ゲーマー中心の空間へと回帰したE3 2015

 毎年さまざまなゲームが華々しく発表されるE3。今年のE3も期待の超大作に意欲的な新IP、鋭い切れ味を見せるインディー、いよいよ時代の到来を見せつつあるVR、そして『シェンムー3』や『ファイナルファンタジーVII』フルリメイク作品(仮題)のようなクラシックなタイトルの復活まで、さまざまな発表が行われ、大いに盛り上がった。近年のE3で最高と言う人も多かったし、記者も同意したいところ。

 何より素晴らしかったのは、プラットフォーマーからインディーまで、すべてがそれぞれの良さをもってファンを楽しませようとする、非常にゲームに集中した内容だったことだ。圧倒的にコンソールとPCのコアゲームが中心で、タブレットゲームも、ベセスダ・ソフトワークスの『Fallout Shelter』のように、あくまでファンを楽しませることが主眼。これまで発表されたばかりのF2Pのタブレットゲームを記者たちがホテルに帰るや否や一斉にダウンロードするなんてことは、正直なかった。E3はゲーマー中心の空間へと見事に回帰してみせたと思う。

“EAの再起動”エレクトロニック・アーツ開発トップに聞く、大パブリッシャーの方針転換と、この先の展望【E3 2015】_01
▲エレクトロニック・アーツの今年のプレスカンファレンスで発表を行うPatrick Söderlund氏。

 個人的にそんな新しい風の先駆けとなる象徴的な出来事だったと思っているのが、昨年のE3前に行われたエレクトロニック・アーツのカンファレンスだ。この年は、CEOを長年務めたJohn Riccitielo氏から若いAndrew Wilson氏に“政権交代”してからの最初のE3のカンファレンスでもあった。
 新体制としてどのような方針を打ち出すのか注目される中、同社は従来のようにその年のラインアップをただ見せるのではなく、(一年後の今年に目玉となる)『Star Wars バトルフロント』や『ミラーズエッジ カタリスト』、そして『マスエフェクト』新作、さらにCriterionの無名の新プロジェクトまで、生のプロトタイプ映像を積極的に披露。さらに『バトルフィールド ハードライン』のクローズドβテスト開始を発表するという大胆な手段に出た。

 その年の展開予定をそのまま押し付けるのではなく、発売日どころか正式タイトルが決まっていないものでも、とにかくゲーマーが面白いと沸くものを見せる、テクスチャ―が貼られていないむき出しの映像でも、それで盛り上がるのなら積極的に出していくというのは、アーリーアクセス(正式発売前の早期アクセス)や、ゲームの本開発の前に資金調達をするクラウドファンディングなどが一般的になった時代ならでは。世界でも有数の大パブリッシャーであるEAがそういった広報戦略を取るのは衝撃的で、同社が新体制下でリブート(再起動)しているという印象を受けた。

 では実際、その内側では何が起こっているのか? コンソール(家庭用ゲーム機)とPCゲームの開発を統括するエグゼクティブバイスプレジデントのPatrick Söderlund氏に話を聞いた。

新CEO体制下での方針変更は「正しい方向に変化している」

“EAの再起動”エレクトロニック・アーツ開発トップに聞く、大パブリッシャーの方針転換と、この先の展望【E3 2015】_02

――昨年のE3では多くのゲームがプロトタイプとして発表され、中には名前が決まっていないものさえありました。もし10年前にそういうカンファレンスをやれば、多分「EAが未完成品を見せた」と問題になっていたと思いますが、今の時代には合っているし、実際に見ていて楽しかったです。ビジネスの戦略が変わったんでしょうか?
Patrick Söderlund(以下、パトリック) 今年はそこからさらに違うフォーマットを採用した形になっていますね。昨年お見せした『Star Wars バトルフロント』や『ミラーズエッジ カタリスト』、『マスエフェクト』などのタイトルを、今年はより完成した形でお見せできましたし、カンファレンス自体も昨年より長く、その中では『Unravel』のような予測されていなかったタイトルも発表できました。
 昨年見せたものの中には、改めて来年お見せするものもあります。いずれにしても、ゲーマーの皆さんにこちらがやっていることがはっきり見えるようにしたいんです。

――『Unravel』はノーマークながら驚かされました。外部のデベロッパーのタイトルをパブリッシングするEA Partners路線を思い出しました。プロトタイプでも積極的に見せていくことも含めて、新しい戦略のようなものが見えますが、いかがでしょうか?
パトリック いろいろ積み重ねてきたことによる変化なんですが、CEOのアンドリュー・ウィルソンをはじめ、各スタジオや上層部で話し合って、これまでと違うアプローチを取ることにしたんです。
 我々のやっていることが見えるようにして、「プレイヤー第一」という方針でプレイヤーとの関係を深める。そのためには初期の段階からプレイヤーにゲームを紹介する必要があります。どこが良くてどこが良くなかったかを聞いて、最終的な決断に役立てる。プレイヤーとコミュニケーションが取れるようにしておくことは大事です。EAは今、正しい方向に変化していっていると思います。

