ビデオゲームの世界はいま大きな変革期にある。コンソール機の分野ではプレイステーション4、Xbox Oneといった“次世代機”の普及が進み、PCの世界ではWindows 10+Direct X12への移行が始まっている。それらがもたらしてくれるのは、ゲームの根本的な部分からの進化だ。

 英国の老舗レースゲームメーカーCodemastersが開発し、国内ではユービーアイソフトから発売される『F1 2015』も、その流れを象徴している。本作では、2009年より続いている本シリーズで初めて前世代機への対応を切り捨て、新開発の次世代ゲームエンジン“EGO 4.0”を投入、PS4/Xbox OneおよびPCに絞って展開するのだ。

 前作『F1 2015』まで行われていた前世代機への同時対応、いわゆる“縦マルチ”をやめたことで、本作が得たメリットは大きい。かつてなくフォトリアルな映像、PS4/Xbox One版ともに60fps近い可変フレームレートで前作以上に滑らかな動きを再現、そしてさらにシム性を増したドライビングモデルを実現。レースの再現性の高さという点で過去最高のF1ゲームとなっているのだ。

『F1 2015』プレイインプレッション【第2回:佐藤カフジ】――次世代エンジンでハードコアF1シムとしての高みへ!_05

コアなF1ファンほど触れてほしい、ストイックな“走り”へのこだわり

 毎シーズンのF1世界選手権を緻密に再現することで定評のある本シリーズだが、今回も2015年シーズンのコースやコンストラクター、登場ドライバーたち、そして厳密なレギュレーションを完全再現。これを次世代エンジンのパワーでかつてなく説得力のある形で実現しているのが、本作のいいところだ。

 その中でいうと、とくに変化を感じられるのは“走り”へのこだわりだ。リアルF1の世界では2014年以降、以前はKERSと呼ばれてオプション的に使用されていたエネルギー回生機構が標準化され、低速域におけるエンジントルクが大きく増加している。このため2015年のレギュレーションではタイヤ重量を増やしてまでトラクションを高めている一方、コーナリング時に完全なグリップを維持して走ることがますますもって重要になっている。

 本作の新ゲームエンジンで実現された新しいドライビングモデルは、そういった最新F1における車両特性を、ゲーム内の手応えとしてしっかりと感じさせてくれる。たとえばコーナーからの立ち上がり。2~4速あたりの加速感は明らかにトルク過剰で、過大なアクセルワークを行なえば即、タイヤがハーフスピン状態となる。その状態でもある程度の車両制御は可能だが、完全なトラクションを維持するよりはかなりタイムが落ちる。そこを抜けて4速後半~5速以上になってくると、トルクに対してダウンフォースが勝り始め、ベタ踏みでの加速ができるようになるという感じだ。

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 このあたり、ドライビングの奥深さを表現するうえで、タイヤシミュレーションの進化ぶりはとても重要なポイントだ。ここは前作以前では若干の物足りなさがあったところで、たとえば『F1 2013』以前ではタイヤのハーフスピン状態があまり体感できず、どちらかというと完全にスピンするか、完全にトラクションするかのデジタル的な挙動に近かった。それが今作では、過大なGが生み出す微妙なトラクションのロス、荷重のかかりかたによる各タイヤの反応の違い、あるいは縁石などの凹凸がタイヤに細かく伝わってくる感覚など、非常に説得力のあるドライビングを体験できるようになっているのだ。

 このため本作は走りこめば走りこむほどに上達していくような、コアゲーマーやバーチャルドライバーたちが好む感覚を深く深く与えてくれる。完全なトラクションを維持しつつ、100%の加速を達成するためのライン取り、ブレーキング、アクセルワーク。そのどれもが微妙な違いを生み出す。ハーフスピンによる横ずれ感がきちんと再現されているからこそ、しっかりと地面を掴んで加速できたときの気持ちよさが倍増しているというわけだ。

 その意味で、本作は、コアなF1ファンほど触れてほしいと言える本格“F1シム”となっている。完璧なコーナリング、完璧な加速、そして完璧なタイムを出すために、何十回も何百回も同じコースを走りこんでいく。そこに本作の豊穣なおもしろさ、奥深さがある。

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幅広いユーザーに本格F1の体験を、というシリーズの本懐へ

 新エンジンを採用した本作において、気になる点はゲームモードの少なさだ。たとえば前作以前で拡充されてきていた各種のチャレンジ系モードやヒストリカルモードは存在しないし、ドライバーテストのような初心者向けフィーチャーもバッサリ削られた。

 本作でプレイできるのは、2014年シーズンあるいは2015年シーズンのF1マシンとコースで、選手権のスケジュールどおりにバトルを再現する“チャンピオンシーズン”と、そのすべてをフルスケールのリアル志向で行なう“プロシーズン”、そしてタイムアタックや1セッションのマルチプレイなど、ありきたりなモードだけだ。

 このように、本作はある意味で、前作以前までに蓄積されてきたシリーズの資産をドカンと捨ててしまったところがある。チームスタッフとのとのやりとりといったレース外の演出も必要最低限となり、すごくアッサリとした印象だ。いわゆるアイキャンディ的なところにほとんど力が注がれていない。これが、新エンジンを採用して根本的な部分を大きく前進させるために必要であったことかどうかはわからないが、逆説的に言えば、本作で実現されたレースシムとしてのしっかりとした土台(ドライビングそのもの)に対するゲーム開発者の自信ぶりを、端的に表しているように思える。

 たとえば、極めて柔軟に設定できる各種ドライビングアシスト機能の存在だ。オートステアリングにオートスロットル、トラクションコントロールにABSといった車両制御のアシストから、理想ラインの表示、あるいはAIカーの幅広い難易度設定。レースゲーム初心者でも1日でチャンピオンになれる簡単さでプレイすることもできるし、全アシストをオフにしてハンコン必須レベルの厳しさでマシン挙動をくまなく楽しみつつレースすることもできる。そのどちらでも、進化したドライビングモデルによる豊かな情報量を味わいつつ迫力のバトルやF1ならではの緊張感を楽しめるというのが、本作の持つコンセプトだ。

 ゲームモード数こそ前作よりも減っているが、モータースポーツに限らずスポーツは深みを突き詰めていくことに本懐がある。その意味で『F1 2015』はかつてなく強固な土台を持つ。本作を起点として、F1ゲームはさらなる飛躍を果たしていくと、そう期待できる作品だ。

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プレイインプレッション第1回:ポルノ鈴木

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F1 2015
メーカー ユービーアイソフト
対応機種 PS4プレイステーション4 / XOneXbox One
発売日 2015年7月30日発売
価格 各7980円[税抜](各8618円[税込])
ジャンル レースゲーム / F1
備考 プレイステーション4版のダウンロード版は7100円[税抜](7668円[税込])