2016年春、“ネットの高校”設立へ

 2015年7月9日、KADOKAWA・DWANGOは、新たな教育事業を開始し、高等学校設立に向け準備を始めたことを発表。これにともないオープンした公式サイトでは、“ふつうじゃない先輩たちからのメッセージ”として、各界著名人が“教育論”を展開するインタビューが続々と掲載中だ。

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 ファミ通.comでは、この“ふつうじゃない先輩たちからのメッセージ”をテキストで掲載。第1回目として、ゲームクリエイター・稲船敬二氏のインタビューをお届けしよう。

稲船 敬二 ゲームクリエイターになるために 選択した進路とは?

「人生は勝負。自分を信じてチャレンジしよう」各界著名人に“教育論”を訊く【第1回目・稲船敬二氏】_02

稲船敬二氏(文中は稲船)
株式会社comcept CEO コンセプター
1965年、大阪生まれ。1987年、株式会社カプコンに入社。
ロックマン』、『バイオハザード2』、『ロスト プラネット』、『デッドライジング』などヒットゲームシリーズをつぎつぎと生み出した。
2006年にカプコンの常務執行役員に就任、開発部門のマネジメントやコンテンツの統括を行う。
2010年12月に新会社、株式会社comceptを設立し代表取締役に就任。同社においても『Mighty No. 9』(2015年北米9月15日発売、全世界9月18日一斉発売が決定)、今年6月に開催されたE3 2015では、完全新作となるXbox One専用ソフト『ReCore(リコア)』を発表した。
著書『矛盾があるからヒットは生まれる~稲船流コンセプト仕事術~』や『どんな判断や!』などを出版したほか、“稲船塾”の開講といった若者などの育成にも取り組んでいる。

「親は子どもにちゃんと意見を持たせると言う事ですね。こうしなさいって言うことではなくて選択肢を与えてどっちにしたいのって考えさせる。そしてどっちって言わせること。親の教育としては子供に判断を常にさせるということ。」

――ご自身の学生時代、将来の進路はどのように決めましたか?

稲船 高校卒業の就職や進学を考える時期に、進学って何のためにするのか考えて、「大学にいくために大学進学するんじゃなくて、大学の後に何かあるから進学するんじゃないか」って思ったんです。ちょっと理屈っぽかったんで、どう考えたってみんなが行く大学と同じ大学を狙うと言うのは違うなって思ったんですよね。

 みんなは浪人しますとか大学受けて合格しましたとか、就職しましたとかそういう人がいたんですけど、俺は当時担任の先生に「1年間考えるので何もしないです」と話して。そしたらめちゃくちゃ怒られましたね。でも俺はそれを押し切って1年間バイトしていたんです。

 その1年間は自分はずっと考えていて、人生の勝負をするなら、得意な事で勝負したほうがいいだろうって。要は得意じゃないところで負けたら悔やむじゃないですか。だから後悔しない人生を歩むためにはチャレンジしかないんです。自分が思ったようにやって、失敗した時は後悔しないんですよ。でも周りに言われて動いて失敗したら確実に後悔しますよね。そう考えたら、自分の言うことを聞こうということで、キャラクターデザインをやりたいなって思って、グラフィックの専門学校入りました。

――いつかはお子さんも就職や将来を考える時が来ると思います。ご自身としてはお子さんに対してキャリア教育は考えるところありますか?

稲船 やっぱり好きなものに対してはちゃんと機会を与えています。でもみんながやらなきゃいけないと言うこと、例えば塾に行かないといけないということなどは、うちは行かせてないですね。そういったところに行かないと勉強ができないと言うのは、そこまでの実力なので、勉強がんばる必要は無い。他の事を頑張ればいいということです。

 例えばゲームクリエイターになりたいんだったら、例えばゲームするでもいいんですよね。「ゲームクリエイターになりたいからいろんなゲームやってます」それでもいいんですよ。ゲーム作るためにいっぱいゲームをやっている。だから何か自分のやりたいことを見つけ出してその道に勝負してほしい。そこで親としては、その道のために進学や就職はどういうパターンがあるか、という事は考えてあげたほうがいい。真剣に考えてあげないといけないんだと思います。