「大パブリッシャーには新しいものに投資する責務がある」

――業界全体を見るとインディー側でクラウドファンディングやアーリーアクセスといった新たな手法が出てきていますが、刺激を受けることはありますか?
パトリック EAでも『Unravel』のようなタイトルへの投資を行いながら、全体を商品ポートフォリオとして見るアプローチを取るようにしています。FIFAやバトルフロントなどのブロックバスタータイトルから得られる資金を新しいものに投資する必要があると思うんです。
 私自身、3人でスタジオを始めて『バトルフィールド 1942』というゲームを作ったのがスタート地点です。EAのようなパブリッシャーには、業界と、小さいデベロッパーを成長させ、前進させる責任があると思います。これは社内に対しても言えることです。新しいIPやアイデアへの投資をやめてしまったら長期的発展は望めません。これは必ずやらなければいけないことなんです。
 クラウドファンディングのアイデアはいいものですし、だからこそこれだけ広まったんだと思います。まさに「プレイヤー第一」ですね。プレイヤー自身がそのタイトルを気に入って、サポートするかどうかを決める。この点、ある意味我々は先ほどお話したようなEAなりのやり方で、同じ方向を向こうとしていると考えています。

ゴルフゲームに『ドラゴンエイジ』の木が生えているワケ

――もうひとつEAで面白い動きと言えば、グループ内での技術や開発リソースのシェアです。今年もさまざまなタイトルでFrostbiteを使っています、元々は『バトルフィールド』で大戦争するためのエンジンなのに、ゴルフゲームまで採用している(笑)。
パトリック 全世界で約300人がこのエンジンの開発とメンテナンスに関わっています。DICEがあるスウェーデンだけでなく、カナダ、そしてサンフランシスコにもいる、大きなチームです。私はひとつの大きなテクノロジープラットフォームを活用していくアプローチを確信しています。その方がいい効果を得られると思うんですね。
 例えば『Rory Mcilroy PGA Tour』の場合ですが、ゴルフのゲームを開発するにあたって、『バトルフィールド4』のマップを使ってプロトタイプを作ってみたんです。そしてテスターからの結果がとてもよかったので、ゲームにそのまま残すことにした。違うテクノロジーで作っていたらこんなことはできません。すべて最初から作らなきゃいけなかったら、それに時間がかかるので「バトルフィールドのマップを読み込んでゴルフしたらどうなるかな?」なんてことを考えている場合じゃないわけです。

 EAでは2000人以上がゲーム開発に関わっていて、全員が同じテクノロジープラットフォームに慣れています。FIFAチームで助けが必要だとなれば世界中からヘルプできるので、人員管理の面でも楽ですね。社員の側の可能性を広げることもできます。「スター・ウォーズ」はみんな好きだし、開発に入りたい人はたくさんいます。そういう時に、(DICEと異なるスタイルのゲームを作っていた)BioWareの人や、スポーツタイトルをやっていたような人でも、それまでの仕事と同じテクノロジーがベースになっていれば、『Star Wars バトルフロント』のチームに入っていきやすい。
 今後もこの方向性は進めていきたいと考えています。もちろん戦略的にどういう手段で進めるかは考えなければいけませんが、いずれはすべてがひとつのプラットフォームに集約されると思います。

――関連する話になると思いますが、今年発売される『Star Wars バトルフロント』のスピードにも驚きました。シリーズを再起動する映画第7作に間に合ったわけですが、あれだけのクオリティでやるなら、てっきり2016年とか2017年とか、そういう話になるものかと。
パトリック これもFrostbiteという共通のテクノロジーがあったからですね。最初から物理システムをはじめ、ネットワーク、オーディオ、レンダリングなどのシステムが統合されて構築されている、魔法のツールボックスのようなものなので。
 またコーヒーカップやテーブルなどが、もう素材として準備できてて、使い方のルールもセットされているわけです。もちろん、すべてのゲームに同じ素材が使いまわされるようなことは面白くないですが、例えばゴルフ場に生えている木が実は『 ドラゴンエイジ:インクイジション』に使われていたものでも、誰も知らないし気にしない。

