世界的プロゲーマー

 世界的プロゲーマー梅原大吾氏(以下、ウメハラ)。2015年6月27日にウメハラの青年期を描いた自伝コミック『ウメハラ FIGHTING GAMERS 2』が、7月11日には自身初の自己啓発書『1日ひとつだけ、強くなる。 世界一プロ・ ゲーマーの勝ち続ける64の流儀』が刊行された。本稿では、これらの書籍の発売を記念してウメハラ氏のインタビューを敢行。ゲームや勝負に対する取り組みかたから、EVO2015や理想の格闘ゲームまでを語っていただいた。

梅原大吾氏初の自己啓発書『1日ひとつだけ、強くなる。  世界一プロ・ゲーマーの勝ち続ける64の流儀』発売記念インタビュー! _01
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梅原大吾氏初の自己啓発書『1日ひとつだけ、強くなる。  世界一プロ・ゲーマーの勝ち続ける64の流儀』発売記念インタビュー! _02
『1日ひとつだけ、強くなる。 世界一プロ・ゲーマーの勝ち続ける64の流儀』
KADOKAWAより発売中
1300円+税
『ウメハラ FIGHTING GAMERS』
発行:KADOKAWAより発売中
各580円+税
梅原大吾氏初の自己啓発書『1日ひとつだけ、強くなる。  世界一プロ・ゲーマーの勝ち続ける64の流儀』発売記念インタビュー! _06
ウメハラ氏。マッドキャッツに所属するプロゲーマー。“世界でもっとも長く賞金を稼いでいるプロゲーマー”としてギネスブックに登録されている。

――ご自身初の著作『勝ち続ける意志力』(小学館)から4年。このたび一般層に向けた書籍としては3冊目となる新刊『1日ひとつだけ、強くなる。 世界一プロ・ゲーマーの勝ち続ける64の流儀』(KADOKAWA)が刊行されました。発売を迎えて、いまのお気持ちをお聞かせください。

ウメハラ氏(以下、ウメハラ) この本のオファーをいただく前にも、数社の出版社さんから書籍化のお話をいただいていたのですが、お断りしていたんです。というのも、これまで刊行した本で、自分の伝えたいことを語り尽くした感があったので3冊目は当分いいかな、と。でも、あるときにKADOKAWAさんからお声をかけていただきました。そのお話をいただいたタイミングが良かったことも大きいのですが、視点を変えて語ることでいいお話ができるかな、と思ったんです。そのぶん、過去の2冊よりもちょっと苦労しましたけど。

――本書の執筆、制作にはどれくらい時間が掛かったのでしょう?

ウメハラ じつは、最初に話をいただいてから、2年以上経過しているんですよ。いまからちょうど2年前、2013年のEVO(世界最大級の対戦格闘ゲームの大会。毎年7月にアメリカのラスベガスで開催)の時点ですでに作業が始まっていましたから。じつはこの本で掲載されているEVOの写真も、2014年のものではなく2013年に撮影したものなんです。

――そこまで時間を掛けていたとは驚きです。

ウメハラ このとき、編集さんとカメラマンさんが2日目に会場に来たんですよ。2013年は、ベスト8まで残ったから結果的に撮影できたものの、毎年『スーパーストリートファイターIV』の部門だけで2000人近いプレイヤーがエントリーする大会ですから、初日で敗退する可能性も十分にあったわけで、2000人でベスト8に残る確率はかなり低いはずなんですが(笑)。そんなエピソードもありつつ、このたび、無事に3冊目の著作をみなさまにお届けいたします。

――もしも初日で負けていたらたいへんでしたね(笑)。では、本書の見どころを教えていただけませんか?

ウメハラ 過去2冊の著作ではゲーマー層以外の読者を意識していました。そもそも熱心なゲーマーたちはプロとして活動を始める以前から自分のことを知ってくれているし、ゲーマーに向けた本をゲーム系以外の出版社から出版する必要はないだろうと思っていましたから。そんな思いもあって、たとえば1冊目では、自分の半生やどうやって勝ち続けてきたかをテーマに綴り、なるべくゲームの話をしないようにしていました。でも、そろそろゲームが好きな人が読んでも「おもしろい」と感じられるものを書いてもいいかな、と。プロゲーマーとしての自分や、その世界を広く知ってもらう段階はもう終えたかなと思っています。ですから新刊では、ゲーム好きの人にも楽しめるような内容にしています。