 多分普通の人は普通にしか考えられないじゃないですか。社会が決めた“いい大学”が“いい大学”で、“いい大学”に行ったら“いい就職”ができて、“いい就職”ができたらそこで出世して、いい給料もらってって思うじゃないですか。

 30年前にゲームクリエイターになって、当時はゲームクリエイターという言葉はなかったですけども、まわりからは「なんだそりゃ?」と言われました。周りの大人はそんな仕事はしないほうがいいと言いました。そんなことやったって会社潰れるだけだよねとか言うことを言われました。

 でも今になってみたときに、ゲームクリエイターで活躍している人の給料と東大に行って官僚になりましたという人の給料ではどっちが上ですかっていう話になると当然ゲームクリエイターの方が上ですよ。だからもっと親は広い視野でものを見て、その広い視野の中で子どもがそこに当てはまっているかどうかちゃんと見極めてあげることですよ。みんなが決めたいいって言う事に押し付けるそういう教育はそろそろやめたほうがいいし、日本の社会自体が停滞しているというのはそこに原因があると思うんです。

「人生は勝負。自分を信じてチャレンジしよう」各界著名人に“教育論”を訊く【第1回目・稲船敬二氏】_01

――自分のやりたいことを見つけて、突き抜けるには何かコツはありますか?

稲船 やはり小・中・高くらいの時から自分を探させるという事。宝探しですよね。自分の中に必ず宝物が隠れているんですよ。絶対に1人1つは持ってる。もしかすると2つ3つ持ってる奴もいるかもしれない。その中で自分の好きなこと、宝物を見つける。周りの大人や学校も常に宝物を一緒にみつけてあげないといけない。やはり1番近いのは両親とか兄弟とか肉親、そして学校の先生がそれを認めてあげるという事をしてあげないといけないと思います。ただ、学校の先生って、自分がすべてできた人だからなかなかわかんないんですよね。それを理解する先生というのはすごく少ない。

 そして探して見つかったら、もうそれに打ち込むしかないんですね。そこはもう好きなことに打ち込める根性があるかどうかが、成功できるかどうか。やる限りはずっとやり続けるっていうくらいの根性が必要になってきます。

――好きなことを見つけても、周りはやめろと言う環境の場合はどうしたらいいでしょうか?

 そういう場合に、もし周りに勝てないのであれば、多分その人はその後勝てないですね。言ってしまえば、周り全員敵に回しても俺はやりたいことがあるんだと言う人は多分成功できる確率は上がってますよね。周りに勝てないと言う事は結局周りに流されている人になっちゃうわけじゃないですか。という事は自分の好きなことも探せないんですよ。周りの意見を取り入れちゃうじゃないですか。

 絶対に、好きなことやっても嫌いなことやっても、社会にでたら壁にぶちあたるわけですよ。ぶち当たったときに好きなことやったことしかない人間は回り道できず、まっすぐしか歩けないんですよ。その壁をぶち破るしかないのに、周りが止めたからやめますって言うような人はぶち破れるわけないじゃないですか。だから本当に自分を変えたいとか自分の好きなことをやりたいと思うのであれば、周りの意見よりも自分を優先すべき。強い自分を作らない限りはどんな才能があってもだめだと思いますよ。

――将来に悩んでいる学生や親御さんへメッセージをお願いします。

稲船 俺は同じような均一性のあるような教育というのはやっぱり何か新しいことを生むという事には向いてないと思うので、今までと違った教育は必要だと思います。でもその教育は学校に行く前に親ですからね。親の教育があって初めて学校教育が生かせるところなので親も均一、学校も均一だったら、社会も均一になってしまう。

 親は子どもにちゃんと意見を持たせると言う事ですね。こうしなさいって言うことではなくて選択肢を与えてどっちにしたいのって考えさせるそしてどっちって言わせること。親の教育としては判断を常にさせるということ。学校もみんながいいって言うものがいいって言う教育ではなくて、いいって言うものは認めた上で自分がそうじゃないと思うのであればそうじゃないって言える勇気を持たせることが大切ですね。