――まったく気付きませんでした!
パトリック でしょう? 色や形はちょっと弄ってますが、70%ぐらいはそのままです。でもプレイヤーは気付きません。共通したテクノロジープラットフォームが整備されていれば、こういう効率がよく賢いやり方ができます。『Star Wars バトルフロント』を早く開発できているのも、そういった部分によるメリットが大きいですね(※バトルフロントで素材の応用をやっているという話ではなく、あくまで方向性)。

――『バトルフィールド:ハードライン』では、DICEとVisceralが共同で開発をしました。こういったスタジオのコラボレーションも進めていますね。ちょっとUbisoftっぽいやり方ですが、この辺の戦略についてはいかがですか?
パトリック EAでのコラボレーションは、そのゲームを作るための専門知識があるベストチームが力になるというのが基本です。ハードラインの場合、DICEはマルチプレイの専門知識を持っている。一方でVisceralはシングルプレイのストーリーベースのゲームを作るのが得意です(過去作に『デッドスペース』シリーズなど)。そこでインフラを通じてスウェーデンのチーム(DICE)とデータを共有して、スカイプとビデオカンファレンスで意思疎通をはかりながら協力しました。
 でもVisceralがシングル・マルチともゲームの80%を作っています。多くの場合、得意な部分について3-4ヶ月援助するという形で、ゲームの一部を別スタジオが完全に作るということはあまりありません。中心となるスタジオがクリエイティブビジョンをコントロールすべきだからで、開発チームの所有者が5つになると異なるビジョンが5つできてしまうので、これはよくない。クリエイティブディレクターなり、ひとつのチームが目的をはっきり持って、足りない部分を他の人たちに援助してもらうというのが理想です。

やがて来るVR時代/コンソールの世代移行について

――VRについてはいかがでしょうか? 僕はCriterionが去年のカンファレンスで発表した、一人称視点でエクストリームスポーツをするプロジェクトがVRで遊べたらいいなぁと思っているんですが……。
パトリック まず個人的な考えですが、VRは素晴らしいと思います。将来はみんながVRでゲームをプレイするようになるでしょう。FrostbiteはVRをサポートしていますし、いつどのように何をするかは明確にはしていませんが、EAとしてもVRのファンです。
 シーンとしてはまだ初期段階で、多くの会社がハードウェアを作っている状況です。Morpheus、Steam VR、Oculus Riftなど、それぞれが素晴らしいですし、フランスからStar VRも参入していて、さらに新しいものも出てくるでしょう。VRをサポートしてコンシューマーに提供する助けになるべきだとは思いますが、しかしどのプラットフォームが最適なのかがわかるには、もう少しだけ時間がかかるんじゃないかと思います。
 重要なのは、これが新たな体験であるということです。昔「The Lawnmower Man」(邦題「バーチャル・ウォーズ」)というVRが出てくる映画がありましたが、今現実にそれが起きようとしていること自体はクールなことです。しかし3D酔いなど、解決しなければならない課題はまだまだあります。ヘッドマウントディスプレイも、まだ大きくて不格好な部分があります。とはいえ、携帯電話のようにテクノロジーはどんどん進化していきます。近いうちに普通にVRでプレイする時期がやってくるはずです。

――開発を統括する側から見て、コンソールの世代交代はうまくいったと思いますか?
パトリック 前回(PS2/Xbox世代からPS3/360世代への以降)と比べると格段にうまくいったと思います。というのは、PS4もXbox OneもPCに近いアーキテクチャーで構築されているので、開発が比較的容易です。これは我々にとってはありがたいことですね。
 EAだけでなく、他のデベロッパーのゲームの出来もよくなってきているのは、欧米でこのシフトが非常にうまく受け入れられたからだと思います。Xbox 360とPS3の時代は7年続き、これまでで最も長かったので、その間に何か新しいものを求める声が高まっていました。そして出てきた新しいコンソールは非常にパワフルで、提供する体験も素晴らしい。まさに人々が求めていたものです。ソニーとマイクロソフトのやり方はとても素晴らしかったと思いますし、これからもできるだけ両方をサポートしていきたいと思います。

――前世代機向けの開発についてはどのように考えていますか?
パトリック そうですね、今回の世代交代が消費者の側でもとても早く行われたことには驚いているのですが、大事なのはゲーマーがプレイしたいものを作るということで、それは最新のプラットフォームだけに限りません。プレイして頂けるものを作るわけです。
皆さんご存知かわかりませんが、FIFAシリーズは2013年までPS2版を出していたんですよ。PS3じゃなくてPS2です。ですので、プレイして頂ける多くの人がいる限り、PS3/360向けのゲームもまだ作り続けると思います。

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▲本文とはほぼ関係ないが、今年のカンファレンスには、なんとペレが登場。いやー、サッカー好きとしてアガりましたわ!