――まさにそのお話どおりですね。さっそく拝読させていただいたのですが、これまでの著作と違うと感じたのは、ゲームに詳しく触れられていることでした。

ウメハラ もっとも、文章として表現する上では、加減が難しいところなんですよね。あまりにマニアック過ぎると、ゲームに明るくない一般のかたには伝わりません。でも、ゲームを引き合いに出して語ることで、明確に、かつ具体的に自分の実体験を交えた“たとえ話”ができます。これまでの本はあえて個別のゲームの中身については、避けていましたから、その“たとえ”もぼんやりしがちでした。ですが新刊では、仮に読者さんになじみのない世界であったとしても、具体例があったほうがわかりやすいのかなと思うに至りました。「いいや、ゲームの話をしちゃえ!」という感じですか(笑)。

――僕自身もゲームプレイヤーなので、自己の戒めや教訓のようなお話でもウメハラさんの言葉を通じて言われるとハッとしてしまいます(笑)。

ウメハラ 個人的には人が語る生きかたの話は、誰が語ってもある程度同じような結論に導かれていくと思っています。後は、どういう体験を経てそう思うに至ったかや、誰に伝えるのかといった違いしか出せないのではないでしょうか? だから、いざ書くときには少し困っちゃいまして(笑)。

――たとえば、本書の中の「“2着でいい”という考え方は、それ以下の結果を招く」という話などは、個人的にも胸に刺さります。自分がそういう考えかたの人間なので(笑)。ゲームをやっていても、勝てない人には勝てないからいいや、と思ってしまうんです。

ウメハラ 前提として、「2着でいいや」という発想で安心していられるのは、競争がない状況に限ります。自分がそれでもいいや、と思っていても、その下位にいる人たちが「このポジションじゃ満足しない」という考えの持ち主の場合、自分だけが受け身の姿勢になってしまいますよね。そういった状況で安心していると、痛い目に遭いますよ。いまの時代、人に対する情報がたやすく手に入ります。目の前で会う人は自分を脅かす存在じゃなくても、自分の知らないところで2着で満足している自分を追い抜こうとしている人が多数いるはず。やがて、「あれ、俺ってこんなに弱かったっけ?」となりますよ(笑)。

――ウメハラさんに言われるからこそ、その気持ちを直さなければと思ってしまいます。

ウメハラ もちろん、安定を重視する考えかた自体は決して悪くないこと。ただ、いまの時代の格闘ゲームは、「安定させるためのレベル」がどんどん上がっているように思うんです。安定は、つねに相対的なもの。無風状態で船を漕いでいたら、だれでも安定して船を操れますが、強風が吹いているときは一生懸命漕いで初めて安定が得られます。つまり状況によって行動を変えなければ本当の安定は得られないんじゃないでしょうか。自分の場合は、安定を求めるという性格じゃないから、大きく転ぶこともあるし、早く進むこともありますが。まあ、これらの話は勝負の世界でも同じですよ。

――実生活でもそうですよね。会社なり学校なり、成長を求める人ばかりの環境にいると、現状維持の考えでは追いぬかれてしまいます。自分の生活環境に置き換えてみてもそのお話はよくわかります。

ウメハラ 安定したいと願っている人こそ安定できないというのは、ある意味、きびしい世の中ですけどね(笑)。

――「成功するかは別として、やりたいことがあればやるべきだ」という話も印象に残りました。

ウメハラ 「もし何かやりたいことがあれば、やったほうがいいのでは?」と思いながらこれまで生きてきて、そのやり方で現時点までは幸いにもうまくいきました。でも、偶然に支えられた無責任な言葉と捉えられかねませんから、これまでは個人的な考えに留めて、提言するのは控えていました。実際、必ず実現することではありませんし。自分よりも少し年上の人からは「生きるために好きなことは優先できない」という考えも聞いていて、自分はむしろその考えが実践できることが立派だと思っていたほどです。

――それは一般的に言われる、“大人”な思考ですね。

ウメハラ でも、そんな人たちがやがて年を重ねていき、いざ40代を迎えると、おもしろくなさそうに生きているんですよ。彼らは「我慢すること、犠牲にすることが本当に必要だったのだろうか?」などと自問もしている。40代といえば、収入や生活も安定していて、生きかたに確固たる自信を持つべき年代なのに、そんな迷いを聞き、「それってどうなのかな?」と思ってしまったんです。どう生きるかはもちろん人それぞれですし、成功の保証はありませんが、そんな体験もあって「好きなことを一生懸命やる」ということ自体は悪いことではない、と最近になって思うようになりました。好きなことを捨てる必要はないんじゃないかな。

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