。人口も多いので、それだけスタープレイヤーが生まれてくる可能性もあるなというのは感じています。ここはガッツリとやっていきたいという気持ちはあります。

――それにしても、Weibo(中国版ツイッターのようなもの)のフォロワーが50万人と聞いてびっくりしました。

小野 僕の担当しているタイトルのステージイベントなどが行われたときに、人がぐんと集まって、「こいつは何者だ?」というときに、本当はいけないんでしょうけど、「『ストリートファイター』もよろしくね」と言ったら、「こいつ『ストリートファイター』やっているのか!」ということで、ドドっと人が集まって(笑)。とはいえ、日本のツイッターと同じで、男性がほぼ99.9%なので、あんまり楽しみがないです(笑)。

――中国語でつぶやいているのですか?

小野 なるべく中国語でつぶやいています。中国のスタッフがうまくできないときはGoogle翻訳ですね。あと、いま僕は中国語教室に通い始めているので、先生に聞いて。今回もいくつか上げていますよ。なるべくコミュニケーションを取って行きたいなと。

――お話をうかがっていると、従来の『ストリートファイター』シリーズに比べて、『V』は展開の仕方が違ってきているようですね。

小野 鋭いですね。おっしゃるとおりで、『ストリートファイターIV』は先日7年目を迎えたのですが、できあがったファンの動向はこの7年~8年で大きく変わってきたと思うんです。いちばん大きいのは、いまや当たり前になりかけている動画勢。これは7年前にはなかったんですね。YouTuberなんて去年、一昨年くらいに出てきた言葉で。ここ最近の動向は何かというと、メーカーが人を作るのではなくて、コミュニティーが人を作るということ。そして、コミュニティーの中心になっているのはけっしてメーカーの人ではなくて、オピニオンリーダー的な存在なわけです。ビジネスライクにいうと、そこを中心にマーケティングだったりとか、コマーシャルだったりとかをやっていこうと。空から降らせる電波で頼る時代ではなくなったよねというのは、我々は非常に感じています。もちろん、電波の力を借りるタイトルもあると思うのですが、こと格闘ゲームに関しては、パイが多く存在するところにスポットで届けてあげない限りりは、その人たちが動いてくれない。
 であれば、今回ソニーさんと組んだ理由もあるのですが、ソニーさんの持っている世界中のソニーショップであるとか販売拠点がたくさんある。それを今回のマーケティングの主軸に置いて動いていきましょうと。そのかわり、カプコンのスタッフでメッセージになれる人は、可能な限り1泊2日でも香港に行ってくださいとか(笑)。そういったことをやりながらメッセージングを伝えて、発売日を迎えていける体制でいたいなとは思っています。

――その一環として、カプコンでプロゲーマーをスポンサードして大会を盛り上げていくといったようなことは?

小野 僕はいろいろなメディアではっきりと言っているのですが、カプコンがいち個人をスポンサードすることは、僕が生きているあいだはやりません。なぜかというと、それをやると、その人が勝つための仕組まれた状態になるので。e-スポーツではなくなってしまうんです。我々は、プロゲーマーがどこで活躍できるのかという場を積極的に用意しようと思っています。“Capcom Pro Tour”もそうです。あれは、大会の運営団体などに「こういうレギュレーションで、こういうポイントを付与します」と依頼するんですね。「あなたたちの努力でこのポイントを使って人を集めてください」と。そうすると、世界中からプロプレイヤーが集まるわけです。そうなると、そのオーガナイザーは、それまで自力で借りていた会場費が賄える。さらに、それだけ注目度が高くなるのなら、スポンサーにつく企業も出てくるわけです。タイではソニーさんがついてくれました。そこにカプコンとしては、賞品を提供したりするわけです。これで間接的なサポートが出来上がるんです。直接スポンサードをやってしまうと、変わってしまうのかなと。プロモーションで公認プレイヤーは用意してもいいかもしれないですが、あくまでそれは公認するだけです。ただし、まわりのシチュエーションとかをカプコンの力で作れるものはどんどん作ってあげて、そこで登場できるプロゲーマーはどんどん呼んであげたいです。

カプコン小野義徳氏に聞く 『ストリートファイターV』は前のめりで中国に展開する まさに“機は熟した”_01